今となっては、子どもだけでなく、大人までもゲームをする人が増えています。また、スマホゲームが普及したことで、よりゲームというものが文字通り手放せなくなっているのではないでしょうか。
ここでは、ゲーム依存症(ゲーム行動症、ゲーム症)とは何かについて解説していきます。
目次
ゲーム依存症とは
ゲーム依存症(ゲーム行動症、ゲーム症)とは、ゲームに異常な執着を示し、自己制御ができなくなる状態のことです。ゲーム依存症は、脳の報酬系が変化し、現実世界での活動が鈍化することで発生します。ゲーム依存症には、身体的な症状(手の震えなど)や精神的な症状(不安や抑うつなど)が出ることがあります。治療には、認知行動療法やグループセラピー、デジタルデトックス、カウンセリングが有効です。早期の治療が重要です。
それまで単なるゲーム好きとしてしか見られてなかったのですが、2019年に世界保健機関(WHO)によって、ゲーム障害という名称になり、精神障害の一つとして位置づけられました。
ゲーム依存症というものは、昔からささやかれてきた問題でした。ゲームばかりしている人に対し「あいつはゲーム依存症だ」と日常的にも使われていましたが、その「ゲーム依存症」という言葉に明確な定義はなかったように思います。単に「ゲームをしすぎている人」というニュアンスの言葉でした。
そのゲーム依存症が、実際に“病気”として認定されたのは、つい最近のことです。2019年にWHO(世界保健機関)がICD-11(国際疾病分類)の中に「ゲーム障害」を組み込みました。ICD-11というのは、全世界で共通の病気の基準を示したようなもので、お医者さんが、患者さんを診断するときにも用いるものです。その中の「ギャンブル依存症」と同じカテゴリーにゲーム依存症は位置づけられることとなりました。
簡単にまとめると、「ゲーム依存症は病気だ」と世界が認めたということです。ここで気をつけなければならないことは、「あいつは病気だ」というためだけに認定されたわけではなく、「苦しんでいる人がしっかり治療を受けられるように」という想いも込められ病気に認定されているということです。
ゲーム依存症を含めた依存症についての全般的な解説は以下のページをご覧ください。
よくある相談の例(モデルケース)
10歳代 男性
Aさん(10代男性、高校生)は、小学生の頃からゲームが好きで、放課後や休日には友人とオンラインゲームで遊ぶことが日常となっていました。もともとおとなしく内向的な性格で、家庭内でも自己主張は少なく、学校生活でも目立つタイプではありませんでした。中学に進学した頃から、勉強や部活動でのストレスが強くなり、それに伴いゲームに没頭する時間が増えていきました。家庭では両親が共働きで不在がちだったこともあり、Aさんにとってゲームは寂しさや不安を紛らわせる手段となっていったのです。
高校生になると、授業や課題への集中力が低下し、夜遅くまでゲームをして睡眠不足に陥ることが増えました。次第に朝起きるのが辛くなり、遅刻や欠席が目立つようになりました。家族からは注意や叱責を受けるものの、Aさん自身は「ゲームをやめたいけどやめられない」「ゲームをしている時だけ気が紛れる」と感じており、家族との会話も減少していきました。友人との関係も希薄になり、学校生活の中で孤立感が強まっていきました。
このままではいけないと感じた母親が、学校のスクールカウンセラーや担任と相談し、心療内科を受診することになりました。診察では「インターネット・ゲーム依存症」の傾向が強いと指摘され、医師からカウンセリングを勧められました。最初は渋々ながらもAさんはカウンセリングを受け始めました。カウンセリングの初期段階では、Aさんがゲームに依存する背景や心の状態を丁寧に聴き取ることから始まりました。家庭環境や学校でのストレス、人間関係の悩み、将来への不安など、Aさんが感じている苦しさや孤独感について時間をかけて言語化していきました。
また、家族とも面談し、Aさんにとっての支えとなるようなコミュニケーションの方法や家庭でのルールづくりについて話し合いました。Aさん自身が少しずつ自分の気持ちを話せるようになるにつれ、ゲーム以外のストレス対処法や自己理解を深める取り組みも進めていきました。具体的には、ゲーム以外の趣味や友人との交流の場を広げる工夫や、生活リズムを整えるための目標設定などを行いました。徐々にAさんは、自分の思いを言葉にできるようになり、家族とも少しずつ対話が増えていきました。
数か月のカウンセリングを経て、Aさんはゲームに費やす時間を意識的に減らすことができるようになり、学校生活や家庭での過ごし方にも変化がみられるようになりました。完全に依存が解消したわけではありませんが、自分の問題と向き合いながら生活を立て直す力がついてきたと感じられるようになっています。
ゲーム依存症のチェックリスト
ゲーム依存症のチェックリストです。質問項目に「はい」か「いいえ」でお答えください。
合計得点が5点以上であれば、ゲーム依存症の疑いがあります。
ゲーム依存症の診断と症状
では、実際、どういう人がゲーム依存症とされるのでしょうか。ゲームに全く触れていない人を探す方が難しい現在において、ゲーム依存症の人と、そうでない人との境界はどこにあるのでしょうか。
先ほどのICD-11の診断基準をまとめてみると、以下のようになります。
- 自分でゲームの時間と頻度を制御できない
- ほかの何よりもゲームを優先する
- 悪影響が出ているのにもかかわらずゲームをし続ける。
このような状況が12ヶ月以上続いて、個人、家庭、社会、職業などにおいて支障が出ているときに「ゲーム依存症」という診断に至ります。
他の精神疾患でも同じことが言えるのですが、診断において最も重要なことは「日常生活に支障が出ているか」という点です。極端に言えば、どれだけゲームをしていようと、社会的に生活ができていれば病気として診断されることはほぼないということです。
社会生活が阻害されている状態というのは、例えば、「深夜にゲームをしすぎて、翌日学校や仕事にいけない」「体調を崩してまでゲームをしている」などです。つまり、生活をするうえで問題が発生しているのにも関わらずゲームをし続けているか、社会的に生活できているうえでゲームをしているか、そこに病気とそうでない人の境界があるということです。
Aさんは、日常生活においてゲームをやめたいという気持ちがあるにもかかわらずコントロールできず、長時間のプレイが続きました。その結果、学業成績の低下や睡眠不足、家族や友人との関係悪化、遅刻や欠席などの問題が顕著になり、これらが「ゲーム依存症」の診断基準に該当すると考えられます。
ゲーム依存症の特徴
ゲーム依存症に関して悩まれている人には、「子どもや身近な人がゲームにのめり込んでしまって困っている」という方と、「自分自身がゲームから逃れられなくて困っている」という方がおられると思います。しかし、ゲームは楽しいものですから、後者のようにゲーム依存症の人自身が、自らカウンセリングに訪れることは稀でしょう。
これは他の依存症にもいえることですが、依存症の場合、本人が困っていないケースが多いのです。それゆえ、「治療にそもそも結び付くか」というところが一番難しくなってしまいます。
ここで大切なことは、ゲーム依存症の何が問題であるかをしっかりおさえておくことです。ゲーム依存症で問題なのは「ゲーム自体」ではなく「それによって生活に支障が出ている状態」なのです。もし、身近にゲーム依存症の傾向がある人がいたとして、ゲーム自体が悪いというように言ってしまうと、治療にはつながらなくなってしまうでしょう。
そして、本当にゲーム依存症から回復させたい人がいるならば、単にゲームをすることを禁止したり強制的にやめさせたりする介入はしない方がいいと思われます。むしろ、関係性を悪くしてしまうだけです。
力ずくで治るようなものでしたら、そもそも病気とは呼ばれないでしょう。「依存症の人は意志が弱いだけだ」とよく誤解されますが、意志でどうにかなるものではありません。
Aさんのゲーム依存症の特徴は、ゲームをやめたいと思いながらも自分の意思でコントロールできず、長時間ゲームに没頭してしまうことです。また、日常生活や人間関係、学業に支障が出ているにもかかわらず、ゲームへの執着が強い点が挙げられます。
ゲーム依存症の原因
上の図はゲーム依存症に陥ってしまう悪循環について描いたものです。
心理学の用語で、人の行動を強めるものを【強化子】といいます。人は、いい結果が得られたらそれを続けます。ゲームには、その強化子がたくさん組み込まれているのではないかと考えられます。
ゲームの中のキャラクターは多くの場合レベルアップします。それは一つの強化子だといえます。クリアしたときの達成感も強化子です。レアなアイテムを見つけることも強化子です。友だちと楽しくやりとりできることも、ゲームがうまくなることも強化子といえるでしょう。
強化子を得れば得るほど、我々の脳はゲームを求めてしまうようになります。それがゲームを続けてしまうメカニズムです。
しかしながら、みながみんな、そのような状況に陥るわけではありません。その人がおかれている環境も深く関係していると考えられます。なぜ、その人がゲーム依存症になってしまったか、そこを紐解く中に治療への兆しがあるかもしれません。
Aさんのゲーム依存症の原因には、学校や家庭でのストレスや孤独感、家族とのコミュニケーション不足、現実の不安から逃れるための心理的な要因が影響していると考えられます。
ゲーム依存症の治療
ゲーム依存症の治療についてここでは解説します。
(1)ゲーム依存症の治療の目標
まず、重要な視点として、ゲーム依存症の回復は「やめさせる」より「うまい付き合い方を模索する」という方向性で取り組むということです。
薬物依存やアルコール依存では、それらの物自体が健康を害するものですから、完全にやめることを目指しますが、ゲーム依存症の場合は、先ほども述べたようにゲーム自体が害であるわけではないので、本人がうまくゲームと付き合えて社会生活が送れるのであればそれでいいわけです。
Aさんのゲーム依存症の治療の目標は、ゲームへの依存を減らし、学業や家庭での生活リズムを整えること、また自分の気持ちを適切に表現し、現実のストレスに対処できる力を育てることでした。
(2)ゲーム依存症のカウンセリング
ゲーム依存症の治療にはカウンセリングが必要になってきます。具体的には、認知行動療法的な介入が効果的であると考えられます。
ゲーム依存症の人は、自分自身が一日のうちにどれだけゲームをしているか意識せずに過ごされている場合がほとんどだと思います。まずはそこをカウンセラーとともに確認していくことになります。ゲームをやめるやめないの話は一旦置いて、ただ時間をはかってきてもらいます。表を作って、グラフで時間を記録し可視化しておくとより効果的でしょう。不思議なことに、毎日時間を意識して計測しているだけで、ゲーム時間が減っていく場合もあります。
この作業によって、一日の平均的なゲーム時間がわかれば、そこでようやく「どれくらいに減らせそうですか」という話になっていきます。この際も、カウンセラーが一方的に決めるのではなく、一緒に目標設定をしていくことになります。「今すぐにやめる」ではなく、「長いスパン」で取り組んでいきましょう。
加えて、グループカウンセリングが導入される場合もあります。ひとりでゲーム依存症の治療にとりくむのは、孤独で辛い作業と感じられることもあります。依存症の治療には仲間の存在が大切になります。ともに回復を目指す仲間同士で語り合い、情報を共有することは大きな支えとなるでしょう。
Aさんのカウンセリングでは、ゲームに依存する背景や気持ちを丁寧に聴き取りながら、ストレス対処法や生活リズムの見直し、家族とのコミュニケーション改善などを目指して支援を行いました。
(3)ゲーム依存症の家族への支援
ゲーム依存症で問題となるのは、ゲーム依存症の本人だけではありません。ゲーム依存症の人が生活できている背景には、周りの人がゲーム依存症の維持を手助けしてしまっているからです。本当に誰も手助けしない状況になれば、ゲーム依存症の人はどうにか自分の力でやっていくしかなくなります。
そのように考えると、周りの手助けがゲーム依存症からの回復を妨げているともみえてきます。すなわち、「共依存」的な関係性がそこにあるということです。
例えば次のような状況が考えられるでしょう。
部屋から出てこない
↓
心配だからご飯を部屋にもっていく
↓
余計にゲームをやめる必要性がなくなる
このような手助けは、問題をより深刻にしてしまいます。とはいえ、放置していれば良いというものではありません。
周りの人はすべてを手助けするのではなく、「本人が【自分の力】で生活を送られるようなサポート」をする必要があるといえるでしょう。
Aさんの家族への支援では、家族とのコミュニケーションの工夫や家庭内でのルール作りを一緒に考え、Aさんを責めるのではなく見守り支える姿勢を持てるようサポートしました。
ゲーム依存症についてのよくある質問
ゲーム依存症とは、過度にゲームに依存することで、日常生活や健康に深刻な影響を及ぼす状態を指します。一般的に、プレイ時間が長時間にわたり、対人関係や仕事、家庭生活に支障をきたすようになります。依存が進むと、現実逃避や感情のコントロールが困難になるため、社会的な活動や自己管理において困難を抱えることが増えていきます。
ゲームが依存症を引き起こす理由は、報酬システムや達成感が脳に快感を与えるためです。ゲーム内で目標を達成することで得られる報酬や達成感が、ゲームのプレイを繰り返させる要因となります。また、ストレス解消や現実からの逃避を目的とするため、過剰なプレイ時間を生じやすくなります。こうした心理的な要素が、依存の深刻化を招くことがあります。
ゲーム依存症の主な症状には、ゲームプレイに費やす時間が増える、日常生活や仕事に支障をきたす、対人関係が悪化する、などが挙げられます。依存が進むと、ゲームをやめられなくなり、現実の責任や課題に対する興味やモチベーションが低下します。さらに、社会的な活動を避ける傾向も強まり、周囲との関係性にも悪影響を及ぼします。
はい、ゲーム依存症は誰にでも起こり得る可能性があります。特に感受性が高い人やストレスを感じやすい人、自己制御が難しい人に発生しやすいとされています。また、長時間のプレイを促す環境や、ゲームの報酬設計が依存を助長することもあります。
ゲーム依存症を防ぐためには、適切な時間管理を徹底することが重要です。まず、生活のバランスを保つために、他の活動とゲームの時間を適切に調整することが大切です。ストレスを解消するために運動や趣味を取り入れ、対人関係を大切にすることで、ゲームへの依存を予防することができます。また、家族や友人とコミュニケーションをとることも、依存予防に効果的です。
ゲーム依存症を改善するためには、専門的なカウンセリングを受けることが有効です。心理療法や行動療法を通じて、ゲームとの付き合い方を見直すサポートを受けることで、依存の解消を目指します。また、ゲームを一時的に制限することで、生活のバランスを取り戻すことも重要です。自己管理のスキルを高め、興味を別の活動に向けることが改善への道となります。
子どもがゲームに依存しているかどうかを見分けるためには、プレイ時間が長すぎる、成績や家庭での関係に悪影響が出ている、他の活動への興味が薄れているなどの兆候に注意を払うことが重要です。また、ゲームを優先することで、学校の成績や家族との交流が減少している場合は、依存の可能性を疑う必要があります。
はい、大人もゲーム依存症にかかる可能性があります。特に仕事や家庭生活のストレスを解消しようとする人や、自己制御が難しい人に多く見られます。大人の場合、長時間のゲームプレイが仕事や家族生活に支障をきたすことで、依存の深刻化が進むことがあります。
ゲーム依存症の治療には、心理療法やカウンセリング、行動修正のトレーニングなどがあります。専門家によるサポートを受け、自己制御を高めるためのスキルを学ぶことで、依存からの回復を目指します。また、セルフマネジメントを強化し、ゲーム以外の興味や趣味を持つことも効果的です。医師や心理専門家と相談し、個々に合った治療法を選ぶことが重要です。
ゲーム依存症を引き起こす要因には、心理的要因(不安や孤独感)、社会的要因(対人関係の問題)、環境的要因(ゲーム内での報酬設計)が影響します。特に、ゲームが報酬を与える設計である場合、プレイヤーはその快感に引き寄せられ、依存しやすくなります。また、孤独感や社会的支援の不足も、依存を助長する要因として挙げられます。
ゲーム依存症について相談するには
ゲーム依存症というものが病気に認定されて間もない今だからこそ、このゲーム依存症の何が問題であり、どうすれば回復できるのか、しっかり見据えていく必要があります。本来、ゲーム文化は我々の生活を豊かにするためにあるようなものですから、それによって社会生活が送れなくなってしまっては元も子もありません。上手に付き合っていきたいものです。
そのために、ゲーム依存症から回復し、適度にゲームを楽しめるようになるために、時には専門家に相談しなければならないこともあるでしょう。当オフィスではゲーム依存症についての相談やカウンセリングを行っています。ご希望の方は下の申し込みフォームからお問い合せしてください。
文献
この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。