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逆境的小児期体験がトラウマを与える?そのメカニズムを解説

皆さんは、子ども時に体験したつらい記憶を思い出して、つらい気持ちになったことはありませんか?こどもの時に経験したつらい記憶は、時に大人になってからも日常生活に影響する場合があります。現代では、トラウマという言葉が知られるようになり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)という言葉も一般的になってきました。

今回は子どもの時のつらい体験(逆境的小児期体験)について説明したと思います。

1.逆境的小児期体験とは何か?

逆境的小児期体験とは、子どもの時(主に18歳未満)に経験した、トラウマになるようなつらい体験のことを指します。これによって、将来的に、発達領域に悪影響を及ぼし不適応のリスクを高め、心の問題が生じることもあります。

ちなみに、英語名で「ACEs(エースズ)」と略され、正式名称を「Adverse Childhood Experience」と言います。

フェリッティらの逆境的小児期体験の研究では、「虐待体験」や「家族の機能不全」が挙げられており、以下に逆境的小児期体験の例をまとめます。

  • 虐待体験
    • 心理的虐待:怒鳴られたり、罵られたりと心が傷ついた経験があること。
    • 身体的虐待:叩かれたり、突き飛ばされたりと身体が傷ついた経験があること。
    • ネグレクト:ご飯を食べされてもらえない、お風呂に入れないなど養育を十分に受けさせてもらえない経験があること。
    • 性的虐待:身体を触られる、性的行為を強要させられるといった性にかかわる経験があること。
  • 家族の機能不全
    • 依存症:アルコール依存や薬物依存を患っている家族がいること。
    • 精神疾患:気分障害や統合失調症など精神疾患を患っている家族がいること。
    • DV(家庭内暴力):殴られる、怒鳴られるといった家庭内暴力を受けている人が家族にいること。
    • 犯罪者:窃盗・殺人等罪を犯した人が家族にいること。また、収監された人がいること。

【参考文献】
Felitti, V. J., Anda, R. F., Nordenberg, D.,Williamson, D. F., Spits, A. M., Edwards, V., Koss, M. P., & Marks, J. S. (1998). Relationship of Childhood Abuse and Household Disfunction to many of the Leading Causes of Death in Adults. American Journal of Preventive Medicine, 4(4) (May),245-258.

2.逆境的小児期体験が人生に与える影響を解説!

逆境的小児期体験は、将来的に様々な影響が出てきます。主な影響について下記説明していきます。

(1)逆境的小児期体験によって影響を受けるネガティブな側面

a.心の健康への問題

子どもの時に経験したつらい経験は、心身ともに成長していったとしても時折思い出され、心理的な苦痛やトラウマを引き起こす可能性があります。これにより、PTSD(心的外傷後ストレス障害)・気分障害・不安障害といった精神症状が見らえる可能性が高くなります。

また、逆境的小児期体験により、自身が受け入れてもらった経験の少なさから自尊感情の低さが生じます。

b.身体の健康への問題

フェリッティらの研究によると、逆境的小児期体験が将来的に心理的なストレスにより、健康な生活習慣の乱れが生じる危険性について述べております。高度な肥満、喫煙、アルコール依存、薬物依存等の健康に関わる数値も健常な家庭で育った人に比べると高くなっており、身体の健康が損なわれる危険性があります

また不健康な生活習慣から、糖尿病・がん・心臓病等の病気を患う可能性も高くなってなりまる。

c.人間関係の問題

逆境的小児期体験は、人間関係においても過去のトラウマ体験を思い出してしまい、その不安や苦痛から安定した人間関係を保つことが難しくなる可能性があります

また、逆境的小児期体験を抱える人において、安定した家庭で育ったわけではないため、助けを求めることが出来る人がおらず、社会的に孤立する可能性もあります。

d.経済的問題

学生の時期において、逆境的小児期体験から、心理的ストレスや家庭の不安定さから、学習に集中することが出来ず、学校の成績不振や学習困難になる可能性があります。それにより、職業選択の場面でも安定的な職業を選ぶことが難しくなります。また、就職を出来たとしても、トラウマが原因で安定して仕事を続けることが出来ず、経済的な問題が生じる可能性があります。

(2)逆境的小児期体験が後に人を強くする理由とは?

以上に説明してきた通り、逆境的小児期体験はネガティブな側面が多く見られます。しかし、逆境的小児期体験と適切に向き合うことが出来るような人ですと、人とは違う力を得ることもあります。

a.高い忍耐力と問題を対処する力

逆境的小児期体験から、困難な状況に耐え、対処する力が養われることがあります。どうにかして、現状を打開したいという考えから、つらい状況に耐え、様々なことを模索し行動する経験が増え、忍耐力と問題に対処する力を獲得する可能性があります。

b.高い洞察力

逆境的な小児期の経験は、洞察力を向上させる可能性があります。これは他人を理解することと、自分自身を理解することの両方に影響を与えるでしょう。つらい経験を通じて、他人の立場や感情に深く共感する機会が多くなり、自分の行動や言動について考える機会も増えます。また、自分自身の心身の状態に真摯に向き合うことで、自己理解が深まるでしょう。

c.高い適応能力

子どもの頃から困難な状況に直面し、それに対処する必要がある経験が多かったため、その都度、自分の心身の状態に合わせて適応しなければなりませんでした。これらの過去の経験から、自然に自分の心身の状態に向き合い、どんな環境にも適応する力を身につける可能性があります

d.高い共感力

逆境的な小児期の経験は、高い共感力を養う可能性があります。子どもの頃からさまざまな感情に触れ、様々なつらい経験をすることで、他人の感情を感じ取る力が強まり、他人の気持ちを理解し、共感することが可能になると言えます

e.心的外傷後成長

逆境的小児期体験などのトラウマを受けたにも関わらず、それを糧にして、乗り越え、成長していくこともできます。それを心的外傷後成長(PTG)と言います。これについての詳細は以下のページをご覧ください。

3.逆境的小児期体験を克服するための方法とは?

逆境的小児期体験について、デメリットと適切に向き合うことで得られる力について説明してきましたが、逆境的小児期体験と適切に向き合うことは難しく、様々な問題が生じることが多いです。

逆境的小児期体験を克服するためにはどうすれば良いか説明します。

(1)子どもが逆境的小児期体験を乗り越えるための支援方法とは?

逆境的小児期体験は、適切な養育が受けられない、自尊感情の低下、対人関係の不安定さ、トラウマ反応等が見られます。そういった子どもを支援するためには大きく分けて本人への支援と、家族や環境への支援が必要です。

a.安全な環境の提供

生活の基盤を整えることは、子どもの成長に関してとても大切なことです。子どもにとって日々心理的なストレスと向き合い続けることはとてもつらい経験になり、将来的にトラウマ反応として様々な問題が生じます。まずは、子ども自身が安心して生活することが出来る環境を提供することが必要だと言えます。

b.心理的な安定の提供

逆境的小児期体験は、心に大きな負担をかけます。トラウマ反応が生じたり、自尊感情の低下や自己価値観の低下が見られ、心の病を患う可能性もあります。また、誰かに頼ることが出来ないという想いから自分の気持ちを他人に伝えることが苦手な側面もあります。子どもが抱えている心の痛みをあるがまま受け止め、自由に表現をすることが出来る体験を提供することも大切です。

c.家族支援

養育者である親自身が、逆境的小児期体験を抱える場合もあり、正しい子育てといった養育を経験しないで親になった可能性も考えられます。子どもにアプローチすることも大切ですが、親への心理的ケアや、ペアレントトレーニング等を行うことも必要な支援と言えます。

d.関係機関との連携

逆境的小児期体験を支援していくうえで当事者である子どもや家庭だけでなく、学校や医療機関など、関係機関と連携することも大切です。現在、家庭がどのようになっているのか把握し、緊急時には児童相談所や公的機関が危機介入をすることが出来るように、関係機関とは密に情報共有をすることも必要だと言えます。

(2)逆境的小児期体験を持つ成人が乗り越えるための方法とは?

a.自己理解をする

逆境的小児期体験から、人とは異なる思考や異なる対人コミュニケーションをとる可能性が高くなります。そのため、まずは自分の心理状態を把握し自身がどのような性格特性を持つのか理解し、自己受容していくことは逆境的小児期体験を乗り越えるために必要なプロセスです。

b.生活習慣を整える

逆境的小児期体験を乗り越える上で、生活習慣を見直すことは大切です。正しい生活習慣は必要であり、適度な運動、睡眠、バランスのとれた食事は自律神経やホルモンバランス等を整える作用があり、心身の健康を整える上でも必要です。

c.人とのつながりを作る

自分と同じような体験を持つ人とのつながりを作ることも逆境的小児期体験を乗り越える為に有益です。同じような経験を持つ人と話したり、関わったりすることで、気持ちを受けとめてもらえたり、お互いに共感・理解しあうことで心理的な支えになることが期待できます

自助グループというつらい経験を抱えた人たちが自身の問題解決を目的に集会を行うこともありますので、参加することもひとつの手と言えます。

d.専門家のサポートを受ける

逆境的小児期体験は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や気分障害など心の病気を患ったり、崩れた生活習慣から肥満や心臓病といった症状が見られる可能性が高くなりなります。重症化する前に、医療機関で心理治療やカウンセリング、生活指導等を受けることをおすすめします

(3)逆境的小児期体験を予防するための方法とは?

逆境的小児期体験を予防するためには、外部からの働きかけが必要となる場合が多くあります。

a.早期介入・早期解決

子どもが長い期間、困難な状況に身を置かれると、心身共に過度のストレスが掛かり、将来的に様々な問題が生じる危険性があります。子どもは怪我をしていないか、いつもおどおどしていないなど、出来る限り早く、子どもや家庭の異常に気づき対処していく必要があります

b.家庭へのサポート

安定した家庭環境は子どもの健全な発達にとって必要なことです。親の養育能力は適切なのか、親の心身状況はどうなのか、家は清潔なのかといった家庭の状況を把握し、サポートをしていくことも大切です。

必要に応じてペアレントトレーニングにより適切な養育能力の獲得や生活指導により、正しい生活習慣を獲得するためのアプローチを提供することも有益と言えます。

c.関係機関との連携

子ども、家庭には多くの関係機関が関わっています。学校など教育機関、かかりつけ医など医療機関、市役所職員といった公的職員等、こういった関係機関や専門家と密に連絡を取り合うことで、家庭の情報を共有することが出来、緊急事態になる前に介入することが出来ると言えます。

d.教育・啓発活動

逆境的小児期体験の知名度は高くはなく、知らない人の方が多いと言えます。逆境的小児期体験についての情報や予防方法・解決方法などを発信していくことで、逆境的小児期体験と適切に向き合い対処することが出来る人が増えることが期待できます

4.逆境的小児期体験に対するアプローチ

逆境的小児期体験により、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や精神疾患になる可能性は高くなり、また、困難な環境や、対人関係から認知の歪みが生じる可能性があります。

そういった時に、専門的な支援を受け治療をしていく必要が出てきます。

(1)逆境的小児期体験の治療方法とは?

a.カウンセリング

逆境的小児期体験により、周りの人間に頼ることが出来なかったり、自分の感情とうまく向き合うことが出来なったりします。カウンセリングを受け、自分の辛かった体験や、現在の心身の状態などを言葉にすることで、安心感に繋がったり、受け止めてもらえたという気持ちから自尊感情の向上が期待出来、また自分の気持ちに気づくことが出来ることで、逆境的小児期体験から立ち直る一助となる可能性があります。

b.家族療法

逆境的小児期体験は、子どもだけでなく、家族全体が影響しあい、問題を生じさせている可能性があります。問題が生じている本人だけを見るのではなく家族関係やコミュニケーション等、全体を判断し家族全体の構造などを良い形に整えてことも治療法としては適切と言えます。

家族療法については以下のページをご覧ください。

c.薬物治療

現在では、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や、精神疾患を患っている人には、抗うつ薬や抗不安薬、抗精神疾患薬が処方されることが多いです。そういった意味では、薬物治療も効果的ではありますが、逆境的小児期体験が無い人に比べると、薬物療法への反応性が悪いという報告もあります。

d.グループセラピー

同じように困難な経験をする人たちで集まり、自分の置かれている現状を話し、共有することで、お互いに気持ちを受け止めあうことが出来、自分の辛い気持ちを抱え込むことを予防することが出来ます。また、グループとなった人達との情緒的な交流から回復へと向かうことが期待できます

(2)逆境的小児期体験に対する認知行動療法のアプローチとは?

認知行動療法とは、謝った認知や誤った思考によって、不適切な行動を起こすという考えから、誤った認知に焦点を当ててアプローチすることで、不適切な行動の修正を行うことが出来るという治療方法です。

逆境的小児期体験を抱える人は、困難な対人関係と困難な経験から柔軟な考え方をすることが難しかったり、自己否定的な考えをしたりと認知の幅が狭かったり、歪んでいる可能性があります。そういう場合に、認知行動療法を受けることによって、問題を生じさせるような認知の分析を行い、修正していくことで困難な体験だったり、現状を受け止めることが出来るといえます。これにより、心身の健康を取り戻ることが出来る思考法や、行動を獲得できると言えます。

認知行動療法については以下のページに詳しく解説しています。

(3)逆境的小児期体験に対するマインドフルネスのアプローチとは?

マインドフルネスとは、瞑想などを行い、現在の心身の状態や起こっている経験に注意を向け、自己理解をする治療方法になります。

逆境的小児期体験を抱える人が、マインドフルネスを行い、自分自身と向き合うことで今現在おかれている心身の状況や経験に目を向けることで気持ちや過去を整理することが出来、困難な体験と向き合う一助となります。また、マインドフルネス自体が、ストレスの軽減効果がありますので、ひとつのストレス対処法として行うことは有益と言えます。

マインドフルネスについては以下のページをご覧ください。

5.まとめ

逆境的小児期体験は、子どもの時だけでなく、大人になってからも心身の問題が生じる可能性があります。当事者が逆境的小児期体験とどう向き合い、周りがどうサポートしていくということが大切です。過去につらい経験をし、現在も悩んでいるのでしたら、自分の健康な心身のためにも医療機関の受診や心理治療を受けることもひとつの手といえます。

また、逆境的小児期体験を整理し、乗り越えたいという方にはカウンセリングが役立つ場合が多いです。当オフィスでカウンセリングを受けてみたいという方は以下の申し込みフォームからご連絡ください。

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