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精神医療への不信とその原因としての哀しみについて

不信感に耳を傾ける

クライエントの中にはクライエント本人と同じ体験・経験をもつカウンセラーでしか理解されない、という信念を持っていることがあります。そして、それは医療不信と近い関係にあります。ここではそうしたクライエントをどう理解し、どう関わるのかについて述べています。

1.クライエントの願いと不安

子どもがいない小児科医に子どもを診れるのか、というツイートが反響を呼んでいるようです。私の業界でいうと精神疾患ではない精神科医や臨床心理士、カウンセラーに精神疾患を診れるのか、と置き換えることができるかもしれません。色々な人がこのことについてコメントを書いていますが、特に子どもがいないからといって、精神疾患ではないからといって、診れないわけではない、というのが至極もっともな意見であり、概ね私も賛同します。

ただ、なぜ、こうした言説が一般の方や患者、クライエントから出ているのかという経緯や文脈は考えねばならないでしょう。おそらく、そこには本当にこの苦しみや辛さ、痛みを医師や臨床心理士、カウンセラーは理解してくれるのか、共感してくれるのかといった切なる願い、もしくは不安があるのでしょう。また、この苦痛は他の誰とも違う、その人固有のユニークのものであり、均一的に、機械的に処理されたくないという不満もあるのでしょう。

そして、想像するに、これまでの人生のどこかの地点で、実際に適切に扱ってもらえなかったという出来事があるのかもしれません。そのことに対する失望や怒りも、この言説には含まれているのかもしれません。とすると、○○ではない者に○○は診れない、という意見を単に非論理的で、根拠に乏しいものであると一蹴するのではなく、我々のようなカウンセラーは、そこに患者やクライエントの哀しみを見出し、触れていくことが求められるのだろうと私は考えます。

2.クライエントの精神医療不信

上記と関連がありますが、患者やクライエントの医療不信、精神医療不信というのは相当大きい様に思われます。私はこれまで精神科で働いていたことが多かったのですが、精神科に来ている人が対象であるわけで、そうすると必然的にそこまで精神医療不信の方は来られません。しかし、開業臨床をするようになり、精神医療不信があるので、精神科には行かないが、開業オフィスには来る、という人がそれなりの数に上ることを改めて知ることになりました。

そして、この精神医療不信は大別して、精神科医という人物に対してと、精神科薬物療法に対しての2種があります。

(1)精神科医への不信

前者は話を聞いてもらうことを求めて受診したのに話はロクに聞かずに薬だけを出されたというものです。

精神科医が話を聞かないという批判については、別の機会でも述べたことがありますが、そもそも現在の日本の医療体制として長時間の診察をすることが困難であるという現状があるので、精神科医個人の問題ではないでしょう。反対に、そうした状況の中でも、長時間の診察を工面する精神科医も中にはいます。そもそも患者が寄り付かず、時間を持て余しているので長時間の診察ができるという精神科医もいるかもしれませんが。それはさておき。

精神科でのカウンセリングについては以下をご覧ください。

精神科でのカウンセリングについて
精神科に通院するクライエントさんは心理的な苦痛が大きいため、精神科医に様々なものを期待します。その中には話を聴いてくれることや、カウンセリングをしてくれることを求められます。しかし、精神科医が長時間の対応をすることはいくつかの理由で困難なのです。ここではそうしたことについて書いてみます。

(2)精神科薬物療法への不信

後者については、薬物によって人格を変えられてしまうという不安、服用しても治らない、むしろ副作用や離脱作用が苦しい、というものです。後者の精神科薬物療法への不信については、そこにやや妄想的な不安(人格をかえられる)というものから、実際に自身が服用して、もしくは、周囲の人が服用しても病気が治らないという実際的な事柄に由来するものまであるようです。

むしろ服用することにより、頭がぼーっとするなどの副作用や離脱症状の苦痛があるため、敬遠するということも多いかもしれません。これについても、精神疾患の治療をする上で、まだ解明されていないことが多く、そのため、効果的で効率的な治療を他科のように提供しにくいという現状もあるでしょう。

こうしたことから、精神医療不信というものは意外と深刻に国民の間に影を落としているところがあるのかもしれない、と開業してからは思うようになりました。精神科で仕事をしているとこうした医療不信を見落としがちになってしまいますし、ややもすると精神医療不信は知識の無い患者やクライエントの思い込みであると断じてしまう精神医療者もいるかもしれません。

3.クライエントの物語に耳を傾ける

クライエントの中には精神医療不信から開業オフィスにやってくる人もいることは少なからず事実です。そして、その中にはやはり精神医療が必要であろうと思われるクライエントもいるのも事実です。そのクライエントの精神医療不信がどういう経緯で、どういうことから心に刻まれるようになったのかを丁寧に聞き取る必要があるでしょう。そして、その把握と見立てから、精神医療が必要であれば、そのクライエントの物語に沿う形での説明や促しが我々開業の臨床心理士、カウンセラーには求めらます。

公認心理師ができ、連携が必要ということで、クライエントの物語を聞かずに、単に必要だから行けというのはあまりにも乱暴でしょう。さらにクライエントの不信感を募らせる結果になることは想像に難くありません。我々はクライエントの心の声や物語にまずは耳を傾けて、その文脈での関わりが必要であると私は考えます。

【執筆者情報】

  • 北川 清一郎
  • 資格:臨床心理士、公認心理師、日本精神分析学会認定心理療法士など
  • 所属学会:日本心理臨床学会、日本精神分析学会、日本EMDR学会、日本臨床心理士会、日本公認心理師協会など
  • 役職:神奈川県臨床心理士会代議員、日本臨床心理士会委員などを歴任
  • 経歴:精神科や心療内科、教育センター、児童相談所、就労支援施設などでの臨床経験は約20年になる。また、臨床心理系の大学などでの非常勤講師を歴任。執筆した論文は多数。メディアや雑誌での出演経験も豊富。
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