メサイアコンプレックスとは?原因、特徴、恋愛、克服法について解説

「誰かの助けになりたい」。この気持ちに問題はなくても自分を犠牲にしてまで過剰に人に尽くす場合は、メサイアコンプレックスという心理が働いている可能性があります。
本記事ではメサイアコンプレックスの特徴や原因、対処について解説します。
目次
メサイアコンプレックスとは
メサイアコンプレックスとは、「自分には価値がない」「不幸な人間だ」といった劣等感を抱えている人が他者を救うことで自らの劣等感を補おうとする心理を指します。「メサイア」とは英語の「メシア(Messiah)」をヘブライ語読みしたもので、救世主やキリストという意味です。狭義には、個人があたかも「世界を救う救世主である」「人を救うのが使命である」といった誇大妄想を持つ心理を指し、救世主妄想やキリストコンプレックスとも呼ばれます。
人を助けるという動機や行為は一見好ましい態度ですが、メサイアコンプレックスの場合は自分が助かりたいという気持ちや自信の低さという劣等感が無意識に抑圧されており、人を救うことで自己満足を得ようとする背景があります。つまり、自分の劣等感を埋めるために人を救っている場合が多く、心の底から人のことを思いやっているとは言い難い状態でしょう。
このような背景心理があると、自己犠牲的な関わりや過剰に尽くしすぎてしまう関わりになってしまいます。救う側は良いことをしているつもりであっても、周囲にとってはありがた迷惑で困ってしまう場合が多いため、良いことをしているはずなのに人間関係がうまくいかないと感じる人もいるでしょう。メサイアコンプレックスを抱える人は、実は自分自身が生きづらさを感じているということになかなか気づけない特徴があります。
また、自分の劣等感に突き動かされた人助け行為になるので、相手が援助を断ったり自分の思い描く結果にならなかったりすると、機嫌を損ねて相手を責めてしまうといった対人トラブルも生じやすいです。
メサイアコンプレックスの原因
メサイアコンプレックスに陥りやすい原因として、自尊心の低さや他者より優れていたい欲求、アイデンティティの未確立などが挙げられます。
もともと人は価値ある存在ですが、たとえば幼少期にいじめや虐待に遭うなどで自尊心が傷ついてしまうと、「ありのままの自分で良いんだ」とはなかなか思えないでしょう。そこで、人に奉仕することで自分を認めてもらい価値があるのだと思いこむことがあり得ます。
また、自尊心が低く「自分はダメだ」と劣等感を感じる人の中には、「人を救える自分には価値がある」と救える立場に優位性を見出して自尊心を保つ人もいます。その他、青年期までにアイデンティティの確立ができないことで、人を救うことにアイデンティティを見出そうとしてしまうこともあります。自尊心の保ち方やアイデンティティの確立を他者に見出してしまうと、常に人を救い続けないと自分の価値を保てないため、非常に不安定な状態です。
そして、常に困っている人を探して「私が助けてあげないと」と救うことに躍起になって、自分自身を見失ってしまいます。自らと向き合えず、自分の弱さを認められないこともメサイアコンプレックスの原因と考えられます。
メサイアコンプレックスの特徴
恋愛関係や対人関係、仕事の選択などメサイアコンプレックスの人は自分のために人助けをする心理状態です。本人は自覚しづらく、相手によっては助けてくれる良い人に映るかもしれませんが、無自覚の関わりを続けることで人間関係や仕事において以下のような特徴が見られます。
(1)恋愛での関わりの特徴
- 「この人は私がいないとダメなんだから」と世話を焼きすぎる
- 相手が喜ぶだろうと思って頻繁にプレゼントをする
- パートナーから多少無理な要求をされても断れずに応えてしまう など
恋愛では、パートナーの救世主という価値を見出し、相手に尽くすことで自分が幸せ者であるという感覚を得ようと他者依存的な関わりが目立ちます。パートナーに尽くす自分に価値があると思い込んでしまうため、相手から良く思われようと良い人を演じすぎてしまったり、恩着せがましい態度になったりしやすいでしょう。
自分の好意を受け取ってくれる受け身なパートナーを選ぶこともあれば、世話焼きな特徴を利用されて共依存の関係に陥ってしまう場合もあります。
(2)対人での関わりの特徴
- 「ありがとう」など感謝の言動を催促する
- 良かれと思って先回りの行動をする
- 助言を求められていなくてもつい口をはさんでしまう など
対人関係では、相手の立場や気持ちを想像するよりも「人の助けになりたい!」という気持ちの強さが前面に出てしまうことで、過干渉な関わりが特徴的です。実際は人助けよりも自分が満たされることが目的になってしまうため、見返りを求めやすい特徴もあります。
また、常に人の困り感を探し出してはお節介な態度をとってしまうこともあります。非主張的でおとなしい人や何でも肯定してくれるイエスマンに近づいて、自分の劣等感を満たそうとする人もいます。
(3)仕事での関わりの特徴
- 思うように支援を受けてもらえないと不機嫌になる
- 「あなたのため」と言って支援を強要してしまう
- 支援することで自分が優位な立場にあると快感を得る
- 理不尽な職場環境でも身を犠牲にして貢献する など
仕事面では、介護、看護、教職、心理職など人を支援する職業に就いている人はメサイアコンプレックスを抱えている可能性があります。もちろんすべての人がメサイアコンプレックスを抱えている訳ではありませんが、対人援助職の人は自分本位な支援になっていないか常に我が身を振り返る視点が必要でしょう。
常に誰かの役に立ちたい思いが先行してしまうと、対人援助職を選んで相手を自分に依存させてしまうケースもあり得ますが、それでは相手の自立を妨げてしまいます。また、人助けで自分を満たす傾向があるため、ブラック企業でも心身を削って貢献してしまうこともあり得ます。対人関係でも言えますが、メサイアコンプレックスの人は自己犠牲的になってでも人助けの欲求に駆られてしまうため、自分で思う以上に疲弊しやすい特徴もあります。
メサイアコンプレックスを改善するための克服法や対処法
メサイアコンプレックスを克服するには、まずメサイアコンプレックスについて知ることが大切です。理解を深めたうえで、自分が人のために行う言動が誰のためになっているかを改めて考えてみましょう。
人助けをすれば誰でも気分の良さは感じるものですが、支援に酔ったり絶対に相手のために違いないと思い込んだりしている場合は、メサイアコンプレックスの可能性があります。自身について振り返る中で「自分も助けられたい」「自分には価値がないんだ…」と気付いたら、人助けの前に自分の心を大事にしてあげましょう。友人やカウンセラーに思いを聴いてもらうだけでも十分です。自分の気持ちを無視せず、受け止めることが改善の一歩になります。
また、身近にメサイアコンプレックスの人がいて実は困っている場合、まずは会う頻度や喋る回数を減らすなどその人と距離をとるようにしましょう。そして、不要なお節介であれば断り、意見ははっきり伝えてあげる対処が有効です。
「あなたのためを思って言っているのに」と押しつけられたり相手が拗ねたりすることもありますが、相手の機嫌を取るために支援を受け取る必要はありません。ありがた迷惑を受け取り続けると相手の行為もヒートアップしてしまいます。鵜呑みにせず聞き流す対処も大切です。
メサイアコンプレックスについてのよくある質問
メサイアコンプレックスとは、他者を無意識のうちに「救世主」として助けることで、自分の価値を確認しようとする心理的な状態を指します。自己肯定感が低く、自分に自信が持てない場合、このコンプレックスに陥りやすくなります。自分の存在価値を他者を助けることで見出そうとするため、他者の問題に過剰に介入したり、他者を常にサポートし続けることに執着する傾向があります。これは、他者を助けることが自分にとっての自己確認となり、自尊心を保つための手段となっているからです。メサイアコンプレックスは、特に自己肯定感が低く、過去に自己評価が傷つけられた経験を持つ人々に見られがちです。このような人々は他者の痛みや苦しみを自分のもののように感じ、無意識にその解決を試みることがあります。
メサイアコンプレックスが生じる主な原因は、自己肯定感の低さや他者より優れていたいという欲求、または過去のトラウマに起因する場合が多いです。幼少期にいじめを受けたり、家庭環境に問題があったりすると、自分自身の価値を認識することが難しくなることがあります。このような場合、自己評価を高めるために、他者を支援することに過度に依存してしまうことがあります。また、過去に親や大切な人からの無視や批判を受けた経験があると、自己価値を他者の評価で補おうとする傾向が強くなります。このようにして他者に尽力することで、少しでも自分の存在が必要とされていると感じ、自己肯定感を補完しようとします。さらに、社会的な環境や文化も影響を与えることがあります。例えば、無償の愛や他者を支援することが美徳とされる文化においては、メサイアコンプレックスがより顕著に現れることがあります。
メサイアコンプレックスを持つ人の特徴としては、過度に他者を助けようとする傾向が挙げられます。困っている人がいれば、自分がその問題を解決しなければならないという強い衝動に駆られ、無意識のうちに他者の問題に自分を巻き込んでしまいます。自己犠牲的な行動が目立ち、他者のニーズを最優先に考え、時には自分自身の感情や欲求を後回しにすることがあります。このような行動は、相手に対して過度に依存してしまうことがあり、適切な境界を持つことが難しくなることもあります。さらに、他者から感謝や承認を得ることで自己満足を感じ、そのような反応を求め続けることがあります。自己評価が低いため、他者の評価や反応が自分の存在価値を決定するものとして感じてしまいます。このため、他者の反応が悪いと自己価値を否定されたように感じ、深い自己嫌悪に陥ることもあります。
メサイアコンプレックスを持つ人は恋愛関係においても、過度に相手を支援しようとし、相手の問題を自分のもののように感じてしまいます。この場合、相手が困難を抱えていると、相手を救うことが自分の使命だと感じ、支えようとするあまり、自分の感情やニーズを犠牲にすることが多くなります。これにより、相手に依存的な態度を取られたり、過剰に干渉してしまうことがあります。結果として、相手は感謝しているものの、関係が不均衡になり、双方にストレスがたまることが多いです。メサイアコンプレックスを持つ人は、恋愛関係において自己肯定感を他者の反応に依存しているため、恋愛の中で相手から十分な感謝や承認を得られない場合、深い不安や孤独を感じることもあります。このような依存的な態度が続くと、恋愛関係が不健康なものとなり、最終的には関係が破綻するリスクが高くなります。
メサイアコンプレックスを克服するためには、まず自己肯定感を高めることが非常に重要です。自己肯定感が低い場合、他者を助けることが自分の価値を確認する手段になりがちですが、自分自身の存在が他者の反応に左右されることなく、自己評価を自分で行えるようになることが鍵です。具体的には、自分を他者と比較するのではなく、自分の強みや成功体験を意識し、自分の存在を認めることが必要です。また、他者の問題に過度に介入することなく、適切な距離感を持つことが重要です。無理に他者を助けようとすることは、自分の感情を無視し、疲れやストレスを引き起こす原因となります。カウンセリングを通じて、他者との関係性を見直すことも有効です。専門家との対話により、自分の価値を他者の評価に依存しない形で見出すことができるようになります。
メサイアコンプレックスは、他者を支援する職業に多く見られる傾向があります。例えば、看護師、教師、カウンセラー、福祉職、心理学者などがその代表的な職業です。これらの職業では、他者を支援することが自己の価値を確認する手段として働くことがあるため、メサイアコンプレックスに陥りやすいことがあります。特に、他者の痛みや問題に対して共感を示し、問題解決を試みることが求められるため、支援する立場にある人は自己犠牲的な行動をとることが多いです。しかし、過度に自己犠牲的になると、自分の感情を抑え込んでしまい、バーンアウト(燃え尽き症候群)を引き起こすこともあります。そのため、自己認識を高め、適切な距離を保つことが大切です。
自己犠牲とメサイアコンプレックスには似た側面がありますが、重要な違いがあります。自己犠牲は、他者のために自分を犠牲にする行動を意味しますが、その動機は無償の愛や善意から来ることが多いです。例えば、親が子どもを育てる際に、無償で尽力することが典型的な自己犠牲です。一方、メサイアコンプレックスは、他者を助けることで自分の価値や存在意義を確認しようとする心理状態であり、その動機が自己肯定感の欠如に関連していることが特徴です。メサイアコンプレックスの場合、他者を助けることが自己評価の手段となり、他者の評価が自分の自己価値を決める重要な要素となります。自己犠牲はあくまで他者のためであり、メサイアコンプレックスは自己のために行動しているという点で異なります。
メサイアコンプレックス自体は精神的な障害とはみなされませんが、その背景にある心理的な問題が精神的な障害を引き起こす可能性はあります。特に、自己肯定感の低さや過去のトラウマが原因で、メサイアコンプレックスが発生することがあります。このような状態が続くと、うつ病や不安障害などの精神的な問題を引き起こすことがあります。
メサイアコンプレックスを持つ人との関係では、相手が過度に自己犠牲的な行動を取ることがあるため、その行動を過信しすぎないよう注意が必要です。相手が他者を助けることで自分を評価するため、時には自己犠牲が過剰になることがあります。そのため、相手が自分の感情やニーズを無視していないか、適切な距離感を保っているかを確認することが大切です。また、相手に感謝や承認を求めすぎてしまうことがあるため、その期待を適切に理解し、支え合いの関係を築くことが求められます。
メサイアコンプレックスが日常生活や人間関係に悪影響を及ぼす場合、治療や支援を受けることが非常に有益です。特に、自己肯定感の低さや過剰な自己犠牲が精神的な問題を引き起こしている場合、専門家によるカウンセリングやセラピーを通じて、自己評価を他者の反応に依存しない形で行えるよう支援することができます。また、問題に過剰に介入することなく、適切な距離感を保つ方法を学ぶことが重要です。
メサイアコンプレックスのカウンセリングを受けたい
コンプレックスと聞くと悪いイメージを持つ人が多いかもしれませんが、人は誰でも劣等感や弱さも抱えているため決して悪いことではありません。他者を巻き込んでメサイアコンプレックスを埋めようとすると、かえってトラブルの元になってしまいます。「良かれと思って」人助けをするときは、今一度自分の気持ちに耳を傾けてみましょう。
(株)心理オフィスKではこのメサイアコンプレックスについてのカウンセリングを行っています。メサイアコンプレックスについて困っている方は是非ご連絡を頂けたらと思います。