伊藤カウンセラーによる7周年の振り返り
(株)心理オフィスKカウンセラーの伊藤周平です。このたび、(株)心理オフィスKが7周年を迎えられたこと大変うれしく思います。ここまで続けられたことは、当オフィスを利用頂いた方々に支えられてきたことを改めて実感し、これまでお会いした方々に深い感謝をし、御礼申し上げます。
私が(株)心理オフィスKでお仕事をさせていただくようになってからは4年目となります。このオフィスでのことを振り返りますと、変化を意識した日々であったことが思い起こされます。ここでは私が感じた(株)心理オフィスKの変化に関わることを考えてみたいと思います。
1.(株)心理オフィスKについて
こちらで働き出した当初は、これまで勤めたところとの違いを感じることはいくつかあったように思います。カウンセラー側には裁量の高さとそのため主体性を求められる場面が多く、このことは私には新鮮で喜ばしく思いました。また、基本1人での業務ですので、カウンセリング業務のみに専念できることも私には魅力でした。こうしたことは開業臨床の醍醐味といえるでしょう。
いらっしゃるクライエントさん方も、カウンセリング初期での訴えがある程度明確であったり継続実施が前提とされている方もおり、カウンセリングに取り組む意欲の高さが感じられました。このことはカウンセラー側としては腕が鳴る、といったところでしょうか。
しかし、その分クライエントさんとしては進め方、目標や到達点、技法などにその方なりのご希望や期待を持っていることも多く、私個人の出来ることやカウンセリングの枠組みで出来ることなどの現実とのすりあわせを行うことも多くなったように思います。その結果、相手の期待に応えられず中断してしまうこともあり大変申し訳なく思ったこともありました。私とクライエントさんの協働作業の色彩が強く感じられる一方で、私の力不足を痛感させられることも思い起こされます。
また、勤務を始めてしばらく経つと、WAIS-Ⅳやロールシャッハテストといった心理検査の受付を開始するようになりました。ありがたいことに申し込みを多く頂き、検査の発売当初からWAIS-Ⅳの経験があったことから、担当させていただくことも多くありました。カウンセリングと同じように自分のことを知って役立てたい、特にWAIS-Ⅳでは自分の知的能力に関し検討したいといった目的で受検される方が多く見られました。
そうした検討の一方で、業務や学業等で行っている知的作業の背景に情緒的な領域の問題が関係していることが検査を通して分かり、この点をさらに考えたいとカウンセリングの導入となる方も少なからずいらっしゃいました。
2.コロナ禍でのカウンセリング
外的な現実として2020年からコロナ禍となっていったこと、現在も引き続き対応の渦中であることは大きな変化としては触れざるを得ないでしょう。当オフィスでも感染防止を目指した対応に迫られました。そのときの私たちの対処やその経緯は鈴木先生の昨年の6年目の振り返りの通りです。この変化は当オフィスを利用するクライエントさん側としてはどうだったのか想像してみると、やはり大きなご苦労がおありだったように思います。
対面でのカウンセリングでは来所や入室に気を配り、カウンセリング中も互いにマスク着用であることでやりとりのしづらさを感じる場合もあったかもしれません。外出制限下では、カウンセリング自体の継続を迷う声も聞かれることもありました。また、オンラインでは面接料の振り込みや機器の設定は人によっては相当手間であっただろうと思われます。
こうした不便さや葛藤があるなかでも来所やご利用頂けたことは、心を扱うことの重要さと需要の高さを改めて感じさせられます。月並みですが、他者と身体的、精神的な接触が希薄になりやすい今だからこそ必要性は高まってさえいるのだろうと思います。
3.コロナ禍でのセミナー
当オフィスで開催しているセミナーに関しても、コロナ禍を機に完全にオンラインでの実施となりました。それに伴い参加された方々の中にはオンラインカウンセリングと同様の機器の準備や設定に多大なお手間ご苦労をお感じになった方もいらっしゃったことと思います。
私はWAIS-Ⅳについてのセミナー講師を以前より担当させて頂きましたが、オンラインでも引き続き担当させて頂きました。オンラインでは、実施にあたり会場や資料の準備が簡略化される利点がある一方で、参加者が目の前にいないことで反応が掴めずそれでも話し続けなければならない等の対面とはひと味違う緊張を感じていました。コミュニュケーションは講師側が一方的になりやすく、参加者側としてはより受動的で当事者性が損なわれやすい環境となりがちであったと思います。
そうしたなかで、セミナー後の皆さんの感想ではセミナー内容や進行、質疑の対応などに対し好意的な感想を比較的多くいただけました。正直に申し上げますと、オンライン環境でのセミナーの実施様式の変化が、参加された方にとっては不便さや不十分さを感じさせるのではないかと危惧していました。
しかし実際には、皆さんとしてもこちらの至らなさを踏まえ許容の上で良い評価を頂け、このことからは万全の状況とはいかなくとも研鑽を積みたい、学びたいといった皆さんのひたむきな姿勢を感じ、素朴にやって良かったと暖かな気持ちにさせていただきました。
4.主訴とニーズ
コロナ禍という外的環境の変容は劇的でありましたが、それ以外にも当オフィスでの変化を考えていくと、カウンセリングにて対応可能な主訴が日々追加されていることも挙げられるでしょう。このことは北川代表の情報感度の高さやマメさのたまものといえますが、それだけ心を巡る事柄への皆さんや社会の問題意識が様々な領域に及び、刻々と移り変わるものであることを示しているものとも思います。
こうした変化に私たちカウンセラー側としては、ニーズの変化を吟味し検討を続けていくような自身を積極的に関わらせる姿勢が問われているように思います。
例えば、HSPやアダルトチルドレンといった概念は当オフィスで扱っている主訴ですが、専門家や機関によっては、概念が広範であることや概念の内外的な妥当性や論理性が不十分であること、立証性に乏しいことなどを理由に疑問視される場合や敬遠される場合もありえます。定義による厳密さがないからこそ、多くの人に心当たることで関心を集めるのかもしれません。ときには一部分のより耳目を惹く情報、概念が拡大され流布されることで一過性の流行のように扱われることもあります。そうした風潮に疑問や反発あるいは危機を感じ、専門家として扱うことに抵抗を覚えるのかもしれません。
しかし、ここにこそ、いらっしゃった方の語る問題に対し、私たちの知識や技法、関わりでどう理解し役に立てるのか、どう関われるのかの吟味や検討を重ねる必要があるように思います。このことは、私たちの個々人の頭の中や、もしくはクライエントさんとの対話を通じて行っていくことになるでしょう。こうした吟味や検討を行うとき、カウンセラー側に積極的にニーズの変化に関わっていく開かれた姿勢が求められているように思えるのです。
5.クライエントさん、カウンセラーや私のこと
そう考えると、当オフィスの変化は、利用される方々の自分を理解したい、変わりたい、研鑽を積みたいといった総じてより良くなりたいといった思いや希望を軸にし、私たちがそれにどうしたら関われるのか、できる限り心を開き調節をしていった結果といえるでしょう。
しかし、実際のカウンセリングを考えると、それでも最初からその方向けの調節がなされた、完全なオーダーメイドの関わりとなることはなく、クライエントさん側とするとカウンセラーやオフィスの現状で出来ることに不十分さ、不満を感じることもまた尽きることはないのかもしれません。
先ほどの、マスク着用やオンライン機器の準備や手続きなどの外的な要素に加え、カウンセリングという対話を中心とした設定的な要素、カウンセラーの資質や人格的傾向のようなカウンセラーのより内的な要素などがあるでしょうか。こうした点に不十分さ、不満を感じることは、それを表現することは少ないかもしれませんが、当然起こりえる心の動きといえます。より良くなる期待や理想が意識的でありその意欲が高いほど、その理想からすると、実際のカウンセリングは不十分さや遅さ、回りくどさ、地味さなどを感じる取り組みでさえあるかもしれません。
そうした理想とカウンセリングという現実での取り組みとのギャップにどうしても失望や不満を感じた時に、このことをカウンセリングで話し合うこともありますし、クライエントさんの中で何とか折り合いをつけて臨まれる方も少なくないように思います。私としては望むものを提供できない申し訳なさや反省を前景として感じることもありますが、こうした理想や主体性を巡る現実との折り合いは、個人的には理想を抱くことと同じくらい重要な一連であり、また避けては通れないテーマであるように思っています。
ここで見られたような、自身を良くしたい、何とかしたいといった気持ちが生じてくることや、そのために十分ではないものの、今できることに取り組もうとする一連に私はクライエントさんの前向きさやひたむきさを感じ、引き寄せられます。それは、目の前の現実を生きていくことの大切さや、翻ってその元となる理想や希望、空想を大切にして付き合っていくことの重要さを教えていただいているような気持ちになるからかもしれません。
さらにこのことは、私自身の変化にも影響を与えているように思います。私自身の変化に目を向け敏感になろうとすると、自身のかたくなさにもまた気づきます。変化の内容は様々な次元や領域で起こりますが、いずれでも少なからず葛藤や抵抗が伴います。このことは突き詰めると、これまで経験した万能的な自分や既に内在化され理想化された重要な他者に対する部分的な否定や捉え直しが含まれた作業であるためなのかもしれません。そのため変化していっている外的環境やクライエントさんのニーズといった事柄に対し、自身と大きく距離を取り関係ない事柄として受け入れを拒否したり、言われるがままに無思慮に許容し処理しようとする方策をとってしまいがちです。これらは社会適応としては波風が立たなかったり分かりやすい態度であったりして望ましいかもしれません。
しかし、変化要求に応じただけであり受動的で表面的なものに過ぎません。そうではなく、外的変化がきっかけであっても、より私自身の価値観や経験、知識と照らし合わせ、どのように考え思うのか関わらせていくやり方は、自ら関わりを抱えていく能動的な態度といえます。表面上は大きく変わりはないのかもしれませんが、ここでなされる変化はより人間の本質的な部分に関わることのように思え、重要さや価値を感じるのです。
また、ここまで触れてきたように、変化は環境や他者のような客体が変わっていくことと、それを受け主体である自分が変わっていくこと、いずれもが含まれており主客が交錯する相互の絶え間のない営みです。それを踏まえると、私がお会いするオフィスを利用する方たちにとって私が客体、環境の一つとなることの重大性や責任に思い至ります。それを考えると、無責任な態度や不誠実な対応がはばかられることから、尚更、私としてはこちらの変化への希求が高まるのだろうと思います。
しかしこの能動的な態度による本質的な変化に取り組もうとすると、きれい事では済まず生々しい自身にも向き合うことにもなっていきます。そうした自分は概して子どもっぽく合理性、論理性に欠け聞き分けがありません。どうにもならない自分でもあるようにも思え、窮状に耐えることしか出来ないことも出てきます。時間もかかるしエネルギーも使います。しかし、このことに価値を感じ取り組もうと思うのは、当オフィスを通じてお会いする皆さんから感じる、より良くなることへの前向きさや現実に相対していくひたむきさから、私が一方的にではあり気恥ずかしいですが、励ましや勇気や後押しを感じるためであり、取り組みを放棄してしまうことなく何とかやっていこうと思えているのかもしれません。
6.最後に
ここまで、オフィスKを取り巻く社会や利用される方のニーズ、クライエント、カウンセラー、ついでに私の、様々な変化を思いつくまま取り留めなく触れてきました。
私がカウンセラーとしてこちらに関わっているからか、一方の変化がもう一方にどう影響し、さらにそれを受けどう変化していくか互いを意識し移り変わっていく様相について、対話性を意識して振り返っていたように思います。カウンセリングではより良くなりたい、変わりたいといった思いを起点にして対話により解決を図ります。このときの対話は、単に会話形式であるという事を超えて、相手から発せられたことに能動的かつ自由に思いを巡らせ、自身の振る舞いが相手に影響を与えていることを踏まえ、関わりを程良く調節していくことのように思います。端的には、相手と自分のあり方や関係性をより意識し尊重した行為であると表せるでしょう。
この中でクライエントさんとしては、自由さを感じ自身の思いや考えに触れ、自身の課題に取り組めるよう感じる方もいるでしょうし、カウンセラーとして私個人ではそうあって欲しいと願っています。
長くなりましたが、今後のオフィスKの8年目の変化はどういったことが起こるのか、当オフィスの変化がいらっしゃる方たちにとって実りの多いものとなるように、一つ一つ丁寧に出来る限り自身を関わらせ考えや思いを巡らせ、私自身の変化も自覚し、ときには楽しみを感じながらやっていきたいと思っています。