宇多田ヒカルが受けたのは精神分析だったのか
「自分を愛するってどうしたらいいの?」──宇多田ヒカルの思考を辿るインタビュー、全文公開。
コーチェラ・フェスティバルへの出演、最新アルバム『BADモード』、母、息子、そして音楽と自分……。ジェーン・スーのインタビューで明かされる、自身による「宇多田ヒカル分析」。宇多田が表紙を飾った7月号掲載のロングインタビュー、その全文を公開!
引用:Vogue
宇多田ヒカルさんがイギリスで精神分析を受けていたことについてのインタビュー記事です。その精神分析についての設定やそこで体験したことが赤裸々に語られています。
さて、この記事の内容からだけですが、宇多田ヒカルさんが受けていたのが本当に精神分析だったのか、という点に絞って検討したいと思います。
1.精神分析とは
そもそも精神分析とは何を指すのかについて少し解説します。
精神分析は周知のとおりフロイトが創設した心理療法の一種で、無意識を探求ていく方法論や概念装置です。精神分析が創設されて100年以上が経過し、今は様々な精神分析の学派があります。しかし、精神分析であるかどうかの基準は以下に集約されます。
- 精神分析家が実施すること
- 1回45以上のセッションを週4回以上の頻度で実施すること
- カウチに横たわり、自由連想をすること
精神分析の学派は違ったとしても、この上記3点は共通することです。
精神分析についてのさらに詳細を知りたい方は以下をご覧ください。
2.宇多田ヒカルさんが受けたものとは何か
宇多田ヒカルさんが受けたものについては以下のように語られています。
私は精神分析医に背を向けて、窓の外を見ながら話すんです。通い始めの頃は仕事をしていない時期だったし、ちゃんとやりたかったので週5で1回20~30分。
(中略)
良きところで精神分析医が立ち上がって「じゃあ」みたいな感じで終わる。私が何か気づきに至った、そこ大事そう……ってところに差し掛かったらおしまい。産後は何ヶ月か休んで、今は週3で通っています。
上の項目でも書いた通り、精神分析は1回のセッションは45分以上と決められています。しかし、宇多田ヒカルさんが受けていたのは1回のセッションが20~30分ほどで、それも時間の決まりはないようで、セラピストの恣意的な判断で中断するようなもののようです。
これはおそらくラカン派セラピーの短時間セッションと言われるものです。
3.ラカン派セラピーと精神分析は別物である
ラカンはフランスの人で、元々は精神分析の訓練を受け、精神分析家になった人です。しかし、ラカンの技法は非常に独特でした。中でも短時間セッションを精神分析からの逸脱と言えるものでした。
ラカンの考えた概念は非常に複雑なので、ここでは解説しませんが、ラカン曰く、セッションを途中で中断させることが効果がある、ということでした。しかし、後年のさまざまな講演録やインタビューなどで、セッションを途中で中断させることは理論的な理由ではなく、現実的な理由があったことが分かってきました。
というのも、ラカンは良くも悪くも非常に高名で、たくさんの人がラカンのセラピーを受けたいという申し込みが多くありました。あまりにも多かったため、時間枠を作ることができなかったため、この短時間セッションを導入することにより、多数の患者・クライエントを面接し、さばいていくことをしようとしたのです。
そして、この短時間セッションを国際精神分析協会が問題視し、結果的にラカンのセラピーは精神分析とは呼べないとし、さらにラカンの精神分析家の資格も剥奪されました。
つまり、現在では短時間セッションを行っているラカン派のセラピーは精神分析と呼ばないのです。
4.それでもラカン派が無価値ということではない
その後、ラカン派の考え方は哲学や文学などに影響を与えるようになりましたし、それは回りまわって精神分析にも影響を多少与えています。また反対に精神分析の様々な発展がラカン派の考えに影響も与えています。精神分析とラカン派は別物ですが、それぞれに影響を与え合っているというのが実情です。
また宇多田ヒカルさんはラカン派のセラピーを通して様々な体験をし、それが創造性に結びついていることが分かります。
子ども時代が一番強烈だったんだろうなと思います。寂しさや辛さ、耐えられない気持ちや悲しみ、そういうものが濃くダイレクトにありましたね。そこから自分を守るために、環境に応じて成長しちゃうじゃないですか。適合するというか。そうやって身につけた行動パターンや思考パターンに、もう大丈夫だよ、もういらないんだよ、そのときは必要だったけれど、今はそれが人との関係を築いたり、自分が自分との良好な関係を保ったりするのに邪魔してるよね、っていうのを学んできた人生というか。特に精神分析を始めてからの9年で。今でも時々そういう気持ちを強烈に感じると、こんなに根底にあるんだとショックを受けたり、誰とこれを共有したらいいんだろうとか、共有できる人がいるのだろうかと思うときもあるけれど、それこそ自分に言い聞かせてきたことでもあるんだと思います。そうやって景色が豊かになっていく、自分が豊かになっていくと。
セラピーでの体験をこのように言葉として語られることは非常に貴重だと思います。宇多田ヒカルさんの感性や創造性を強く感じる言葉だと私には思えました。
こうしたことからもラカン派がたとえ精神分析ではなかったとしても、宇多田ヒカルさんには非常に重要なセラピー体験だったようです。
5.精神分析を受けるにはどうすれば良いか
日本で週4回以上の精神分析を受けたいときにはどうすれば良いでしょうか?
日本には国際精神分析協会の日本支部である日本精神分析協会があります。日本精神分析協会のホームページは以下のURLから行くことができます。
日本精神分析協会に問い合せても良いし、精神分析家の一覧があるので、直接目当ての精神分析家に連絡を取っても良いようです。また、料金は確かにそれなりにかかりますが、週4回以上の頻度だと、多少安くしてくれる精神分析家が多いと聞きます。
ちなみに、(株)心理オフィスKでは精神分析家がいないので、精神分析を行うことはできません。しかし、週1~3回の頻度のセッションで、精神分析的心理療法を行うことは可能です。精神分析的心理療法とは精神分析ほどの頻度には満たないが、精神分析の方法に準じて実施する心理療法です。
宇多田ヒカルさんがラカン派のセラピーで良い体験をしたのと同様に、この週1~3回の頻度の精神分析的心理療法でも、重要な体験を得ることは可能です。
もし(株)心理オフィスKで精神分析的心理療法を受けたいという方は以下のボタンからお申し込みください。