モネー=カイル
ロジャー・E・モネー=カイル(Roger E. Money-Kyrle, 1898–1980)はイギリスの精神分析家であり、メラニー・クラインの理論的影響を受けたクライン派の分析家の一人として知られています。とくに逆転移や精神分析家の心的態度についての理論的検討で重要な貢献を行いました。
モネー=カイルの代表的な論文としてよく知られているのが、1956年に発表された Normal counter-transference and some of its deviations(正常な逆転移とその逸脱)です。この論文はジュネーヴで開催された国際精神分析会議で報告され、その後 International Journal of Psycho-Analysis に掲載されました。
この論文でモネー=カイルは、逆転移を単なる治療者側の感情的混乱として否定的に理解する従来の立場を修正しました。彼は、分析家が患者に対して抱く感情のすべてが病理的なものではなく、むしろ分析家が患者を理解するための重要な手がかりになり得ると論じました。とくに彼は、患者の苦しみを理解しようとする関心や修復的な動機、そして患者の回復を願う態度などが結びついた状態を正常な逆転移と呼び、これを分析家の望ましい基本的態度として位置づけました。
一方で、この態度が強すぎたり歪んだ形で現れたりすると、分析家が過度に救済的になったり、患者との関係に巻き込まれたりする可能性もあると指摘しています。そのため彼は、逆転移を単に排除する対象としてではなく、理解し吟味する対象として扱う必要があると考えました。
このようにモネー=カイルは、逆転移を精神分析的理解の手段として積極的に位置づける議論を展開し、パウラ・ハイマンらによる逆転移概念の発展と並び、精神分析技法の理解に影響を与えた分析家の一人とされています。
文献
- Money-Kyrle, R. E. (1956). Normal Counter-Transference and Some of Its Deviations. International Journal of Psycho-Analysis, 37, 360-366.
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