ネガティブ思考の原因と改善方法
「ネガティブ思考をやめたい」「私はどうしてネガティブ思考になってしまうのだろう」とお悩みの方は割と多いのではないでしょうか。
本記事では、ネガティブ思考になる原因と改善方法について解説します。ネガティブ思考をなんとかしたいとお考えの方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
1.ネガティブ思考とは
ネガティブ思考とは、状況やものごとを悲観的に捉えたときに頭に浮かぶ思考そのもの、または悲観的に捉える傾向を指します。
新しい仕事を任された場面を例にご紹介しましょう。
ネガティブ思考が強い方の場合は、「失敗するに違いない」「失敗したらできない人間と思われてしまう」「わからないことばかりだけど質問したら嫌われてしまう、こんなこともわからないのかとバカにされてしまう」など、自分を否定する思考が現れ、状況や周囲の反応を悲観的に捉えてしまいます。
そうすると、不安や焦り、気分の落ち込みが強くなってしまうのです。また、ネガティブ思考は繰り返し頭に浮かぶ場合が多いのが特徴です。これを「反芻(はんすう)」と呼びます。反芻すると、常にネガティブ思考が頭に浮かび、不安や焦りが強くなるため、非常に疲れ果ててしまいます。
消耗してしまい、結果的に本当にものごとがうまくいかなくなってしまうこともあるのです。
ネガティブ思考の対義語は、ポジティブ思考です。ポジティブ思考の人は、同じように新しい仕事を任された場面で、「なんとかなるさ」「周りの人たちも応援してくれるはず」「失敗は成功のもと」と状況を前向きに捉えることができます。周りの人たちの協力を得ながら、新しい仕事に落ち着いて取り組めます。苦しさはネガティブ思考の方よりも少ないといってよいでしょう。
ネガティブ思考の人とポジティブ思考の人を比較すると、最も大きな違いは「自尊心」です。自尊心とは、「自分という人間や自分のやり方に対する信頼感」を意味します。ネガティブ思考に苦しむ方は、自尊心が低いことが影響して、自分自身や自分のやり方への信頼感に乏しいため、ネガティブなことを考えて最悪の事態を防ごうとしているともいえるでしょう。
2.ネガティブ思考になってしまう原因
ネガティブ思考を改善するためには、まず原因を知ることが大切です。ここでは、ネガティブ思考になってしまう原因について解説します。
(1)性格的要因
人の性格は、生まれつき備わっている部分と生まれ育った環境による影響を受けて形づくられる部分があります。生まれつきの部分は「気質」と呼ばれ、遺伝的に決まっているため変えるのは難しいです。生まれ育った環境により形づくられた部分は変えられる可能性があるのです。
アメリカの精神科医であるクロニンジャーによると、パーソナリティには7つの因子があり、「自尊心」は生まれ育った環境による影響を受ける因子であると報告されています。
「そんなこともできないの?」「あなたには無理、できない」「それだからダメなのよ」などと幼少期から繰り返し投げかけられてきた否定的な言葉や養育環境・養育者の養育態度などから影響を受け、ネガティブ思考が浮かびやすくなった可能性があります。
(2)状況的要因
仕事や育児・家事などで忙しくしていたり、趣味などに没頭していたりするときはネガティブ思考が浮かびにくくなることが多いものです。これに対し、時間に余裕がある状況ではネガティブ思考が起きやすくなります。自分の思考に注目する時間ができると、忙しいときには気づかなかったネガティブ思考に意識が向いてしまうため、不安・焦り・気分の落ち込みなどのネガティブな感情が起きやすくなるのです。
また、大きな失敗体験をしたときなど自尊心が傷つく体験をしたタイミングで一時的にネガティブ思考が浮かびやすくなってしまうケースもあります。
失恋したときに自信喪失してしまい、日々起こる出来事について「やっぱり私には魅力がないから嫌われてしまうんだ」「一生ひとりで孤独に過ごすしかない」というネガティブな思考につながってしまうというような具合です。
(3)うつ病などの病気の要因
うつ病などの病気のときもネガティブ思考が浮かびやすくなり、反芻してしまいやすくなります。脳内の神経伝達物質であるセロトニンが低下するため、気分の落ち込み・不安などのうつ症状が現れるといわれています。さらに動物実験の結果から、セロトニンが「将来の報酬への見通し」機能の調節に関与していることが明らかになっています。
これは、うつ病の人によくあるネガティブ思考である「何をしてもうまくいかないから何もしない」といった行動選択や、自殺念慮など長期的な視点に欠けた衝動的な行動に関連していることを示唆する結果です。このように、うつ病などの心の病気の人にはネガティブ思考が多く現れるのです。
また、うつ状態のときによく起こる「うつ思考」は以下の3つのパターンがあります。
- 自分のことをマイナスに考えすぎる
- 周りの人やものごとをマイナスに考えすぎる
- 今後のことを前向きに考えられない
また、うつ状態のときには以下の3つの行動がよく見られます。
- 活動量が減る
- ぐずぐず主義
- 周りにうまく助けを求められない
病気の場合はネガティブ思考だけでなく、行動にも影響がでやすいのが特徴です。
3.ネガティブ思考の改善方法
これまでご紹介してきた原因を踏まえて、ネガティブ思考の改善方法について解説します。
(1)ネガティブ思考の人への接し方
あなたの身近な人がネガティブ思考の場合は、その接し方を工夫してみましょう。ネガティブ思考の人と接するときに気をつけた方が良いポイントは、以下の通りです。
- ネガティブ思考を変えようとしない
- アドバイスをしたり、代わりに解決したりしない
- まずはよく話を聴き辛い感情を受け止める
- ネガティブ思考になるのはなぜなのか理解しようとする姿勢で話を聴く
- 自尊心や自己肯定感を高めるようなかかわりをする
ネガティブ思考の人を変えようとせず、なぜネガティブ思考になってしまうのか、辛い気持ちを受け止める方向で話を聴くとよいでしょう。ただし、毎日ネガティブ思考の人と付き合うとあなた自身が影響を受けてしまうことがあります。
ネガティブ思考を改善しようとして親身になるあまり、アドバイスをしたり、代わりに問題を解決しようとしたりする人は少なくありません。ただ、そのような関わりをしても、ネガティブ思考が改善するわけではないのです。
モグラ叩きのようにご本人は次なる問題に目を向けてネガティブ思考を繰り返していくでしょう。原因への対処をしなければ、ネガティブ思考自体がなくなることは期待できません。原因へ対処するには時間がかかります。そして、誰かが代わりに解決することは難しいものです。
ご本人がネガティブ思考を変えたいと感じて、自ら動き出さなければ、なかなか変わらないものと考えたほうがよいでしょう。あなた自身が辛くなるようならば、ネガティブ思考の人と離れる時間を持つのも大切です。
(2)セルフケア
ここでは、ネガティブ思考の人が自分で行えるセルフケアについてご紹介します。
a.ネガティブ思考を認める
「ネガティブ思考により大切な人が離れてしまった」「ネガティブ思考を変えなければ嫌われる」などと不安になっているときには、無理やりポジティブ思考になろうとしても、なかなかうまくいかないものです。反動でより一層、ネガティブ思考になってしまうこともあります。「ネガティブ思考になってはいけない」「ネガティブ思考になったら嫌われる」などというように、ネガティブ思考に囚われてしまうためです。
ネガティブ思考を改善するためには、まずネガティブ思考である自分を認めてあげましょう。ネガティブ思考はマイナスの側面だけではありません。ネガティブ思考だからこそ、危険を察知して失敗を防ぎ、最悪の事態を免れることもできます。ネガティブ思考やネガティブな感情をあるがまま受け入れるのが第一歩です。
b.ネガティブ思考を書き出す
ネガティブ思考があるのを認めたら、ネガティブ思考をノートなどに書き出してみましょう。頭の中でぐるぐると反芻して考え続けていると、気分の落ち込み・不安などのネガティブな感情がどんどん大きくなってしまいます。
繰り返しネガティブ思考や感情をノートに書き出し、言葉にして自分の外に出しましょう。そしてそれを改めて読み直してみることで、気づきが得られ、自分を客観視できるようになります。
c.ネガティブ思考を繰り返しそうになったら他のことをして気を逸らす
静かにじっとしているときにネガティブ思考が現れやすいことは、原因の部分でもお伝えしました。ですから、ネガティブ思考が繰り返されてしまいそうになったら、全く関連の他の行動をしましょう。そうすることで、ネガティブ思考に注目できなくなるため、ネガティブ思考から離れることができるようになります。最初は完全には頭の中からネガティブ思考が消えないかも知れません。それでも、ネガティブ思考がでてきて繰り返しそうなときは他の行動をしましょう。少しずつ、気を逸らすのがうまくなっていくはずです。
特に眠る前にネガティブ思考が出やすい人はリラックスできる音楽を聴いたり、アロマを炊いたり、ストレッチをしたりするのもおすすめです。思考から身体の感覚や聴覚に注意を向けると、ネガティブ思考から離れやすくなるでしょう。
(3)カウンセリングや認知行動療法
ネガティブ思考を改善するために有効な方法として、カウンセリングや認知行動療法があります。カウンセリングとは、臨床心理士や公認心理師などの資格を持ったカウンセラーが行う心理療法です。カウンセラーがネガティブ思考の人に行う代表的な心理療法は認知行動療法です。
認知行動療法とは、アーロン・ベックが提唱した心理療法で、状況やものごとの捉え方の幅を広げ、不安や気分の落ち込みなどを軽減する効果があります。状況やものごとの捉え方を「認知」と呼び、捉えた事象を解釈するプロセスも含みます。ネガティブ思考が起こるのは、状況やものごとの捉え方、つまり「認知」に歪みが生じた状態であるといえるでしょう。
うつ病の人によく見られる認知の歪みは以下の通りです。
認知の歪み | 概要 |
---|---|
全か無か思考 | ものごとや状況を白か黒かのどちらかで捉える。All or Nothingの考え方。 |
一般化のしすぎ | 1つでもよくないことがあると「世の中すべてこうだ」と捉える。 |
心のフィルター | 1つのよくないことにこだわり、繰り返しそのことばかり考える。そのため、1つでもよくないことが起こると全てがダメだと感じられてしまう。 |
マイナス化思考 | マイナスな側面ばかりに注目して、よいことを無視する。 |
結論の飛躍 | 根拠なく悲観的な結論を出す。
|
拡大(破滅化)解釈・過小評価 | 自分の失敗を過度に大きく捉え、自分の成功を過小評価する。逆に他人の成功を過大に評価し、他人の欠点を見ない。双眼鏡のトリックともいう。 |
感情的決めつけ | 自分のネガティブな感情が現実を反映している、と考える。 |
べき思考 | 「〜すべき」「〜すべきでない」と考える。そうしないと罪の意識をもちやすい。他人にこれを向けると、怒りや葛藤をいだきやすくなる。 |
レッテル貼り | 「一般化のしすぎ」の極端なもの。レッテルは感情的で偏見に満ちている。 |
個人化 | よくないことが起こったとき、自分に責任がない場面でも自分のせいにしてしまい自責的になる。 |
認知行動療法では、これらの認知の歪みを修正して、ネガティブ思考を緩和していきます。
1回カウンセリングを受けただけですぐに効果が出るわけではありませんが、継続的にカウンセリングや認知行動療法を受けると、少しずつネガティブ思考が改善されていくものです。
認知行動療法については以下のページをご覧ください。
4.認知行動療法についてのトピック
5.まとめ
ネガティブ思考の原因、改善方法について解説しました。ネガティブ思考が繰り返し現れると、ご本人だけでなく、周りの人たちも苦しい思いをすることが多いものです。カウンセリングでは、セルフケアの方法についても相談できます。
ネガティブ思考で苦しんでいる人は、一度カウンセリングや認知行動療法を受けてみましょう。
文献
- Mobini S, Chiang TJ, A l-Ruwatiea A S, Ho MY, Brad-shaw CM, Szabadi E.(2000). Effect of central 5-hydroxytryptamine depletion on intertemporal choice:a quantitative analysis. Psychophamacology(Berl.)149. 313-318.
- 厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業 「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」.『うつ病の認知療法・認知行動療法 (患者さんのための資料)
- デビット・D・バーンズ著、野村総一郎ら訳.自分で学ぶ「抑うつ」克服法 いやな気分よ さようなら 新しい認知療法の紹介. 星和書店.2004.