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臨床心理士をめざす大学院生のための精神科実習ガイド

津川律子、橘玲子(編著)「臨床心理士をめざす大学院生のための精神科実習ガイド」誠信書房 2009年から考えたことについて書いています。

1.臨床心理士の必須のトレーニングとしての精神科実習

カウンセラーや臨床心理士として、心理臨床やカウンセリングの仕事をする上で、精神科で働くことや実習をすることは必須と言われており、私も同意見です。本書でも書かれているとおり、精神科で働くことはなくても、精神科に通院・入院するクライエントさんと接し、そこで体験的に学ぶことによって、精神症状のある人や精神障害の人への対処ができるようになります。単にカウンセリングの知識と技術があるだけではカウンセリングはできません。

このことから、現在の臨床心理士を養成する大学院教育では精神科の実習はほとんどのところで行われています。しかし、実習の方法ややり方については指針・ガイドライン・マニュアルなどはなく、個々の病院・クリニック・大学がそれぞれ手探りで行っているのが現状です。

そのような現状から、統一的なガイドを作るほどではありませんが、本書ではこれまでの経験をまとめていこうとしています。そのため、一貫性を持って本書は構成されているとは言えず、羅列的にさまざまな著者が言いたい事を言っているという感じに仕上がっています。

ただ、これらのことから出来が悪いということでは決してありません。まだ日本全国での共通認識がなされていない現状をそのまま再現しているといえるでしょう。そして、それらの雑多な現状から大切なものを抽出し、整理していく作業が今後必要になってくるのだろうと思います。いうなれば、本書はパイロットケースとも捉えることができます。

2.精神科の実習のメリット

本書では、臨床心理士をめざす大学院生が実習に行くにあたって、気をつけるべき点、準備するべき点がいくつも挙げられていますので、非常に参考になると思います。さらには、実習生だけではなく、受け入れる病院・クリニックの担当者や、送り出す大学院担当者にも参考になることが多いように思います。

そういえば、実習生という立場で私は精神科に行ったことは実はありません。大学院を修了後すぐに精神科に勤めたのが、精神科との出会いだったことを思い出します。まだ臨床心理士養成が過渡期だったので不十分なカリキュラムの中でトレーニングを受けましたが、今のような実習があらかじめ準備されている現状は多少うらやましさも感じてしまいます。

しかし、不十分だからこそ、自分で各機関に問い合せて、個別的に実習させてもらっていました。そういうところから厚顔無恥ではあるかもしれませんが、度胸はついたようには思っています。あらかじめ準備されているだけに受身的になってしまうのは弊害といえなくもありません。

3.臨床心理士としてマナーを学ぶ

また、臨床心理士の場合、社会人経験者を除いては、大学院を出るとすぐに仕事を始め、多くの場合には新人研修・初任者研修を受けることがありません。ほとんどの企業・会社では新人研修を行っており、そこで挨拶や電話の受け答えの仕方、名刺の渡し方など、ビジネスマナーを叩き込まれます。

臨床心理士は大学院を出てすぐに働くことが多いので、そういうマナーを身につける機会が少なく、悪気はなくても、大変失礼なこと・礼儀知らずなことをしているかもしれません。かくいう私も全くそういうことを知らずにきてしまった部類の人間です。

そのようなマナーについても、本書は体系的にではないものの、いくつか取り上げており、実務的にこの辺は重要だと思われます。大学院生実習生のマナーが出来ていないこと以上に、実際に働いている臨床心理士のマナーについても考える必要があるかもしれません。

4.臨床心理士とリエゾン

そして、本書ではリエゾンやチーム医療にも多く触れられています。病院や医療機関というのは他職種がたくさんおり、それらの専門家とどのように連携をとっていくのかが大変重要です。本書のどこかで、仕事に費やすエネルギーは患者3割、他職種7割と書いているほどです。他職種に7割のエネルギーを注ぐことで、ひいてはそれがクライエントさんに還ってくるということでしょう。

実習生といっても病院に入るとスタッフの一員であることが強調されており、その心構えをしっかりとすることが求められます。

私もこれまで病院で働いていることが多かったですが、面接室にこもってしまう古いタイプのカウンセラーのようです。そのためか、リエゾンやチームということがうまくできないところがあるので、気をつけていきたいところです。


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