カウンセリングにおけるエビデンスベースド

エビデンスに正義はあるか

カウンセリングにおけるエビデンスベースドの考え方について書いています。エビデンスとは何かについて基本的なことをまとめています。また、精神分析のエビデンスについても書いています。

1.エビデンスベースドの理念

最近の医療やカウンセリングではエビデンスベースドという考え方が非常に注目を浴びています。今まで医療者やカウンセラーが個人的な経験や勘に頼った治療方法やカウンセリング技法の選択をしていたことことが多かったようです。それに対する批判であり、反動でもありますが、より科学的に検証された、効果があり、妥当な方法を提供しようとする運動でもあり、思想でもあります。

しかし、このエビデンスベースドが独り歩きをしてしまい、過度に実証データのみで判断しなければならない、といった誤解を持ってしまう場合もあります。例えば、認知行動療法だけがエビデンスがあり、それ以外はエビデンスがない、といったのは典型例でしょう。

2.エビデンスレベル

まず、エビデンスは有るか無いかではなく、どの程度積み重なっているのか、というレベルの話です。エビデンスレベルと言い、以下のような段階があります。

  • 1a システマティックレビュー、メタアナリシス
  • 1b ランダム化比較試験
  • 2a 非ランダム化比較試験
  • 2b その他の準実験的研究
  • 3 非実験的記述的研究(比較研究・相関研究・症例対照研究など)
  • 4 専門科委員会や権威者の意見

上に行けばいくほど信頼性が高く、下に行けば行くほど信頼性は低くなります。そして、こうしたレベルの研究の数がどの程度の量がなされているのか、といったことも重要になってきます。なので、ある特定の技法のエビデンスがあるかどうかではなく、どのレベルで効果が検証されているのか、どの程度の数のエビデンスがあるのか、といった視点で見ていくことが大事になってきます。

3.疾患別のエビデンス

さらに、特定のカウンセリング技法の効果が総じて有るのか無いのかではなく、対象別、疾患別、問題別に考える視点も必要となります。ある特定の疾患には効果があるけど、別の特定の疾患には効果がない、ということは稀ではありません。

さらに、特定のカウンセリング技法のどの要素が、どの部分が効果があり、どの部分が不必要なのか、といった細部に分けてみていくこともあります。要素分析と言われたりすることもあります。

4.実証データだけがエビデンスではない

また、エビデンスが積みあがっている技法だけを機械的に実施することはエビデンスベースドの理念ではありません。カウンセリングの条件やクライエントの興味関心、相性、制限、費用対効果、など様々な要因があります。こうした要因をすべて判断材料とします。エビデンスはその判断材料の一つにすぎません。

そうした様々な要因を勘案して、どういう技法を実施するのかが決まってきます。エビデンスの高い順に機械的に実施するのではありませんし、それはエビデンスベースドの理念から最も遠いやり方であるといえるでしょう。

5.カウンセリングの効果の特異的側面と非特異的側面

またカウンセリングの治療効果には特異的側面と非特異的側面があります。前者は特定のカウンセリング技法の効果のことです。そして、後者はカウンセリングの特定の技法ではなく、カウンセラーの人柄や熱意、力量、訓練、共感性、相性といった、どの技法にも共通する要因のことです。非特異的側面、共通要因は研究によって差はありますが、存在することは疑いないようです。

カウンセリングの効果というのは、こうした複合的な要因によって規定されるので、特定の何かだけが特権的に効果があり、他の技法には効果がないと断定するのは、エビデンスベースドの理念とは真逆のことであり、どちらかというとカルト宗教を盲信する態度に近い、とでも言えそうです。

6.カウンセリングの効果の割合

ランバートは以下の論文で、カウンセリングや心理療法の効果は何によるのかといったことを検討しています。

Lambert, M. (1992) Psychotherapy Outcome Research: Implications for Integrative and Eclectic Therapists. In Handbook of Psychotherapy Integration, (Eds) Goldfried, M. & Norcross, J., Basic Books, pp. 94-129.

この論文ではカウンセリングの効果は以下の様な割合になっているとしています。

  • 治療外要因(自然治癒など):40%
  • 治療関係要因(ラポールなど):30%
  • プラセボ・期待:15%
  • 技法要因:15%

非常に有名なので、このような数値はどこかで見たことがあるかもしれません。しかし、このランバートの論文は科学的に非常にずさんで、恣意的な数値の出し方をしており、この論文の結果は妥当性に欠けるようです。例えば、自然治癒40%としていますが、これは多数の論文の数値を持ってきて、その中央値が43%であるため、このような数値としているようです。詳しくは丹野論文を参照してください。

7.精神分析や力動的セラピーのエビデンス

精神分析や力動的セラピーはその構造や目的からエビデンスベースドの土台に乗りにくく、効果研究をしにくいという特性がありました。しかし、最近では徐々に効果研究の論文が出てきています。例えば以下のようなものがあります(精神力動的精神療法-基本テキストDVD付参照)。

表1 力動的セラピーの治療効果の一覧
著者名対象統制群方法結果
A,Winston1994C群人格障害待機リストランダム化比較試験全ての指標で有意に改善
EM,Anderson&MJ,Lambert1995他治療法メタアナリシス他治療法と同等
M,Svartberg et al2004C群人格障害認知療法ランダム化比較試験終結後の回復で精神分析に軍配
A,Beteman&P,Fonagy2008境界性パーソナリティ障害標準的ケアランダム化比較試験終結後の回復で精神分析に軍配
F,Leichsenring&S,Rabung2008短期の精神療法メタアナリシス治療困難事例で精神分析に軍配
J,Shedler2010他治療法システマティックレビュー他治療法と同等。終了後の改善し続ける

こうしてみると、パーソナリティ障害などの重篤で、通常であれば治療困難なクライエントのケースに対して強みを発揮するということが分かります。また、これらの他にも以下の書籍には精神分析や力動的セラピーのエビデンスが豊富に掲載されています。

レイモンド・A. レヴィ他(著)「エビデンスベイスト精神力動的心理療法ハンドブック」北大路書房 2012

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