スーパービジョン(スーパーヴィジョン)はカウンセラーの訓練の一つです。そのスーパービジョンのについてを解説しています。
目次
1.スーパービジョンの概要
(1)スーパービジョンとは
スーパービジョンとはカウンセラーやカウンセラーを志す研修生が受ける訓練の内の一つです。スーパービジョンを受ける人をスーパーバイジーといい、スーパービジョンをする指導者をスーパーバイザーといいます。スーパービジョンでは、スーパーバイジーが担当したケースのカウンセリングの記録などを元に、スーパーバイザーがカウンセリングの進め方やケースの理解の仕方を指導します。
- スーパーバイジー:指導を受ける人
- スーパーバイザー:指導をする人
スーパービジョンではスーパーバイジーがカウンセラーとして成長することを目指します。
また、クライエントの不利益になることを避けるためにスーパーバイザーがスーパーバイジーをコントロールすることもあります。
(2)よくある相談の例(モデルケース)
20歳代の女性
小さい頃から世話焼きで、クラスの中で困っている子がいると、助けたりすることも多かったようです。小中学校での将来の夢は看護師さんや獣医さんでした。高校の職業体験の授業でカウンセラーという仕事があることを知り、彼女はカウンセラーになりたいと思うようになりました。そして、大学に進学し、心理学を学びました。大学では順調に単位を取得していきました。その後、臨床心理士養成の大学院に進学し、臨床心理学を修了しました。
大学院を修了後は先輩からの紹介で、精神科クリニックや教育センターで掛け持ち非常勤で働くことになりました。その中でも精神科クリニックでは重たいケースが多く、大学院で学んだように思うようにカウンセリングがうまく行きませんでした。大学院でスーパービジョンを受けたことがありましたが、そこではあまり良い体験ではありませんでした。そのためスーパービジョンを受けることに躊躇する気持ちもありました。しかし、それ以上にケースの大変さがありました。そこで不安はありつつ、スーパービジョンを受けようと思い、ネットで検索して調べました。すると家の近くの開業カウンセリングルームでスーパービジョンが受けれるようでした。さらに、そこは大学院を修了したばかりの人には料金が半額になるシステムがあり、それが決め手になりました。
彼女はスーパービジョンを申し込みし、そして、ケースをまとめて、スーパービジョンに行きました。スーパーバイザーは特に厳しいことは言いませんでした。また指導という感じでもなく、ケースについて一緒にあれこれと考えるというようなスタイルで、彼女はリラックスしてスーパービジョンを受けることができました。そうしたスーパービジョンを通して、ケースの理解が進むと同時に、スーパーバイザーに精神的にも支えられているような感覚を持つこともありました。仕事は忙しく、また担当するケースはあいかわらず大変でしたが、徐々に気持ちに余裕を持ちながらカウンセリングができるようになっていきました。時に彼女は自身の行っているカウンセリングの中でもスーパーバイザーが心の中にいるような感覚を持つこともありました。
(3)スーパービジョンの歴史
スーパービジョンは100年ほど前に精神分析の分野で始まりました。現在ではスーパービジョンを受けたことがある臨床心理士は全体の85.7%にも上ります。
スーパービジョンの歴史の詳細は以下のページをご覧ください。
(4)スーパービジョンの効果
スーパービジョンを受けることで得られる効果は、設定する目標や、どのような悩みを解決したいかで異なりますが、以下のような3つの効果が期待できるでしょう。
- クライエントの理解が深まる
- 技法や理論を学べる
- 精神的に安定できる
モデルケースではスーパービジョンを通して、クライエントの理解が深まり、また精神的にも安定していきました。特に初心者の頃はこうした効果は非常に重要でしょう。そして、経験が増え、中堅になっていくごとに技法や理論を学ぶという要素も増えていくかもしれません。
スーパービジョンの効果についての詳細は以下のページをご覧ください。
(5)スーパーバイジーとスーパーバイザーとの関係性
スーパーバイジーとスーパーバイザーとの関係は時として非常に密になることがあります。また、スーパービジョンでの関係性が、スーパーバイジーが行っているカウンセリングの中で同様に展開することもあります。これをパラレルプロセスと言います。そして、こうした体験を経て、スーパーバイジーはスーパーバイザー機能を心の中に取り入れ、内在化し、成長していきます。
モデルケースでも、スーパーバイザーが心の中に内在化されつつあるようです。
スーパーバイジーとスーパーバイザーとの関係性についての詳細は以下のページをご覧ください。
(6)スーパービジョンへの抵抗
スーパービジョンは臨床家としての成長にとって必須の訓練ですが、しかし、そのスーパービジョンを恐れ、何かと理由をつけて受けないようにしてしまうこともあります。スーパービジョンで傷ついてしまうのではないかといった不安が関係しているようです。
モデルケースでも当初はスーパービジョンを受けることへの不安や抵抗感はありましたが、それでも勇気もをもってスーパービジョンを受けるようになりました。
スーパービジョンへの抵抗については以下のページをご覧ください。
(7)スーパービジョンと倫理
スーパービジョンにはカウンセリングと同様に倫理があります。例えば、スーパーバイザーとスーパーバイジーはスーパービジョン関係以外の関係を持ってはいけません。以外の関係を持ってしまうと二重関係、多重関係という倫理に抵触することになります。
モデルケースではこうした倫理違反はありませんでしたが、関係が密になればなるほど、倫理違反が起こることもあるので注意は必要です。
スーパービジョンと倫理についての詳細は以下のページをご覧ください。
(8)スーパービジョンと教育分析の共通点と相違点
スーパービジョンと教育分析は時に混同されてしまいますが、この二つは別物です。一番の違いは、スーパービジョンでは検討する対象がケースやクライエントである一方、教育分析では臨床家自身の内面や個人史などです。
モデルケースではスーパービジョンと教育分析の違いについては知っていたようで、特にそこでの混乱や混同はありませんでした。
スーパービジョンと教育分析の共通点と相違点については以下のページに詳細が書かれています。
2.当オフィスでのスーパービジョン
当オフィスで行っているスーパービジョンについて説明いたします。
(1)スーパービジョンの進め方
スーパーバイジーがスーパービジョンに期待することやスーパービジョンで達成したいことを伺い、スーパービジョンで何に取り組むのかを話し合います。その上で、スーパービジョンの時間や曜日、頻度、検討するケースなどを決めます。
スーパーバイジーの希望にもよりますが、スーパービジョンでは以下のようなステップで進んでいくでしょう。
- 【ステップ1】精神的に安定して、クライエントさんにカウンセリングを実施できるようになる
- 【ステップ2】クライエントさんに対する見立てやアセスメントが深まり、より妥当なものになる
- 【ステップ3】行き当たりばったりのカウンセリングではなく、目標と根拠をもったカウンセリングが実施できるようになる
- 【ステップ4】カウンセリングで行き詰ったり、困難に直面したとしてもスーパーバイジーが一人で対処できるようになる
このようなステップ1~4が自分一人で達成できるようになるとスーパービジョンも卒業になるでしょう。その期間は人によっても違いますが、数ヶ月から数年ぐらいは必要かもしれません。
(2)スーパーバイザーとして心掛けていること
スーパービジョンを実施する上で、スーパーバイザーとして心掛けていることはいくつかあります。
- スーパービジョン関係は契約に基づいた対等な関係であること
- 二重関係の禁止や私的使用の禁止などの倫理基準を遵守すること
- 教育分析との線引きを明確にし、スーパーバイジーの個人的な病理を扱わないこと
- スーパーバイジーが主体的に考えて、判断し、実行していけるように援助すること
- スーパーバイジーの成長を助けるため、スーパーバイザーも自己研鑽に日々努めること
以上のようなことを心掛けながらスーパービジョンを行っています。
(3)スーパービジョンの料金
当オフィスのスーパービジョンは対面とオンラインがあります。以下の表にまとめました。
形式 | 対象 | 初回料金 | 継続料金 |
---|---|---|---|
対面 | 一般 | 3,500円 | 7,000円 |
院生・卒後1年 | 1,500円 | 3,500円 | |
オンライン | 一般 | 6,000円 | 12,000円 |
院生・卒後1年 | 3,000円 | 6,000円 |
3.スーパービジョンを受けたい方へ
スーパービジョンについてまとめてみました。スーパービジョンはカウンセラーの訓練としては必須のもので、自己研鑽の一つとして重要な位置付けになっています。(株)心理オフィスKではそうしたスーパービジョンを受けることができます。
スーパービジョンを受けたい方は以下のボタンからお申し込みください。
4.スーパービジョンについてのよくある質問
スーパービジョンでよくある質問をまとめました。お申し込みの参考にしてください。
スーパービジョンの狭い定義では、一つのケースを一定の頻度で継続的に検討し続けることを指します。一方で、1回限りの単発の指導についてはコンサルテーションといい、分けて考えます。広い定義では1回限りの単発のコンサルテーションも含めてスーパービジョンということもあります。
まだ訓練システムが整っていなかった20世紀前半ではスーパービジョンと教育分析の区別が非常に曖昧でした。教育分析の中でスーパーバイジーの関わっているケースに対して助言をしたり、スーパービジョンの中でスーパーバイジーの葛藤やコンプレックス、病理までも取り扱ったりすることもあったようです。
現代ではスーパービジョンと教育分析の役割がはっきりとするようになってきたことから、スーパーバイジーの葛藤やコンプレックス、病理については教育分析で扱い、スーパービジョンでは基本的にはケースについての見立てや対応について検討することを主とするようになりました。
詳細は以下をご覧ください。
スーパービジョンをスーパーバイジーとスーパーバイザーが1対1で行う場合を個人スーパービジョンといい、1人のスーパーバイザーに対して、複数のスーパーバイジーが受ける場合をグループスーパービジョンと言います。
●個人スーパービジョン
- メリット
- 常に焦点は自身のケースになるため、より詳細にケースを検討することができます。また、1対1の関係のため、周りに気を使う必要はないでしょう。
- デメリット
- スーパーバイザーとの関係が過度に濃密になり、スーパーバイザーに対する複雑な感情や葛藤を感じることもあるかもしれません。また、時にはスーパーバイザーの考えを鵜呑みにしてしまい、批判的な思考を阻害してしまうこともあるでしょう。
●グループスーパービジョン
- メリット
- スーパーバイザー以外からの意見や考えを参考にすることができるところが長所です。また、スーパーバイジー同士の横のつながりが得られるので、そうしたことは精神的な支えになりえます。
- デメリット
- 1人のスーパーバイザーをめぐって兄弟姉妹葛藤に近い情緒が賦活することもあり、スーパーバイジー間で競争的・競合的な関係になってしまうこともあります。また、単純にスーパーバイジーが複数いるので、自身のケースを検討する機会が減ってしまいます。
個人スーパービジョンとグループスーパービジョンのどちらが良いとは一概に判断はできませんが、両方ともそれぞれメリットとデメリットがあり、使い分けることが良いでしょう。もしくは、個人とグループの両方のスーパービジョンを同時並行で受けることにより、相互に客観視できるかもしれません。
スーパービジョンの頻度については、カウンセリングと同様に様々です。週に1回、2週間に1回、月に1回、年に数回、オンデマンドなどがあります。ちなみにオンデマンドとは必要に応じて、必要な時に、必要な分だけ適宜受けることを言います。頻度が高くなればなるほど、カウンセリングの1セッションを詳細に検討することができるでしょう。頻度が低くなればなるほど、数セッションを1回で検討したり、もしくは数あるセッションの中から選んで検討するということになります。当然、きめ細かい検討をしたいのであれば、頻度を高くしていく必要があります。
頻度についても、契約の元で相談して決めることになりますが、スーパーバイジーが初心者の頃ほど頻度は高くする方が良いと思います。スーパーバイジーの経験が増えていったり、スーパービジョン関係が長くなっていくと頻度を減らしたりすることもあるようです。
スーパービジョンを行う時間も様々です。個人スーパービジョンでは45分や50分というのが多いかもしれません。時に30分やそれ以下の短い時間で簡単に要点だけを素早くスーパービジョンを行うこともあります。
グループスーパービジョンでは、個人スーパービジョンよりもやや多めの時間を取ることがあります。おそらく、他のスーパーバイジーの発言や討論なども含まれるからでしょう。90分や120分という長い時間でスーパービジョンを行うこともあるでしょう。ただ、それ以上の3時間も4時間も行うことは稀かもしれません。人間の集中力が持たないということと、ほとんどの場合120分(2時間)程度でそれなりに検討し尽くすことができるからです。
期間については人にもよりますが、数ヶ月から数年ほどあるとじっくりと向き合えるでしょう。
スーパーバイザーとスーパーバイジーとの関係性は非常に重要です。両者が同じ職場の中の同僚や上司部下との関係のこともあります。職場内スーパービジョンと呼ばれることもあります。一方で、職場とは全く無関係に、外部の人とスーパービジョンを行うこともあります。時に職場外スーパービジョンと呼ばれます。
●職場内のスーパービジョン
- メリット
- 職場内でのスーパービジョンなので、外部のように仕事外の時間を用意をする必要もなく、勤務時間中にスーパービジョンを受けることができ、時間の節約になります。また、スーパービジョンにかかる料金が無料であったり、安価だったりすることもあるので、それは助かるでしょう。
- デメリット
- 上司部下や同僚という関係性が先にあるため、スーパーバイジーが率直にケースのことを開示しにくい状況が起こりえます。それは職場内での評価や査定に響くのではないかという不安や心配があるからでしょう。そのため、スーパーバイジーは意識的にも無意識的にもケースのプロセスの良いところを誇張し、悪いところやダメなところを削除したり、過小評価して報告してしまいがちです。そうなるとスーパービジョンに大切な良いところも悪いところも率直に話し合うということが阻害されてしまいます。
●外部のスーパービジョン
- メリット
- 基本的には対等な契約関係の中で行われることが多いです。また日常的な接点がスーパーバイザーとスーパーバイジーとの間でないので、遠慮なく、率直に話をすることが比較的しやすいでしょう。
- デメリット
- 外部で受けるため、仕事の時間以外を用意し、また時には遠方まで時間をかけて、交通費をかけて通わねばならないこともあります。そして、ほとんどの場合は料金は正規かそれに近い設定になるので、時として非常に高額の費用がかかります。
スーパーバイザーの探し方にはいくつかあります。それを以下に列挙します。
- 指導教官にお願いする
- 少なくとも大学院で2年間は接しているので、ある程度の人柄や臨床観は知っているので、お願いしやすいでしょう。
- 紹介してもらう
- 紹介者にもよりますが、適切で、相性の合いそうなスーパーバイザーを紹介してもらえるでしょう。紹介されるスーパーバイザーの方も、紹介者がいるということで安心してスーパーバイジーを受け入れることができます。
- 学会や研究会で見つける
- 学会で発表したり、コメントしたり、登壇している人の発言を聞き、刺激を受けたり、共鳴したり、刺激を受けたりした人がいれば、声をかけてスーパービジョンをお願いしても良いでしょう。
- 論文や書籍から見つける
- 読んだ論文や書籍の執筆者からスーパービジョンを受けたいと思うこともあります。勇気を出して、記載されている所属先に連絡を思い切って取ると良いでしょう。
- ネットで検索する
- ネットの情報は虚偽が含まれていたり、身元が怪しい場合もあったりします。スーパーバイザーが臨床心理士などの資格を持っているかどうか、どういう学会に所属し、どういう訓練を積んできたのか、臨床経験はどれぐらいなのか、などをしっかりと確認する方が良いでしょう。
良いスーパーバイザーの条件にはいくつかあるので、それを列挙します。
- 学歴:修士や博士を修了しているかどうか。研究の視点を持っているかどうかは大切。
- 資格:臨床心理士や精神科医などの資格を持っているかどうか。
- 訓練:どういう訓練をこれまで受けてきたのか。特にスーパーバイザー自身がスーパービジョンを受けたり、個人分析を受けたりしてきたかどうか。
- 学会:どういう学会に所属しているのか。
- 研究:論文を執筆しているか、学会発表をしているか。
- 経験:これまでの臨床経験の年数やどういう現場で経験を積んできたのか。
- 実践:スーパーバイザーが自身でも現在進行形で臨床実践を行っているか。
- 指導:これまでスーパービジョンをしてきたことがあるか。その経験数はどれぐらいか。
主には上記のような目安はあるかもしれません。ただ、どれぐらいの経験があればスーパーバイザーとして適格なのかという分かりやすい基準があるわけでもありません。また経験年数は多い方が良いだろうが、多ければそれで良いといったことでもありません。経験年数が長いだけで硬直化した思考に陥っている人も中にはいます。
スーパーバイザーとしての絶対的な条件や基準はありませんが、上記のことを参考にしてスーパーバイザーを探すと良いでしょう。また、スーパーバイザーに直接、どういう経歴でどういう訓練を受けたのかは直接聞いても良いと思います。真摯なスーパーバイザーであれば答えてくれるでしょう。答えてくれないのであれば、それは避けた方が良いというサインです。
また、日本精神分析学会などの一部の学術団体や職能団体ではスーパーバイザーの資格を認定しています。こうしたところから探してみても良いでしょう。