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ウィニコットの「子どもの治療相談面接」を読んで

D,W,ウィニコット(著) 橋本雅雄、大矢泰士(監訳)「新版 子どもの治療相談面接」 岩崎学術出版社 2011年を読んだ感想を書きました。

1.治療相談とは

ウィニコットはストレイチーやリビエールから教育分析や個人分析を受け、メラニー・クラインからスーパービジョンを受けて、精神分析家となった小児科医です。

精神分析は週に4~5回のセッションを数年に渡って続けなければならず、負担が非常に大きいものです。しかし、ウィニコットはできるだけ関わりは小さく短くすることが大切だという考えから、1回か多くても数回のセッションである程度の効果を出すためにどういうことが必要なのか、ということを考えました。そうしたアイデアが本書で取り上げられているような治療相談(Therapeutic Consultation)です。

これらは主に子どもの治療で用いられます。スクイグル・ゲームなどを用いながら、初回カウンセリングの段階で子どものかなり深い部分の葛藤やコンプレックス、対象関係などに触れていき、発達を前に進めることのできる技法です。

2.本書の症例

本書は3部構成になっており、1部では7症例の健常児を、2部では5症例の精神病児を、3部では9症例の反社会的な児童を、そして合計21症例を取り上げています。いずれも1セッションか数セッションほどの短い期間での出来事ですが、非常に詳細に記載されています。そして、どれもがそれだけのセッションでかなりの改善を見せています。

ちなみにウィニコットの1968年の「私の総計」という論文では、改善、変化なし、悪化がどれぐらいの割合だったのかを報告しています。

3.スクイグル・ゲーム

ここで紹介されている症例のほとんどに、スクイグル・ゲームというものを用いています。スクイグル・ゲームはイギリスの伝統的な子どもの遊びで、特にウィニコットの独創ということではないようです。一方がデタラメな描線を描き、もう一方がそこから見えるものを描いていく、ということを交互にしていく遊びです。

ウィニコットはその描画に子どもの様々なもの投影され、深いコミュニケーションの中で無意識が明らかになっていくことを見出しています。そういう意味ではウィニコットの独創性があると言えます。

4.治療相談から学ぶこと

こうした治療相談における症例を見ると、この時代のブリーフセラピーとも言えそうです。ただ、ウィニコットの後にはこの治療相談の技法はあまり発展せず、今日ではあまり使う人がいないのが残念なところです。。

このような劇的な変化に感銘を受けて、自分もやってみようと思う人もいるかもしれません。しかし、簡単にこういうことができると考えるのは危険だと考えます。それはウィニコットも主張していますが、この治療相談は精神分析とは違いますが、精神分析の訓練を積まないとできないとウィニコットは言っています。精神分析を学ぶことが前提であるので、そう簡単にはできないようです。

聞くところによると、本書が新たに訳しなおされて再出版されたのは、療育関係の人の要望が強かったからのようです。治療相談そのものを行うことは困難かもしれませんが、そのエッセンスから学ぶことは非常に意味のあることではないかと思います。


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