抗不安薬は、不安およびそれに関連する不眠やうつなどの身体的症状の治療薬です。しかし、不安障害に対する抗不安薬の長期投与は、自殺などの危険性を高めるため、推奨されていません。
世界保健機構(WHO)は、抗不安薬の使用を30日までにすべき提言しているものの、多くの医療機関で患者の希望に応じて漫然と長期処方されています。一方、抗不安薬の急な断薬や減量は、激しい離脱症状を生じる可能性があり、その調整には慎重さが重要です。
今回の記事では、抗不安薬依存について、その原因や予防、アルコールとの関連など交えながら解説していきます。
目次
抗不安薬とは
抗不安薬とは、日常生活に多大な支障が出るほど、不安や緊張が強い不安状態に処方される精神治療薬の一つです。作用機序としては、ベンゾジアゼピン系抗不安薬やバルビツール酸系抗不安薬ではGABA-A受容体にGABAが結合することにより、脳内神経伝達物質GABAの脳内での作用を増強し、興奮を抑えます。ベンゾジアゼピン系薬剤が情動と関連する部位に比較的選択的に抗不安作用を発揮する一方、バルビツレート系抗不安薬は広範囲の脳の生理機能を抑制します。
その他として、セロトニン再取り込み阻害剤(以下、SSRI)が用いられ、作用機序はセロトニントランスポーターの再取り込み阻害作用で、シナプス間隙の 5-HT(セロトニン)の濃度が上昇することにより効果を発揮します。効果出現までやや時間がかかるため、投与初期にベンゾジアゼピン系抗不安薬の併用を必要とすることが多いです。ベンゾジアゼピン系抗不安薬とSSRIが不安障害への治療の中心です。
抗不安薬依存を含めた依存症についての全般的な解説は以下のページをご覧ください。
抗不安薬の種類と特性
抗不安薬の種類としては、ベンゾジアゼピン系が有名ですが、その他SSRI、バルビツール酸系薬剤などがあります。その強さや作用時間や、主たる作用も異なるため、医師により慎重な適応をおこなわれ、日常診療で処方が行われています。例えば、バルビツール系抗不安薬は広範囲に脳機能を抑制するため、麻酔薬やてんかんの治療薬としても知られています。
以下によく知られる薬剤を種類別にわけました。
系統 | 代表薬剤 |
---|---|
ベンゾジアゼピン系抗不安薬 | ハルシオン、デパス、ソラナックス、ワイパックスなど |
バルビツール系抗不安薬 | ラボナ、イソミタール、フェノバール |
セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI) | パキシル、ルボックス、レクサプロ |
また、アルコールは、抗不安薬の効果に悪影響を与えます。特にバルビツール系抗不安薬とアルコールに関して、作用機序の広範囲に脳機能を抑制することは類似しており、両者の併用は生命の危険を脅かす非常に危険な行為です。
したがってアルコール依存症の人が抗不安薬を服用するときには、専門家への相談が必要です。
抗不安薬への依存と耐性
抗不安薬依存の形態には、耐性・精神依存・身体依存の3つが存在します。抗不安薬は本来、3つ全ての依存形態を生じる可能性があるものの、その程度は適正な使用をしている場合軽微かほぼ無しとされています。
乱用(大量服薬などの不適切使用)や長期服薬は、抗不安薬の薬物依存にハイリスクです。
種類 | 説明 |
---|---|
耐性 |
抗不安薬を継続していくことにより同容量での効果の減弱、同じ薬理的効果を得るのに要する用量の増大をきたすこと定義されています。しかしベンゾジアゼピン系抗不安薬には比較的この耐性は少ないとされています。 |
精神依存 |
ある薬物を一定量で一定期間摂取した結果、精神的な快楽のため・あるいは不快を避けるため強迫的な薬物探求欲求のことをさします。薬物依存の本質であり、精神依存がないと薬物依存症とは定義できません。 |
身体依存 |
抗不安薬を中断や減量することによって、激しい身体症状(不安・不眠・焦燥・めまい・食欲不振・筋肉痛など)が現れる状態をさします。常用量でも継続使用することにより、服用を急に中止すると離脱症状が見られ容易に中断できない状態がありそれは身体依存によるものとされています。 |
抗不安薬依存の原因
抗不安薬は、長期的には耐性形成や離脱といった副作用がある一方で、短期的には抗精神病薬や抗うつ薬より副作用は少なく、効果発現も早く患者満足度の高い薬剤です。したがって、その開始のハードルは低いです。
しかし、継続していくうちに、患者が抗不安薬は「御利益」だとの認識を持ち、「大事な約束があるから服用する」など予防内服のような乱用をはじめます。しだいに抗不安薬がなくなることへの強い不安から、不安の程度で自己調整するための残薬をプールする習慣はより抗不安薬依存を悪化させます。不安をもつ患者の多くにうつ病を併存しており、自殺企図や情動変化が抗不安薬依存によるものだと自認しづらいのです。さらに非合法薬剤と違い、不安やうつ症状改善目的の抗不安薬に対しての使用は、周囲からも問題視されにくいのも抗不安薬依存を悪化させます。
また医療者でも、抗不安薬依存患者に否認感情を持つことなく正しい情報提供ができる人は少ないです。双方に信頼関係を築きにくくなり、短時間診療につながり依存の発見や治療にはさらなる障害となります。結果として抗不安薬の正しい服用や調整方法を共有できず、漠然と長期投与がなされているのが現状です。
抗不安薬依存の対応と治療
こうした抗不安薬依存についての対応や治療についてここでは解説します。
(1)不安に陥りやすい環境を修正する
規則正しい生活を心がけることが大切です。起床や就寝、食事時間を一定にし、バランスの良い食事や運動など健康的な生活習慣を取り入れ、タバコや過度な飲酒など刺激的な生活習慣を避けることにより、不安回避につながりやすいです。
また、不安回避の対処を薬一択にしないことも必要でしょう。不安を感じる素因は多くあっても、解消は薬飲みに頼りすぎている人を多く見かけます。健全な心を持てる方法は人それぞれですが、もっと身近にできることが他にもあるはずなので気をつけましょう。
(2)必要でない薬を安心のために求めない
医療機関に行って、薬をもらうだけの関係にならないようにしましょう。医師は処方が専権事項で患者満足度や信頼関係を高めると考えがちですが、残薬がある場合の調整や減量の希望がある場合の相談は、必要なコミュニケーションです。またソーシャルワーカーやコメディカルスタッフとのまとまった時間の会話が、不安回避につながることもあります。
そして、抗不安薬の減量の提案をしてみると、適切なアドバイスをもらえ、薬物依存になることを回避できます。患者判断の勝手な減量は、離脱症状を誘発する可能性や残薬が出て、結果的に抗不安薬を退薬できないなど薬物依存の観点からは不利です。増減の希望がある場合には医療者への相談が原則でそれが適正な使用につながります。
さらに、複数の医療機関で抗不安薬を処方されることを避けましょう。作用時間の短い抗不安薬の多剤併用・長期投与は、依存形成のリスクであり、それらを避ける意味でもお薬手帳による服用薬の管理や単一の医療機関や薬局で抗不安薬の処方を受けることが大切です。
(3)カウンセリングを受ける
孤独や喪失感や漠然としたトラウマは、自己ではなかなか修正しづらい時があります。抗不安薬だけに頼るのは良くなく、必要に応じてカウンセリングなど人に話を聞いてもらうのも大切です。
そして、不安や緊張、孤独、喪失などを抗不安薬で対抗するのではなく、カウンセリングの中で気持ちの整理をし、対処法を検討し、自らの力でコントロールしていくことを目指すと良いでしょう。
抗不安薬依存についてのよくある質問
抗不安薬依存とは、長期間にわたって抗不安薬を使用することで身体が薬に依存し、不安症状が再発する状態を指します。薬に対する耐性が生じると、効果が弱くなり、さらなる量の増加が必要になります。依存が進行すると、薬を服用しても不安感が完全には解消されない場合があるため、慎重な管理が必要です。
抗不安薬依存の症状としては、不安感の再発、眠気や倦怠感、集中力の低下、感情の安定性の欠如、精神的な混乱が挙げられます。また、薬を服用しても以前ほどの効果を感じられなくなり、より高い用量を必要とすることがあります。依存が進むと、薬の服用をやめた後に強い不安や症状が再発するケースも多いです。
抗不安薬依存のリスクを減らすためには、医師と相談しながら適切な使用期間を守り、決められた用量を超えないようにすることが重要です。急な断薬は避け、徐々に減薬することで離脱症状を軽減できます。さらに、カウンセリングや認知行動療法を併用することで、不安症状を根本から管理することも効果的です。
抗不安薬依存を克服するためには、医師の指導に基づき、段階的に薬の減量を行う「減薬計画」が効果的です。急な断薬を避けることで、離脱症状を最小限に抑えつつ、不安症状への対処法を学びます。カウンセリングや認知行動療法を通じて、薬に依存せずに不安を管理する方法を身につけることも、依存克服の助けとなります。
抗不安薬を減薬する際には、医師と十分に相談して減薬計画を立てることが重要です。突然の断薬は離脱症状を引き起こす可能性があるため、少量ずつの減量を継続することが推奨されます。自己判断で薬の使用を中断するのは避け、専門家のサポートを受けることが安全な減薬に繋がります。
抗不安薬依存は、主に不安症状の改善を目的とした薬の長期使用によって引き起こされる心理的な依存です。一方、薬物依存は快感を得るための薬物使用に基づき、身体的依存も伴う点が異なります。抗不安薬依存は、精神的要素が強い傾向があります。
抗不安薬の代替療法としては、認知行動療法(CBT)やマインドフルネス瞑想、運動療法、ライフスタイルの改善が効果的です。これらのアプローチは、不安症状の軽減を目的とし、薬に依存しない方法として注目されています。
抗不安薬を長期間使用するリスクには、耐性の発生や依存のリスクが挙げられます。薬の効果が薄れ、用量を増やす必要があることが多く、さらには集中力の低下や記憶力の低下、倦怠感などの副作用が見られることもあります。
抗不安薬依存を予防するためには、医師の指導の下で適切なカウンセリングや認知行動療法を受け、生活習慣を見直すことが重要です。薬物依存に陥るリスクを減らすためには、早期の対策として専門家のサポートを受けることが効果的です。
抗不安薬が依存を引き起こす原因として、身体が薬に慣れて効果を感じにくくなる「耐性」が挙げられます。また、薬が持つ一時的な不安緩和の効果が繰り返されることで、薬を手放すと不安感が強くなるため、依存が生じやすくなります。
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ベンゾジアゼピン系やSSRIなどの抗不安薬は適正な使用により、深刻な依存が起こりにくいことがわかっています。しかし、その一方で、抗不安薬の不適切な使用による抗不安薬依存が散見され、その使用に行政から制限がかかるレベルで深刻化しています。処方する医師に慎重な態度が必要なことは言うまでもありませんが、患者側でも励行できる習慣や誤った認識の修正は抗不安薬依存を回避する上で非常に重要です。
(株)心理オフィスKではこうした抗不安薬依存についての相談やカウンセリングを実施しています。相談を希望される方は以下の申し込みフォームからご連絡ください。