引きこもりとは、病気や怪我ではないにも関わらず、外出をしたり、人と会ったりすることを避け、自宅や自室に居続けてしまうことを指します。そして、時には家族との接触も避けることがあります。その引きこもりについてのカウンセリング等について解説します。
目次
1.引きこもりとは
引きこもりは、厚生労働省のガイドラインによると「様々な要因の結果として、就学や就労、交遊などの社会的参加を避けて、原則的には6ヶ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態のこと」と定義されています。また、この引きこもりの状態は、原則として統合失調症の症状に基づく引きこもりとは一線を画しますが、実際には確定診断される前の統合失調症が含まれている可能性は低くありません。
ここで言う引きこもりは、社会的な支援や治療を必要とする状態のことです。例えば、病気療養などで家庭にとどまっている場合などは該当しません。支援を必要とする引きこもりとは、社会参加できない状態が長期化し、本人や家族がそのことに不安を感じている状態です。
(1)よくある相談の例(モデルケース)
30歳代の男性
幼少期からの家庭環境は安定しており、経済状況も良好でした。彼は小さい頃から活発な性格でした。中学・高校では野球部に入り、レギュラーで頑張っていました。しかし、不幸なことに高校2年生の時に練習中の怪我で、大会には出場できなくなってしまいました。それからやる気が折れてしまい、勉強などにも身が入らず、ゲームやネットで多くの時間を浪費するようになりました。そして、登校もまばらになっていきました。
両親は心配し、登校を何度も促しましたが、本人はやる気を取り戻すこともなく、時折親子でぶつかることもでてきました。高校は卒業できましたが、大学にも入学できず、自宅でブラブラと過ごすようになり、さらにはゲームのために昼夜が逆転するようになりました。両親は共働きで、お金には困ってないこともあり、本人が家にいても、すぐには困らない状況でした。しかし、そうした状況が引きこもりを長引かせているようでもありました。両親は近隣の医療機関や相談機関を受診し、相談しましたが、いずれも本人が来ないことには何もできないと言われ、実質的な支援が受けれてない状態でした。
そうしている内に引きこもりは10数年が過ぎ、当人も30歳を超えていました。大きなトラブルもない代わりに、進展もありませんでした。
次第に両親の焦りが大きくなっていた時に、両親は臨床心理士・公認心理師が個人で運営しているカウンセリングルームで掲載されていた引きこもりの記事を読みました。そこでは本人が来談しなくても相談できるということを知り、すぐにカウンセリングの申し込みをしました。そこで両親だけで臨床心理士に相談すると、引きこもりの本人への関わり方のコツやポイントを提案されました。両親はそれを参考に彼に関わると時間はかかりましたが、徐々に変化していきました。ちょっとした外出をするようになったりしました。
また両親が受けている臨床心理士のカウンセリングについて気にするようになり、本人も直接来談することには躊躇していましたが、オンラインでも可ということで、オンラインでカウンセリングを受けてみることになりました。それらをきっかけに本人も継続的にカウンセリングを受け、さらに数ヶ月の時間を要しましたが、直接来談するようになりました。その後は地域の引きこもりのグループやデイケアにも参加したりするようになり、徐々に社会参加を果たしていきました。
(2)日本の中の引きこもりの現状
日本には引きこもりの方が100万人ほどいるのではないかと言われています。そして男性の方が女性よりも倍以上多いようです。そのほとんどがこのモデルケースと同様に病気やケガなどの理由なく、引きこもっています。
日本の中の引きこもりの現状の詳細は以下のページをご覧ください。
(3)引きこもりの原因
引きこもりになる原因は様々ですが、人間関係、家族関係、不登校の影響、受験や就職活動での失敗、ゲームやインターネットへの依存などがあります。モデルケースでも受験の失敗が直接の引き金でしたが、それ以前の部活の怪我など挫折体験も影響しているようです。さらにゲームやネットへの依存も引きこもりの要因になっています。
引きこもりの原因の詳細を知りたい方は以下のページをご覧ください。
(4)引きこもりの特徴
引きこもりの当事者に顕著な特徴として、真面目で頑張り過ぎる、自己肯定感・自己効力感が低い、人目を気にし過ぎる、内向的で不満を表に出せない、などがあります。モデルケースでは真面目で頑張りすぎるところなどは該当しますし、怪我のために大会に出場できなくなってからは自己肯定感・自己効力感は低くなってしまっているようでした。
また、引きこもりの家族の特徴として、不平不満が多い、意見を押し付ける、指示ばかりする、などがあります。彼が引きこもってからは、家族の心配のためではありますが、意見を押し付けたり、指示ばかりをしてしまったりはあったようです。
引きこもり当事者とその家族の特徴の詳細は以下のページをご覧ください。
(5)引きこもりの心理
引きこもり当事者とその家族に特有の心理があります。引きこもり当事者も将来に対する不安はありつつも、それを考えないようにするために、ゲームやネットに没頭することがあります。まさにモデルケースではこれが当てはまります。
引きこもりの家族は家族内に引きこもりがいることを恥と考え、そうしたことを身近な人に話したり相談したりすることはあまりありません。そのため、引きこもりを抱える家族は孤立してしまいがちになります。モデルケースでも専門機関には相談しても身近な人には話をしていませんでした。
引きこもりの心理についてさらに詳しく知りたい方は以下をご覧ください。
(6)引きこもりからの脱出のきっかけとは
引きこもりからの脱出は困難ではありますが、不可能ではありません。外に出ることよりも家族関係が改善したり、第三者に相談したりすることが引きこもり脱出のきっかけになります。
モデルケースでは両親が臨床心理士のカウンセリングを受けることが直接的なきっかけであり、また外に出るよりもまずは家族関係の改善から取り掛かったことが引きこもりからの脱出の糸口になっており、こうした部分がここに該当するでしょう。
引きこもりからの脱出のきっかけについての詳細は以下をご覧ください。
(7)家族が引きこもり当事者にできること
家族が引きこもり当事者にできることはたくさんあります。強制的に部屋から出そうとしない、病院やカウンセリングを活用する、自立支援を行う相談窓口を活用する、目標やゴールを下げる、などがあります。
モデルケースでは当初は親と子でぶつかって、時には強制的に部屋から出そうとしたり外出させようとしたりしました。しかし、それは逆効果でした。そして、臨床心理士のカウンセリングを通して、そうした事をしないで接するコツを両親は学んでいきました。
以下の記事では引きこもり当事者に対して家族がこころがけることやできることをまとめています。
2.引きこもりの対処法
「もしかして、引きこもりなのかもしれない」と感じたとき、どのように対処すれば良いのか戸惑うことも多いでしょう。最後に、引きこもりの本人や家族ができる対処法をいくつかご紹介します。
(1)引きこもり当事者ができること
引きこもりの状態から脱したいと思ったら、できることから始めてみましょう。最初から完璧にする必要はありません。無理のない範囲で取り組んでみてはいかがでしょうか。
- 規則正しい生活を送る
- 新しいことを始めたり、勉強をしたりする
- ストレス発散できる場を見つける
引きこもりになると、日々の予定がないことから昼夜逆転の生活になりがちです。まずは規則正しい生活を心がけることが大切です。起床時間を決めたり、決まった時間に食事をとったりといったことから始めましょう。
また、何もしていないことに不安や自己否定を感じているようなら、新しいことを始めてみるのも引きこもり脱出のきっかけになります。興味があることを勉強してみるのもよいでしょう。
引きこもりの状態はストレスをため込んでいることが多いので、ストレス発散の場を見つけておくのも大切です。一緒に外出できる人や場所、時間など、引きこもりの状況に合わせた方法を見つけておきましょう。
モデルケースでも徐々に昼夜逆転を改善し、規則正しい生活を送るようになっていきました。こうしたことは非常に重要なきっかけになります。
(2)専門のカウンセラーに相談しよう
引きこもりの状態では、日々の中で自分自身をさらに追い込んでしまうことがあります。改善するためには、専門のカウンセラーへの相談がおすすめです。自分の状況を話すことは、思考が整理され改善の糸口になります。専門家のカウンセリングでは、引きこもりの状態を客観的にみて、解決への道筋を立ててもらえるでしょう。状況が悪化しないうちに、早めに相談してみてください。
モデルケースでは両親が先に臨床心理士に相談し、カウンセリングを受け始めました。こうしたことが改善のきっかけに重要な役割を果たしました。
3.引きこもりのカウンセリング
(1)引きこもりの方の家族とのカウンセリング
引きこもり当事者が最初からカウンセリングに来談することは稀で、多くは親や養育者、家族が来談します。
当オフィスでのカウンセリングでは、来談する家族の苦痛を抱え、適度に万能感を放棄してもらいつつ、多少の希望も持ってもらうことになります。そして、家族には引きこもり者のナルシシズムや万能感を助長しない手立てを知ってもらい、かつ、共同カウンセラーのような役割を担ってもらい、さらには親自身が人生を楽しんでもらうように当オフィスでは援助させてもらいます。
引きこもり者が最初から我々の前に現れることはほとんどないため、多くは家族への関わりからスタートせざるをえません。しかし、家族がカウンセリングの中で徐々に変わっていくと、引きこもり者は変わりつつある家族にある種の不安を覚えつつ、羨ましさや好奇心を持つようになります。好奇心は成長と発達の原動力になるのは乳幼児や児童を見ていてもよく分かります。ビオンのKとでも言えるかもしれません。
こうしたことは引きこもり脱出の第一歩となるでしょう。
(2)引きこもりの方のカウンセリング
引きこもり者が好奇心を持ち、家族がこうして変わるに至ったカウンセリングやそれを提供している当オフィスに興味を持つようになります。そうなれば、ようやく引きこもりから抜け出し、恐る恐るではあるがカウンセラーに会う気持ちが芽生え始めるし、実際に会うことも出てくるでしょう。
家族が最初に当オフィスに来談してから、ここまで来るのに数年はかかることもしばしばあります。
そしてカウンセラーと引きこもり者が出会ってカウンセリングに取り組むようになってからも、ナルシシズムの傷つきや万能感に取り組み、それを解決していくまで相当の年月がかかるかもしれません。それでも根気よく当オフィスに通うことにより、徐々に社会との接点を増やしていき、ひきこもり脱出に徐々に近づけていきます。
4.引きこもりについてのトピック
引きこもりについてのいくつかのトピックを紹介します。さらに詳しく引きこもりについて知りたい方はご覧ください。
5.引きこもりについて相談する
引きこもりについての原因、定義、特徴、支援、カウンセリング、脱出方法などについて解説しました。引きこもりは長期化し、家族や親族だけの力ではなかなか進展しないことも多いようです。ですので、臨床心理士や公認心理師のような専門家に相談したり、カウンセリングを受けることは非常に重要です。
当オフィスでも引きこもりのカウンセリングを行っております。本人や家族がカウンセリングを受けたいと希望されるならカウンセリングについてお問い合せください。