心理療法・失敗例の臨床研究-その予防と治療関係の立て直し方

岩壁茂(著)「心理療法・失敗例の臨床研究-その予防と治療関係の立て直し方」 金剛出版 2007年を読んだ感想です。

心理療法・失敗例の臨床研究-その予防と治療関係の立て直し方

1.失敗から学ぶカウンセリング

カウンセリングをしていると必ず失敗は起こるものであり、カウンセリングで失敗を経験したことがないという人はおそらくはいないでしょう。しかし、学会発表や学術論文に掲載されるカウンセリングのケースというのは、発表の許可をクライエントに取っている為か、成功例ばかりとなり、失敗例が世に出ることはほとんどありません。しかし、カウンセリングの研鑽を考えると成功例よりも失敗例から学ぶことは多いでしょう。そういう観点からすると、このような書籍が世に出るということは後進のカウンセラーからすると大変にありがたいと心から思います。

2.統計からみるカウンセリングの失敗

本書では、まず第1部で失敗の定義や位置づけをしたのちに、先行研究のレビューを広く深くおこなっています。カウンセリングの研究では個々のケースが大変ユニークなので、マスの研究がしにくいという特徴を持っていますが、それでもこのようにたくさんの効果研究がなされているのは意外であると驚かされました。簡単にそのまとめを書くと、カウンセリングを数回でドロップアウトする確率は約40~60%で、悪化は10~30%であるようです。こうしてみると意外と多いように思いました。しかし、一方でカウンセリングを受けなかった人に比べて、受けた人では約80%が改善しているという報告もありました。

しかし、本書でも書かれていましたが、失敗したからすべてダメであるというよりも、失敗をどのように取り返すのかという作業をカウンセラーとクライエントの間で取り組むことにより、それが治療的に働くということも大いにありうるようです。また、カウンセラーとクライエントのミスマッチによるドロップアウトがあったとしても、その後、別のカウンセラーにリファーでき、そこでカウンセリングの効果があれば、それは大きな視点からいうと失敗とはならないのかもしれません。このように失敗が直ちにダメということにはならず、文脈の中で理解して行かないといけないということでしょう。

3.創作ケースから

第2部では、色々な創作ケースを用いて、実際のカウンセリングの中でどのように失敗が表れるのかを詳細に説明されています。マクロな失敗からミクロな失敗までさまざまであり、自分にも体験したことのあるものも多くあり、これまでの臨床を振り返ってしまいます。しかし、第1部では先行研究のレビューを詳細に行い、論述の根拠を明確に示していたのですが、第2部では創作ケースの羅列が多く、調査や実験から得られたデータを根拠にしての論述ではありませんでした。この辺り、もう少し実際に著者が行ったカウンセリングを持ってきても面白かったのではないかと思います。

4.用語の誤読

また、本書の全体的な観点ですが、学派や理論を越えて、統合的・折衷的な視点から失敗について扱っています。もちろん、それはそれで構いません。そうすることによってより包括的にカウンセリングというものを浮き彫りにできるのでしょうから。しかし、私は精神分析をオリエンテーションとしているからそう思うのかもしれませんが、転移や逆転移、抵抗といった精神分析用語の使い方やその定義、現代的な意味についてはかなり誤解されているところが散見されました。

たとえば、「失敗しないために逆転移を起こらないように精神分析はしている」といった記述などもありました。しかし、現代的な精神分析の観点からすると、逆転移を起こらないようにすることは不可能ですし、常にあって当たり前のものなのです。そして、逆転移を通して転移を理解し、ひいてはクライエントを理解していくのが精神分析や精神分析的心理療法です。そのため、逆転移が起こらないと何もできないのです。もしくは「逆転移が起こらない」という逆転移が起こっている、と言えるかもしれません。この辺りについては、著者は精神分析が専門ではないようですし、すべてのカウンセリングの学派の中間地点を取るために、仕方のないところなのかもしれません。その他にも、もしかしたら、他の学派から見たら、用語の使い方が間違っている!といった指摘が出てくるのかもしれません。

5.失敗から振り返る

また、失敗にはカウンセラーに見えない失敗、気付かない失敗というものもたくさん挙げられていました。そう思うと、実際の私の臨床でも起こっているということを意味しており、カウンセリングをすることがちょっと怖い気持ちにもなってしまいます。「大丈夫か?大丈夫か?」と少し自分自身に注意が向いてしまい、クライエントに注意が向けられなくなったら元も子もないとは思いますが。

そのような些細なところはさておき、全体的には失敗について網羅的に論述されており、さらに、様々な視点が用意されているので、読んでいると色々と私の空想や連想が刺激され、身を入れながら没頭してしまうことが多かったです。それだけ大変刺激的な内容となっているということなのでしょう。特に「研究会や学会ではケース発表者がフロアから失敗を責められ、委縮し、トラウマになってしまう」といったところは本当によく分かるような気がします。自分自身がフロアから発言する時には気をつけていきたいと思います。

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