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サイコロジカルファーストエイドとは:臨床心理士・公認心理師が分かりやすく徹底解説

サイコロジカルファーストエイドとは、「心理的応急措置」とも呼ばれています。事故や災害など心に大きな衝撃を与える出来事を経験した人をケアするために構成された、心理的支援法のひとつであり、困難な状況下で助けを必要とする人たちに対して人道的な手助けをすることを目的に実施します。

今回は、そのようなサイコロジカルファーストエイドの特徴などについて説明していきます。

1. サイコロジカルファーストエイドとは

サイコロジカルファーストエイドは、深刻で危機的な出来事に遭遇した人に対して、周囲の協力者が心理社会的な支援を提供するための試みであり、被災者などが現状以上の被害を受けないように安全を確保して、尊厳に配慮しながら支援する枠組みのことです。

これまで世界保健機関(英語表記:World Health Organization:略称WHO)が2011 年に発行したサイコロジカルファーストエイドの指針によると、実施者は精神保健専門家にとどまらずに、幅広い職種の支援者に普及しやすいことが特徴として挙げられます。

サイコロジカルファーストエイドは、災害や犯罪などに巻き込まれた人々を心理的に保護して、現状以上の心理的被害を防ぎ、様々な援助のためのコミュニケーションを促進することを目的として行われ、現実的な状況を踏まえた連携を取ることが重視されています。

2. サイコロジカルファーストエイドの効果

サイコロジカルファーストエイドを実施する際には、被災者が二次被害を受けないようにするための支援方法が重要であると認識されています。

現実的に、サイコロジカルファーストエイドを実施する際には、被災者が時間をかけて自然な回復力を取り戻せるようにメンタルケアを無理に押しつけないように配慮する必要があると考えられています。被災者が水や食料のライフラインが確保できる、あるいは家族など大切な人と連絡が取れるなどのニーズが満たされて、適切に心理社会的支援が受けることができれば、災害や犯罪直後のストレスに伴う不安感や抑うつ症状、不眠などが回復することが期待されます。

サイコロジカルファーストエイドを適切に行うと、被災者のメンタル不調などの症状が改善する効果が認められますが、無理に推し進めると当該本人が心理的に不安定になって体調が悪化するリスクもはらんでいます。

サイコロジカルファーストエイドを実施する段階で、ストレスの引き金となった出来事に対する考え方や情緒的な反応を過剰に表現するように求めると却って被災者が混乱する状況に陥ることがあるので一定の注意が必要です。

3. サイコロジカルファーストエイドの実施方法

WHOが提示しているサイコロジカルファーストエイドを実施する際の原則的な活動内容としては、活動前に十分準備を整える、そして活動中には被災者を見る、聞く、つなぐという3要素から成り立っています

(1)情報収集と支援へとつなぐ

より安全で効果的なサイコロジカルファーストエイド支援を行えるように、現地に入る前には現場状況について正確な情報をできるだけ収集し、支援している際中には被災者が自分自身を順調に制御できるように手助けをすることが重要な実施方法となります。

その中では、被災者の気持ちを出来る限り落ち着かせるような会話方法を心がけて行い、必要に応じて公共サービスなどに支援をつなぐことが求められています。

(2)連携

被災者を現状以上に傷つけずに最善の支援策を提供してレジリエンス(自然回復力)を阻害しないための基本的な行動様式としては、サイコロジカルファーストエイドを実践する支援者は現地の文化に合った礼節を守ることが重要なポイントとなります。

被災時や被災地の環境を把握して、自分の立ち位置を理解しながら営利目的に支援活動を行うのではなく、被災者が不利益を被ることを優先的に回避するように心がけて、支援者は現地での摩擦を感じながらも他の支援活動との連携を重視する必要があります。

身体的疾患と同様に、甚大な被害などを経験して傷ついた被災者のメンタルケアが適切にできていなければ、様々な問題が長引いて、支援を受ける対象者が本来持っているレジリエンスを発揮して十分に回復できない懸念も生まれます。

そうならないために、サイコロジカルファーストエイドを行う際には、支援対象者の本質的なニーズを把握して、対象者が持っているレジリエンスを十分に発揮できるような補助的なサポートを実施できるように意識することが肝要です。

(3)注意事項

災害時のひとつのケア手段として、つらいイベント体験をした当事者にその体験を振り返って心の整理をつけていくことを目的とした心理的デブリーフィングを行って、かえって精神的に重い負担になってしまい、逆効果に陥るケースも危惧されるところです。

あくまで、サイコロジカルファーストエイドの最大の目的は、支援対象者を心理的に保護してできる限り現状以上の精神的負担をかけないこと、あるいは安全環境を確保して必要に応じて生活上の手助けをすることです。

また、家族や友人など地域におけるコミュニティのつながりを出来るだけ早く取り戻して、様々な課題事項への具体的な対処法を共有することや必要な支援を判断して他の専門機関につなぐことが重要な行動指針となります。

4. サイコロジカルファーストエイドの普及と啓発

二人で楽しく会話する女性

(1)手引き

サイコロジカルファーストエイドを広く普及して啓発するためのツールとして、「サイコロジカルファーストエイド 実施の手引き 第2版」(英語表記:Psychological First Aid ;略称 PFA)が挙げられます。この手引書は、大規模災害や大型事故などの直後に提供できる、心理的支援の基本的なマニュアルとして認識されています。

災害精神保健に関する多職種の専門家の知識と経験、あるいは数々の被災者や被害者の声を収集して、アメリカ国立PTSDセンター、アメリカ国立子どもトラウマティックストレス・ネットワークが開発した経緯があります。

サイコロジカルファーストエイド実施の手引き書には、日本語版も作成されていて、日本人でも少しの知識と意欲があれば誰にでも学習できるツールが含まれています。

サイコロジカルファーストエイド 実施の手引き 第2版 日本語版

(2)簡便に学習できる

特別なマニュアル本ではなく、こころの回復を助けるための基本的な支援策や対応方法を、効率よく学ぶことができるようになっています

それぞれの専門性や立場、あるいは現場のニーズに応じて、必要な部分だけを抽出して使用することができますし、精神保健専門家だけでなく、災害や事故の現場で働く可能性のある一般の方々にも、簡便に取り組みやすく学習できる内容となっています。

また、自然災害などの大型災害時に必要とされるメンタルケアや心理社会的支援方法などに関する基本的知識を習得して、被災者対応のスキルを実地的に応用できる人材を育成するための研修が各地で行われています。

(3)実技実習

その実技研修においては、20名程度のグループに分かれて、ロールプレイやコミュニケーションスキルを学習して、それぞれのシナリオに基づいた討論などを実践しながら、被災者に対して実際の支援対応ができる能力を向上できるように訓練を行います

同時に、研修内容としてトラウマ感情を含むメンタルケアの概論などの知識を得て、様々な精神的な不調症状が認められる場合に心理的な回復を促進するためのリカバリーテクニック手法に関しても獲得することが期待されています。

5.まとめ

母親と子ども

大勢の人が巻き込まれる大規模災害やテロ事故などが起こったとき、複数の被災者や被害者の方々に対して、丁寧な「こころのケア」を提供できればいいですね。

サイコロジカルファーストエイドは、事故や災害など、危機的な出来事に突如として見舞われた人々に対して、支援者が心理社会的な支援を提供して被災者が自然に回復できるように促進する効果を発揮することができる心理的応急処置のことです

サイコロジカルファーストエイドは、大型災害だけではなく、突発的な犯罪被害や予期せぬ事故などの被害者に対しても実施できる汎用性の高いスキル内容ですので、今後ますます啓蒙活動が活発になって幅広く社会的に普及されることが期待されます。

それでも人は災害などによりトラウマを被ることがあります。そうした時には臨床心理士などの専門家のカウンセリングを受けることが必要になります。当オフィスでもカウンセリングを行っていますので、希望者は以下の申し込みフォームからお申し込みください。

文献


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