カウンセリングを受けることの苦痛について
カウンセリングをすると患者さんは辛くなったり、しんどくなったり、苦しくなったりすることが多いようです。特に精神分析的心理療法、力動的セラピーなどではその傾向が強いかもしれません。ここではそのことについて書いています。
目次
カウンセリングを受けることの苦痛とは
カウンセリングでは、日常では避けられてきた自分自身と向き合うことが避けられず、そこに「汚れた感情・醜さ・否認してきたもの」などが浮かび上がることがあります。こうしたものは、これまで防衛機制によって抑えられていたものです。カウンセリング中にこれらが表面化することで、クライエントは一時的に辛さや苦しさを感じることが多いのです。
時には症状が悪化したように見えることさえありますが、これは必ずしも逆行ではなく、深い変化の過程の一部であると捉えられます。
また、カウンセラー側には、クライエントが抱えきれない苦痛を一時的に受け止め、扱いやすい形で戻す「コンテイン・コンテイナー」機能が求められます。これにより、苦痛自体を扱うプロセスが支えられ、関係性のなかで変化を起こす力が育まれます。
よくある相談の例(モデルケース)
40歳代 女性
Aさんは40歳代の女性で、幼少期から感情を抑えることが当たり前の環境で育ちました。両親は厳格で、泣いたり不満を口にしたりすると「弱い」と責められることが多く、自分の気持ちを素直に表現することを避けるようになりました。大人になってからもその習慣は続き、職場でも家族との関係でも「頼まれたら断れない」「常に笑顔でいなければ」という思い込みに縛られ、心身の疲労を抱えるようになりました。40歳を迎えるころ、強い虚しさや孤独感が募り、夜眠れない日が増え、心療内科を受診しましたが、薬による改善は限定的で、根本的な生きづらさは変わりませんでした。その後、知人の勧めでカウンセリングを受ける決心をしました。
しかし、Aさんにとってカウンセリングは当初強い苦痛を伴うものでした。セッションで自分の本音を語ろうとすると緊張と羞恥心が襲い、「こんなことを話していいのか」「迷惑ではないか」と頭の中で自分を責め続けました。沈黙が続くと居心地が悪く、帰宅後には疲労感に押しつぶされるような感覚に襲われました。途中で通うのをやめたいと思うこともありましたが、カウンセラーはAさんの戸惑いや沈黙を受け止め、それも大切なプロセスであると説明しました。
数年にわたるカウンセリングの中で、Aさんは「苦痛を抱えながら語ること」自体が、自分にとって大きな挑戦であり成長であることを理解するようになりました。やがて小さな本音を言葉にすることから始まり、「弱さを見せても関係は壊れない」という体験を積み重ねました。その過程で、自分を支えてくれる人に頼ることや、必要なときに断ることが少しずつできるようになりました。現在のAさんは、依然として話すときの緊張はありますが、それを恐れずに受け止める力が育ち、以前よりも自分らしい生き方を実感できるようになっています。
カウンセリングを受けると苦しくなる
カウンセリングといってもさまざまな技法や理論があり、すべてのカウンセリングで同じことが起こるわけではありません。しかし、カウンセリングの過程でクライエントさんがつらくなったり、しんどくなったり、苦しく感じたりすることは少なくないようです。特に精神分析的心理療法や力動的セラピーなどでは、その傾向がより強く現れることがあります。
というのも、カウンセリングでは多様な話題について語り合う中で、どうしても自分自身と向き合わざるを得なくなる場面が増えるからです。そこで直面するものには、自分の中の汚い部分や醜いと感じる部分、排除しておきたいもの、遠ざけておきたいものなどが含まれます。これまでそれらに直面することはあまりにもつらいため、心理的に防衛してきたのかもしれません。防衛がうまく働いている間は日常生活を保てるかもしれませんが、その一方で防衛の副作用として、さまざまな症状や身体化、対人関係の問題が現れてくることもあります。
したがって、症状や身体化などの問題を解決するためには、避けてきたものに直面し、それを整理していく必要があります。その過程で、クライエントさんは自分に直面することで一時的に苦しさやつらさが増し、しんどく感じることもあります。ときには病状が悪化したように見える場合もあります。しかし、これらは治癒や回復に向かうために必要不可欠なプロセスであり、この苦痛を安全な関係の中で乗り越えることが、心理的な成長と回復につながるのです。
Aさんは、カウンセリングに通い始めた頃、セッションで感情を言葉にしようとすると強い緊張や羞恥心が湧き、帰宅後にぐったりと疲れてしまいました。「こんな話をしていいのか」と迷い、通うこと自体がつらく感じる時期が続きました。
苦痛を抱えるためにカウンセラーが行うこと
そのようなプロセスを経るためには、カウンセラーもクライエントさんの受け入れがたい側面に思いを馳せ、空想し、想像する必要があります。そして、クライエントさんがそれを受け入れる際に伴う苦痛に共感を寄せ、共に耐えていく姿勢が求められます。
カウンセラーの重要な機能の一つに「コンテイン・コンテイナー」という概念があります。これは、クライエントさんが抱えきれない苦痛や感情をカウンセラーが一時的に引き受け、整理し、クライエントさんが消化しやすい形にして返していく作業です。このようなプロセスこそが、カウンセリングの中核的な働きであると言えるでしょう。
Aさんの場合、カウンセラーは沈黙や戸惑いも大切なプロセスとして受け止め、急かさずに安心できる場を整えました。そのおかげで、Aさんは「話せない自分」も受け入れられていると感じ、少しずつ言葉にする勇気が持てるようになりました。
カウンセリングは楽になるだけではない
近年、カウンセリングは広く一般にも知られるようになりました。それは喜ばしいことです。しかし、多くの場合「カウンセリングを受けると楽になる」「すっきりする」「癒される」といったイメージが持たれているように思います。カウンセラーをはじめとする専門家の中にも、そうした表現を用いる人がいるかもしれません。しかし実際のカウンセリングは決して単純なものではなく、プロセスにはしばしば苦痛や困難が伴い、一朝一夕には終結できない深く重たい作業であると考えられます。
もっとも、カウンセリングには多様な技法があります。中にはこうした中核的な作業には踏み込まず、リラクゼーションを中心に行ったり、防衛機制をむしろ強化することで安定を図る方法もあります。それらは一定の効果を持つものであり、決して無意味でも無駄でもありません。
Aさんは、セッションで過去の痛みや怒りに触れるたびに一時的に苦しくなりましたが、それを乗り越えることで心が軽くなる感覚も得ました。今では、苦痛も含めてカウンセリングが自分の成長の糧になっていると感じています。
カウンセリングを受けたい
カウンセリングを受けることに「苦痛」を感じている方へ。心の奥に押し込めてきた感情や記憶に触れると、強い緊張や涙、怒り、虚しさが湧き上がることがあります。時には、これまで平気だと思っていた日常が揺らぎ、かえってつらくなるように感じるかもしれません。
しかし、その苦痛は変化や回復に向かうための大切なプロセスです。当オフィスでは、無理に話を引き出すことなく、安心できる関係を築きながら、一緒にその感情を扱っていきます。カウンセリングは単なる癒しではなく、自分を深く理解し直し、生き方を見つめ直す機会です。「話すことが怖い」「感情を出すのが苦しい」と感じる方も、その気持ちごと大切に受け止めます。心の重荷を一人で抱え込まず、少しずつ整理しながら新しい一歩を踏み出したい方は、ぜひお申し込みください。