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発達障害の見立てと診断

周囲から発達障害ではないかと言われたり、自分は発達障害かもしれないと思ったりしたとしても、一体どのように見分けたらよいのか悩ましいものです。

今回は、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)などの発達障害の検査・診断の方法と、自分できる発達障害のセルフチェックをご紹介します。

1.発達障害の心理検査

医療機関によって、実施する検査は異なりますが、自閉スペクトラム症や注意欠陥多動性障害のスクリーニング検査、WAIS-Ⅳなどの知能検査、PARS-TR(ご本人と養育者に対してインタビュー形式で行われる発達検査)、記憶の検査などから、いくつかの検査を組み合わせて実施することが多いです。

(1)スクリーニング検査

自閉スペクトラム症のスクリーニング検査で有名なものは、AQ(自閉症スペクトラム症指数)です。

33点以上で「自閉傾向あり」とする場合が多いです。しかし、場合によっては、もっと低い点数でも「自閉傾向あり」と判定されるケースもあります。「自閉傾向あり」とは、自閉スペクトラム症の可能性があるという意味です。

注意欠陥多動性障害のスクリーニング検査は、ASRS(成人期のADHDの自己記入式チェックリスト)が有名です。この記事の後半で紹介していますので、ご参照ください。

それ以外では、CAARSという検査があります。

この検査はスクリーニング検査としても使えますし、注意欠陥多動性障害の重症度の判定にも使うことが可能です。ご本人に記入してもらう質問紙と、観察者が記入する用紙があり、客観的な情報も含めて判定するところが特徴といえるでしょう。

(2)知能検査(WAIS、WISCなど)

WAISーⅣなどの知能検査では、能力のばらつきを知ることができます。得意なところと不得意なところの差が大きく、それが生きづらさにつながることが多くあるのです。

例えば、言語的な能力や記憶力は非常に優れているけれども、全体像をとらえるのが苦手で処理速度も遅い、というような場合では、会話した印象では「とてもできる人」という印象を持たれます。非常に高学歴であることも多いものです。

しかし、実際に仕事をすると、締め切りに合わせて段取りをくむことができなかったり、指示を取り違えてしまい上司がイメージした成果物と大きく異なるものを作ってしまったり、細部が気になり作業が進まないなど遂行機能の弱さが災いし、成果を出せず、学歴の割にはできない、口ほどにできないなどと低い評価を受けてしまうことがあります。

得手不得手の差が大きければ大きいほど、このギャップが大きくなり、結果的にはご本人の生きづらさにつながってしまうのです。

知能検査だけで、発達障害と診断することはできません。しかし、知能検査を受けることで得手不得手、つまり、得意なところと不得意なところが明らかになり、自分の特性を知ることができます。

特性を知り、不得手をどのように補えばよいのか、得手を生かして工夫を重ねることにより、不得手をカバーすることができるようになるケースもあります。診断という意味合いだけでなく、ご本人の困りごとを解決するための糸口となる情報が得られるのです。

所要時間が2時間~3時間と長時間にわたる検査であるのが難点ですが、実施するメリットは大きいでしょう。

ご本人の困りごとへの対処は、まず自分の特性を理解するところから始まりますので、しっかりと検査を行い、特性を明らかにすることは非常に重要となります。

WAISーⅣについてのさらに詳しい説明は以下のページをご覧ください。

(3)PARS-TR

PARS-TRという検査は、親面接式自閉スペクトラム症評定尺度(Parent-interview ASD Rating Scale)と呼ばれる57項目の検査です。

この検査を成人に実施する場合には、幼児期(3歳~5際)を中心として小学校に上がる前までの時期のことを主に養育者に伺い、成人期のことを主にご本人に伺います。適宜、幼少期の質問でもご本人が言いたいことがあれば聞き取ります。成人期のご本人の回答に対し、養育者の方の意見があれば、それも聞き取ります。

「幼児期」の点数と「現在」の点数を算出し、自閉スペクトラム症の可能性について検討する検査です。質問項目に対し、点数をつけるだけでなく、具体的なエピソードを伺い、医師に伝え、診断に役立つ情報が得られますので、正確な診断に役立つというのも実施するメリットでしょう。

所要時間は30~40分です。

2.診察や問診

診察や問診では、前述のような検査結果を踏まえて、現在のことだけでなく幼少期のことも詳しく聞きます。診察前の面接でCAARSやPARS-TRを実施する施設もあります。

また、母子手帳や通知表を持参してもらい、言葉の遅れの有無など1歳半健診や3歳児健診の結果を見たり、小学校や中学校の通知表のコメントを見たりして、現在までの発達に関する情報を得るのです。

例えば、「授業中に他のお友達に話しかけているなど、落ち着きがないことがありました。」「チームで行う課題でも一人で行動してしまうことが多くありました。もう少しお友達と一緒に行動できるようになるとよいですね」「忘れ物が多くありました」などの記載がみられ、幼少期のご本人の状態を推測することができるのです。

なるべくなら、3歳〜5歳くらいの幼児期を共に過ごした養育者の方からご本人が幼児期だった頃のことをヒアリングするのが最も有効です。

幼児期の特徴としては、以下に該当していたかどうかをチェックします。

  • アイコンタクトが少ない、または、ほとんどない
  • 幼児期の遊び(ごっこ遊びをしていたか、友だちや兄弟と遊んでいたか、ひとり遊びばかりではなかったかなど)
  • 言葉の発達(話し始めたのはいつか、よく話す方だったか無口な方だったか、おうむ返しをしていたかなど)
  • コミュニケーションの特徴(一方的に話し続けるような傾向があったかなど)

大人になってからの特徴としては以下をチェックします。

  • 字義通りに受け取りがちである
  • 冗談や皮肉がわからないことがある
  • 手順や予定が急に変更されると不機嫌になる
  • 用事があるときだけ話しかけ、雑談はしない
  • ほかの人が行ったら恥ずかしいと思うようなことを自分が恥ずかしさを感じずにしてしまう(他の人から「それは(恥ずかしいから)やめたほうがよい」と助言されたことがある)
  • 騙されやすい
  • 5~6人で話し合いをしているときに、誰が誰に話しかけているのかわからないことがある

そして、現在のご本人やご家族の困りごと、職場関係者や学校関係者からの情報などを総合的にみて精神科医が診断を行います。

3.発達障害のセルフチェック

ここでは、専門機関にかかる前に自分できるセルフチェックについて、解説します。

今回ご紹介するセルフチェックは、あくまでも発達障害の可能性があるかどうかを判定するものであって診断するものではありません。

また、セルフチェックの結果を医師に見せると効率的に症状を伝えることができるということもメリットです。

気になる方は、まずやってみましょう。

(1)自閉スペクトラム症のセルフチェック

RAADS-14「成人期のASDの自己記入式症状チェックリスト」

以下の14問の質問において、次の中から自分について最も適当な答えを選んでください。

No. 質問項目 現在においても、過去(16歳以下)においてもあてはまる 現在においてのみ、あてはまる 過去(16歳以下)においてのみ、あてはまる 現在も過去も、あてはまらない
1 他の人と話している時に、他の人が感じていることを理解するのは難しい
2 他の人が気にしないような普通の感触のものが肌に触れると、とても不快になることがある
3 集団で働いたり、活動したりすることはとても難しい
4 他の人が自分に期待したり、望んだりしていることを理解するのは難しい
5 社交的な場面で、どのように振る舞えばよいのかわからないことがよくある
6 他の人と雑談やおしゃべりをすることができる
7 自分の感覚に圧倒されてしまう時は、落ち着くために一人になる必要がある
8 どのように友達を作るのかや、人と社交的に付き合うのかは、自分にとって謎である
9 誰かと話をしている時に、自分が話をする番なのか、話を聞く番なのかが分からないことが多い
10 煩わしい音(掃除機の音、人の大声や過度なおしゃべりなど)をさえぎるために、両耳をふさがないといけないことが時々ある
11 他の人と話をしている時に、相手の表情を読んだり、手や体の仕草の意味を理解することがとても難しいことがある
12 全体像よりも細部に注目する
13 言葉通りに受け取りすぎて、他の人が意図していることに気がつかないことが多い
14 突然(物事が)自分の思い通りのやり方でなくなると、非常に動揺してしまう
合計得点:

合計点が14点以上で自閉スペクトラム症の可能性があるとされています。発達障害でない方における平均は5点です。

出典)岩波明(著)「うつと発達障害」青春新書インテリジェンス 2019

(2)注意欠陥多動性障害のセルフチェック

注意欠陥多動性障害のセルフチェックには「成人期のADHDの自己記入式チェックリスト(ASRS-v1.1)」というものがあります。

これについては、以下のページにあります。あてはまるところにチェックを入れるだけで自動で計算してくれます。

4.発達障害の診断の注意点

WISC-4やWAIS-4といった知能検査のプロフィール結果にバラツキがあるだけで発達障害であるとか、発達障害のグレーゾーンとしてしまう専門家もいたりします。そもそも発達障害といっても、上記に書いた通り自閉スペクトラム症や注意欠陥多動性障害など様々あり、どれを指しているのか不明確でもあります。時には自閉スペクトラム症と注意欠陥多動性障害の両方の特性を持っている、というような何でもありのような診断まがいが出されたりもします。

自閉スペクトラム症や注意欠陥多動性障害といった発達障害は、健常者との質的な違いはなく、スペクトラム構造となっています。そのため、どんな人にも多少は発達障害的な特性をもっています。ですので、発達障害の疑いとか発達障害のグレーゾーンといっておけば8〜9割は該当してしまいます。

また大人の発達障害の場合にはそれまでのさまざまな経験や体験により、相当困難な事態になっている場合も少なくありません。パニック障害や強迫性障害、パーソナリティ障害などの症状が出てしまっている方もいます。

そのため、大切なことは、診断にとらわれず、どういう特性を持っており、その特性がどの程度重篤であり、それによって社会生活がどのように支障をきたしているのかをこまかく見ていく必要があります

そして、特性を持っていても、社会生活上で、職業生活上でそれほど支障が出ていないのであれば、診断を下す必要はありません。DSM-5やICD-11などでも、症状があるだけではなく、それによる生活の障害が顕著になることが診断基準の1つとなっています。

こうした発達障害の診断に振り回されない方が良いでしょう。

5.発達障害について相談するには

ここでは、発達障害(自閉スペクトラム症と注意欠陥多動性障害)の検査・診断の方法と、自分できる発達障害のセルフチェックについてとりあげてきました。

「発達障害かな?」と心配な方、周囲の人から「発達障害なんじゃない?」と言われた方などは、一度セルフチェックを実施してみるとよいでしょう。セルフチェックで高得点がでたら、念のため、発達障害専門外来を受診したり、カウンセリング施設に相談したりするとご本人の生きづらさを解消する糸口がみつかるかもしれません。

診断されるかどうかも大切ではありますが、ご本人の仕事や日常生活での困りごとや、生きづらさを解消することが最も重要です。一人で悩まずに専門家に相談してみましょう。

当オフィスでも発達障害についての相談やカウンセリングを行っております。希望者は以下のページからお申し込みください。

また、発達障害かどうかの診断に役立てるための心理検査を当オフィスで受けることも可能です。心理検査をご希望の方は以下の申し込みフォームからご連絡をください。

6.発達障害についてのトピック