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心理臨床の基礎としての個人カウンセリング

 心理臨床学研究35-1が届きました。その中で、成田善弘先生が「個人心理療法は臨床の要である」というタイトルで巻頭言を書いていました。非常に共感できる内容でした。その巻頭言について思ったことを書きます。

目次

  1. 心理臨床の基礎は個人カウンセリング
  2. 心的距離が短くなることの破壊的側面
  3. AIによるカウンセリング
  4. 生身の人間との関係性による効果

1 心理臨床の基礎は個人カウンセリング

 伝統だから、ということではないですが、現在の心理臨床という営みは個人カウンセリングから端を発しています。その根本であり、基礎でもある個人カウンセリングの経験は心理臨床家にとっては必須だと思います。

 個人カウンセリングを1人の患者クライエントと継続的に行うことで、その患者クライエントのより本質的なところに触れることができるのは、ある程度の経験のある心理臨床家なら同意される事柄であると思います。単純に、1回だけしか会わないよりも、多数の中の1人として会うだけよりも、1対1の関係を継続して会う方が気心が知れるというのは日常の経験でもよくあることでしょう。

 それは社会性という殻の奥にある本心に触れることになるからです。別の表現をするなら、よりパーソナルな内面に招き入れてもらえる、とでも言えましょう。ウィニコットなら偽りの自己の奥にある本当の自己に出会うということになるかもしれません。

2 心的距離が短くなることの破壊的側面

 しかし、気心がしれて、親密になれて、良い関係が築ける、という単純で、全くポジティブなものだけではないでしょう。心的距離が近くなればなるほど、憎しみや依存も露呈し、それによって非常に破壊的な事態になることも稀ではありません。

 本音と本音がぶつかって、お互いに傷付け合う、という出来事も日常的にはよくある話かと思います。それは個人カウンセリングでも起こりえます。それを転移という文脈から理解し、その取り扱いを通して、個人カウンセリングを展開させるのは精神分析的、力動的なカウンセリングの方法になるのでしょう。

 ただ、こうした個人カウンセリングに価値を置かず、それを基礎ともしない、という心理臨床家は最近増えているように思いますし、そうした臨床観や価値観に対して一定の了解はできます。

 個人カウンセリングは知識体系ではなく、体験と経験の積み重ねで感じるものなので、そもそもの経験と体験がなければ、理解しにくいものです。

3 AIによるカウンセリング

 人の本質や機微に触れない心理臨床のあり方も現代的といえばそうなのかもしれません。最近ではAIに仕事がとって変わられるという話をよく聞きます。AIでもできる心理臨床も現代的で現実味がありそうです。最近では認知行動療法のプログラムをPCで走らせて実施するという研究や実践もあるそうです。認知行動療法であればAIを待たなくても早々と取って変わられるのかもしれません。

 認知行動療法自体が誰がしても同じ結果になるように、という理念を持っているので、AIでの実施に親和性があるのでしょう。こうなると必要なのは心理臨床家ではなく、優秀なプログラマーになりそうです。

 今後、十数年、数十年、数百年と時代が経ると価値観も変わるかもしれませんが、まだ機械の手によるよりも、人間の手によることに信頼を置く価値観がありそうです。自動車の運転などは、もう既にAIなどによる自動運転の方が人間の運転よりもずっと安全である、と聞いたことがあります。しかし、どこか我々の心の中に自動車の運転をAIに委ねることに抵抗感があるようです。

 認知能力の低下した高齢者の運転、酔っ払い運転、暴走行為は日常的に多発しています。そこまでではなくても、運転中に眠気、疲労、心的余裕の無さにより、危険運転になってしまうことも多々あります。そうした人間の運転よりはAIや機械の方が安全なのは明らかです。その抵抗感のため、法整備がまだという理屈をつけ、自動運転を実現させることを遅らせるという感情的、非論理的な判断をしてしまってます。

 個人カウンセリングという営みも、もしかしたらAIで出来るにも関わらず、AIの方が効果的にも関わらず、人間のカウンセラーによる個人カウンセリングを選ぶ患者クライエントも多いかもしれません。

4 生身の人間との関係性による効果

 そうした選択を非論理的と書きましたが、それは否定的な意味合いだけではありません。生身の人間に対する信頼や希望、愛着という繋がりに価値を感じ、重きを置くという非常に人間的な何かがあるとも言えます。

 最近の精神分析では関係性に重きを置くことが増えています。関係そのものに治療的効果があるとする関係学派はその典型です。それは乳児が親(養育者)との関係で成長することと無関係ではなさそうです。乳児は物理的な栄養のみで成長するのではなく、心の触れ合いを通して、心理的な栄養を吸収し、それによって成長します。比喩的ですが、個人カウンセリングはそうした乳児と親(養育者)の関係とパラレルな位置にあります。

 そうした個人カウンセリングに価値や基礎を置き、個人カウンセリングを提供することに意味を見出すことは、心理臨床の本質と少なからず関連はあるのだろうと思います。

論考   2017/06/01   北川 清一郎

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