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分裂機制についての覚書

メラニー・クラインの1946年の論文「分裂機制についての覚書」についての要約と解説です。クラインはこの論文で分裂や投影同一化、妄想分裂ポジションなど、今後のクライン派に欠かせない概念を創出しています。

A.分裂機制についての覚書(1946)の要約

1.概略

乳児が最早期から用いる分裂機制についてのまとめ的論文。抑うつポジションに対する妄想分裂ポジションや特殊な防衛機制である投影同一化が提唱された論文でもある。統合失調症の精神分析についての理論が確立されていなかった時代において、青写真的存在と言える部分も含まれている。

2.早期の自我

本論文に至るまでの、分裂機制に関するクライン自身の考えをまとめ、問題の整理を行っている。対象関係は生の初めから存在し、破壊衝動が対象に向かい、迫害的恐怖を形成する。口愛サディズム、肛門期サディズムの衝動は死の本能から生じている。これはフェアバーンとの違いである。

フェアバーンの写真

図1 フェアバーンの写真

フェアバーンについては以下のページが参考になります。

抑うつポジションに先行するものとして妄想-分裂ポジションがある。自我機能の幾つかは生の初めから存在し、最も顕著なのは不安を処理する機能である。

3.対象との関係における分裂の過程

乳児の中でいかにして分裂機制が進んでいくか述べている。幼い乳児の空想の中では、良い乳房と悪い乳房が分離している。良い乳房は完全なもの、悪い乳房は断片化されたものとして感じられる。乳児の感情は欲求不満と不安で揺るがされ、良い乳房と悪い乳房を分離したままでいることが困難になり、良い乳房もまた細分化しているように感じる。

なぜなら、自我が内的対象、外的対象それぞれを分裂させることは、自我の内部にそれに対応する分裂が起こらなければ不可能であるように思われるからである。対象が細分化されればされるほど、自我は分裂する危険にさらされることになる。

4.投影と取り入れに関連した分裂

投影と取り入れの相互的関係の特殊な形として投影同一化を提唱し、それが正常な発達の一部を形成すると同時に、自我を脆弱にして精神病の源泉になる危険性について述べている。

分裂の機制と同様に、取り入れと投影もまた、生の初めから用いられる。迫害する対象は、理想化された対象からはるかに遠くに置かれ、存在そのものが否認される。このことは、対象関係が否認されることであり、対象だけでなく自我の一部も同じように否認される。

母親(対象)が自己の悪い部分を含み持つ限り、母親(対象)は分離した個体として感じられず、むしろその悪い自己として感じ取られる。この同一視の特殊な過程について投影同一化(projective identification)という言葉を提唱している。

外界に追放された感情や人格の攻撃的な要素は、強さ、知識などの望ましい特徴と密接に結びついている。さらに、自己の悪い部分だけでなく自己の良い部分もまた追放され投影されるような過剰な投影が生じる。これらの結果、自我は極端に脆弱となり、分裂の過程をさらに推し進めざるを得ないことになる。

この感情は解体の状態にまで達するが、一過性には正常な発達でも生じる。しかし、しばしば、または長くそのような状態が続く場合、乳児における精神分裂病(統合失調症)の徴候と見なされ、成人の場合の離人状態と精神分裂病(統合失調症)の解離は、このような乳幼児の解体への退行と思われる。

5.分裂的対象関係

分裂的パーソナリティにおける対象関係の幾つかの特徴について述べている。理想自我が投影されても、悪い部分を投影していたとしても、同じように自己の一部であり、ナルシシズム的な性質を帯びる。顕著なわざとらしさ、自然さの欠如、換言すれば、心的現実と外的現実に対する関係が障害を受ける。いくつかの特徴は、程度が軽く目立たない形として正常な人びとにも見いだし得る。

6.妄想分裂ポジションとの関係における抑うつポジション

妄想分裂ポジションが現れるのはおよそ生後から3ヶ月程度であり、4ヶ月から6ヶ月の間に抑うつポジションが前面に現れる。悲哀(mourning)にも似た状態、強い罪悪感、償おうとする衝動が現れ、これは心的現実に対する優れた洞察と統合が進んだ結果である。

この歩みのなかで、不安はその力を失い、対象はそれほど理想化されなくなり、恐ろしくなくなる。発達が正常に進展せず、抑うつ的不安の衝撃に対応しきれない場合、自我は妄想分裂ポジションへと退行せざるを得なくなり、早期の迫害的恐怖と分裂機制は強化されてしまう。

7.分裂的現象と躁うつ的現象との関連性

躁うつ病患者との精神分析治療において、分裂的機制が生じた経験から、統合失調症と躁うつ病が従来推測されていた以上に発達上、相互に関連し合っている可能性について言及している。

症例提示。未だ抑うつ状態や躁状態のさなかであった時ですら、しばしば抑うつ的機制と分裂的機制が同時に出現している。自責感と劣等感にさいなまれ、涙が頬を伝い落ち、絶望的な振る舞いを見せたにも関わらず、これらの情緒を指摘すると、そのような感情はまったく感じていないと述べた。統合失調症の場合に示唆することができるのと同じように、躁うつ病においても2つのポジションの特徴を混合した臨床像を呈する根拠になるかどうかという問が発せられる。

8.分裂的防衛

精神分析治療における分裂的防衛の特徴と対応について述べている。患者が精神分析家との交流に支障を来すこと、解釈に対する反応が欠如することは分裂の過程である。「私はあなたがおっしゃることを聞いています。あなたは正しいでしょう。でも私にとってあなたがおっしゃることは何の意味もないんです」とある患者が述べた。

「意味がない」という表現は解釈に対する積極的な拒絶を意味しているのではなく、人格と感情のある部分が分裂排除されていることを示している。このような分裂的機制を用いる患者は解釈を受け入れることも拒絶することもできない。

解釈は、過去との関連を含む、その時点での転移状況を詳しく扱わなければならないし、分裂的機制への抵抗へと自我を駆りたてる不安状況との関連づけも含まなければならない。この方針にそった解釈の結果生じる統合は、さまざまな種類の抑うつと不安を伴い、よい統合がそれに引き続き、対象関係に根本的な変化を生じさせる。分裂機制が抑圧とどのように関連しているかという疑問が生じるが、ここでは扱い得ない。

9.分裂的患者の潜在的な不安

分裂的患者を無反応にさせる情緒の欠如には、不安の不在(absence of anxiety)が伴っている。分裂的患者が抱いている潜在的不安は、消散という特殊な方法によって潜在的に保持されている。

このような消散を伴う自己の分裂を統合しようとする解釈は、不安を不安そのものとして次第に体験できるようにするものである。分裂的状態の解釈を行う場合、意識、前意識、無意識相互間の連絡が確立できるような、知的で明確な解釈を行う能力が治療者に要求される。

10.フロイトのリビドー論の関連

分裂的機制とフロイトのリビドー論の関連について世界崩落妄想を持つ患者の症例報告(Freud;1911)から引用して考察している。

患者は外界の人々に向けていたリビドー備給を撤回し、その結果、外界存在のすべてが彼にとってどうでもよいもの、無縁のものになった。患者が示す世界没落の妄想は、この内的な破局の投影である。リビドー分配(備給)の障害は、破壊衝動とリビドーとの解離を前提としている。世界没落妄想は、主治医の魂への侵入が根底にあり、破壊衝動がリビドーよりも優勢であることを意味している。

従って早発性痴呆に関する素因的な定着は、パラノイアの定着よりもさらに以前の段階に存在していて、自体愛から対象愛へ進む発達の出発点に求めなければならない。

B.分裂機制についての覚書(1946)の解説

妄想分裂ポジションと投影同一化のその後の発展

  • 病理ではなく正常な発達の1つのプロセス(マネー・カイル)
  • 空想の中のことだけではなく、実際の対人関係に影響を及ぼす(ローゼンフェルド、オグデン)
  • コミュニケーションの1つであり、逆転移を通して受け取り、理解する(ビオン)
  • 現代において、すべてを患者の問題に還元する風潮もあり、危惧される。構造の問題、技法の問題、技量の問題、セラピストの病理の問題など。

C.さいごに

さらに精神分析について興味のある方は以下のページをご覧ください。