精神分析の基本概念
精神分析的心理療法で使用される概念や専門用語は非常に多く、かつ複雑でもあります。それらすべてを網羅することは難しいので、ここでは基本的な7つの概念だけをここでは取り上げます。
1.無意識
精神分析的心理療法の目的は端的に述べると無意識の意識化です。もう少し簡単な表現を使うと、自分の知らない自分に気付いていく、ということです。自己探索と言っても良いでしょう。
いつも同じことを繰り返してしまっている、同じ失敗を何度もする、分かっちゃいるけど止められない、など自分で意識をするもののどうしても変えられないことはたくさんあります。それらが全てとは言わないまでも無意識の作用によるものだと理解できます。
そのため無意識のことを理解していくことによって、同じ失敗を繰り返す理由や事情を発見していき、そうした不毛な繰り返しから抜け出ていくことを目指します。
2.自由連想
自由連想とは無意識の意識化という目的を達成していくためにクライエントが行うべき精神分析的心理療法の中での作業のことです。
具体的には頭に思いついた連想を自由に語っていきます。時には恥ずかしいと思うことでも、関係ないと思うことでも、言いにくいことでも、可能な限り言葉にしていってもらいます。そうした中に無意識の片鱗が含まれています。
そうした自由連想の中で出てきたことを検討していきます。
3.転移
人間は幼少期に親を代表とする養育者との関係の中で、人間関係のテンプレートを形成していきます。そのテンプレートを元にして、現在の人間関係を生きていきます。そのテンプレートがカウンセラーとの間で起こることを転移と言います。主にはクライエントの心理療法家に対する情緒や思考、態度としてあらわれます。
このテンプレートが歪んでいたり、極端になっていたり、硬直化していたりすると円滑に人間関係を営むことが難しくなります。精神分析的心理療法ではあらわれた転移を理解し、修正していくことを目指します。
反対にカウンセラーからクライエントに向けるものを逆転移と言います。こうした逆転移はなかなか気付きにくい性質があるので、カウンセラー自身も教育分析や個人分析、スーパービジョンを受けることによって気付いていけるようになります。
逆転移の活用法については以下をご参照ください。
4.夢
人は寝ている時には夢を見ます。よく見る人もいれば、ほとんど見ないという人もいるでしょう。見ていても覚えていないこともありますし、明確に覚えていることもあるでしょう。悪夢のように反復するような夢もあります。
夢の生理学的なメカニズムはあるでしょうが、それとは別に夢の内容にはその人そのものが端的にあらわれている場合も少なくありません。フロイトは「夢は無意識への王道」と言いました。現代の精神分析的心理療法ではそこまで夢に特権的な役割を与えていませんが、それでも夢を通して自己理解を深めていく意義は大きいのです。
全ての夢が自己理解や無意識に繋がるかどうかは分かりませんが、気になる夢があれば精神分析的心理療法の中で話してみるのも良いでしょう。
夢分析、夢の解釈の詳細については以下が参考になります。
5.解釈
通常の日本語の意味とは多少異なります。通常では事態を理解することのみを指します。しかし、精神分析的心理療法でいう解釈は、カウンセラーが事態を理解することと、それを言葉としてクライエントに伝えることの両方を含めています。
カウンセラーは精神分析的心理療法の中でクライエントに様々な解釈をします。解釈の内容は当たっていると思うこともあれば、そうじゃないと思うこともあるでしょう。しかし、精神分析的心理療法は占いではないので、当たれば良い、当たらねばダメ、というものではありません。
解釈はカウンセラーのある種の問いかけに近いものなので、当たる・当たらないではなく、それをきっかけに思いついたことを自由連想として語ってもらえると良いでしょう。そうした刺激剤ぐらいの位置づけと理解すると良いでしょう。
6.防衛と抵抗
クライエントの自由連想とカウンセラーの解釈というこの作業により無意識を探求していきます。しかし、それがいつも順調にいくとは限りません。というか、順調にいくことのほうが少ないでしょう。無意識がなぜ無意識にとどまっているのかというと、それを意識することが苦痛であり、悩ましいからです。
なので、無意識の意識化をしていくと、それに抗うように、誤魔化したり、話をそらしたり、反対のことを言ったり、見ないようにしたり、話さないようにしたりしてしまいます。もしくは、カウンセラーに質問して自らは話さない状況を作ったり、キャンセルして向き合わないようにしたり、問題行動を起こすことで注意をそちらにひきつけたり。時には、良くなったということにして精神分析的心理療法を中断したりすることもあります。
これらのことは意識的に悪意を持ってしているというよりは、無自覚的に、無意図的にしてしまうことが多いようです。そして重要なのは、そのようなことをしてしまうことがいけないこと、というのではなく、そうせざるをえない心の動きがあるということを理解し、可能な限り、そういう心の動きについて考えていくことなのです。
7.ワークスルー
自由連想で話された素材とカウンセラーの解釈との織り成しにより、徐々に徐々に自己理解が深まっていきます。しかし、それだけで日常の繰り返される行動や関係がすぐに変化することはありません。「分かっちゃいるけど止められない」ですから。
ワークスルーとは何度も何度もそうした繰り返しに立ち戻りながらも、幾度と無く考え続け、試行錯誤し続け、失敗から学び続けて、新たな自分を創造していき続けることです。
ワークスルーについて書かれたフロイトの論文の要約と解説が以下のページです。
8.精神分析のトピックについて
9.精神分析的心理療法を受けたい
精神分析の概念を使って行うセラピーを精神分析的心理療法と言い、当オフィスではこちらを行っています。自分自身の無意識に出会い、本質的に自分を見つめ、変えていきたいという方は以下の申し込みフォームからお問い合わせください。