学習障害(LD)とは聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するといった能力の一部が非常に低く、学習や仕事に著しい困難を示してしまう障害です。学習障害は先天的な障害ですが、治療やカウンセリングによって相当程度、成長していくことができます。
ここではそうした学習障害のことについて解説しています。
目次
1.学習障害とは
学習障害(LD)とは、学校での学習に支障をきたす障害の総称です。読み書きや計算、言語理解などの学習に困難があります。一方で、知能には問題がないため、一般知能指数と学力の差が大きく開くことが特徴です。症状の程度には個人差があり、適切な支援や療育が必要です。治療には、学習方法や環境の調整、個別指導が有効です。早期の発見と適切な支援が重要です。
学習障害の中には文章を読むことに困難がある読字障害(ディスレクシア)、書くことに困難がある書字表出障害(ディスグラフィア)、数字や計算に困難がある算数障害(ディスカリキュリア)の3つの種類があります。また、文部科学省の定義では「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」の6つの内、いずれかにおいて習得や使用に著しい困難を示す状態を学習障害としています。
学習障害の原因は現在は不明ですが、脳の先天的な機能の障害、中枢神経系の問題ではないかといわれています。また、研究途上ではありますが、妊娠期の母体の感染症や薬物の接種、低出生体重、出生後の髄膜炎や低栄養状態なども関連しているのではないかと言われています。
ただ、視覚障害や聴覚障害、情緒障害は原因ではありません。また、育児環境や育児方法、しつけ、両親の不和、離婚などの環境の問題によって学習障害になってしまうことはありません。
ちなみに学習障害は発達障害の中の1つです。発達障害の中の学習障害の位置付けは図の通りです。
図1 発達障害の中の4つの種類
上位カテゴリーの発達障害については以下のページをご参照ください。
2.学習障害の特徴
学習障害が困難となる能力は以下に挙げたとおりです。
- 聞く(人の話を聞いて物事を理解するが困難)
- 話す(人に分かるように話をすることが困難)
- 読む(文章を読んで理解することが困難)
- 書く(文字や文章を書くことが困難)
- 計算する(足し算や引き算などの算数が困難)
- 推論する(先を想像したり、予測したりすることが困難)
上記の6つの能力のうちの1〜2の能力に困難が生じるのが学習障害です。そして、その結果として、児童であればある特定の教科や、もしくは勉学そのものに支障をきたしてしまいます。
学習障害のある人は、基本的な能力や理解力はあるので、ある分野が著しく出来ないと、周囲からは怠けている、ふざけている、手を抜いている、やる気がない、というような無理解につながってしまいます。
そして、本人自身もそのように受け取ってしまい、その結果として、自責感を募らせたり、自罰的になったり、どうせできないからと諦めが早くなったり、暴力的になったり、時には学校そのものが嫌になり、不登校や非行になってしまったりする場合もあります。これがいわゆる二次障害といわれるものです。
また、時として、学習障害の子どもは注意欠陥多動障害(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)に近いような不注意や衝動性、こだわり、非社会性を示すこともあります。
3.学習障害の種類
学習障害には読字障害(ディスレクシア)、書字表出障害(ディスグラフィア)、算数障害(ディスカリキュリア)の3つの種類があります。それぞれについて以下に解説します。
(1)読字障害(ディスレクシア)
学習障害の中でも一番多いタイプがこの読字障害です。読字障害は文字や文章の認識が困難で、読むことが非常に苦手になってきます。情報処理の中でも入力の面での障害があると考えられています。
読字障害の特徴や例は以下のようになります。
- 「わ」と「ね」、「る」と「ろ」など似ている文字を間違える。
- 文章を読んでいると1~2行とばしてしまう。
- 途中の文字をとばしてしまう。
- 文節を過度に区切って読んでしまう。
- 促音、擬音、拗音などで間違ってしまう。
- 指で押さえないと文章が読めない。
- 文末を正しく誤ってしまう。
- 文章を読むと極度に疲れてしまう。
- たどり読み、逐次読みになってしまう。
(2)書字表出障害(ディスグラフィア)
書字表出障害では文字や文章を理解出来たり、把握したりできるにも関わらず、書くことが特にできないという特徴を持っています。情報処理の中でも出力の面での障害があると考えられています。
書字表出障害の特徴は以下のようになります。
- 誤字脱字が多い。
- 書き順を間違える。
- 左右が反転している鏡文字を書いてしまう。
- 字の大きさが不揃いになってしまう。
- 書き写しが間違う。
- 書き写しに時間がかかる。
- 句読点の間違えがある。
- 定規を当てて文字を書く。
- 筆圧が過度に強かったり弱かったりする。
(3)算数障害(ディスカリキュリア)
算数障害では数の概念の理解や数字の認識、計算、推論などが困難になってしまう特徴があります。この算数障害は情報処理の中でも主にワーキングメモリーの弱さや推論の弱さに起因しています。
また、保育園や幼稚園までは算数という教科がありませんが、小学校にあがると皆、算数の授業を受けるようになります。その時に初めて算数ができないことをきっかけにして算数障害が発見されることが多いようです。
算数障害の特徴は以下のようになります。
- 単純な計算を間違う。
- 足し算と引き算を間違う。
- 掛け算と割り算を間違う。
- 計算の桁が増えると理解できない。
- 計算の繰り上げや繰り下げが分からない。
- 文章題を数式に置き換えることができない。
- グラフや表を理解できない。
- 時計を見ることができない。
- 論理的に結論を導くことが苦手。
4.学習障害の診断
学習障害は早期発見ができると良いでしょう。学習が出来ないことによって自尊心は後になればなるほど傷付いていきます。ですので、正確な判別をし、本人や保護者、学校関係者に理解してもらうだけでも非常に落ち着きます。そのためにも、心理検査・知能検査・発達検査を行うことがあります。
児童であればWISC-4(ウェクスラー児童用知能検査)が、成人であればWAIS-4(ウェクスラー成人知能検査)が学習障害の診断には有用です。読字障害では「言語理解」の領域で数値が低くなる傾向があります。書字表出障害では「処理速度」の領域で数値が低くなります。この処理速度は数字や記号を見て、書く能力が必要となるので、書字表出障害ではその苦手さが顕著にあらわれます。また、算数障害であれば、計算などを行う「ワーキングメモリー」の領域で数値が低くなるでしょう。
ITPA 言語学習能力診断検査は回路(聴覚-音声・視覚-運動)、過程(受容・連合・表出)、水準(表象・自動)の3つの領域において言語学習を程度を把握します。この検査では主に、個人内差、つまり能力の凸凹を把握するのに優れています。学習障害の場合にはもちろん、それぞれの領域でのバラツキがみられることが多いようです。
その他に以下のようなスクリーニングテストがあります。
- PRS(LD児・ADHD児診断のためのスクリーニング・テスト)
- LDI-R(LD判断のための調査票)
- STRAW-R(改訂版 標準読み書きスクリーニング検査)
また、除外診断として、他の疾患や障害ではないということも確認が必要です。自閉スペクトラム症の興味の限局化、注意欠陥多動性障害による不注意による学習の困難、全般的な知能の遅れである知的障害などではないことを確認しなければなりません。また身体疾患や高次脳機能障害かどうかを確認するために、MRIやCTなどで脳画像診断をすることもあります。
このような検査・方法はありますが、検査だけで学習障害であるかどうかを決めつけることはできません。検査の数値は参考にしながら、その児童やその人の生育歴や問題歴、困難な状況を把握し、総合的に診断する必要があります。
特に生育歴を詳細に聞き取り、発達のあらゆる状況・局面においても、同様の困難さが表れていたかどうかを確認することは診断をする上で非常に重要となります。
5.学習障害の治療
学習障害の医学的な治療については確立されたものはありません。ただ、学習障害以外に注意欠陥多動性障害などを併発しており、不注意や行動抑制ができない場合などにはコンサータ、ストラテラ、インチュニブなどの薬物療法が有効な場合もあります。
または、学習障害の二次障害としてうつ病や不安障害といった精神疾患にかかっている場合には、抗うつ薬や抗不安薬などの投薬が必要な場合があります。
医学的な治療ではなく、療育や訓練として児童発達支援事業所に通所することもできます。そこでは学習の補助をしたり、発達促進的な関わりを通して、学習障害なりに成長していくことができるでしょう。
6.当オフィスで行う学習障害のカウンセリング
学習障害のカウンセリングでは当事者だけではなく、その家族、周囲の人、職場の方などの関係者への働きかけが大事になります。そのため、当オフィスでは家族を含む周囲の人には学習障害について理解をうながし、不必要なプレッシャーや難易度の高い課題をむやみに出さないような配慮など関わり方の助言もしていきます。
また、その子・その人の特徴と水準に合わせた課題を個別に組み合わせ、ややスローペースで着実に積み重ねていけるような学習機会が提供されていることも大切です。補足ですが、苦手分野のみを向上させていくだけではなく、その子・その人の得意分野を伸ばしていくことも同時にしていけると良いでしょう。そうすることが自尊心や自信、プライドを取り戻し、前向きな気持ちになっていくことが期待できます。
意外とこの点については分かっていてもできない部分です。どうしても叱ってしまったり、焦らせてしまったりしてしまいます。ですので、当オフィスでのカウンセリングは家族や周囲の人に対して、気持ちにゆとりを取り戻してもらい、得意分野を一緒に見つけ、どうしたら伸ばしていけるのかについて助言していきます。
さらには、学習障害によって過剰なストレスや葛藤をこうむっているケースも少なくはありません。それによって、うつ病や不安障害などの二次障害を発症してしまっている場合もあります。その障害の治療も必要ですが、それ以上に、過度なストレスから解放し、葛藤を解決していくカウンセリングが必要になります。そのため、児童ではプレイセラピーが、成人であれば言語を用いたカウンセリングなどでそうした気持ちや考えを整理していく機会があれば非常に良いでしょう。
当オフィスでは残念ながら児童のプレイセラピーを行うことはできませんが、成人の学習障害の方であれば、こうしたカウンセリングを行い、必要に応じて助言させてもらうことができます。
7.学習障害についての相談をするには
学習障害についての概要、原因、特徴、種類、診断、治療、カウンセリングについて解説しました。学習障害は先天的な障害ではありますが、対応方法によってはそれなりに回復していきます。その中で相談やカウンセリングを適切に受けることは今後の成長に大きく影響します。
学習障害について本人やその家族の方が当オフィスで相談したい時には以下の申し込みフォームからお問い合せください。
また相談やカウンセリングの前に心理検査・知能検査を受けて、特性を把握したいという人は以下の心理検査の申し込みフォームからお問い合せください。