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カウンセラーを安易に変えることのデメリット

時にはカウンセリングで辛い気持ちになったり、苦しくなったりすることもあります。そうした時、カウンセリングを中断したくなったり、カウンセラーを変えたくなったりすることもあります。これをカウンセラーショッピングと言いますが、それを安易にしてしまうことのデメリットについて書きました。

カウンセラーショッピングとは

悲しんでいる男性

カウンセラーショッピングとは、カウンセリングの過程で苦しさや違和感を感じたときに、関係を深める前にカウンセラーを替えてしまう行動を指します。クライエントにとっては「もっと合う人がいるのでは」という期待や、「つらい気持ちから逃れたい」という防衛の表れである場合も少なくありません。

しかし、安易な交代を繰り返すと、信頼関係の構築や自己理解の積み重ねが途切れ、根本的な課題の解決にはつながりにくくなります。カウンセリングは単に楽になる場ではなく、時に自分の弱さや避けてきた感情に直面する過程を含むため、苦痛や抵抗を伴うのは自然なことです。その困難を避けずに取り組むことで、初めて回復や変化が訪れます。カウンセラー側も、その苦痛を共有しながら支え、継続を促す役割を果たしていきます。

よくある相談の例(モデルケース)

30歳代 女性

Aさんは30歳代の女性で、幼少期から家庭内で安心できる環境を得られずに育ちました。両親は口論が絶えず、彼女が不安を訴えても「大げさだ」と取り合ってもらえませんでした。そのため、自分の気持ちを他者に素直に打ち明けることが難しくなり、常に「相手に合わせなければならない」という思い込みを抱えるようになりました。社会人になってからは対人関係の緊張が強まり、職場でも人間関係のストレスにより不眠や体調不良を繰り返すようになりました。心療内科を受診し薬を処方されましたが、根本的な不安感や孤独感は改善せず、カウンセリングを勧められました。

しかし、Aさんにとってカウンセリングを続けることは困難でした。初めて訪れたカウンセリングでは、担当者が淡々と記録をとる姿勢に安心できず、「自分は受け入れられていない」と感じ、数回で通うのをやめてしまいました。その後も「もっと自分を理解してくれる人がいるはず」と思い、複数の相談室を転々としました。どこに行っても最初は安心感を抱くものの、徐々に疑念や不満が強まり、カウンセラーを信じられなくなってしまうのです。数年間のうちに10人近いカウンセラーを変えた経験があり、そのたびに「また失敗した」という自己否定感が募っていきました。

やがて、紹介を通じて信頼できそうだと感じたカウンセリングルームに通うことを決意しました。そこではカウンセラーが、Aさんが何度も途中でやめてしまった経験を責めることなく、「辞めてしまうこと自体が意味を持つ」と伝えました。その姿勢に触れたことで、Aさんは初めて「逃げてしまう自分」を語ることができました。最初の頃はまた辞めたい気持ちが強まりましたが、カウンセラーはその気持ちを受け止め、「続けたい気持ちと辞めたい気持ちの両方があることは自然」と言葉を返しました。そのプロセスの中で、Aさんは「信じたいけれど裏切られるかもしれない」という葛藤を少しずつ言語化できるようになっていきました。

3年ほどの時間をかけて、Aさんは「誰も完全に自分を理解してくれるわけではないが、それでも関係を続けることができる」という実感を得るようになりました。今でも人をすぐに信じ切ることは難しいものの、「合わなければすぐに辞める」というパターンから抜け出し、関係の中で不安を語り合うことができるようになったのです。これは、単に安心感を求めるのではなく、不安を抱えながらも関係を築く力が育まれてきた結果だといえます。

カウンセリングで辛くなる

階段で泣く女性

カウンセリングにはさまざまな技法やスタンス、構造があり、一概に言えるものではありませんが、そのプロセスには大きな困難がつきまといます。カウンセリングを受ければすぐに全ての問題が解決したり、癒しが起こったりするわけではありません。むしろ、カウンセリングを受けることで一時的にしんどさや苦しさを感じたり、病状が悪化したように見える場合さえあります。

特に自己探索的なカウンセリングでは、クライエントさんは自分自身について深く考え、過去の経験を振り返るようになります。その過程で、見たくないもの、耐え難いもの、忘れ去りたいもの、自分の中の醜い部分に直面しなければなりません。これを繰り返し直視し続けることは、大変な苦痛と労力を伴います。

しかし、こうした嫌なものを避けたり忘れ去ったりするのではなく、自分の一部として受け入れ、整理していくことで自己理解は深まります。そのプロセスを経て、心が少しずつ豊かになっていくのです。

とはいえ、この道のりは容易ではなく、クライエントさんにもカウンセラーにも大きな負担がかかります。だからこそ、最初の契約で構造や目標をしっかりと定め、作業同盟を築くことが重要になります。その際には「カウンセリングに不満や苦しさを感じた時には遠慮せずに伝えてください」といった提案を明確にすることが大切です。また、カウンセラーはクライエントさんが継続して取り組めるようモチベーションを支え、自己理解の作業を地道に進められるよう援助していきます。時には励まし、時には労をねぎらい、そして共感しながら伴走していくことが求められるのです。

Aさんは、自分の気持ちを語るたびに強い不安や緊張を覚えました。セッション後にはぐったりと疲れ、心の奥を掘り返されるような感覚に「もう通うのをやめたい」と思うこともありました。

カウンセリングを辞めたくなったり、カウンセラーを替えたくなる時

夕日と家族

しかし、そのような手続きを踏んだとしても、自己を見つめる作業はとてもつらく、逃げ出したくなる気持ちになるのも理解できます。そうしたとき、クライエントさんは防衛を働かせたり、抵抗状態になったり、キャンセルをしたり、アクティングアウトを起こしたりすることがあります。その際には慌てず、カウンセリングの目標や構造、主訴に立ち返り、改めて自己理解の作業に戻れるように促していくことが大切です。

このような場面でしばしば見られるのが、クライエントさんがカウンセラーの交代を希望するという出来事です。

苦難の道を歩む中で、多かれ少なかれクライエントさんがカウンセリングやカウンセラーに対して憎しみや怒りの感情を向けることはあります。そこまで強くなくても、否定的な気持ちになる場合も少なくありません。「あのカウンセリングに行くとしんどくなる」「もうカウンセラーに会いたくない」と感じ、中断したり、全く別のカウンセリング機関に移ったりすることもあります。

時と場合にもよりますが、そのようなときにクライエントさんの要望をそのまま受け入れ、簡単にカウンセリングを終了させたり、カウンセラーを交代させたりすることは、必ずしも望ましいとは言えません。もちろん、クライエントさんにはカウンセラーを選ぶ権利があり、最終的には希望に沿うことが尊重されるべきです。しかし、その行動が実際には変化や進展への抵抗の表れである場合には、元のカウンセリングに戻るよう丁寧に促していく必要があると考えられます。

Aさんの場合、沈黙が続いたり、カウンセラーの返答が期待通りでないと「合わないのでは」と不安になりました。その度に、別のカウンセラーならもっと理解してくれるのではと考え、交代を望む気持ちが生じました。

安易にカウンセラーを替えることのデメリット

街灯の下の女性

カウンセリングには、ある種のしんどさがつきものです。しかし、そのしんどさからすぐに逃げ出し、自己から目をそらしてしまうと、それ以上一歩を進めることができなくなります。少し厳しい表現ですが、しんどいことや嫌なことに直面したとき、それに取り組まず逃げ出すという行動が習慣化してしまう恐れがあります。そのような行動が繰り返されれば、いわゆるドクターショッピングのような状態になり、カウンセリングの中で得られるはずの経験や気づきが積み重なっていかなくなります。その結果、クライエントさん自身が当初望んでいた目標が達成できなくなってしまいます。

クライエントさんからのカウンセリング終了やカウンセラー交代の希望を、安易に受け入れることは一見優しく親切に見えるかもしれません。しかし、長期的な視点から見ると、実はクライエントさんの利益に反することになりかねません。場合によっては、厳しさをもって元のカウンセリングに戻ることを勧めることが必要になることもあります。

Aさんは、カウンセラーを替えるたびに「また最初から自分のことを話さなければならない」という負担を強く感じました。その結果、信頼関係を深める前に関係を途切れさせてしまい、成長の機会を逃すことにつながりました。

カウンセラー交代を希望して来られた時のカウンセラーの対応

机で泣いている女性

私のところにカウンセラー交代を希望して来られたクライエントさんには、まずその思いをしっかりと聞くようにしています。その際には、カウンセリング的な働きかけはできるだけ控え、クライエントさんの気持ちや要望、状況を丁寧に傾聴します。そして、可能であれば「今お話しされたことはとても重要であり、それを前の担当カウンセラーに伝えることが、カウンセリングを進展させる大きなきっかけになるかもしれません。実際には遠慮や言いにくさもあるでしょうが、できれば一度伝えてみてはいかがでしょうか」といった言葉を伝えるようにしています。

また、私が担当しているクライエントさんも、時には私とのカウンセリングが苦しくなり、他のカウンセラーのもとへ行くことがあるかもしれません。他のカウンセラーに私のやり方を強いることはできませんが、可能であれば元のカウンセリングに戻るよう促していただけると、私としては大変ありがたく思います。

実際に、私が担当していたクライエントさんが別のカウンセラーのところに行かれたことがありました。そのカウンセラーは私と直接の連携がなかったにもかかわらず、上記のような対応をしてくださり、その後クライエントさんは再び私のもとに戻ってきました。そして、カウンセラー交代を希望した気持ちについて一緒に話し合うことで、そこから新たな展開が生まれたケースがありました。もちろん、いつも必ず良い方向に進むわけではありませんが、できればこのように進んでほしいと願っています。

ただし、他のカウンセラーのもとで継続しているカウンセリングにおいて、もしクライエントさんがあまりにも無理な行動をとっていたり、技法的に誤った対応や倫理的な問題が見受けられる場合には、この限りではありません。そのような場合には、適切な助言を行ったり、必要に応じてそのカウンセラーと連絡を取る対応が求められることもあります。

Aさんの場合、交代を望む気持ちをカウンセラーが否定せず受け止めてくれたことが安心につながりました。そして「辞めたい気持ちと続けたい気持ちの両方がある」と説明され、矛盾した気持ちを語ること自体が大切なプロセスであると感じられるようになりました。

カウンセリングを受けたい

男性と診察をする医師

カウンセリングを受ける中で、「つらい」「この人ではないのでは」と感じ、次々とカウンセラーを替えてしまうことがあります。しかし、それは成長や変化の入り口に立ったときに起こる自然な抵抗である場合も少なくありません。安易に交代を繰り返すと、信頼関係の構築や深い自己理解の機会を失ってしまいます。当オフィスでは、そのような不安や戸惑いも大切に受け止めながら、安心できる関係を築き、長期的な視点でカウンセリングを支えていきます。「続けることが難しい」と感じている方も、その気持ちごと共に扱いますので、ぜひお申し込みください。