応用行動分析は、1960年代頃から教育、医療、福祉、産業などのさまざまな分野において研究および実践が行われてきており、現在もなお知見が蓄積され続けています。応用行動分析で用いられる専門用語は、初学者にとって理解の障壁となりやすいため、本稿では応用行動分析の基本となる考え方とテクニックにできるだけ焦点を当てて紹介いたします。
目次
応用行動分析とは
応用行動分析とは、人の行動がどのような条件で生じ、どのように変化するのかを明らかにし、日常生活や支援場面での行動改善に活用する方法です。行動を性格や意思の問題としてではなく、環境との関係の中で理解する点が特徴です。具体的には、行動の前にあるきっかけと、行動の後に起こる結果に注目し、その関係を整理します。教育、医療、福祉、職場など幅広い分野で用いられており、習慣の改善や問題行動の軽減などに役立ちます。
応用行動分析は、英語では Applied Behavior Analysis と表記され、略して ABA とも呼ばれます。これは、行動分析学の学問体系の中で、社会における出来事や問題を対象とする分野を指します。
応用行動分析の特徴は「心」も「行動」の一部として捉え、「行動」を予測・制御し得る「環境」との相互作用の中で、その原因を理解しようとする点にあります(図参照)。また、「行動」の原因を、意志の弱さや個人の能力の問題として帰属させない点も重要な特徴です。
応用行動分析の歴史は、1950年代のアメリカにおいて、心理学者のバラス・スキナーが動物や人の行動を研究し、「実験的行動分析学」を確立したことに始まるとされています。その後、この実験的行動分析学の知見を社会的課題に応用する試みとして、学校教育や企業教育などの教育分野、養育・療育・介護などの福祉分野、さらには医療・保健・看護などの医療分野へと研究対象が広がっていきました。
その展開の中で、島宗(2019)によれば、1968年にドナルド・ベア(Donald M. Baer)、モントレー・ウォルフ(Montrose M. Wolf)、トッド・リズレイ(Todd R. Risley)が発表した論文は、応用行動分析を学問として位置づけた記念碑的なもの(応用行動分析の七大原則)とされています[1]。この論文では、応用行動分析の七大原則が示されています。
要約すると、以下の通りです。
- 応用的であること:実験室内での研究にとどまらず、社会の中で実際に生起している、観察可能な行動を対象として研究を行うことです。
- 行動的であること:問題解決や目標達成に向けて、どのような具体的行動を変容させる必要があるかを見立て、変容の対象となる行動(標的行動(target behavior))を明確に設定することです。
- 分析的であること:標的行動の変化が介入によるものなのか、それとも他の要因によるものなのかを、実験的手続きによって検証することです。
- 技術的であること:介入(intervention)が誰にでも実施可能となるよう手続きが明確化されており、他者が同様に実施しても再現(replication)できることです。
- 系統的であること:標的行動の変容が既存の行動分析学の原理によって説明可能であるかを検討し、必要に応じてそれらの原理の再検証を行うことです。
- 効果的であること:標的行動の変容が統計的に有意であるだけでなく、社会的に重要な変化であるか(社会的妥当性(social validity))を含めて評価することです。
- 般化促進的であること:介入を終了した後も、望ましい行動が維持・拡張されるような方法を工夫し、その効果を検証することです。
よくある相談の例(モデルケース)
20歳代 女性
Aさんは大学卒業後に事務職として働いていました。幼少期から真面目で努力家な性格であり、学業成績も良好でしたが、周囲の期待に応えようとする傾向が強く、疲労を感じても休むことが苦手でした。社会人になってからは業務量の多さや対人関係の緊張から慢性的な疲労感を抱えるようになり、仕事の合間や帰宅後にコーヒーを頻繁に飲むようになりました。次第にその量は増え、1日に5杯以上飲むことも珍しくなくなり、夜間の不眠や動悸、胃の不快感が出現するようになりました。内科を受診し大きな身体疾患は否定されましたが、生活習慣の見直しを勧められました。
Aさんは自身でもコーヒーを減らしたいと考えていましたが、仕事後の疲労時や気分転換の場面で無意識に飲んでしまう状態が続いていました。そこで、行動の背景を整理したいという動機からカウンセリングを申し込みました。初期面接では、コーヒー摂取のパターンを詳細に把握するため、標的行動を「コーヒーを飲む」と設定し、日々の摂取時間や回数を記録するベースライン測定を行いました。その結果、仕事後の疲労感や甘い物と一緒に摂取する場面が多いことが明らかとなりました。
その後、行動随伴性に基づく分析を行い、先行条件として「疲労」「帰宅後の空腹」「気分転換の必要性」、後続事象として「一時的な覚醒感」「安心感」「甘味摂取による満足感」が抽出されました。これらを踏まえ、コーヒーの代替行動としてカフェインレス飲料の導入や、帰宅後すぐに軽食を摂ること、短時間の休息を意図的に取るといった介入を段階的に実施しました。
介入当初は変化が乏しい時期もありましたが、記録を継続しながら随伴性ダイアグラムを見直すことで、仕事のストレスが高い日に摂取量が増える傾向に気づきました。そのため、ストレス対処としての行動レパートリーを増やすことも並行して行いました。こうしたプロセスを約1年半継続する中で、コーヒー摂取は徐々に減少し、最終的には1日1~2杯程度に安定しました。不眠や身体症状も軽減し、自身の行動パターンを理解し調整できる感覚が得られるようになりました。
この事例は、応用行動分析における行動随伴性の視点を用いることで、単なる意志の問題ではなく、環境との相互作用の中で行動を理解し、具体的な介入によって変容が可能であることを示しています。
応用行動分析の対象
応用行動分析では、目の前の課題に対して誰かが困難を抱えている場合や、他者と協働して課題を達成しようとする状況において、それらが研究(支援)の目的となり、同時に研究(支援)の対象ともなります。
島宗(2019)によれば、日本における応用行動分析学の現状も、おおよそ世界的な動向と一致しているとされています。具体的には、自閉症などの発達障害や知的障害のある子どもや成人を対象とした研究や実践が多く見られますが、加えて、介護、看護、リハビリテーション、保育や子育て、スポーツ、企業におけるマネジメントなど、さまざまな分野において研究および実践が行われています[2]。また、こうした研究や実践の対象は人間に限らず、ハト、チンパンジー、犬、ネズミなどの動物にも及んでいます。
応用行動分析では、対象となる行動を観察し、それに基づいて介入を計画・実施し、その効果を検証します。そのためには、「行動」とは何かについて明確にしておく必要があります。
「行動」とは、「死人にできないことすべて」です。この定義は、「死人テスト」と呼ばれる方法によって、ある現象が行動であるかどうかを判断する際に用いられます[3]。死人は何もせず、動くこともないため、それ自体は行動とはみなされません。一方で応用行動分析では、目に見える外的な行動だけでなく、考える、感じる、見る、聞くといった内的な出来事についても、死人には不可能であるという観点から、行動として捉えます。
以上より、応用行動分析の対象は、「行動」を行う人間および動物であると位置づけられます。
Aさんの場合、仕事後の疲労や気分転換の必要性といった状況の中でコーヒー摂取が増えており、その行動が生活上の困難につながっていたため、コーヒーを飲むという行動そのものが支援の対象となりました。また、外的な飲用行動だけでなく、疲れたと感じることや落ち着きたいという内的な体験も行動として捉え、環境との相互作用の中で理解と介入が行われました。
応用行動分析のメリットとデメリット
(1)メリット
島宗(2019)によれば、以下の点が挙げられます。
- 人の行動変容を担う仕事や役割であるヒューマンサービスの対象が、そのまま研究(支援)対象となるため、さまざまな分野において応用行動分析を用いることができます。
- 対象が誰であっても、共通する行動の法則や行動変容の技法を適用することができます。
- 行動を変えるための手続きが職人的な技能に依存するものではなく、訓練によって誰でも実施可能となるよう体系化されています。
- 自分自身を理解したり、応用行動分析を学習したりする際に、自分自身の行動を対象とすることができます(島宗(2014)の「じぶん実験」など)[4]。
以上の点から、応用行動分析が古くて新しい手法とされるのは、過去に蓄積された知見を現在のさまざまな問題に適用できること、さらに多領域において現在もなお知見が蓄積され続けていることによるものと考えられます。
(2)デメリット
- 専門用語が多いため、初学者にとっては、行動の法則や技法、実験手続きなどを理解することが難しい側面があります。加えて、日本においては行動分析学の基礎的な専門用語が統一されていないことも、その一因であると考えられます[5]。
- 現状の環境に対象者を適応させる目的で応用行動分析が用いられる場合、支援のあり方が一方向的になる危険性があります[6]。
- 問題行動への対処に偏ると、問題行動の低減を目的とするあまり、対象者をネガティブな視点から捉えてしまうおそれがあります。
- 問題行動の状況について十分なアセスメント(見立て)を行わないまま技法を適用すると、かえって問題行動が増加する可能性があります[7]。
以上のように、初学者が十分な理解を伴わないまま応用行動分析のテクニックを対象者に適用することには、一定のリスクが伴います。まずは、行動の法則や技法、実験方法を身につけるために、自分自身の行動を対象として実践してみることが有用であると考えられます。以下では、その具体的な方法について紹介します。
Aさんの場合、コーヒー摂取という具体的行動に焦点を当てることで、行動の法則に基づいた介入が可能となり、行動変容が進みました。また、記録と振り返りを通して自身の行動パターンへの理解も深まりました。一方で、当初は専門用語に戸惑いがあり、行動のみに焦点を当てると疲労やストレスへの配慮が不足する可能性もありました。
応用行動分析の手順と方法
応用行動分析では、標的行動を変容させるために介入を計画し、実施します。そして、その結果として、介入によって行動が実際に変化したかどうかを確認します。ただし、標的行動が変化したという事実のみでは十分ではなく、その変化が介入によって生じたものであるか、すなわち介入と行動変化との間に因果関係があるかを明らかにすることが求められます。こうした因果関係を検討するための実験計画法として、「シングルケースデザイン法」(single-case design)があります。シングルケースデザイン法は、行動が増減する要因(行動の制御変数)を特定するための基本的な方法です。
標的行動を特定するために、応用行動分析では「行動随伴性」という枠組みを用いて考えます。これは、応用行動分析(行動分析学)の基礎であり、中心的な概念です。
「行動随伴性」とは、ある行動の前後に生起している出来事に着目する考え方です。具体的には、行動の前に生じる出来事を「先行条件(Antecedent)」、行動そのものを「行動(Behavior)」、行動の後に生じる出来事を「後続事象(Consequence)」と呼び、それぞれの頭文字をとってABC分析とも呼ばれます(図参照)。
行動随伴性を検討することにより、なぜそのような行動が生起するのかという理由を理解し、さらにその行動を変容させるための対応方法を導くことが可能となります。ABC分析に基づいて行動の理由を見立てることは、機能的アセスメント(機能分析)と呼ばれます。

(1)解決したい課題・達成したい目標を決める
例えばモデルケースでは「夜にコーヒーを飲むのを控えたい」という目標を設定します。このように考えた背景には、夜間のコーヒー摂取について家族から注意されることや、コーヒーとともに甘いものを食べてしまうこと、夜中にトイレに行きたくなること、間食の時間が遅くなり就寝時刻が遅れることなどが挙げられます。
(2)標的行動を決める
次に、変容させたい具体的な行動を設定します。本例では、「コーヒーを飲む」行動を標的行動として設定します。
(3)標的行動が「死人テスト」を満たすかを確認する
「コーヒーを控える」「飲まない」といった表現は、何もしない死人にも可能であるため、「死人テスト」を満たしません。また、標的行動は具体的に定義される必要があります。そのため、「コーヒーを飲む」という具体的な行動を標的行動として設定します。
(4)標的行動の頻度や回数を測定する
標的行動の頻度や回数を記録します。その際、測定のタイミングや方法をあらかじめ検討しておくことが重要です。本例では、家庭内において夜間に毎日測定することとします。記録は負担の少ない方法で行うことが望ましく、縦軸に標的行動の頻度、横軸に時間(日・週・月など)を設定し、視覚的に把握できるようにします。各測定点を結んで折れ線グラフとすることで、標的行動の推移や傾向を把握することが可能になります。また、介入の実施時期やその効果についても、折れ線グラフを用いて確認します。
(5)行動の目標値を設定する
行動をどの程度変化させるのかについて、具体的な目標値を設定します。本例では、毎日コーヒーを飲んでいる現状を踏まえ、まずは土日の週2日はコーヒーを飲まないこと、平日の週5日は飲むことを目標とします。なお、この目標値は、後述する測定や介入計画の段階で設定しても差し支えありません。
(6)ベースラインの測定を行う
ここでは、先に述べたシングルケースデザイン法を用います。本例ではコーヒーの摂取回数ではなく、摂取時刻に着目して測定することとしました(図参照)。その結果、コーヒーを飲む時間は主に夕食後であり、仕事の帰宅時刻が遅い日は摂取時刻も遅くなる傾向が見られました。一方で、休日は夕食の時間が早くなるため、コーヒーの摂取時刻も比較的早まることが確認されました。
このように、介入を行う前には現状を把握することが不可欠です。ベースラインを測定している期間は「ベースライン期」と呼ばれます。標的行動や測定方法を検討していく過程で、介入方法の案が浮かぶこともありますが、現状を十分に把握しないまま介入を行うと、期待した効果が得られない可能性があります。そのため、まずはベースライン期において測定を継続し、行動の傾向を把握することが重要です。
(7)随伴性ダイアグラムを作成する
ベースラインの測定結果を踏まえ、「コーヒーを飲む」という行動を減らしたいにもかかわらず減少しない理由について、「行動随伴性」の観点から推測します。具体的には、「コーヒーを飲む」という行動に対して、その前に生じる出来事である「先行事象」を左側に、行動の後に生じる「後続事象」を右側に整理して記述します(図参照)。
このように整理することで、行動を増減させる要因(制御変数)を特定しやすくなり、それに基づいて介入計画を立てることが可能となります。なお、図は一度作成して終わりではなく、必要に応じて何度でも描き直すことが重要です。作成の過程で新たな要因に気づいたり、要因同士の関係性が明確になったりすることがあります。制御変数を多面的に把握しておくことで、仮に今回の介入が十分な効果を示さなかった場合でも、次に検討すべき介入対象を見出すことができます。
図の作成においては、先行事象および後続事象の中でも、行動の直前・直後に生じる出来事は標的行動の近くに配置し、それ以外の出来事はやや離して配置します。後続事象のうち、「コーヒーを飲む」行動を促進(強化)する要因については、(↑)を用いて示します。一方で、「眠気の軽減」のように、コーヒー摂取との因果関係が明確でない場合には(?)とし、判断が保留される要因としてやや離れた位置に配置します。
さらに、「胃の不快感」や「就寝中にトイレのために起きる」といった後続事象は、コーヒー摂取後すぐに生じるものではなく、一定の時間経過後に現れるため、遅延した結果として標的行動から離して配置します。これらの要因は、「コーヒーを飲む」という標的行動の頻度に対する影響が相対的に小さいと考えられるため、矢印を破線で示す、あるいは(-)と記すことで、その影響の弱さを表現します。
(8)介入を開始する
ベースライン期の測定結果および随伴性ダイアグラムに基づいて介入計画を立て、それを実行します。この介入を行っている期間は「介入期」と呼ばれます。介入期においても、ベースライン期と同様に標的行動の測定および記録を継続して行います。
介入計画を実行する際の留意点としては、まず、介入開始後すぐに判断せず、行動の傾向や変化が把握できるまで一定期間測定を継続することが重要です。また、計画した介入をできる限り一貫して実施し、条件を安定させることも求められます。これにより、介入と行動変化との関係を適切に評価することが可能となります。
(9)介入結果を評価する
ベースライン期と介入期のデータを連続して配置し、その変化を比較検討します。本例において図を確認すると、夕食の時間を早めることを介入条件として測定した結果、ベースライン期と比較して介入期の方が、コーヒーを飲む時刻がむしろ遅くなっていることが分かります。振り返ると、その主な要因は仕事の帰宅時刻が遅くなったことにあると考えられます。実際、グラフ上で早い時間帯にコーヒーを飲んでいる日は、仕事が休みであった場合が多く見られました。
このように、介入によって期待した行動変化が認められない場合には、再度随伴性ダイアグラムを参照し、要因の再検討を行います。本例では、コーヒーを飲む際におやつを摂取している点に着目すると、仕事が忙しい時や疲労を感じている時ほど、おやつを摂取しやすい傾向があるのではないかと推測されます。すなわち、仕事による疲労から気分転換を図ろうとすることや、おやつの摂取そのものが強化要因となり、「コーヒーを飲む」行動を促進している可能性が考えられます。
また、コーヒーを飲む行動の目標値を週5回と設定していたにもかかわらず、実際には毎日飲んでおり、休日においても同様の傾向がグラフから確認されます。このことから、コーヒー摂取後に得られる落ち着きや、おやつを摂取する行動が相互に影響し合い、行動の維持に寄与していると考えられます。
以上より、本例のように行動が減少しない背景に、望ましくない行動を引き起こす先行事象が存在する場合には、その先行事象(本例ではおやつの摂取)を調整または除去することが、介入の一つの方法として検討されます(図の赤枠部分)。

本例では、介入によって行動が変化したかどうかの因果関係を検討するために、シングルケースデザイン法の一つである「AB法」を用いました。ここで、Aはベースライン期、Bは介入期を示します。しかしながら、AB法のみでは、介入が行動変化の直接的な原因であることを明確に証明することは困難です。介入以外にも行動に影響を及ぼす可能性のある要因は「剰余変数」と呼ばれ、これらが行動変化に関与している可能性も考えられます。このような剰余変数の影響を統制するためには、より厳密な実験計画法が必要となりますが、詳細については紙面の都合上割愛し、下記の参考・引用文献をご参照ください。
今回の介入条件は一見すると十分な成果が得られなかったようにも見えますが、仮に介入が期待通りの結果をもたらさなかった場合でも、随伴性ダイアグラムに基づいて行動随伴性を再検討し、新たな介入計画を立てて実行することが可能です。このプロセスを繰り返すことにより、自分自身の行動に対する理解が深まります。また、得られた知見を他者に適用し、再現性を検討することも可能です。他者において再現が困難である場合には、個別的な要因の影響が大きいことが示唆されます。このように、応用行動分析は、個人レベルで得られた知見を他者や集団、さらには社会的文脈へと拡張し得る点に特徴があります。
なお、本稿では紙面の都合上、行動の諸法則について十分に取り上げることができていません。実際には、望ましい行動の増減に関与する要因を、行動の諸法則に基づいて推測し、それに応じた介入計画を立案します。応用行動分析についてさらに理解を深めたい場合には、下記の参考・引用文献をご参照ください。
(10)Aさんの場合
Aさんの場合、コーヒー摂取を標的行動として設定し、ベースライン測定や記録を通して行動のパターンを把握したうえで、行動随伴性に基づく分析と介入が行われました。その過程で、疲労や気分転換といった先行条件や、安心感などの後続事象が明らかとなり、代替行動の導入や環境調整を行うことで、段階的に行動変容が進みました。
応用行動分析についてのよくある質問
応用行動分析とは、人の行動がどのように生じ、どのような条件で変化するのかを明らかにし、実際の生活場面で行動を改善するために用いられる方法です。特徴として、行動を個人の性格や意志の問題としてではなく、環境との関係の中で理解する点が挙げられます。例えば、ある行動が増えるのか減るのかは、その前後にどのような出来事があるかによって左右されます。この考え方に基づき、行動の前にあるきっかけや、行動の後に得られる結果に注目して、行動の理由を整理していきます。応用行動分析では、観察可能な行動だけでなく、考えや感情も行動として捉えます。また、行動の変化が本当に介入によるものかどうかを確かめるために、記録や測定を重視する点も特徴です。教育や医療、福祉、企業など幅広い分野で活用されており、日常生活の習慣改善にも応用することができます。
応用行動分析は、日常生活から専門的な支援まで幅広い場面で活用されています。例えば、子どもの発達支援や教育の現場では、望ましい行動を増やし困りごとを減らすために用いられます。また、医療や福祉の分野では、生活習慣の改善やリハビリテーション、介護の場面でも応用されています。さらに、職場における人材育成や業務改善、スポーツにおけるパフォーマンス向上などにも利用されています。日常生活では、ダイエットや禁煙、勉強習慣の形成など、自分自身の行動を変えたい場合にも役立ちます。重要なのは、行動を変えたいと考えたときに、その人の性格や努力不足の問題として捉えるのではなく、どのような環境や条件がその行動を支えているのかを考えることです。この視点を持つことで、無理のない形で行動を変えていくことが可能になります。
行動随伴性とは、ある行動がどのような条件で生じるのかを理解するための基本的な考え方で、行動の前後に起こる出来事に注目します。具体的には、行動の前にあるきっかけを先行条件、実際に起こる行動を行動、行動の後に起こる結果を後続事象として整理します。この三つの関係を把握することで、なぜその行動が起こるのかを理解しやすくなります。例えば、疲れて帰宅したときに甘いものを食べるという行動がある場合、疲労や空腹がきっかけとなり、食べた後に安心感や満足感が得られることで、その行動が繰り返されやすくなります。このように、行動は単独で起こるのではなく、前後の出来事とのつながりの中で維持されています。行動随伴性を整理することで、行動を変えるためにどの部分に働きかければよいのかが明確になります。
ABC分析とは、行動随伴性を分かりやすく整理する方法で、行動の前後の出来事を三つの要素に分けて考えます。Aは先行条件で、行動が起こるきっかけとなる出来事を指します。Bは行動そのもので、実際に観察できる具体的な動きや反応です。Cは後続事象で、行動の後に生じる結果や反応を意味します。この三つの関係を整理することで、行動がどのような理由で維持されているのかが見えてきます。例えば、仕事の後にスマートフォンを長時間見てしまう場合、疲労や暇な時間が先行条件となり、スマートフォンを見る行動が起こり、その後に気分転換や楽しさが得られることで行動が強化されます。このように分析することで、行動を減らすためにはどの要素に働きかける必要があるのかを具体的に検討することができます。
応用行動分析のメリットは、行動を具体的かつ客観的に理解できる点にあります。行動の原因を性格や意志の問題として捉えるのではなく、環境との関係から説明するため、責任の所在を個人に過度に求めることなく、現実的な改善策を見つけやすくなります。また、行動を観察し、記録し、変化を確認するという手順が明確であるため、誰が行っても一定の再現性が期待できます。さらに、自分自身の行動にも適用できるため、生活習慣の改善や目標達成に役立てることが可能です。例えば、勉強や運動が続かない場合でも、その背景にある条件を整理し、環境を調整することで行動を変えることができます。このように、応用行動分析は多様な場面で活用できる柔軟性と実用性を備えた方法であり、継続的な行動変容を支える有効な枠組みといえます。
応用行動分析には多くの利点がありますが、いくつかの注意点もあります。まず、専門用語や考え方が独特であるため、初めて学ぶ人にとって理解が難しい場合があります。行動の前後関係や記録の取り方など、基本的な枠組みを身につけるまでに一定の学習が必要です。また、方法だけを形式的に用いると、行動の背景にある状況や文脈を十分に捉えられない可能性があります。その結果、適切でない介入を行い、かえって問題が悪化することも考えられます。さらに、環境に適応させることを重視しすぎると、本人の意思や価値観が十分に尊重されないまま支援が進んでしまうリスクもあります。このため、応用行動分析を用いる際には、行動だけでなく、その人の状況や希望を踏まえた柔軟な理解と対応が求められます。
シングルケースデザイン法とは、一人の対象者や一つの行動に注目し、その変化を継続的に観察しながら介入の効果を検討する方法です。特徴として、介入を行う前の状態と、介入後の状態を比較することで、行動の変化が本当に介入によるものかどうかを確認します。例えば、ある行動の頻度を一定期間記録し、その後に介入を行い、同様に記録を続けることで、変化の有無や傾向を把握します。この方法は、個別の状況に合わせて柔軟に適用できるため、実際の支援場面で広く用いられています。また、グラフなどを用いて変化を視覚的に確認できるため、結果が分かりやすい点も利点です。ただし、外的な要因の影響を完全に排除することは難しいため、結果の解釈には慎重さが求められます。
じぶん実験とは、自分自身の行動を対象として応用行動分析の考え方を実践する方法です。日常生活の中で変えたい行動を一つ決め、その行動がどのような条件で起こっているのかを観察し、記録しながら改善を試みます。例えば、夜更かしを減らしたい場合には、寝る前の行動やその後の結果を整理し、環境を調整することで変化が起こるかを検証します。この方法の特徴は、専門的な知識がなくても比較的取り組みやすく、自分の生活に直接役立てることができる点にあります。また、試行錯誤を繰り返しながら行動のパターンを理解することで、自分に合った改善方法を見つけることができます。ただし、自己流で進めると見立てが偏ることもあるため、必要に応じて専門家の助言を得ることも重要です。
行動を変えるためには、まず現状の行動を正確に把握することが重要です。どのような場面でその行動が起こり、どのような結果が続いているのかを整理することで、行動の背景が見えてきます。そのうえで、行動のきっかけとなる条件や、行動後の結果に働きかけることで変化を促します。例えば、やめたい行動がある場合には、その行動を引き起こす環境を調整したり、代わりとなる行動を用意したりすることが有効です。また、変化を確認するために記録を取り、少しずつ改善の方向を探っていくことも大切です。重要なのは、一度で大きく変えようとするのではなく、小さな変化を積み重ねることです。このようなプロセスを通して、無理のない形で行動を変えていくことが可能になります。
カウンセリングにおいて応用行動分析は、クライエントの困りごととなっている行動を具体的に整理し、改善の方向を検討するために活用されます。まず、どのような行動が問題となっているのかを明確にし、その行動がどのような場面で起こり、どのような結果が続いているのかを一緒に振り返ります。そのうえで、行動を維持している条件を見立て、環境の調整や新しい行動の導入を検討します。このプロセスにより、クライエント自身が自分の行動の仕組みを理解しやすくなり、主体的に変化に取り組むことができます。また、記録や振り返りを通して変化を確認できるため、取り組みの効果を実感しやすい点も特徴です。このように、応用行動分析は具体的で実践的な支援方法としてカウンセリングに取り入れられています。
まとめ
本稿では、応用行動分析について、その成り立ちやメリット・デメリットを概説し、基本となる行動随伴性の考え方および実験計画法を、日常生活で生じうる悩み(行動)を例に挙げて紹介しました。応用行動分析は、これまでに蓄積されてきた研究および実践の知見を基盤としており、それらの知見は個人にとどまらず、動物や社会的課題に対しても応用可能である点に特徴があります。
本稿で紹介したように、日常生活における行動の背景には、さまざまな要因やパターンが関係しています。しかし、実際には自分一人でそれらを整理し、適切な介入方法を見つけていくことは容易ではありません。とくに、行動の背景にある感情や対人関係の影響が複雑に絡み合っている場合には、客観的な視点からの整理が有効になることがあります。
カウンセリングでは、現在生じている困りごとや行動のパターンを丁寧に振り返りながら、その背景にある要因をともに検討し、無理のない形での変化を目指していきます。応用行動分析の視点も踏まえつつ、一人では見えにくい行動の意味や文脈を明らかにしていくことで、より実行可能な対応や選択肢が見えてくることがあります。
日々の行動や習慣について気になる点がある方、自分の行動をどのように変えていけばよいのか悩まれている方は、一度カウンセリングという形で整理してみることも一つの方法です。カウンセリングを希望される方は、以下のページからお申し込みください。
文献
- [1]:島宗理(著)『応用行動分析学:ヒューマンサービスを改善する行動科学』新曜社 2019年
- [2]:一般社団法人日本行動分析学会『行動分析学研究』
- [3]:杉山尚子(著)『行動分析学入門:ヒトの行動の思いがけない理由』集英社新書 2005年
- [4]:島宗理(著)『使える行動分析学:じぶん実験のすすめ』ちくま新書 2014年
- [5]:日本においては、これまで行動分析学の基礎用語に統一性が十分に確立されていない状況が見られます。心理職の国家資格である公認心理師の創設や「行動分析学事典」の刊行に伴い、用語統一の必要性が指摘されてきましたが、日本行動分析学会においては、「認知・行動療法学会でも事典の編纂が進められているものの、学会として用語統一を呼びかけることは行わない」という方針が示されています(第20回理事会,2018年5月12日,一般社団法人日本行動分析学会会報2019年33巻2号,p.175-178)。
- [6]:望月昭(著)『ABA(応用行動分析)の今日的課題:特別支援教育の展開という文脈で』立命館大学人間科学研究所学術フロンティア推進事業プロジェクト研究シリーズ 2006年
- [7]:下山晴彦(編)『認知行動療法を学ぶ』金剛出版 2011年





