社会生活を送るうえでは、悲しいことや不快な体験を完全に避けて通ることはできません。そういった時に、人並みに悲しくなって気分が落ち込む、あるいはやる気が起こらなくなる状態になることは誰にでも経験されることですが、その症状の程度が仕事や日常生活に支障をきたすほど強くひどい様式で現れるのが「うつ病」の特徴と言えます。
今回は「うつ病」について説明していきます。
目次
1.うつ病の概要
(1)うつ病とは
うつ病とは、気分の低下や興味や喜びの減少などが2週間以上続く状態のことです。日常生活に支障をきたしたり、社会生活に影響を与えることがあります。原因は脳内物質のバランスやストレスなどが関与しています。治療法としては、薬物療法や認知行動療法などがあります。早期発見、早期治療が大切です。
うつ病になると、日常生活に強い影響が出るレベルで気分の落ち込みが続く、あるいは何事にも意欲や喜びを持つことができなくなってしまいます。
うつ病は遺伝性やストレス、薬の副作用、ホルモン分泌異常症など様々な要因が契機となり発病し、本邦の発症率は100人中およそ5人とされています。
うつ病は目に見える症状が少ないため気づきにくい病気であり、うつ病を患っている本人自身が自覚していないことも多いと認識されています。
ちなみに、抑うつと躁状態(気分の高揚など)が交互に繰り返されるものを双極性障害と呼びます。加えて、躁状態とうつ状態を繰り返す双極性1型と、軽躁状態とうつ状態を繰り返す双極性2型に分類します。これら全てを総じて気分障害といいます。
(2)よくある相談の例(モデルケース)
40歳代の男性
幼少期は特に問題は無く、家庭環境も穏やかで落ち着いていました。小中高校は特に問題もなく、社交的で、友達も多かったようです。また、非常に真面目で、勉強などは長時間にわたって集中して取り組んでいました。大学にはそれなりに良いところに入学し、勉強もしていましたが、サークル活動にも熱心に参加していました。しかし、この頃より、時折理由なく落ち込んだり、活力が低下したりすることも見られましたが、しばらく休むと元に戻るので、特に医療機関などを受診することもありませんでした。これはその後も1~2年に1回程度の頻度で見られました。
大学卒業後はメーカーに就職しました。仕事ぶりは熱心で、夜遅くまで残業して、業務をこなしていました。責任感も強く、任された仕事は最後まであきらめることなく取り組んでいました。結婚してからもますます仕事に頑張っており、その甲斐があり、昇任は同期よりも早かったようです。
40歳を超えてから管理職になりました。同時に社内でも難しいといわれる業務を担当することになりましたが、それがなかなか思うように進まなかったようです。そして、責任感が強かったため、長時間残業を繰り返して、仕事を取り組んでいました。次第に疲労がたまっていったのか、食欲が低下し、夜も眠れなくなりました。意欲が低下し、出社することが億劫になっていきました。徐々に悪いことばかりを考えるようになり、ついには自殺を考えるまでになってしまいました。それを心配した妻が医療機関に行くように勧め、受診に至りました。
診察ではSDS(自己評価式抑うつ性尺度)を実施し、重度のレベルでした。またDSM-5の診断基準に照らし合わせ、うつ病と診断されました。そして、抗うつ薬を開始すると同時に、休職することになりました。休職後、数ヶ月が経過した頃にはやや体調も回復してきました。それを機会に医療機関のデイケアに通所すると同時に、認知行動療法を主体としたカウンセリングを受けるようになりました。そこで自身の物の考え方や捉え方を変えていき、また活動性を上げていくような方針でカウンセリングをすすめていきました。半年ぐらいになるとかなり回復したため、復職をすることになりました。ただ、万全ではないため、定期的な抗うつ薬の服薬とカウンセリングはそのまま継続しています。
(3)うつ病の原因
うつ病の原因には真面目で几帳面といった性格、対人関係や過重労働といったストレス、セロトニンやドパミンといった神経伝達物質などが関連しています。そのため、うつ病は誰でもかかってしまう可能性があります。
モデルケースでは真面目で几帳面といった性格がありましたし、過重労働・困難な業務といったストレスがありました。こうしたことがモデルケースのうつ病の原因になったと推測できます。
うつ病の原因についての詳細は以下をご覧ください。
(4)うつ病の症状や特徴
うつ病になると、気分の落ち込みなど精神症状、不眠や食欲低下などの身体症状、悲観的に考えてしまうなどの認知症状が出現します。また、希死念慮などが出現し、自殺に至ってしまうケースもあります。
モデルケースでは精神症状、身体症状、認知症状の全てが出現していましたし、自殺のことを考えるようなところもありました。
うつ病の症状や特徴については以下のページに詳しく書いています。
(5)うつ病の診断
うつ病の診断にはDSM-5という診断基準を用います。いくつかの項目があり、その条件を満たすとうつ病と診断されます。またその診断の補助として心理検査を用いることもあります。その心理検査にはSDSやBDI-2、CES-Dなどがあり、いずれも5~10分程度の短い時間で実施できるため、簡便に使用することができます。
モデルケースでもSDSを実施し、診断基準に照らし合わせてうつ病と診断されました。
うつ病の診断については下記のページをご覧ください。
(6)うつ病に関連する疾患・障害
うつ病は抑うつ症状を主とする精神障害です。そして、うつ病に近い精神障害、もしくは関係している精神障害があります。適応障害、双極性障害、産後うつ、非定型うつ、冬季うつなどです。
モデルケースでは、過重労働なども関連しているので適応障害という側面があったり、思春期から気分の波が続いていたことから双極性障害の疑いもあるかもしれません。
それぞれの精神障害の詳細は以下のページをご覧ください。
2.うつ病の治療と治し方
うつ病の治療には大きく分けて薬物療法とカウンセリングがあります。さらに、うつ病の再発リスクは高いので、その対処法についても解説します。
(1)うつ病の薬物療法
うつ病治療の主体となるのは薬物療法であり、主に頻繁に用いられるのは脳内のセロトニン濃度を高めることができる作用を持つ選択的セロトニン再取り込み阻害薬です。それ以外にも、セロトニンやノルアドレナリン再取り込み阻害剤や三環系抗うつ薬などが使用されることがあります。
薬剤効果には個人差があり、必ずしも処方された抗うつ薬が有効であるとは限りませんし、抗うつ薬は通常では効果が発現するまでに4~8週間という時間がかかることも認識しておく必要があります。
単純な抗うつ薬に反応しない場合には、より主流的に抗精神病薬が使われることもありますし、うつ病によって引き起こされる周辺症状を軽減させるために同時に睡眠薬や抗不安薬などが処方されることもあります。
うつ病に対する薬物的な治療薬は即効性を有するわけではなく、約2週間~1ヶ月程度で効果が感じられる傾向があり、急性期の期間では十分な休息と薬物治療などを実践することで、約1~3ヶ月ほどで症状が改善すると言われています。
個々のケースによって症状が軽快するまで半年ほど期間を要する場合もあり、うつ病は再発しやすく、一見完全に回復したように捉えられても、1~2年は薬物療法を続けて順調で安定した状態を維持させていく必要があります。
うつ病に関する治療期間中はゆっくり療養しながら、主治医の意見や指示に基づいて抗うつ薬などの薬剤を定められた用法用量を遵守して、およそ半年以上かけて確実に服用することが重要な観点であると言われています。
モデルケースでも抗うつ薬を服用し、数ヶ月程度改善しています。
(2)うつ病のカウンセリングや認知行動療法
日々の活動低下、悲壮感、快感消失と悲嘆によって特徴付けられる気分障害であるうつ病に対して、これまでに頻繁に用いられている抗うつ薬や抗精神病薬は必ずしもすべてのうつ病を抱えている患者例で有効的に働くとは断定できません。
そうした薬物治療抵抗性のケースでは、医師や臨床心理士などの専門医療職の人々と実際に対面して会話をしていくなかで症状の改善を目指すカウンセリングを含めた精神療法と呼ばれる治療法が実践されます。
また、絶望感や自己否定感など理想的な状況にふさわしくない感情が強く芽生えているときには、その考えと現実との歪みを修正する効果を発揮する認知行動療法が望ましいとされています。
その認知行動療法の詳細については以下のページをご覧ください。
そして、職場復帰や十分な社会生活を送るレベルまであと一歩という患者さんに対しては、精神的デイケアなどに通所しながら、徐々に通勤や仕事業務に慣れていくことを目指すリハビリテーション治療も有意義な治療策のひとつとして捉えられています。
さらに、これまでの人生における罪悪感や罪業感といったものがうつ病や気分障害に大きく関わってくることもあります。それは自分の生き方や今後の人生を再検討し、棚卸し、自分らしく生きるための原動力であるともいえます。そうしたことが関わっているうつ病や気分障害の場合には、薬物療法、休養、認知を変えるだけでは不十分な時もあります。
モデルケースでもこの認知行動療法を受けています。認知行動療法では考え方を変えていくと同時に、行動も変えていきます。それによって抑うつ症状は軽減します。
(3)うつ病の再発予防
うつ病は非常にありふれた精神疾患であると同時に、再発や寛解を繰り返すことが知られており、およそ3人に1人は治療抵抗性で慢性に症状固定されると言われています。
うつ病はストレス誘因にして発症することが多いために過度なストレスがかからない居住環境において心の休養を十分にさせることが重要です。
特に、うつ病の治療を開始して約1~2年の期間を「再発予防期」と呼び、この期間では無事に社会復帰しているケースも増えますが、決して油断できる時期ではありません。
普段はある程度安定して精神状態を保って自らきちんと自立生活を送っていた人がしばしば自傷行為や自発的感情の顕著な低下を来すことも経験されます。
うつ病は様々なストレスが誘因になることが多いので、本人が受けるストレスが過度にならないように、症状軽快後も無理な仕事や業務は引き受けずに、信頼できる相談相手を常に持っておくなど保健衛生上の配慮を有しておくことが重要なポイントとなります。
モデルケースでもある程度回復し、復職した後も、再発しないように、再発を繰り返さないように、それ以降も服薬とカウンセリングを継続しています。
3.うつ病のカウンセリングを受ける
うつ病は、日常的に過ごす社会生活に想像以上に強い影響が出る程気分の落胆が続いたり、何事に対しても喜びや嬉しさを持ったりすることが困難になる疾患を指しています。
うつ病はストレスを誘因にして発症することが多いために、基本的には過度なストレスがかからない居住環境において心の休養を十分に確保することが重要です。
自分や大切な家族がうつ病の症状に苦しんでいる場合には、カウンセリングの活用など心理専門職が、うつ病患者さんに対する関わり方を助言する、あるいは患者さん本人の悩みに耳を傾けて充実したサポートを提供することができることも認識しておきましょう。
また、当オフィスでもうつ病に対するカウンセリングを行っていますので、希望される方はご連絡ください。
4.うつ病についてのトピック
文献
この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。