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カウンセリングの歴史とロジャースの功績

カウンセリングとは言葉を使って、行動や人格を変化させ、問題を解決していく心理学的な技法です。そのカウンセリングの歴史を振り返ります。特にカウンセリングの元となったロジャースについては詳しく解説します。そして、現在のカウンセリングの位置付けやトピックについて書いています。

1.カウンセリングのこれまで

宗教画

(1)近代までのカウンセリング

カウンセリングの歴史は古代の原始宗教にまでさかのぼることができます。古代ではシャーマンと言われる祭司、族長、宗教家などが今でいう医療的なケアをおこなっていました。その中には悪霊憑き、今でいう精神疾患のケアも行っていたようです。そうした役柄が現在のカウンセラーによるカウンセリングの原型であると言われています。

キリスト教が誕生してからは、牧師や神父が教会内での告解、懺悔などを聞く役割を担っていました。そこでは罪を告白するということを通し、自身の悩みや葛藤を誰かに話し、それによって精神的なしがらみから解放されていました。こうした事柄もカウンセリングの原型と言えるでしょう。

(2)近代以後のカウンセリング

近代、つまり産業革命以降になると宗教的な世界観ではなく、科学的な世界観が優勢を占めるようになってきました。そして、人間の精神や心のメカニズムについて探求し、精神疾患の分類や診断を整備し、科学的な治療を行うようになっていきました。ドイツのクレペリンなどは統合失調症(当時は早発性痴呆といわれていた)、躁うつ病、てんかんなどの精神疾患を分類しました。また、フロイトなどはヒステリーと言われる神経症、不安障害について研究し、治療を行うようになりました。

上記のことは精神医学の分野ですが、心理学や社会生活の分野において、困っている人の援助を行う運動が発展していきました。それが以下の3つとなります。

a.カウンセリングと教育測定運動

知的水準を向上させるためには教育というものが非常に重要な役割となってきます。そして、個々によって適切な教育というのは違います。特に知的能力の水準によって、どうした方法の教育が良いのかを変えていかねば、逆効果になります。そのため、知的能力の把握ということが求められるようになりました

1905年にフランスのビネーが知能検査を作成したのが始まりと言われています。その後、ビネー検査は改訂を重ねて、精度をあげていきました。またソーンダイクは「すべて存在するものは量的に存在する。量的に存在するものはこれを測定することができる」と主張し、知能把握の技術を開発、活用していきました。

田中ビネー知能検査Ⅴ

図1 田中ビネー知能検査Ⅴの用具

b.カウンセリングと精神衛生運動

アメリカのビアーズが1908年に「全国精神衛生協会」を設立したことから始まりました。これは当時、劣悪な環境に置かれていた精神障害者の待遇改善を目的としていました。適切な治療を受け、人間らしい扱いを受けられるように働きかけていきました。こうした運動が今日のメンタルヘルスにも通じ、もちろんカウンセリングにも影響していきました。

c.カウンセリングと職業指導運動

アメリカのパーソンズが1908年に職業指導局を開設し、若者たちに適切な職業選択や、就業支援を行ったことから始まりました。それまでは適性などは考慮されず、そのため離職率が高く、効果的な経済活動ができていない状況でした。こうした職業指導は科学的な裏付けの元で行われており、そうした相談員はカウンセラーと呼ばれていました。

(3)現代のカウンセリング

上記の3つの運動が20世紀初頭に次々と始まりました。いずれも人間らしいあり方や営みになるように支援することです。それは運動でもあり、思想であると言っても良いかもしれません。

こうした営みが後で書くロジャースの使っていたカウンセリングという名称が定着し、様々な問題で困っている人たちに対するケアをする際にカウンセリングといわれるようになっていきました。そしてカウンセリングを行う人をカウンセラーと呼ぶようになりました

さらに最近では対面ではなく、GoogleMeetや電話を用いて遠方の方に対して行うオンラインカウンセリングなども発展してきています。

オンラインカウンセリングについての詳細は以下をご参照ください。

2.来談者中心療法とカウンセリング

カール・ロジャース

(1)ロジャースの生い立ち

ロジャース(1902-1987)はアメリカのイリノイ州の敬虔なプロテスタントの家庭に生まれました。ロジャースは当初は農学部に進み、その後、キリスト教に興味を持ったことから史学に転向しました。そして牧師になるために神学を勉強していましたが、その道に疑問を感じ、コロンビア大学教育学部に入り、そこで臨床心理学を学びました。当時は精神分析が全盛で、ロジャースもそれを習いました。卒業後には児童相談所に勤めるようになりました。

(2)非指示的療法から来談者中心療法

ロジャースは児童相談所で勤めるようになり、徐々に従来のやり方に違和感を感じるようになりました。そして、人間は自然に成長していく力を本来的に有しているので、それを害しないように見守ることが大事である、という考えになり、非指示的療法を提唱するようになりました。この方法が社会に受け入れられ、広がっていきましたが、理念を取りこぼし、「非指示」の部分だけが広まってしまいました。

ロジャースは非指示というやり方が重要なのではなく、その理念が大事であるとし、そのため名称を来談者中心療法と呼ぶようになりました。さらに、後年には人間の成長そのものに焦点を当てることから人間中心療法と変更しました。そのころにはエンカウンターグループという集団療法の実践に軸足が置かれるようになっていました。

(3)カウンセリングにおける変化のための三条件

ロジャースはクライエントが変化するために必要にして十分なカウンセラーの条件として3つ挙げました。それが有名な自己一致、無条件の肯定的配慮、共感的理解です。カウンセラーがこの3つの条件を達成、維持できたときにクライエントに有益な変化が生じるとしました。

(4)カウンセリングという用語の使用

ロジャースは非指示的療法や来談者中心療法を実践していましたが、それに対して医師を中心に、医療行為ではないか、医師法違反ではないかと糾弾される事態が起こってきました。そのため、ロジャースは治療行為ではないという意味を込めて、「カウンセリング」という用語も使うようになりました。また同時に患者ではなく「クライエント」という用語も使うようになりました。

このあたりのことが、カウンセリングという用語が世間的に認知されるようになったきっかけと言えるでしょう。

(5)ロジャースのカウンセリングの実際

以下の動画はロジャースが実際にカウンセリングをしているところを撮影したものです。英語なので何を言っているのか分からないところもありますが、雰囲気は伝わるかと思います。

(6)ロジャースの著作

ロジャースが実際にどのようなことを言って、書いているのかは以下の書籍に詳しいです。

3.カウンセリングと類似した用語

似ている6人の女性

カウンセリングと似たような用語は多数あります。心理療法、精神療法、心理相談、コンサルテーションなどです。人によってはほぼ同義語として使用することもあります。今のところ統一的な見解があるわけではありません。以下では違った意味で使う時の説明をします。

(1)心理療法

カウンセリングよりも、心の深い水準に焦点を当てる技法という意味で使うことがあります。例えば深層心理や無意識を扱うような時には心理療法と呼んだりします。もしくは、心理学者や臨床心理士といった「心理」が行う場合に、この心理療法という言葉で呼ぶこともあります。

(2)精神療法

カウンセリングや心理療法よりもさらに深い心の水準に焦点を当てるような技法に対して使うことがあります。もしくは、精神科医などの医師が行う場合に精神療法と呼ぶことがあります。

(3)心理相談

職場や家庭、学校などの日常的な場面での現実的な問題や困りごとの相談に乗るときに使われることがあります。また、単に話を聴くだけではなくて、アドバイスや情報提供といった現実的な介入を行うなどの時にも使用されます。精神障害などの病気の治療よりも、生活する上での困りごと相談というニュアンスに近いかもしれません。

(4)ガイダンス

心理相談の中でも、特に助言や指示に重きを置き、それらを多用するようなカウンセリングのときにガイダンスということがあります。

(5)コンサルテーション

専門家が別の専門家に対して助言や指導を行うことを指します。例えば、対処が困難なクライエントにどう支援を向ければ良いのか困っているときに、ベテランや先輩にしてもらうことなどです。多くの場合、コンサルテーションを受ける専門家はその業務以外のことでは特に困っておらず、健康に生活できていることが多いです。

4.カウンセリングにおけるエビデンスベースド

女性医師

現在の大きなトピックとしてエビデンスベースドがあります。それはカウンセリングについても例外ではありません。カウンセリングにおいてのエビデンスベースドの位置付けについて解説します。

(1)ロジャースの研究

上記で書いたロジャースは自身のカウンセリングや来談者中心療法が本当に効果があるのかについて科学的な検証を行いました。効果があると単に主張するよりも、データを示したうえで主張する方が説得力を持ちます。

ウィスコンシン・プロジェクトと言われる研究をロジャースは行いましたが、これは一定の訓練を受けたカウンセラーが精神障害者に対してカウンセリングをすることでどれぐらいの治療効果があるのかを調べるという研究でした。また、カウンセリングでの会話をテープレコーダーに記録し、その分析も行いました。その結果はそれほど芳しいものではありませんでしたが、こうしたデータを示して、効果を立証する姿勢は現代では非常に重要なものとされており、ロジャースはその先駆けであると言えるでしょう

(2)エビデンスベースドの潮流

これまでの医学では主に個々の医師の経験則を頼りにした治療行為が多く行われていました。しかし、それでは何が本当に効果があるのか、何が効果がないのかが分かりません。また本来なら効果がない方法なのに、効果があると勘違いしてしまうこともあります。こうしたことは非常な弊害になります。

そこで、個々人の主観ではなく、実際のデータから効果のあるなしを判断していき、効果のあるものは残し、ないものは廃止していくことで、有益な方法だけを積み重ねていくことができます

これは医療や医学だけではなく、カウンセリングにもその理念は有効です。これに関しては膨大なデータや研究の種類があるので、ここでは述べきれません。

興味のある方は以下の書籍を読まれると良いでしょう。

M,クーパー(著)「エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究-クライアントにとって何が最も役に立つのか-」岩崎学術出版社 2015年

5.カウンセリングを受けたい人へ

医者と相談

カウンセリングの歴史、ロジャースの位置付け、カウンセリングの用語の整理、エビデンスベースドの潮流について解説しました。カウンセリングは非常に長い歴史がある心理学的な技法で、学ぶことはそれなりに時間と労力がかかります。そのため、長い訓練を受けたカウンセラーにカウンセリングを受けることが大事になります

当オフィスでは経験豊富なカウンセラーが多数在籍しています。当オフィスでカウンセリングを受けたいと希望される方は下のボタンからお申し込みください。

また、カウンセリングの実際や詳細については以下のページをご覧ください。


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