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解決のための面接技法 ソリューション・フォーカスト・アプローチの手引き

P,ディヤング、I,K,バーグ(著)「解決のための面接技法[第4版]―ソリューション・フォーカストアプローチの手引き」金剛出版の感想を書いています。

1.問題志向との対比

ソリューション・フォーカスト・アプローチとは、ブリーフセラピーの中に位置付けられる比較的新しいカウンセリングの技法です。本書では従来のカウンセリングは問題志向的であり、問題解決には向いてないと断定しています。そして、問題そのものを焦点とせず、解決だけを焦点とするのがこのソリューション・フォーカスト・アプローチであるとしています。

その具体例として第1章で問題志向的アプローチとソリューション・フォーカスト・アプローチを比較して、ソリューション・フォーカスト・アプローチの方がうまく進んでいますよ、というケースを紹介しています。それはそれで分かるような気がしますが、問題志向的アプローチを行っているのは研修を積んでいない学生であり、ソリューション・フォーカスト・アプローチを行っているのはソリューション・フォーカスト・アプローチに長けた臨床家なので、単純に比較してソリューション・フォーカスト・アプローチの方が良いとするのはちょっと乱暴のようにも思いました。

また、本書のあちらこちらで、問題をそのものを焦点にしてもカウンセリングは進まないという実例やお話を提示しています。しかし、それは単に問題志向のやり方(例えば精神分析など)が非常に下手くそに描かれています。私の経験上では、解決志向的なことをしなくても、本書で書かれているような散々なことにはならないようにも思いました。

2.下手から生まれる創造性

ただ、下手くそだからダメということはあまり思っておらず、下手だからこそ、それを補うように新しいやり方や理論を作り上げることができるのだろうとも考えます。

たとえば、フロイトははじめ催眠から臨床を出発させました。しかし、催眠の方法がかなり下手だったのではないかと言われています。そのため、それを補うように精神分析という新しい方法を作っていきました。同様に、ロジャースも初めは精神分析のトレーニングを受けており、その後に来談者中心療法を作りました。その転換点をドラマチックに描写している論文もあります。ようするに精神分析が下手だったから、新しいやり方として来談者中心療法を創設したと捉えることもできるでしょう。

3.見立ての不十分さ

本書に戻りますが、ソリューション・フォーカスト・アプローチのやり方の場合、初回から介入していくことが多いようです。ソリューション・フォーカスト・アプローチでは従来の方法よりも、見立てということはあまり重視していないことが影響しているのでしょう。そしてそれらのことについても本書では説明がなされていましたが、しかし、やはり私には見立てをあまりしないということが、危うく思えます。

というのも、患者は色々な悩みや苦痛のために来談されますが、そこには器質的問題が隠されていることがあります。脳腫瘍やホルモン異常などで、心理的症状が出てくることはよくありますし、その症状が現実的ストレスから来ていると勘違いしてしまうことは意外と多いようです。そういう時に初回からいきなり解決だけを念頭において介入していくことの危険性はないのでしょうか。その他にも統合失調症などが見えない形で進行していることもあります。そういう時には解決云々も必要かもしれませんが、まずは薬物などが必要になってきます。

4.現実的な問題を得意とする

一方で、ソリューション・フォーカスト・アプローチの良いところの方にも目を向けてみたいと思います。本書で紹介されているケースは、犯罪被害者や貧困、DV、虐待、金銭問題などどちらかというと現実的問題で来談したケースが多いように思います。このようなケースに対して、たとえば精神分析のように内省を促していくようなカウンセリングは全く不適応であろうと思います。

こうした時にはソリューション・フォーカスト・アプローチのようなやり方で、個人に目を向けるのではなく、現実問題をどのように対処して行けば良いのかを考えることの方が重要だと思います。このあたりはソリューション・フォーカスト・アプローチが得意とするところなのでしょう。

5.マニュアルの使用

本書ではソリューション・フォーカスト・アプローチをシステマティックに学べるような配慮が施されています。ビデオテープなどの視覚教材を用いて本書を読むと理解がさらに進むようです。また、最後の付録では、面接の中で使う質問項目などがマニュアル的に一覧としてまとめてあり、それを参考にすることも可能なようです。とりあえず暗記しろということなのでしょうか。

もちろん、臨床は一回性の営みなので、その時その時で臨機応変に対応しないといけないとは思いますが。