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親からの過干渉と過保護によって生じるアダルトチルドレン

何事もうまくいかないのは、親が過干渉・過保護だったからではないか。機能不全家族のもとで過干渉・過保護な親に育てられ、大人になってからも生きづらさを感じる人に「アダルトチルドレン」と呼ばれる人がいます

この記事では親の過干渉と過保護からの心理的影響や、そこからの回復方法を説明します。過干渉・過保護な親の影響からの回復には、カウンセリングなどの支援も役立ちます。

1.過干渉・過保護な親とは

親子三人

過干渉・過保護な親はどんな親のことを指すのでしょうか。ここでは過干渉・過保護な親の定義や子どもの反応、過干渉・過保護の背景としての「機能不全家族」に触れ、最後に「親の愛情」との違いを説明します。

(1)過干渉・過保護な親はどんな親?

過干渉・過保護な親とは、適度な範囲を超えて子どもに関与し影響を及ぼす親のことです

常に子どもを気にかけて、子どものすることに口や手を出したり、子どもが自分で判断できる時期になっても子どもの判断を自分(親)の判断におきかえてしまったりします。

たとえば、子どもの宿題を途中で奪って自分でやってしまう、子どもの希望を無視して有名な学校の受験を強制する、子どもが訴える前になんでも先回りして用意する、といった振る舞いをします。さらには子どもが社会に出た後の職場や結婚後の家庭にまで口を出す場合もあります。

こういった過干渉・過保護型の親は、最も「毒親」といわれることの多い親でもあります

毒親については以下のページに詳細に解説しています。

(2)過干渉・過保護な親と「良い子」

過干渉・過保護な親に育てられた子どもはしばしば、親の期待に応えようとします

親のかける高い望みに沿おうと頑張って勉強し、親の望む大学に入る、といった例はよくみられます。いつも成績が良くて粘りづよさもある子どもの場合、親の期待は膨らみ続け、子どもは頑張ることをやめられなくなります。

反対に、親が子どもの成熟を望まない場合、子どもは「自分では何もできない」「小さくて細い」といった子どものままでいようとすることもあります。過干渉・過保護な親の子どもは親に従順な、親にとっての「良い子」となりやすいのです。

(3)過干渉・過保護な親と「機能不全家族」

過干渉・過保護な親の背景には「機能不全家族」と呼ばれる家族の状態があるかもしれません

機能不全家族は、健康な機能を果たしていない家族をいいます。親の病気や両親の間の暴言・暴力、性的虐待などによって、子どもの安心や安全が脅かされている家族です。機能不全家族には、子どもが親のケアをする親子の役割逆転や、家族のメンバーの間にプライバシーがない(境界がない)、といった特徴があります。

過干渉・過保護な親と従順な子どもの関係は、こうした機能不全家族のもとで生じている場合があります

機能不全家族についてさらに知りたい方は以下のページをご覧いただけたらと思います。

(4)過干渉・過保護と「親の愛情」の違い

年齢や状況によっては親の過保護は必要とも考えられ、一概に不健全とはいえません。では過干渉・過保護と、適度な「親の愛情」は、どう違うのでしょうか。

同じ出来事が過干渉・過保護になるか「親の愛情」になるかは、親子の関係性によります

たとえば受験勉強中の夜に親が夜食を用意した場合、子どもは「干渉」や「余計なお世話」ととらえるかもしれませんし、「ありがたい」ととらえるかもしれません。「干渉」と感じる度合いが強ければ、子どもは親に暴力を振るうかもしれません。

親が過干渉・過保護ととらえられるのは、親子が共依存関係にあるときです。共依存関係は、いつも片方が相手を自分に依存させて、相手がもともと持っているはずの人としての能力を無視するような関係のあり方です

依存したり、依存させたりと、その時によって役割を柔軟に変えられる関係であれば健全です。しかし、そうではなく、どちらかが一方的に相手を依存させ支配する共依存関係にあれば、それは過干渉・過保護といえるでしょう。

共依存については以下のページでも解説しています。

2.親からの過干渉・過保護によって生じる心理

骸骨と泣いている女性

ここでは過干渉・過保護な親をもつ子どもへの影響として心配される心理状態についてお伝えします。過干渉・過保護な親に育てられた子どもにはさまざまな心理的影響があり、それは大人になってからの生き方や対人関係にもあらわれるといわれます。

(1)大きすぎる、幼いナルシシズム

特に過保護な親に育てられた子どもは、大きすぎる、幼いナルシシズムを持ち続けるといわれます。

このナルシシズムは「誇大自己」とも呼ばれ、自らを神のように感じて、万能感や自己顕示性、思い通りにならないときには激しい怒りを示すことが特徴です。このナルシシズムの形は、幼い時期には誰にでもみられるものです。

通常の発達過程では、適度にナルシシズムが満たされるだけでなく、適度に挫折も味わって限界を知ることで、ナルシシズムは身の丈にあったサイズにおさまっていきます。しかし過保護な親に育てられると、ナルシシズムはいつも満たされて限界を知る機会を失います。その結果、成人してからも大きすぎる、幼いナルシシズムが残り続けるのです。

この大きすぎる幼いナルシシズムは大きな理想を実現する力の源にもなる一方で、厳しい現実に直面したときの傷つきも大きくなる、諸刃の剣です。この傷つきやすさが社会適応を難しくすることもあります

(2)自己を確立できない

過干渉・過保護な親に育てられた子どもは、自己を確立しにくくなるといわれます

通常の発達過程では、子どもの不満は満たされることも欲求不満が残ることもあります。子どもは欲求不満に苦しんだり、自己主張したりしながら自力で不満を解決する力を身につけ、自己や人格が育っていきます。また、社会的に適切でない行動は叱られることで、家の外での人間関係もむすびやすくなります。

しかし過干渉・過保護な親に育てられた場合、子どもは親と一体化したままです。

親の欲求を取り入れて生きてきたため、大人になってからも自分自身の感情や欲求を持ちにくく、自分が何をしたいのかわからない、適度に自己主張できない、といった状態に陥りやすいのです

(3)他人を責めるか、自分を責める

過干渉・過保護な親に育てられた子どもは、他人を責める気持ち(他罰感情)が強いことがあります

成長してからの就職や人間関係などがうまくいかなかったときに「うまくいかなかったのは全部親のせい」「親の判断が悪い」と親を非難したり、親に暴力を振るったりすることもあります。

一方で過干渉・過保護な親に育てられた子どもは、自分を責める気持ち(自罰感情、自責感)が強いこともあります。親の期待に応え、親の求める「いい子」を続けてきた自分がうまくいかず「いい子」の道から外れてしまったことに気づくと、罪悪感を抱えてしまうのです。

「親のせいだ」と親を責めるのは、そうしていないと自分を責めてしまうからだともいえるでしょう。

親を責めるか自分を責める、というあり方が他の人との関係にもあらわれたとき、他人を責めるか自分を責める形をとります。自責感が強すぎるときには、うつ病を発症することもあります。

(4)人間関係がうまくいかず、自分を活かせない

上に挙げた心理状態はすべて、人間関係での困難につながる可能性があります。ナルシシズムが大きすぎて幼いと、他人に尊大な態度をとったり、傷つくと激しい怒りを表したりしやすくなります。自己を確立できていないと、心にあるモヤモヤを適切に表せません。ようやく主張できても「自分、自分」と幼い主張の仕方となって周囲に受け入れられにくくなります。

一方的に他人を責めるか自分を責めるか、という関係のあり方も極端です。場合によっては自分を支えようとしてくれる人へも否定的に反応して傷つけてしまいます。

このように、親からの過干渉・過保護に影響された心理状態は、周囲と安定した人間関係を築きながら社会の中で自分を活かすことを難しくしかねません

3.親からの過干渉・過保護によって生じる問題と障害

泣いている少年の後ろ姿

過干渉・過保護な親から心配される影響にはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは心配される影響として、アダルトチルドレンと、精神医療の対象となる症状や障害を取り上げます。

(1)アダルトチルドレン

親からの過干渉・過保護から心配される影響のひとつに、アダルトチルドレンが挙げられます。

アダルトチルドレンは、アルコール依存を持つ親や虐待する親などの機能不全家族のもとで育ち、なんらかのトラウマを抱えていると考えられる成人のことです。子どもの頃から人の世話を焼こうとする大人びた子どもであることも多く、「偽親」とも呼ばれます

成人後のアダルトチルドレンには、以下のような特徴がみられます。

  • 見捨てられ不安から周囲の期待に沿おうとする
  • NOが言えない
  • 承認を求める気持ちが強い
  • しがみつきを愛情と混同する
  • 被害妄想を抱きやすい
  • 将来がないという感覚がある
  • 理由もなく絶望感や希死念慮があらわれる
  • 急に怒りが噴き出す

アダルトチルドレンは病名ではなく、当事者たちの多くは医療に期待せずに飲酒や非合法薬の摂取、ギャンブルなどへの依存に救いを求めていることも多いといわれます。なんらかの社会不適応が生じた場合には、精神医療の対象となります。

アダルトチルドレンについての詳しいことは以下のページをご参照ください。

(2)精神医療の対象になることも

親からの過干渉・過保護から生じる心理が不適応的な行動や症状としてあらわれたときは、精神医療の対象となります。不適応的な行動や症状のあらわれ方はさまざまですが、親の過干渉・過保護との関連が指摘されるものに、いわゆる摂食障害と依存症があります。

a.摂食障害

肥満への恐怖をもち、最低限必要な体重の維持を拒んだり(神経性やせ症)、あるいは大量の食べ物を食べては嘔吐を繰り返したり(神経性過食症)します

過干渉・過保護な親のもとで育った人が摂食障害にいたった場合、それは成熟の回避によるものといわれます。いつまでも子どものように小さな体でいたい無意識の願いから生まれる行動という解釈です。

摂食障害については以下のページをご覧ください。

b.依存症(addiction)

対象に過度にふけってやめられなくなる状態をいい、依存対象にはアルコールや薬物、ギャンブル、タバコ、買い物、食行動、性などがあります

過干渉・過保護な親のもとで育った人が自分なりに安定を求める策でもありますが、不適応状態に陥れば治療が必要となります。

依存症については以下のページに詳細が書いています。

c.愛着障害

愛着障害とは、幼少期に親や養育者との関係で安定的な関係が築けなかったときに生じる精神障害の一つです。反応性愛着障害と脱抑制性対人交流障害の2つが下位分類としてあります。ここで書いた過保護や過干渉によって愛着障害が生じる可能性があります。

愛着障害については以下のページに詳しくあります。

d.その他

親からの過干渉・過保護から生じる心理はほかにも、愛着障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)、脱毛、窃盗、社会恐怖、抑うつなど、さまざまな障害や症状としてあらわれる可能性があります。

4.過干渉・過保護な親の影響から解放されるには?

鳥を逃がす幼い僧侶

過干渉・過保護な親の影響から解放され、回復したいと思ったら、どのように対処したら良いのでしょうか。ここでは回復方法と、3つの変化の方向性をとりあげ、専門的援助についても説明します。

(1)回復方法:安全な場で体験を解放する

過干渉・過保護な親の影響から解放されるためには、安全な場での体験の解放が有効です

安全な場とは、自分の傷ついた体験を話しても否定されず、丸ごと受け入れられる場のことです。そこには信頼できる親しい友人や仲間、パートナーとの関係はもちろん、自助グループ、心理療法など専門的援助の場なども含まれます。

否定せずに受け止めてくれる人の立ち合いのもとで、自分の身に起きたことや味わってきた思いを語っていくことが大切です。その過程で抱えてきたモヤモヤは言語化され、だんだんと過去の体験が整理されていきます。パートナーとの関係の中では、幼い頃に足りなかった経験を取り戻せる場合もあるでしょう。

そうして心にゆとりができると、体験の否定的な面だけではなく新たな面にも目を向けられるようになります。

(2)変化の方向性① 視点や選択肢の幅を広げる

親や家族の価値観にしばられていたことや自分の感情や行動のパターンに気づけたら、それは変化の第一歩です

今の自分の立ち位置を知ることができたら、そこから離れた視点も持てるようにもなります。「こういう考え方もある」「こういう見方もある」と視点や選択肢が増えていけば、人生の自由度や豊かさも増していくでしょう。

その過程で、親への見方が変化する可能性もあります。

(3)変化の方向性② 罪悪感をやわらげ、否定的なとらえ方をやめる

過干渉・過保護な親に育てられた人は、自分や周囲の人に否定的な思いを抱きがちです。そこには親の期待に応えられない(応えられなかった)罪悪感が含まれます。

親との関係から取り込まれた自分を責める心の声が他の人との関係にも影響し、対人関係をむずかしくしてしまうのです。

この罪悪感をやわらげることが、自分を責めたり、他人を責めたりしすぎるあり方を変えるためには大切です。自分への否定的な見方がやわらいで楽になり「自分にもできることがある」と気づけるようにもなれば、自然と他人とも付き合いやすくなるでしょう

(4)変化の方向性③ 新たな人間関係の中で生きていけるようになる

安全な場で自分を解放し、それまでの価値観から離れ、視点や選択肢の幅を広げ、自分や他人を責めることが減ります。こうした変化が徐々に進んでいくと、他人との関係の中で生きやすくなります

一方的に他者に依存したり、支配したりしていた共依存関係が、柔軟に他者に依存したり自力でやったりできるように変わっていきます。その中で自分への否定的な見方もやわらいで「自分はこれでいい」と思えるようにもなるでしょう。そうして自分の持っている力に気づき、新たな人間関係を作れるようになることで、回復への道が開けます。

(5)専門的援助も活用する

上に挙げたような傷と向き合い回復していくプロセスは簡単ではありません。友人やパートナーとの間では、近しい関係だからこそ難しさを感じることもあるでしょう。お互いが苦しくなってしまう場合も、パートナーが受け止めきれずに精神症状を呈す場合もあります。

安全に過去の傷と向き合う作業を行うために、第三者の手を借りるのも有効です。精神科での薬物療法や心理療法のほか、アダルトチルドレン・アノニマス(ACA)などの自助グループ、カウンセリングも活用できます。

回復の過程を支える安全な場として、専門的な援助に頼る方法も考えてみてください。

5.親との関係について専門家に相談する

男性と診察をする医師

親からの過干渉と過保護によって生じる心理や心配される影響、そこからの回復について説明しました。過干渉や過保護な親からの影響が根深い場合は、大人になってからも生きづらさを抱えやすくなります。親の影響から解放されたいと思ったら、安全な援助の場としてカウンセリングもぜひご検討ください。

(株)心理オフィスKではアダルトチルドレンや親との関係に悩む方のカウンセリングを行っています。臨床心理士や公認心理師などの専門家に相談したい、カウンセリングを受けたいという方は以下のボタンからお申し込みください

6.参考文献