教育分析とは、臨床心理士や対人援助職、カウンセラーを職業としている人が取り組む訓練のひとつです。教育分析の中で、ベテランの臨床家からカウンセリングや精神分析を受け、自分のことを振り返ります。それによってより深みのある臨床ができるようになります。
ここではそうした教育分析について解説します。
1.教育分析とは
教育分析とは臨床心理士や公認心理師などのカウンセラーや、その他の対人援助職の人が臨床の技量を向上させることを目的に、自分自身がカウンセリングや心理療法、精神分析を受けることを言います。教育分析によってカウンセラーが自分自身の葛藤やコンプレックス、性格傾向、無意識などを理解し、コントロールできるようになり、カウンセリングの中でカウンセラーの歪みがクライエントに悪影響を与えないようにすることができます。また、カウンセラー自身が教育分析のなかで自身の問題を解決することにより、豊かで、自由で、ポジティブな関りができるようになります。
臨床心理士などのカウンセラーはクライエントに対してカウンセリングを行います。しかし、カウンセリングを受けたことがないカウンセラーがカウンセリングを行えるのでしょうか。例えば、美味い鮨を食べたことがない人が鮨職人になれません。フランス料理を食べたことのない人がフランス料理人になれません。これと同じようにカウンセラーも自分自身がカウンセリングを受けることが必要になります。
カウンセリングはカウンセリングの知識と技術があればできるものではありません。カウンセラー自身の心を使い、心を差し出し、カウンセラーの心とクライエントの心が触れ合うところでカウンセリングが進展します。つまり、カウンセラーの心はカウンセリングにとって必要不可欠なものなのです。
ということはカウンセラーは自分の心を常に磨く必要が出てきます。もしくは、自身の心がどうなっているのかについて理解を深めておかねばなりません。
こうした取り組みの一つが教育分析になります。
教育分析ではカウンセラー自身の生い立ちや対人関係、家族歴などを振り返り、カウンセラー自身の無意識を探索していきます。こうしたプロセスを経ることによって自分自身を深く理解していきます。
カウンセラー自身の葛藤やコンプレックスを直視することもありますので、時には非常に苦しいこともあるかもしれません。しかし、そうした苦しみこそ、人間の根源的な何かに触れているといえるかもしれません。
そして、このような取り組みにより、カウンセラー自身の情緒や言動、振る舞いといった逆転移をある程度コントロールしていくことができます。また逆転移をクライエントさん理解の一助として役立てていけるようになります。
2.よくある相談の例(モデルケース)
30歳代の男性
彼の幼少期に父親を車の事故で亡くなっています。その後、母親は再婚し、異父弟が下にできました。子どもの頃、彼は非常に良い子で、両親を困らせることはほとんどありませんでした。父親違いの弟の面倒をみて、両親は助けられていました。小学校や中学校では優等生で、人の嫌がることや面倒に思うことを率先して引き受けており、そのため教師からは一目置かれていました。しかし、そのこともあって、時折いじめに合うこともありました。高校や大学は両親に金銭的な負担をかけたくないということで公立高校、国立大学に進みました。
大学を卒業した後は一般就職をしましたが、仕事上の激務や上司からのパワハラがあり、心身の不調をきたし、休職したこともありました。その時に精神的な健康の大切さを痛感し、臨床心理士になりたいと考えるようになりました。彼は仕事をしながら夜間の大学院で臨床心理学を学び、修了しました。修了と同時に仕事を辞め、精神科クリニックで職を得ました。そこで10年ほど経験を積み、徐々にカウンセリングや心理療法のスキルは向上していきました。しかし、一方で時にクライエントに過度に感情移入をしてしまい、巻き込まれてしまうこともありました。
こうした問題が顕著になってきたため、教育分析の必要性を感じました。そして通いやすいところで教育分析を探し、週2回のカウチを用いた自由連想による教育分析を受けるようになりました。最初の数回は生育歴や病歴のヒアリングがあり、その後に実際の教育分析に入っていきました。教育分析では大学卒業後の職場不適応の話が当初は多くしていました。そこで内に秘めていた会社や上司に対する怒りを徐々に口にするようになりました。その過程で彼は自身には苦しいことや辛いことを我慢しやすい傾向に気付いて行きました。さらに子どもの頃の良い子ちゃんでいることも、その我慢が関係していることが明らかになっていきました。そして、その我慢の根っこには父親の事故死やその際の母親の落ち込みがあることを彼は思い至りました。彼の我慢は母親をこれ以上苦しめないための方策だったようでした。ここまで至るのに数年にわたりましたが、こうした過去の問題からようやく解放されていき、それにともなって心理臨床の仕事でも徐々にクライエントに巻き込まれることなく、しかし、親身に接することができるようになっていきました。
3.教育分析とスーパービジョンとの違いとは
教育分析に近いものとしてスーパービジョンがあります。両者はカウンセラーとしての訓練ということでは同じですが、中身は全くの別物です。教育分析では自分自身の心の問題や過去の問題について取り扱います。一方で、スーパービジョンでは自分自身の問題は横に置いておき、クライエントとのカウンセリング・心理療法についてスーパーバイザーと話し合い、カウンセリングの技量を直接的に向上させていきます。
モデルケースは教育分析ということもあって、クライエントとのカウンセリングについてはほとんど触れることはなく、彼自身の生い立ちの話がメインとなっていました。
教育分析とスーパービジョンの違いについての詳細は以下をご覧ください。
4.教育分析の進め方
こうした教育分析を当オフィスでは提供しています。当オフィスの教育分析は基本的には精神分析的心理療法を行います。原則的に週1回以上の頻度で、決められた曜日と時間にお会いします。時には週2回以上で行うことも稀ではありません。頻度は基本的には多ければ多いほどより深く自分のことを知ることができます。
教育分析の初回とその後の数回はカウンセリング・心理療法と同様に、教育分析を希望した動機などを確認し、生育歴や病歴、家族歴などを聞かせてもらいます。いわゆるアセスメントです。
その中でどういう人柄で、どういう課題や葛藤を抱えているのかについて共有します。教育分析の場合にはカウンセリング・心理療法と違って、何か日常的な困り事が強かったり、精神障害にかかっていたりすることは少ないようです。基本的には職業生活・学生生活を円滑に送っていることが多いようです。
それでも、課題や葛藤がないわけではありません。そうした課題や葛藤を共有し、そこを取り扱っていき、解決していくことを目指すことが多いです。
その後は継続的に教育分析を地道に続けていき、繰り返し繰り返し自身のことについて理解を深め、課題になっていることに取り組み、自身の心に触れていく作業を続けます。そのプロセスは時には数年かかることもあります。それだけ人間の心は奥深いのだ、と理解できます。
モデルケースでも、最初の数回は生育歴や病歴の聴取があり、それに基づいてアセスメントがありました。そして、その後は徐々に教育分析に入っていき、モデルケースは自分自身の過去の生い立ちについて話し、整理していきました。
5.教育分析の料金
当オフィスで行っている教育分析の料金については以下の通りです。
カウンセリング・心理療法の料金と違うところとして、大学院生や修了後1年以内の方については半額にしています。それは大学院を修了したばかりの人は給料も安いことが多く、しかし、様々な個人的な問題を抱えていることもあり、教育分析をある程度安価で受けれることが必要であるという理由からです。
そして、1年後には正規の料金になります。
対面 | オンライン | |
---|---|---|
初回 | 半額 | |
専門家 | 1回50分7,000円 | 1回50分12,000円 |
大学院生と、大学院修了の後1年以内の方は1年間に限って | 1回50分3,500円 | 1回50分6,000円 |
6.教育分析を受けたい人へ
教育分析はカウンセラーにとって非常に重要な訓練です。もし教育分析をうけるタイミングがあれば逃さないようにすると良いでしょう。時間や費用などの負担は確かにそれなりにあるかと思いますが、その負担を差し引いたとしても今後の臨床に多くの実りをもたらしてくれるでしょう。
当オフィスで教育分析を受けたいと希望する方は以下の訓練・申し込みのページからご連絡ください。