大人の発達障害とは
発達障害は先天的な脳の機能障害ですが、成人後に診断される「大人の発達障害」も近年注目されています。今回は、大人の発達障害と子どもの発達障害の違い、診断、治療、接し方などについて解説します。
目次
大人の発達障害とは
大人の発達障害とは、成人後に診断される発達障害を指し、個人の特性の偏りから人間関係や社会生活で生きづらさを感じやすい障害です。
人は誰でも発達能力に凹凸が見られますが、発達障害の場合は思考や行動、興味関心など個人内能力の凹凸が大きく、極端な得意不得意や相手の気持ちを想像できないといった特徴が現れます。大人の発達障害の特徴は、幼少期や小・中学生の頃には特性の現れ方が軽度であったり、親や友人、教師たちからサポートを受けたりすることで見過ごされる可能性が高いことです。
また、特性の偏りが見られても「ちょっと変わっている人」、「空気が読めない人」というレッテルを貼られるものの問題視されないケースもあります。
しかし、社会人になると複雑な対人関係や業務量が増え、コミュニケーション能力や作業効率などが求められることで、元々持っていた個人の特性が目立つようになります。「もしかして発達障害かもしれない」と社会生活で生きづらさを感じやすくなると考えられます。
発達障害についての詳細は以下をご覧ください。
子どもの発達障害との違い
発達障害には、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)等があり、それぞれ大人にも子どもにも見られる障害ですが、困難に感じることに違いがあります。
大人の発達障害の場合、障害特性や合併症によって仕事が長続きしなかったり、計画的な家事ができなかったりするなど、自立した日常生活を送ることに困難さが生じやすいです。
(1)自閉スペクトラム症の場合
自閉スペクトラム症では、社会に出てから人とのコミュニケーションがとれない、職場などの環境変化に馴染めないといった困難さが見られます。
子どもの頃の学校生活では周りの人やルールに助けられて困り感が少なかった人でも、大人になってから社会的スキルを求められることで、環境への適応困難を感じる人は少なくありません。
自閉スペクトラム症の詳細は以下をご覧ください。
(2)注意欠陥多動性障害の場合
注意欠陥多動性障害では、子どもの場合は多動性・衝動性優位型が目立ちますが年齢と共に落ち着き、大人の場合は不注意優位型が目立ちます。
好きなことへの没頭として、アルコールやギャンブル依存に陥ることもあります。
注意欠陥多動性障害の詳細は以下をご覧ください。
(3)学習障害の場合
学習障害の場合は学校生活において発見されることが多いですが、大人の場合では読み飛ばしや聞き間違いの多さから会話に困ったり、仕事で用いるグラフ等を読み取れなかったりすることで社会生活に影響があります。
学習障害の詳細は以下をご覧ください。
大人の発達障害の診断
大人の発達障害は大人になってから発症するものではなく、先天的な脳の機能障害が原因と考えられているため、診断には幼少期の生育歴の聴取が不可欠です。
現在みられる社会性の問題等が子どもの頃から続いている特徴であるかを判断していきますが、大人の診断では幼少期の情報が曖昧であったり、本人の主観が強まり誘導的な解釈をしてしまったり、うつ病や不安障害といった二次障害が生じて複雑化している等の問題があるため見極めの難しさがあります。
知能検査のWAIS-Ⅳの結果は大変参考になりますし、診断のためには欠かせないものです。しかし、知能検査のWAIS-Ⅳだけでは診断することができないため、診断の際は詳細な生育歴を話せるように子どもの頃の様子の分かる資料を用意してみましょう。
WAIS-Ⅳの詳細については以下のページが参考になります。
大人の発達障害の治療
発達障害は先天的な障害であるため根本的な治療ができない特徴があります。しかし、人間関係を今より良好な関係にし、仕事や家事をスムーズに行えるようにして生きやすくすることは可能です。
大人の発達障害とうまく付き合っていくために、カウンセリングや精神科デイケアを利用して気持ちの整理やコーピングの習得ができます。
また、ソーシャルスキルトレーニングで社会生活に適応的な行動を学習する方法や、気分の落ち込み等の二次障害を緩和するために薬物療法の選択肢もあります。
「治す」ことに捉われず、自身の特性を知り、過ごしやすい環境を整えることが大切と言えるでしょう。
また、発達障害の中でも注意欠陥多動性障害にはコンサータ、ストラテラ、インチュニブ、ビバンセなどの治療薬があります。薬物療法で完治するという訳ではありませんが、特性を抑えて過ごしやすくするための方法なので、医師と相談してみてください。
大人の発達障害への接し方
発達障害は、特性上周囲から「怠けている」、「ふざけている」と誤解を受けやすい障害です。幼少期は問題なく過ごしてこられた大人の発達障害では、さらに周囲から誤解されやすいと言えます。
現在では障害者雇用を積極的に採用する企業も増えており、大人の発達障害と接する機会も増えています。大人の発達障害と接するためには、障害があることやどんな特性が見られるかをまず理解しましょう。
そして、たとえば複数の指示でパニックを起こしやすい人には1つずつ指示をする等、本人が能力を発揮できるように環境を整えるサポートが効果的です。
大人の発達障害に限った接し方ではありませんが、何か困っているときは分かりやすい言葉で声をかけてあげましょう。特別なことをしてあげるのではなく、相手の苦手を知り、丁寧に関わる姿勢が支援の基本になります。
大人の発達障害についてのよくある質問
大人の発達障害は、発達期において特に顕著に表れることなく、成長する過程で社会生活において明確に現れ始める障害です。これには、集中力や計画性、時間管理の困難さ、対人関係での摩擦、突発的な感情の表出などが含まれます。発達障害は主に自閉症スペクトラム、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などがあり、これらは一般的には幼少期に診断されますが、大人になってからその特性が顕在化することもあります。大人になった後に発見されることも多く、そのため適切なサポートを受けることが重要です。適切な支援を受けることにより、発達障害を持つ大人でも社会や職場で十分に活躍することが可能となります。
大人の発達障害には多様な症状があり、特に仕事や日常生活において困難を引き起こすことが多いです。典型的な症状には、集中力の欠如、計画性がないこと、時間やタスクの管理が難しいこと、衝動的な行動、過度なストレスを感じやすいこと、人とのコミュニケーションにおいて誤解を生みやすいことが挙げられます。これらの症状は、社会生活においてストレスや摩擦を生む原因となり、特に職場でのパフォーマンスや人間関係に影響を与える可能性があります。また、感覚過敏や感覚鈍麻も一部の人々には見られ、日常生活での刺激に過剰に反応したり、逆に刺激に鈍感になったりすることもあります。
大人の発達障害の診断は、臨床心理士や精神科医による詳細な面接と心理検査を通じて行われます。診断においては、まずは発達歴を確認し、症状がいつから始まったのか、どの程度日常生活に影響を与えているのかを評価します。心理検査には、注意力や記憶力、計画性を測るためのテストが含まれ、これらの結果を総合的に判断します。加えて、発達障害の特徴が他の精神的な障害(うつ病や不安障害など)と区別されることが重要です。そのため、発達障害の症状が他の疾患によるものではないかを慎重に評価し、適切な診断を下すことが求められます。
大人の発達障害には、認知行動療法(CBT)や精神分析的心理療法が一般的な治療法として使われています。認知行動療法は、問題解決スキルや自己管理の方法を教えることで、日常生活や職場でのストレスを減少させ、特定の困難に対処できるように支援します。精神分析的心理療法は、過去の経験や無意識の感情を掘り下げることで、クライエントが自分自身をより深く理解し、特性に合わせた新しい方法で思考や行動を変える手助けをします。また、薬物療法も症状に応じて利用され、特にADHDや感情の調整が難しい場合には、精神安定剤や注意欠陥を改善する薬が処方されることもあります。治療方法は個々の症状や状況に合わせて調整されます。
大人の発達障害の人は、特に職場で業務に集中することが難しい場合があり、仕事のスケジュールやタスクを管理するのに困難を感じることが多いです。集中力が続かない、計画を立てても途中で見失ってしまう、優先順位をつけることができない、などの特徴が仕事においてのパフォーマンスに影響を与えます。また、コミュニケーションが苦手であったり、意図せず衝動的な行動をしてしまうことがあり、これが同僚との摩擦や誤解を生む原因になることもあります。更に、細かい作業に対する過敏性や反応の遅れも職場環境での適応に困難をもたらします。こうした特性を理解してもらい、職場でのサポートを受けることが解決のカギとなります。
大人の発達障害を持つ人には、具体的で明確な指示を出すことが重要です。計画性や時間管理が難しい場合があるため、タスクの優先順位を明確に伝え、細かく指示を出すことで、混乱を減らし、効果的に仕事を進めやすくなります。また、あまり複雑な指示を一度に与えず、シンプルに伝えることも大切です。コミュニケーションの際には、反応を待つことや、理解度を確認することが求められます。例えば、何か問題が起きた場合には、どのように対処するべきかを具体的に話し合うことが有効です。発達障害を持つ人が職場で自分らしく働けるよう、理解とサポートを提供する環境づくりが必要です。
大人の発達障害の人は、日常生活でも計画性や時間の管理に困難を感じることが多いです。例えば、仕事や家事のスケジュール管理がうまくいかず、忘れ物や遅刻が頻繁に発生することがあります。さらに、感覚過敏によるストレスを感じやすく、音や光などの刺激に過敏に反応することもあります。また、人とのコミュニケーションにおいても、感情の表現が過剰だったり、逆に抑制的すぎたりすることがあり、誤解を生んでしまうことも少なくありません。これらの困難を解消するためには、日常的に環境を整えることや、適切な支援を受けることが重要です。
自分の特性を理解するためには、専門のカウンセラーや心理士と相談することが非常に役立ちます。これにより、発達障害の症状や自分の反応パターンを客観的に知ることができます。自己理解を深めることによって、自分の強みや弱みを把握し、より効果的な対処法を見つけることが可能になります。また、発達障害に関する教育を受けることも自分の特性を理解する手助けになります。自己理解を深めることは、日常生活や仕事の中で自信を持ち、適切な支援を求める第一歩となります。
社会生活における困難は、特に人間関係や日常的なルールに適応することに関連しています。大人の発達障害の人は、社会的なサインや暗黙のルールに敏感に反応することが難しく、コミュニケーションの誤解や対人トラブルが発生することがあります。感覚過敏や衝動的な行動、過度な反応が社会生活での適応を難しくします。特に公共の場では、多くの刺激に圧倒されることが多く、その結果、ストレスを感じやすいです。これらの問題を解決するためには、社会的なスキルの向上やストレス管理技術を学ぶことが重要です。
家族や友人との良好な関係を築くためには、まず自分の特性を理解し、それを周囲の人々にも説明することが大切です。発達障害を持っていることをオープンに話すことで、誤解を防ぎ、より理解のある環境を作り出すことができます。また、適切なコミュニケーションスキルを学び、感情を適切に表現することが大切です。特に、家族や友人との関係では、柔軟に対応する姿勢を持ち、困難な時期にはサポートをお願いすることが重要です。自己理解と周囲の理解が深まることで、関係性が円滑になり、より良い支え合いの関係を築くことができます。
発達障害についてのトピック
大人の発達障害の検査を受ける、相談をする、カウンセリングを受ける
このように大人の発達障害は現代的な問題であると言えます。大人の発達障害の診断には知能検査・WAIS-Ⅳなどが有効な方法です。当オフィスでもWAIS-Ⅳを受けることができます。希望者は以下の心理検査申し込みフォームからお問い合せください。
また、大人の発達障害について相談をしたり、カウンセリングを受けたりしたい方は以下のカウンセリング申し込みフォームからご連絡ください。