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マルトリートメントとは何か?:心理学の視点から見た被害児の支援と改善

「マルトリートメント」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?大人から子どもに対する不適切な関わりを意味した言葉です。

この記事ではマルトリートメントが人にどのような影響を与えるか、さらに支援方法について心理学の視点から解説します。

1.マルトリートメントとは?心理学の視点から理解する

マルトリートメントは、日本語で「不適切な養育」と訳されます。WHOの定義では従来の児童虐待より広範囲な意味で使われており、「虐待とは言い切れない、大人から子どもに対する避けたい養育」と言えます。具体例を見てみましょう。

  • 殴る、蹴る、首を絞める、溺れさせる
  • 大声で脅す、無視や拒否的な態度、著しくきょうだい間差別をする
  • 子どもの目の前で家族に対しての暴力を見せる(面前DV)
  • 性的行為、性行為を見せる、ポルノグラフィの被写体にする
  • 食事や教育を与えない、風呂などに入らせず不潔にする、家に閉じ込める

上記のような例は「児童虐待」にあたり、多くの人がダメなことだと認識できると思います。マルトリートメントは、さらに以下のような行為も含まれる場合があります。大切な視点は、子どもに「怖い、いやだ、大人に構ってもらえない」などの不快感があるかという点です。

  • 大人の都合で子どもに留守番をさせる
  • 大人の気分がコロコロと変わり一貫しない態度をとる
  • 進路や職業を大人が選んでしまう
  • 子どもに配偶者やパートナーの愚痴を言う
  • 大人が全裸で部屋をウロウロする
  • スマホなどで長時間子どもに動画視聴、ゲームを許す

大人としては「躾のつもり」「自分はこうされて立派に育ってきた」「子どものため」と加害のつもりはない場合でも、行為そのものが不適切であればマルトリートメントに該当します。

2.マルトリートメントの影響

マルトリートメントは、身体的、知的、心理的な影響を及ぼすことが明らかになっています。特にマルトリートメントと関連深い「愛着障害」と、近年注目されている「脳への影響」についてより詳しく見ていきましょう。

(1)マルトリートメントの影響で見られる心身の特徴の一例

マルトリートメントが身体・知的面に、感情・精神面に、行動・対人面に、それぞれどのような影響があるのかをまとめました。

影響面

身体・知的面の影響

  • ケガ、やけど、骨折
  • 発育不良(低体重・低身長)
  • 知的発達の遅れ
  • 性感染症にかかる、妊娠する
  • 辛い記憶が欠落する

感情・精神面の影響

  • 自己評価が低く、自信や自尊心がもてない
  • 人の顔色をうかがう、おびえた表情をみせる
  • 表情がぎこちない、感情を表さない
  • 気分が変わりやすく、すぐに怒ったりパニックになったりする

行動・対人面の影響

  • すぐに暴力をふるう、わがままや自分勝手な態度
  • 人間関係がうまく築けない
  • 極端にベタベタと甘える
  • 過食・盗み食い・異食などの食行動
  • 痛みに対してほとんど反応しない
  • 年齢相応の生活習慣を身に付けていない
  • 家出、盗み、いじめなどの問題
  • 自分が親になった時に虐待を繰り返してしまう

(2)マルトリートメントと愛着障害との関連性

愛着障害とは、文字通り幼少期の愛着形成に躓いており、社会生活で困難が起きている状態を指します。

愛着(attachment)とは、心理学では「親などの養育者との情緒的な確固たる絆」を指しており、子どもは「泣いて空腹を訴えるとミルクがもらえる」「一緒に遊んで嬉しい気持ちを共感する」「両手を伸ばすと抱っこしてもらえる」などの体験を通して愛着を形成していきます。そして、こうした経験は対人関係のモデルになり、他者に対する基本的な信頼感を育み、その後の心身の発達や人間関係に繋がっていきます

しかし、「泣いていても無視される」「大人の気分でひどく怒られる」「食事が与えられず命の危機を感じる」などのマルトリートメントが行われると、愛着が形成できず様々な困難が表れるのです。これを愛着障害と呼びます。

愛着障害は、他者を過剰に警戒し信頼することができない「反応性愛着障害」と、他者に対して過度に馴れ馴れしい「脱抑制型愛着障害」に大分されています。いずれのタイプであっても、問題行動が繰り返し見られ、対人関係や情緒面が安定せず本人も周囲も困ってしまいます

愛着障害については以下のページで詳細に解説しています。

(3)マルトリートメントの脳への影響

近年、友田明美医師を中心とした研究の結果、マルトリートメントが発達段階にある子どもの脳に大きなストレスを与え、実際に「傷」をつけていることが明らかになりました

例えば、厳しい体罰が行われると「前頭前野の萎縮」、性的マルトリートメントや家庭内暴力の目撃が行われると「視覚野の萎縮」、暴言マルトリートメントが行われると「聴覚野の萎縮」が見られます

これらは「自分を守ろう」と感覚をシャットアウトした反応と考えられますが、脳に傷ができてしまった結果、学習意欲の低下や問題行動、引きこもり、うつなどの精神疾患になる可能性が高まります。また、幼少期に問題がないように見えていても、成長してからメンタルヘルスや人間関係で問題が現れてくる場合があるのです。

(4)大人になってからの発生する問題について

大人になってから「自分は愛着障害かもしれない」と悩まれる方がいらっしゃいます。前述したようにマルトリートメントは子ども時代を過ぎてから症状が見られることがあります。

例えば以下のような形で、マルトリートメントの影響が見られることがあります。

  • 複雑性PTSD
  • うつ病
  • 睡眠障害
  • 人格障害
  • 摂食障害

3.マルトリートメントへの対策と支援

マルトリートメントによる影響を少なくし、子どもの心身の健康を手助けするために、保護者に対して、子どもに対してできることを解説します。またマルトリートメントを受けていた子どもが成人した際に、自分自身でできることも紹介します。

(1)保護者に対してできること

マルトリートメントは避けるべき行為ですが、頭ごなしに叱責や指導をしても保護者は心を閉ざしてしまいます。マルトリートメントの背景には「やめたくてもやめられない」「これ以外の方法が分からない」など様々な事情が隠れている場合が多いため、まずは保護者の主張にきちんと最後まで耳を傾けましょう。共感的な姿勢で話を聞くことで孤独感の解消に繋がると考えられます

保護者の中には、子育ての方法やしつけ方がわからず悩んでいる方がおられます。そんな時は、声かけや取るべき態度について具体的に示すことがマルトリートメントの防止につながることがあります。

マルトリートメントを行っている保護者への支援は難しい上、根気が必要です。自分1人で支えようとせずに、専門機関を紹介することも1つの方法です。

(2)子どもに対してできること

マルトリートメントを受けている子どもは「安心・安全」の感覚が不足していることが多いです。そのため、まずは「ここなら大丈夫」と思える生活環境を整えてあげましょう

マルトリートメントについて自発的に話をした時には最後まで聞いてあげると良いですが、「どれは君が悪い」「親だって大変」など思いを拒否する発言は、子どもをさらに傷つけてしまいます。上手く話せなくても、解決案を出せなくても良いので、共感的な姿勢で聞いてあげることが大切です。ただし、無理に聞き出すことは精神的な負担が大きいになるため避けましょう。

(3)自分自身に対してできること

読者の中には自分自身がマルトリートメントを受けて育ち苦しんでいる方がおられるのではないでしょうか。また、マルトリートメントをしてしまうという方もおられるかもしれません。

人に相談しづらいけれど、1人ではどう解決したらいいかわからない問題だと思います。専門家と一緒に考えることで解決方法に気づくことができるかもしれません。ぜひ一度相談してみてください。

(4)相談できる機関

マルトリートメントについて相談できる専門機関を紹介します。住んでいる場所や年齢によって利用できる機関は異なるため、事前に電話で「マルトリートメントに関する相談はできますか?」と問い合せると良いでしょう。

  • 児童相談所
  • スクールカウンセラー
  • 自治体の子育てに関する課
  • カウンセリング
  • 精神科、心療内科など

4.まとめ

落ち込む男性と慰めている女性

マルトリートメントは「虐待とは言い切れない、大人から子どもに対する避けたい養育」を指す言葉です。心身の発達に深く関わっており、その影響は大人になってからも見られることがあります。

当オフィスには、マルトリートメントを受けて育った方、マルトリートメントを行なってしまう方に対応できるカウンセラーが在籍しております。1人で抱えずにお気軽にご相談ください。

文献


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