カウンセリングにおける精神分析の活用
精神分析というと、一般的な理解として、カウンセラーがその人の無意識を取り出し、それをクライエントに解釈として伝えるというイメージが大きいのではないかと思います。しかし、それが本当にそうなのかどうかをここでは書いてみたいと思います。
1.解釈というカウンセラーの押し付け
例えばクライエントが遅刻したら、「遅刻したのはあなたのカウンセリングへの抵抗です」とカウンセラーが言うのではないかと思われていたりします。しかし、実際のカウンセリングではそういうことはあまり言わないように思います。少なくとも私が学んできた精神分析やカウンセリングでは。
そして、厳密にいうと、上記のようなカウンセラーの言葉は解釈ではなく、ただの説明であり、解説であり、押し付けです。そうではなくて、精神分析でいう解釈とは臨床状況に起こってきた現象を取り上げつつ、そこにクライエントの情緒や思考や体験がどのように関連しているのか?について取り上げていくことです。
例えば先ほどの遅刻の例を取り上げると、「今日はカウンセリング遅刻をされましたが、それについてあなたはどのように思われますか?」なんかは明確化や直面化などになるでしょうし、「今日遅刻されたのは、このカウンセリングに来ることはとてもしんどかったのでしょうか?」なんかは解釈になるかもしれません。
このように、カウンセリング遅刻したことを責めるわけでもなく、遅刻は抵抗であるとの説明をすることもなく、その背後に動いているその人の情緒や動機に焦点を当てて、クライエントに伝えることが解釈だと思います。
2.一つの例を通して
また、もう一つ、カウンセリングへの遅刻は抵抗という理解が正解なのか、不正解なのか、というところです。乱暴な分析では、
カウンセラー「遅刻したのは抵抗です」
クライエント「そんなことはありません。ただ電車が遅れただけです」
カウンセラー「電車が遅れたという理由を用いて抵抗を否認しているのです」
クライエント「否認もしていません」
カウンセラー「それは無意識で起こっていることだから意識できないだけです」
クライエント「・・・」
これはかなり極端な逸話ですが、最終的にクライエントは無意識の責任にされてしまい、何も言い返すことができなくなっています。無意識とは本当にあるのか無いのか分からない概念ですし、その責任にされたら反論できなくなります。
こういうことにはあまりカウンセリング的な効果はないように思います。
3.カウンセリングで扱う水準
これらの抵抗や否認とったメカニズムが無意識にあるのかないのかは別として、精神分析やカウンセリングで扱うのは、無意識ではなく、前意識や意識にあるもののみです。一般に精神分析では無意識を分析していくものとなっていると思いますが、それらは間違いとまでは行かなくても、あまり妥当なものではないように思います。
クライエントが意識するかしないかのところまで上ってきているものをカウンセラーは取り扱っていきます。だからこそ、カウンセラーの解釈を中心とした介入に、クライエントは反応してくれるのです。
4.人生としての物語を作る
また、もう一つの視点として、バラバラになっている様々な出来事や事実が、例え作り話になっている部分があったとしても、そのクライエントにとっての人生の物語になるのであれば、カウンセリング的に意味があるのだろうと思います。
さきのカウンセリングへの遅刻の例でいえば、遅刻が抵抗であり、否認するものという理解が、クライエントにとってのある種の物語として受け入れられ、納得でき、心の中に内在化できるものであれば、それはカウンセリングとしての効果があるのでしょう。しかし、あまりピンと来なかったり、納得のできないものであれば、効果はないのでしょう。
ただ、受け入れられる・受け入れられない、という基準はなかなか難しいと思います。「はい、そうです」と言ったからといって受け入れられたとは限らないし、「いいえ、ちがいます」と言ったからと受け入れられなかったとは言えません。カウンセラーがなんらかの解釈をした後、語りや連想がどのように変化したか・変化しなかったか、情緒がどう動いたか動かなかったか、行動がどう抑制されたか・促進されたか、そういうものを総合的に見て、判断することになります。こうしたことはそれなりの訓練(教育分析や個人分析、スーパービジョン)を積むことでようやく見えてきます。
精神分析的心理療法についての詳細は以下をご参照ください。
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