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トラウマが脳や記憶に与える影響とは

「トラウマ」という言葉は、割と一般的に使われる言葉となりました。「心」というと、なんとなく目に見えないもの、というイメージを抱きがちですが、「心=脳」なのです。心の傷を負う、ということは、脳がダメージを受けるということを意味します。

トラウマ体験をしたときには、実際に脳に変化が起こると言われているくらいです。ここではトラウマが脳や記憶に与える影響について、解説します。

1.トラウマとは

駅のホームで泣く女性

トラウマ(torauma)とは、心的外傷と訳します。つまり、心にできた傷のことです。トラウマを負うほどの経験を「トラウマ体験」と呼びます。

トラウマについての詳細は以下のページをご覧ください。

2.トラウマを負った時に起こる心の病気はPTSD

机で泣いている女性

トラウマ体験後に起こる心の病気であるPTSDについて解説します。

(1)PTSDとは

PTSDとは、「心的外傷後ストレス障害」と言います。Post-Toraumatic Stress Disorderの略です。

人の心は、事故、自然災害、暴力、性被害などの命が脅かされるような体験を自分自身が経験した場合にPTSDになることがあります。それだけではなく、間接的にトラウマ体験をした場合にもPTSDになることがあるのです。

上記のような場面を目撃した、親しい人がそのような経験をしたという事実を知ったような場合がそれにあたります。

また、自然災害や事故など1回のトラウマ体験によるものを「単純性PTSD」と呼び、虐待などのように繰り返し継続的にトラウマ体験を経験した場合は「複雑性PTSD」と呼びます

複雑性PTSDについては以下に詳しく解説しています。

(2)PTSDの症状

PTSDの代表的な症状は、再体験(侵入)症状、過覚醒症状、回避・精神麻痺症状です

再体験(侵入)症状とは文字通り、トラウマ体験と似たような状況や感覚刺激があったときに、あたかも今、体験しているかのように記憶がよみがえる現象のことです。フラッシュバックや悪夢のような形で繰り返され、トラウマ体験を再体験します。フラッシュバックや悪夢があるときには、動悸や発汗などの生理的反応も起こるのが特徴です。

トラウマ体験のときに見えた景色が目の前に見え、感情や感覚が鮮明に蘇りますので、フラッシュバックを起こしている本人は強い恐怖感に襲われ、激しく取り乱し、パニックになることもあります。

過覚醒症状とは、ちょっとした物音などに過敏に反応するような緊張感が強い状態です。強い緊張感から、イライラや不眠、集中できないなどの症状が出ることもあります。

回避とは、トラウマ体験を思い出させるような状況や刺激を避けることです。

精神麻痺症状とは、感情の反応が乏しくなり感覚が麻痺したような状態になったり、トラウマ体験の記憶がなくなったり、不安、うつ、自己否定感が強くなるなど、一見うつ病のような症状が出たりすることもあります。

3.トラウマが脳に与える影響

街灯の下の女性

トラウマが脳に与える影響は、多岐にわたります。代表的な症状である、フラッシュバックが起こるメカニズムについて解説し、トラウマ体験が脳に与える影響について触れていきます。

(1)偏桃体と恐怖条件付け

まず、トラウマ体験をすると、脳の扁桃体という場所の機能が高まり、「恐怖条件付け」が引き起こされることです。扁桃体は、不安や恐怖などに関連した場所ですので、扁桃体の機能が高まるということは、不安や恐怖の感情を感じやすくなる可能性があると言われています。

日常の記憶は、時間が経つとだんだんと薄れていきますが、PTSDになると、トラウマ体験の記憶は時間が経過しても薄れることはありません。

PTSDになった人では、脳の前頭前野と呼ばれる場所の機能低下が起こり、トラウマ体験の記憶を忘れていくプロセスがうまく機能しなくなると言われています。そのために、PTSDになった人では、トラウマ体験の記憶は時間が経っても薄れていかないのです。

(2)海馬の萎縮

さらに、PTSDになった人では、海馬の萎縮が見られたという報告が複数あります。海馬というのは、脳の中で記憶の保持、強化を司る場所です。海馬が萎縮するということは、記憶に関する機能不全が起こる可能性があることを意味します。

海馬の機能不全により、記憶を再生する機能に影響を与え、トラウマ体験の鮮明な記憶が繰り返し再生されてしまうこと、これがフラッシュバックを引き起こすということなのです

このように見ていくと、フラッシュバックは、トラウマ体験による脳への影響により引き起こされる症状であるということがおわかりいただけることでしょう。

ちなみにフラッシュバックの対処法についての詳しいことは下記に書いています。

4.トラウマが記憶に与える影響

慰める

PTSDでは、意図せず急に記憶が蘇ることによるフラッシュバックや悪夢などの再体験(侵入)症状、トラウマ体験の記憶がなくなる、解離などの症状がみられますが、これらの記憶に関する症状は、海馬の機能低下が影響しているのではないかと言われています。

(1)鮮明な記憶として残る

普段の日常生活における記憶は、忘れ去られていきます。これに対し、PTSDになった人では、普段は忘れていても、トラウマ体験をした時と同じような状況や感覚を察知したら、意図せず急にトラウマ体験の記憶が蘇ってしまうのです。ひどい場合は、現在の状況がわからないほど、鮮明なフラッシュバックの記憶が蘇り、あたかも、今、体験しているかのように感じられるほどになることもあります。

症状の程度はさまざまですが、フラッシュバックが起きるのを避けるために、引きこもりがちになるなど、日常生活にも影響する、とても苦しい症状のひとつです。

(2)回避

再体験症状とは対照的に、普段はトラウマ体験がなかったかのように、トラウマ体験の記憶がなくなる人もいます。記憶がない場合でも、トラウマ体験をした場所や似たような状況を避けるという行動をとっていることが多いものです。これを回避といいます

(3)解離

また、トラウマ体験に関する記憶をなくしてしまうようなことを解離性健忘といいます。解離とは、思考、記憶、周囲の状況、行動、体のイメージなど、ひとつながりのものとして実感されるべきものが、分断されてしまうという現象です。

フラッシュバックも解離の一種と言われています。解離は、人の心が受け止めきれないような過酷な体験をした、もしくは、見聞きしたような場合に起こりやすいと言われています。人の心を守るための防衛反応でもあるのです。

解離性健忘は、受け止めきれないトラウマ体験を忘れることで自分の心を守っているという意味があると考えられていますので、根掘り葉掘り何度も本人に質問して、トラウマ体験を思い出させるのはやめましょう

5.トラウマに対するカウンセリングを受ける

トラウマは、「心=脳」にダメージを与えます。これにより、PTSDのさまざまな症状が引き起こされるというメカニズムがあるのです。トラウマにより引き起こされる症状は、単なる気の持ちようではよくなりません。トラウマによる症状があるのは、自分のせいでもありません

トラウマ体験が扁桃体、前頭前野、海馬などの脳の機能に影響を与えた結果、フラッシュバックや悪夢といった再体験(侵入)症状、イライラや不眠などの過覚醒症状、トラウマ体験と似た状況や刺激を避ける回避、感情が乏しくなるなどの精神麻痺症状、トラウマ体験の記憶がなくなるという解離性健忘というようなさまざまな症状が起こるのです。

しかし、一方で脳は非常に柔軟で、変化可能性もあります。カウンセリングにより、脳機能の変化を示す研究もあります。つまり、トラウマにより海馬や扁桃体、前頭前野が損傷したとしても、一生そのままということではなく、カウンセリングによって改善する可能性があるのです

様子をみていてもよくならない場合は、薬による治療やカウンセリングによる治療が効果的です。ひとりで悩まず、心療内科や精神科、カウンセラーなどの専門家に相談しましょう。

(株)心理オフィスKでもトラウマやフラッシュバックに対するカウンセリングを行っています。希望者は以下のボタンからお申し込みください。


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