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神奈川県横浜市港北区大豆戸町311-1
アークメゾン菊名201号

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愛着障害のカウンセリングと克服

失われた愛情をめぐって

愛着障害とは、養育者との間で適切な愛情や接触、コミュニケーションなどが充分ではなかったり、反対に過度であったりすることで、対人関係や恋愛関係、職業生活などに支障をきたすことをさします。

その愛着障害の原因、特徴、克服方法、治療方法、カウンセリングなどについて解説しています。

1.愛着障害の概要

シャボン玉をとばす子ども

(1)愛着障害とは

愛着障害とは、子どもの時期に適切な愛着関係が形成されなかったことが原因で、大人になってから人間関係に問題が生じる症状です。親やケアギバーとの関係性に欠陥があった場合に起こります。対人関係で不安や過剰な依存、拒絶感や孤独感を抱き、自己評価が低い場合があります。治療には、心理療法や認知行動療法が用いられます。また、安定した愛着関係を持てる環境や、自己認識を促進する支援も重要です。早期発見・治療が重要です。

また、虐待や両親の離婚、養育者交代をはじめとした養育困難の経験により、他者と親密で安定した関係が築きにくかったり、自分の気持ちを伝えたり、助けを求めたりすることが苦手であったりすることがみられます

発達早期の情緒的な養育の重要性は戦後の孤児院研究などから注目されてきており、ルネ・スピッツのホスピタリズムの研究や、ジョン・ボウルビィのアタッチメントの研究があります。特にジョン・ボウルビィは愛着(Attachment)という言葉を心理的な意味で初めて用いてきたという経緯があります。

(2)よくある相談の例(モデルケース)

30歳代の女性

幼少期から彼女の両親は不仲であり、喧嘩が絶えなかった。また、両親はそれぞれ浮気や不倫をしており、家には不在がちであった。彼女は主に祖母に育てられていたが、祖母は食事や家事などは完璧にこなすが、冷たい性格で、優しさは欠如していた。彼女は小学校の頃から友達にべったりで、一人になることが耐えられない子どもであった。中学生になると恋人を作り、常に恋人が一緒でないと不安でたまらず、そして恋人に依存しがちであった。そうしたこともあり、恋人はそうした彼女を面倒に思い、恋愛は長続きしなかった。

高校を卒業してから地元の会社に就職し、仕事はそれなりにこなしていた。しかし、上司や同僚からの評価を過度に気にして、常に不安がつきまとっていた。また、かなり年長の既婚男性に依存し、不倫関係になっていった。ある時に不倫関係が相手の妻にばれてしまい、恋人との関係は破綻してしまった。それをきっかけに精神的に不安定になり、感情の浮き沈みが激しくなった。またアルコールを多量に飲み、泥酔することもあった

こうしたこともあり、精神科を受診し、不安障害と診断され、抗不安薬を処方された。薬を飲むと多少は気持ちが和らぐが、根本的な解決はなかった。そのため、主治医からカウンセリングを受けることを提案され、当オフィスを紹介された。カウンセラーと現在の問題を少しずつ解決していく中で、幼少期からの家族の中での寂しい思いや孤独の問題が原因となり、今の問題が起こっているのではないかということが徐々に明らかになっていった。彼女はカウンセラーとの間で家族の問題について話し合い、徐々に折り合いをつけていくようになった。それにともなって、依存的な人間関係を作らなくてもよいようになり、次第に落ち着いていった。

(3)愛着障害の特徴

愛着障害の人は極端な人間関係、否定的な自己像、異性との偏った関係、感情の不安定さ、衝動的な行動、身体的な不調などの特徴があります。

モデルケースの場合、恋人との依存的な関係や感情の不安定さが強く見られていました。また、不倫関係が破綻した際には多量のアルコールを飲むなどの衝動的な行動も見られるようになりました。

愛着障害の特徴の詳細については以下のページをご参照ください。

(4)愛着障害の診断

愛着障害を診断する上で、検査をすることがあります。検査にはストレンジ・シチュエーション法と成人用アタッチメント面接(AAI)の2つがあります。前者は主に子ども用で、後者は成人用です。

モデルケースでは検査はしていませんが、これだけ愛着障害の特徴や症状が顕著であれば、もし実施していればなにかしらの結果は出ていたでしょう。

愛着障害の診断と検査の詳細は以下のページをご覧ください。

(5)愛着障害の原因

愛着障害の原因には幼少期における愛着の形成不全や不適切な養育環境などがあります。それらをマルトリートメントということができます。また、いわゆる毒親と称される親による虐待的な養育も原因となりえます。

モデルケースでは子どもの時期に両親が不仲であり、それぞれが浮気や不倫をしており、彼女の養育を放棄していました。祖母が代わりに育てていましたが、適度な愛情があったようではありませんでした。こうしたことが彼女の愛着障害の原因になっていたと推測できます。

愛着障害の原因となりうるマルトリートメントと毒親についての詳細は以下のページをご参照ください。

(6)反応性愛着障害

反応性愛着障害とは愛着の問題から、人との接触に偏りや拒否が出てくることです。人への関心が薄く、人との関係を求めることなく、一人を好みます。そして、人の手助けが必要な時であっても、人と接触することを避けようとします。

モデルケースではこの反応性愛着障害の特徴はあまりなく、それよりも後に解説する脱抑制性対人交流障害が近いと考えられます。

反応性愛着障害の詳細については以下のページをご覧ください。

(7)脱抑制性対人交流障害

脱抑制性対人交流障害とは幼少期の愛着の問題から生じる障害で、主に対人関係や感情コントロール、衝動的な行動などに問題が生じます。反応性愛着障害とは反対に人に対して過度に接触し、時には依存的になったりします

モデルケースでは子どもの時から友達にべったりでしたし、思春期以降は恋人に依存的になりました。こうしたところは脱抑制性対人交流障害の特徴が強く表れていると言えます。

脱抑制性対人交流障害についての詳細は以下のページをご覧ください。

(8)大人の愛着障害

愛着障害に気付かれないまま大人になり、愛着障害的な問題や課題を抱えている人は多くいることでしょう

モデルケースではまさにこれにあてはまります。子どもの時から問題が生じていましたが、誰からも支援や援助を受けることはありませんでした。そして、大人になってから大きな問題となり、精神科を受診せざるをえませんでした。そして紹介されたカウンセリングで大人の愛着障害であることが徐々に明らかになりました。

大人の愛着障害については以下のページに詳細があります。

(9)愛着障害に対する誤った治療法

愛着障害は子どもの時期の愛着や愛情の問題から生じていることはその通りです。しかし、だからといって大人になってから、治療者が親の代わりに愛着や愛情を与えることで問題が解決することはありません。

モデルケースでは幸いにこうした誤った治療法を実施されることはありませんでした。ただ、中にはこうした誤った治療に行きついてしまう人もいます。

こうした事柄についての詳細は以下のページをご覧ください。

2.愛着障害のカウンセリングや治療

赤い傘の女性

愛着障害のカウンセリングでは、愛情を供給し、育て直しをすることが愛着障害の治療としては不適切です。では、どういった治療法が愛着障害には有効なのかをここでは示していきます。

(1)愛着障害に対する薬物療法

愛着障害の人は抑うつ、不安、不眠、情緒不安定、食欲低下などの精神症状を伴う場合があります。そして、それによって日常生活が非常に阻害されてしまうのであれば、薬物療法を試してみることも必要です。薬物療法によって根本的な部分の治療をすることはできませんが、精神的にかなりよくなると生活もしやすくなるでしょう。

また、精神的に落ち着くことにより、カウンセリングなどで自分自身のことを考えたり、解決策を試していったりすることもしやくなります。

ただ、愛着障害の人は依存的になりやすい傾向もあるので、ある種の向精神薬では、依存を助長してしまうこともあります。ですので、精神科医と相談し、用法用量を必ず守って服用するようにすると良いでしょう

(2)愛着障害に対する認知行動療法

認知行動療法とはクライエントの不適切な認知と行動に働きかけ、症状や問題を改善していく技法です。愛着障害の人は自分自身を否定的に考えてしまったり、他者に対して迫害的、被害的に捉えてしまったりすることが多いです。また、衝動的な行動や過度に依存的な行動をしてしまったりすることもあります。

こうなってしまった理由や事情は非常によくわかりますし、それ自体に意味はあるかとは思いますが、結果的にこうした認知や行動によって、その愛着障害の人が不利益を被ったり、さらに苦しんでしまったりしてしまいます。

認知行動療法では、こうした愛着障害の人の認知や行動をアセスメントし、より妥当で、機能的な認知や行動へと変化を促していきます。もちろん、それは強制的で、指導的なやり方ではありません。愛着障害の人と協働関係を結び、一緒に考え、一緒に試行錯誤しながら、一つ一つクリアしていきます

認知行動療法についての詳しい説明は以下にあります。

ただし、愛着障害の人は他者と依存関係や敵対関係になりやすい傾向があります。つまり、カウンセリングを受けているカウンセラーともそうした関係になってしまうことも多々あります。精神分析的にはこれを「転移」と言います。そうなると、認知行動療法で必要な協働関係を結ぶことができず、認知行動療法の効果が半減してしまったり、そもそも認知行動療法を実施することができない事態になってしまいます

そうした時には認知行動療法にこだわるのではなく、この関係性になっていることを話し合い、どうすれば良いのかを考えながら解決していくようなカウンセリングをしていく方が良いでしょう

(3)愛着障害に対するEMDR

EMDR(眼球運動による脱感作と再処理療法)とはトラウマやPTSDの治療に特化した、比較的新しいカウンセリングの技法です。トラウマを想起しながら、カウンセラーの左右に振る指を見ながら、眼球を左右に動かすことで、トラウマの処理が進行し、結果的にトラウマやPTSDが治るという技法です。

愛着障害の人は特に両親や養育者との関係でトラウマを抱えていることが多く、そのトラウマにより、現在の問題が起こっています。そのため、EMDRなどでトラウマを解消することにより、愛着障害を治療していくことができます

ただし、3~4歳以前の言語を獲得する以前の体験については、トラウマ体験や虐待体験をエピソードとして記憶されていることはあまりありません。ですので、こういったエピソード記憶がないトラウマについてはEMDRは困難である場合もあります。

EMDRについては以下のページに詳細に書いています。

(4)愛着障害に対する精神分析的心理療法

精神分析的心理療法は数ある心理療法・カウンセリングの中でも非常に長い歴史と、多くの蓄積のある技法です。20世紀初頭にフロイトによって創始された精神分析・精神分析的心理療法は当初はヒステリーの治療法でしたが、その後、さまざまな発展を加え、ヒステリー以外にもその対象を広げていきました。

精神分析・精神分析的心理療法の特徴としては、カウンセラーとクライエントの関係性に焦点を当て、クライエントの繰り返される人間関係(これを転移といいます)の変容を促していきます。

愛着障害の人は非常に過酷な体験をしており、その体験から、ある意味では誤った対人関係のパターンを繰り返してしまいます。それはカウンセラーとの間でも同様に繰り返してしまいます。ですので、誤ったパターンが顕著に出現するので、精神分析・精神分析的心理療法が有効に働くことが多いようです

精神分析・精神分析的心理療法の詳しい説明は以下のページにあります。

3.愛着障害についてのトピック

愛着障害についてのいくつかのトピックです。さらに詳細に知りたい方は以下をご覧ください。

4.愛着障害を克服するための相談先

空を仰ぐ女性

愛着障害の概要、原因、特徴、診断、治療法、カウンセリングなどについて網羅的説明しました。

愛着障害の人は非常に過酷な人生を背負っており、そのことが現在の社会生活や人間関係に影を落としてしまっています。それは死ぬほどの苦痛な体験であると思います。こうした愛着障害の苦痛が少しでも緩和されるために、ここで書かれた説明や治療法が役に立つことができればと思います

そして、専門家の力を借りて愛着障害を克服したいと思われる方は、当オフィスにお問い合せください。臨床心理士によるカウンセリングで支援をしたいと思います。

文献

この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。