注意欠陥多動性障害(ADHD)とは不注意、衝動性、多動性の問題をもつ発達障害の中の1つです。多くは幼少期からその特徴は見られ、児童期では落ち着きなく動き回るので、授業を受けることができなかったりします。成人であれば忘れ物や落とし物といった不注意があらわれやすく日常生活に支障をきたします。
ここでは、注意欠陥多動性障害についての原因、特徴、症状、診断、治療、カウンセリングなどについて解説します。
目次
1.注意欠陥多動性障害とは
注意欠陥多動性障害(ADHD)は、注意力が散漫で、衝動的な行動や多動性が現れる発達障害です。集中力が続かず、物事を始めたり続けたりすることが難しい傾向があります。また、社交的な行動においても問題を抱えることがあります。症状の程度には個人差があり、適切な治療によって軽減することが可能です。治療には、薬物療法や認知行動療法があります。早期の発見と適切な治療が重要です。
また注意欠陥多動性障害は地域差があるといわれています。欧米のように子どもは静かにしていることを美徳とする文化では、ちょっとした衝動性や多動性であったとしても、注意欠陥多動性障害と診断されやすい傾向があります。一方で日本などのように子どもは元気いっぱいに遊ぶことが推奨されるような文化では注意欠陥多動性障害と診断されにくい傾向があります。
注意欠陥多動性障害の有病率は研究によって違いますが、1~7%の間の結果が多いようです。そして、欧米の有病率はその中でも高い結果になっていることが多いのです。2007年のWHOの研究調査では世界の有病率は3.4%となっています。2012年に日本での調査があり、そこでは有病率は1.65%となっています。
また、児童期では衝動性や多動性が顕著にあったとしても、大人になると衝動性や多動性は和らぎ、不注意が強くなる傾向があります。そのため、大人の注意欠陥多動性障害では不注意型が多いようです。
大人の注意欠陥多動性障害のセルフチェックリストがいくつか開発されています。このページの中盤あたりに引用していますので、ご参照いただければと思います。
また、注意欠陥多動性障害は発達障害の中の1つです。発達障害の中の注意欠陥多動性障害の位置付けについては以下の図を参考にしてください。
図1 発達障害の中の4つの種類
上位カテゴリーの発達障害については以下のページをご参照ください。
2.注意欠陥多動性障害の原因
注意欠陥多動性障害の原因は明確には不明です。しかし、これまでの研究からある程度は仮説が立てられています。まず、ドーパミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の機能不全や不足が原因としては考えられています。そのため、注意欠陥多動性障害の場合にはメチルフェニデートなどの薬物療法によって症状が和らぐようです。
また大脳の前頭前野の機能不全が画像診断などから推測されています。前頭前野は判断、思考、認知、計画性、言語など人間としての社会的な機能をつかさどっています。この前頭前野が機能不全を起こしているため、不注意などの症状があらわれるといわれています。
さらに、妊娠中の母体の感染症や薬物の使用、低体重出生なども関連しているといわれていますが、現在も研究途上などの今後の結果を待たねばなりません。
一方で、これまで養育環境やしつけによって注意欠陥多動性障害になるといわれていた時期もあります。しかし、注意欠陥多動性障害は生得的な障害のため、養育環境やしつけが原因であるとは考えられていません。
さらに、食品添加物や砂糖、塩、水銀などが注意欠陥多動性障害の原因であると一部のオーガニック信奉者から主張がされていますが、今のところそうした証拠や根拠はほとんど皆無であるといえます。
3.注意欠陥多動性障害の特徴と症状
注意欠陥多動性障害(ADHD)の特徴・症状には3つがあります。
- 不注意
- 衝動性
- 多動性
この3つについてそれぞれ例を挙げながら解説します。
(1)不注意
不注意とは、必要なところに注意や意識を向けにくい、細かいところに気がつかない、注意の切り替えができない、などです。最後の注意の切り替えの問題については、変に一つのことに集中してしまい周りが見えなくなる、ということです。注意欠陥多動性障害は集中できない、というのは誤った認識です。
不注意の例は以下のようなものがあります。
- 興味関心のあることに集中しすぎてしまい周りがみえなくなる
- 落とし物や無くし物をよくしてしまう
- 言われたことをすぐに忘れてしまう
- 整理整頓が苦手
- 時間の管理が苦手
- 一つのことをしていると他のことを忘れてしまう
- 周りのことに気を取られてしまい、気が散って集中できない
- ケアレスミスが多い
(2)衝動性
衝動性とは、言葉からして暴力的であるとか粗暴であるとかがイメージされますが、実際にはそういうものではありません。後先を考えずに反応してしまう、ちょっとしたことに気が逸れてしまう、パッと行動してしまう、などのことです。
衝動性の例としては以下のようなものがあります。
- 思ったことをすぐに口にしてしまう
- 気になることがあると、すぐにそちらに行ってしまう
- 欲しいものがあると後先考えずに手を出してしまう
- 順番が待てず、順番を抜かしてしまう
- ちょっとしたことにすぐに反応してしまう
- 質問している途中で答えてします
- 気持ちをコントロールすることが苦手
- 待つことが苦手
(3)多動性
多動性とは、一ヶ所でじっとしていられない、無意味に立ち歩く、そわそわして常に身体を動かしている、などです。ちなみに、成人になるとこの多動は比較的落ち着いていくことが多いようです。
多動性の例は以下のようなものがあります。
- 席に座っていることができず、立ち歩いてしまう
- 貧乏ゆすりをしてしまう
- 常に身体を動かしてしまう
- 静かにしなければならない状況なので走り回ったりしてしまう
- ずっとしゃべり続けてしまう
- 迷子になってしまうことが多い
- 一ヶ所にずっといることができない
- 静かに遊ぶことや作業することが苦手
(4)大人の注意欠陥多動性障害
不注意・衝動性・多動性などの症状は大人になっても残っています。しかし、大人になると多動性は比較的軽くなる傾向があります。貧乏ゆすりなどの小さな動きは残るものの、大きな動きは少なくなります。走り回ったり、歩き回ったり、席から離れたりなどは随分と少なくなります。
おそらく身体と精神が成熟し、注意欠陥多動性障害なりに行動のコントロールや抑制する力が備わってくるからでしょう。
しかし、不注意は持続することが多いようです。ADHDタイプの大人の発達障害の方は職場や家庭の中での整理整頓が苦手であったり、忘れ物や落とし物が多かったりして、不適応に陥ってしまうことがあります。
4.大人の注意欠陥多動性障害の診断とセルフチェック
以下はASRSという注意欠陥多動性障害のスクリーニングテストです。
合計得点が4点以上の方は注意欠陥多動性障害に該当する可能性が高いです。しかし、これだけで診断を下すことはできません。
さらに詳しい検査をご希望の方は以下の申し込みフォームからご連絡ください。
5.注意欠陥多動性障害の治療
注意欠陥多動性障害に対する治療方法にはいくつかあります。それを解説します。
(1)薬物療法
最近では注意欠陥多動性障害に著効する薬剤がありますので、そうしたものを服用することは生活の質を向上させるでしょう。ただし、注意欠陥多動性障害そのものを治すものではなく、症状対処になりますので、継続的に服用し続けることが必要です。
現在、注意欠陥多動性障害に効果があるとされている薬剤は以下の3つです。
一般名 | 商品名 | 作用 |
---|---|---|
メチルフェニデート | コンサータ | ドパミン及びノルアドレナリンの再取り込みを抑制 |
アトモキセチン | ストラテラ | ノルアドレナリンの再取り込みを抑制 |
グアンファシン | インチュニブ | α2Aアドレナリン受容体に作用 |
リスデキサンフェタミン | ビバンセ | シナプス間隙のノルアドレナリン・ドパミンの濃度の増加作用 |
(2)環境調整
環境調整とは、本人の能力が出来るだけ引き出され、かつ能力を阻害するようなものを取り除くように周囲の状況を変えていくことです。例えば、注意が逸れがちであれば、部屋にある興味をひくおもちゃなどを見えないように隠したりします。学級の中であれば、席が後ろの方だと他の子が目に入るので、そうならないように教室の一番前の席にするなどもあります。
最近ではiPadなどのタブレットを利用して、視覚的に理解しやすいように教材を提示するような工夫もなされており、これも環境調整の一種といえるでしょう。
(3)スキルトレーニング
注意欠陥多動性障害の方が不得意とされる順序立てることや注意を切り替えること、整理することなどがあります。こうしたことはスキルを学ぶことで能力を補っていくことができます。
認知行動療法、認知トレーニング、ソーシャルスキルトレーニングなどがこれらには利用することができます。訓練の一環となりますので、繰り返しの練習と失敗を通して身に付けていくことになります。
一朝一夕では学習できないかもしれませんが、一度身に付けてしまえば一生ものなので、訓練する価値はあるでしょう。
6.注意欠陥多動性障害のカウンセリング
注意欠陥多動性障害の方はその特性によって自尊心が傷ついていたり、卑屈になってしまっていたり、対人関係でトラウマを抱えてしまったりすることが少なからずあります。特に親子関係の確執を生んでしまっている場合も多いでしょう。
そうした時、彼らのこれまでの生き方を振り返り、失われた自尊心を回復するためのカウンセリングや精神分析的心理療法も選択肢の一つとなってきます。
当オフィスではスキルトレーニングで解説したような訓練を行うことはできません。しかし、カウンセリングなどを通して、自尊心を回復し、自分を振り返りながら気持ちを整理し、前向きになっていくことの手伝いはできるかもしれません。そして、その中で、スキルトレーニングのエッセンスを取り入れて、少しずつ身に付けていけるものを取り入れていく、などのオプションであれば可能です。
7.注意欠陥多動性障害についての相談やカウンセリングを申し込む
不注意、衝動性、多動性を主とした症状や問題をもつ注意欠陥多動性障害について解説しました。脳機能の障害ではありますが、的確な対応やカウンセリングをしていくことで、意外と落ち着きを取り戻していき、気持ちの上での苦痛が随分と低下していきます。
当オフィスでも注意欠陥多動性障害の相談やカウンセリングを行っております。相談・カウンセリングをご希望の方は下の申し込みフォームらからご連絡ください。