大人の愛着障害
ここでは大人の愛着障害(アタッチメント障害)について解説します。
子どもだけではなく、大人の愛着障害の場合にも、対人関係が極端に乏しいか、極端に近づきすぎるかをしてしまいます。また、自信や自尊心を持つことができず、いつも自己否定したり、びくびくしてしまったりしてしまいます。
目次
大人の愛着障害とは
幼少期の愛着障害に気づくことができず症状が改善されないまま、大人になってから対人関係や仕事等の社会生活に悩む人も多く、このようなケースを大人の愛着障害と呼びます。
大人の愛着障害は、他者と信頼関係を築くことが苦手になり、自分に自信がないことや感情のコントロールができない特徴も見られます。対人関係が極端に乏しいか、極端に近づきすぎるかをしてしまいます。また、自信や自尊心を持つことができず、いつも自己否定したり、びくびくしてしまったりしてしまいます。
まとめると、大人の愛着障害には以下のような特徴があります。
- 他者を信用できず、人を極端に避けたり接近したりして適度な距離がとれない
- 親や養育者を恨んだり、極端に人の顔色を窺ったりしてしまう
- 自分に自信をもてず、傷つきやすい
- 全か無かの思考になりやすい
- 自己肯定感が低い
- 物事において自ら決断することができない
大人になってこのような特徴がみられ、子どもの頃の養育者との情緒的関わりの乏しさや虐待体験、両親の不仲等のエピソードもみられると大人の愛着障害の可能性があります。
ちなみに表面的な症状で不安障害、うつ病、パーソナリティ障害などの診断がつけられていることもあります。
よくある相談の例(モデルケース)
20歳代 女性
Aさんは大学卒業後に就職しましたが、職場での人間関係や恋愛関係において極端な不安や孤独感を感じやすく、生きづらさを抱えていました。Aさんの幼少期は、両親が忙しく、特に母親が家庭の外で働いていたため、家で一緒に過ごす時間が少なかったそうです。父親は家庭内で厳格で感情表現が少なく、Aさんが泣いても慰めてもらえないことが多かったと振り返っています。小学校では友達づきあいに悩み、思春期になると「自分は誰にも理解されない」「いつか見捨てられるのでは」といった不安に繰り返し襲われるようになりました。
社会人になってからは、恋人との関係においても相手の反応に過敏に反応し、不安が強まると自分から距離を取ったり、逆に相手に依存したりと極端な行動をとることが目立つようになりました。相手に些細なことで冷たくされると「やっぱり私は愛されない」と感じてしまい、必要以上に相手の顔色をうかがうようになり、結果的に人間関係がうまくいかないことが続きました。そんな自分に嫌気がさし、「私はどこかおかしいのではないか」とインターネットで検索しているうちに「愛着障害」という言葉に出会い、自分の状況に当てはまると感じるようになりました。
Aさんは心療内科を受診し、不安や抑うつが強いときは薬物療法を受けつつ、カウンセリングを併用することになりました。カウンセリング初期は自分の気持ちをうまく言葉にできず、涙が止まらなくなることも多々ありましたが、カウンセラーとの信頼関係を築くなかで、幼少期からの体験や人間関係のパターンを少しずつ整理できるようになりました。また、カウンセラーから「今ここ」の自分の感情に注意を向ける練習や、安心できる人間関係の感覚を体験的に積み重ねるワークにも取り組みました。
半年ほどカウンセリングを続ける中で、「相手に合わせすぎてしまう自分」に気づき、徐々に自分の気持ちやニーズを相手に伝える練習もできるようになりました。今でも不安や孤独感が出ることはありますが、「感じてもいい」「頼ってもいい」と思える瞬間が増え、少しずつ自分らしさを取り戻せている実感が出てきています。
大人の愛着障害と間違われやすい障害
大人の愛着障害はうつ病、不安障害等の二次的な障害につながりやすい特徴もあります。また、人との距離の取り方が極端に近かったり、遠かったりするなどは発達障害とも間違われやすいです。
特に、衝動性や情緒不安定さ、対人関係で非常に密着した距離の取り方などは以下の境界性パーソナリティ障害とも混同され、診断をつけられてしまうこともあります。
Aさんの場合、不安や対人関係のトラブルが続いたため、最初はうつ病や不安障害、または境界性パーソナリティ障害といった他の精神的な問題と間違われやすい側面がありました。特に気分の不安定さや対人関係の揺れ動きは、他の障害との鑑別が難しいと感じました。
大人の愛着障害の原因
大人の愛着障害は、幼少期における親からの養育やコミュニケーション等が不十分または過度であることが原因です。幼少期に親等の養育者との間で適切な愛着の形成ができず、それが幼少期に解決できず、大人になるまで問題を持ち越してしまっていることも原因と言えます。
こうしたことはマルトリートメントの問題であると言えます。マルトリートメントについては以下をご覧ください。
Aさんの場合、幼少期に両親との情緒的なつながりが十分に得られなかったことや、感情表現が乏しい家庭環境が、愛着障害の形成につながったと考えられます。安心できる居場所や肯定的な関わりが少なかったことが背景にありました。
大人の愛着障害の相談と治療
(1)大人の愛着障害のカウンセリング
愛着障害というと、幼少期における養育者との愛着形成の不十分さを補うために、実の親との愛着形成のやり直しや育て直しのような体験を要するイメージがあるかもしれません。しかし、そうではなく、現在の友人や恋人、パートナーと親密な関係を築き、心の拠りどころをもつことで克服が可能です。
大人の愛着障害は対人関係に優劣を感じ、自己評価が低いことも多いため、肯定的受容の性質をもつカウンセリングも有効です。
カウンセリングでは「良い人」を演じやすい傾向がありますが、悲しみや怒り等ネガティブに渦巻く感情を扱っていくことが大人の愛着障害克服のポイントでしょう。
大人の愛着障害に対するカウンセリングでは、クライエントとカウンセラーの関係性そのものが重要な治療の場となります。愛着障害のある方は、幼少期に安定した情緒的なつながりを得られなかった経験があるため、人との距離感や信頼関係に敏感であったり、不安や疑念を抱きやすい傾向があります。そのため、カウンセリングの過程では、カウンセラーに対して強い依存や拒絶、不信感、あるいは過度な期待を抱く「転移」と呼ばれる現象がしばしばみられます。また、カウンセラー側もクライエントの反応に影響されて、特別な感情や態度(逆転移)を抱くことがあり、双方の感情のやりとりが複雑になりやすい特徴があります。
このような状況では、カウンセラーが一貫した態度や温かい関わりを意識し、クライエントの感情や不安を丁寧に受け止めることが大切です。関係性の中で生じるさまざまな気持ちや体験を、そのままカウンセリングの材料として扱い、「今ここで何が起きているのか」を共に見つめていくプロセスが、カウンセリングの重要なステップとなります。クライエントが安全な場で自分の感情や不安を表現できる体験を積み重ねることで、徐々に人間関係への信頼や自己受容が育まれていきます。カウンセリングは単に問題を解決する場ではなく、安心できる関係性の中で新たな自己体験を作り出していく、長期的かつ繊細な取り組みが求められる作業となります。
Aさんは、心療内科で薬物療法を受けつつ、カウンセリングを継続して受けました。カウンセリングでは、自分の感情や人間関係のパターンを見つめ直し、徐々に安全な関係性を体験することで、自己理解と安心感を少しずつ深めていきました。
(2)大人の愛着障害への接し方
大人の愛着障害の人は、過去の養育者とのコミュニケーションの過不足が背景にあると気付かず、現在の対人関係で「人とつながれていない気がする…」、「関係が上辺な気がする…」と悩むことが多いでしょう。
大人の愛着障害の人は、表面的には良好な対人関係をもつ人もいますが、顔で笑って心で泣く傾向があります。
そのため、本人が今困っていることや本当はどう感じているかを聞いてみてください。友人や恋人、パートナーであれば、時にはぶつかったりネガティブな思いも受け止めてあげたりして、より親密な関係を築くことができると大人の愛着障害の克服につながります。お互いに信頼し合えるように対等に接し、本音を話し合える関係性を築いてみましょう。
また、家族が関わるときは、本人を否定せずに少しずつ気持ちを聴いてあげる関わりが大切になります。
Aさんの場合、周囲が一貫した態度で接し、安心感を与えることが大切でした。焦らせたり否定的な反応をせず、話を受け止める姿勢が信頼関係の構築に役立ちました。
(3)本人が気をつけられること(恋愛編)
恋愛関係では恋人やパートナーと通じ合いたいと思いながら、繋がれない孤独さを感じたり、接近しすぎて相手を困らせたり、自己評価の低さから相手を試して振り回したりしてしまいます。
大人の愛着障害は幼少期の養育者との関係性が繰り返されている可能性が高いです。そのため、まずは子どもの頃の関係性を振り返り、自分の対人関係パターンを知りましょう。そして、過去と現在の関係性を切り離した関わりを意識してみてください。
今まで感情に蓋をし続けてきたのであれば相手に素直になり、人を信用できないと疑ってきたのであれば、思い切って「この人なら信頼できるかも」と現在の関係性に注意を向けてみることが大切です。
大人の愛着障害の恋愛の課題については以下のページをご覧ください。
Aさんは、恋愛において相手に過度に依存したり、不安から相手を試すような行動に注意が必要でした。自分の気持ちを正直に伝えることや、ひとりの時間も大切にする意識を持つよう心がけていました。
(4)本人が気をつけられること(仕事編)
仕事の付き合いで「職員との距離感が分からない」、「顔色を窺いすぎて疲れる」等コミュニケーションに悩むことも多いでしょう。
大人の愛着障害の人は自己否定の強さから被害的になったり、他者に過剰にへりくだる行動をとったりしやすいです。それでは余計に対人関係への苦手意識が強まるため、無理に関わろうとせずにあえて人と距離を置くことや相槌だけでやり過ごす関わり方も身に着けてみましょう。
Aさんの場合、職場で周囲の評価や反応に敏感になりすぎてストレスを溜めてしまうことがありました。必要以上に自分を責めないこと、困った時には適度に相談すること、仕事とプライベートを分けて考える工夫が役立ちました。
愛着障害についてのトピック
愛着障害についてのいくつかのトピックです。さらに詳細に知りたい方は以下をご覧ください。
反応性愛着障害について相談する
大人の愛着障害の原因として、幼少期の愛着の未形成は大きな関係がありますが、幼少期の養育者との関係にこだわりすぎてはいけません。当時の自分の苦しみを養育者に理解してもらったり、養育者の価値観を変えたりすることは難しく、やり直しもできません。それらに失望して、落ち込むことで、対人関係の構築や維持はより困難になる場合もあります。
振り返りは確かに大切な作業ですが、過去を客観視し、過去に意味づけすることで体験の捉え直しもできます。1人で悩まず、カウンセラーや信頼できる身近な人と共に、過去を整理しつつ現在の悩みの改善を進めましょう。
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