カウンセリングに影響を及ぼすカウンセラーの雇用形態について
ツイッター上でmakeponさんとのんさんがカウンセラーの雇用関係・雇用形態が臨床やカウンセリングに与える影響について、以下のような議論をしていました。私もおおむね同意できるところもありましたが、その他に思うことがありましたので、書いていこうと思います。
(1)議論の素材となるツイート
PSWなど比べ、臨床心理士の収入問題は余り表に出にくい。非常勤中心、収入レンジの広さは一因。時給高いSCがいれば、コンビニと変わらない非常勤も。ただ、心理士の場合、収入の問題への関心も、それをどう表現するかも多様。お金にこだわるなら心理士選ぶな、とのエートスも内面化されているし。
金の問題もあるけど、一番の問題は「1年契約問題」だと思う。クビ切りしやすいシステムでの雇用。心理職の派遣社員化。まあ、でも、開業の場合はたえず「患者」・「クライエント」という「雇い主」からクビを切られる脅威に晒されるわけですが。
「1年契約問題」が何故問題かというと、「給料は安くてもよい。それでも人を支援したいんだ」という臨床家の熱いエトスによって成り立つこのシステムが、そのエトス自体を崩すことになっているという囚人のジレンマ級の自家撞着を孕んでるからです。
長期的に患者を抱えていくことを確約できず、もっとも肝要な臨床的局面でその機関やその上司の「意向」というものが(解雇通告の恐れと共に)頭をよぎり、遂には転職だけがキャリアアップの唯一の手段ということになれば、やはり「今だけうまくやっとこう」志向に陥りやすくなると思うなあ。
患者をめぐって上司や医師や他スタッフと闘って、険悪になって、和解して、時に涙してなどの、もはや投影同一化の作用なのか、その治療者個人の問題なのかさっぱりわからなくなるようなぐちゃぐちゃな事態の中で、それでも臨床を続けることだけはできる、というスタビリティを失うことになりますから。
(「1年契約システム」のなかでは)志向的にも実践的にも「うまいことやる」ことが必然的に正となり、患者にも「うまいことやれるような」支援をすることが正となるのかな?でも、本当かなと思う。自身の「うまくやれなさ」を大切にしたい人が臨床家を目指そうとするのではないかなあ。
さらには臨床家にとっても「患者は替えが利く存在」みたいな発想が出てくると恐ろしいからなあ。「ここが駄目でも別の所いけばいいや」とかね。もはや本末転倒ですね。
(2)確かにありえる雇用形態による影響
単年度契約で、かつ更新回数などが決まっている雇用で働く場合、確かに長期的な関わりを前提としたカウンセリング関係を患者・クライエントと持つことは非常に困難さが伴うことは想像に難くありません。また、いつ契約が終わるかもしれない不安を抱いているので、その眼差しは患者・クライエントではなく自身に向いてしまいます。
(3)カウンセラー側の問題
しかし、そんなに患者・クライエントの処遇を巡って非臨床家を含む上司や同僚と対立する、ということがそんなに起こりえることなのでしょうか?と一方では思います。また、それにより安易にクビになることはあるのでしょうか?そうであれば、労務法制上の重大な問題となりそうですが。さらに、もし仮に対立するような事態がそれほどあるなら、単に雇用形態の問題ではなく、そのカウンセラーの人間関係を営むことについての重大な問題があるのではないかと穿ってしまいます。
そうした意味で、雇用関係を断絶させられる、もしくはそれを用いて脅迫、強制させられる具体的な例とはどういうものを想定しているのでしょうか?
もし仮にそうした対立的な問題が起こるぐらいのことがあったとしても、それが頻繁に起こるような一般化できうる事態であるかどうか疑わしくも思います。
(4)常勤職でも同様の問題が起こる可能性
さらにさらに、患者・クライエントの処遇を巡って対立するような事態が起こるとすると、単年度契約の雇用だけではなく、常勤職のカウンセラーであっても危機になるのは同じかもしれません。
ちなみに常勤職であれば、長期的な関わりができると言っても、20年30年40年と関わることはそこまではないでしょう。カウンセラーとの関わりが終わっても、自立・自律していくことを目指す方が現実的かもしれません。
(5)限られた中でできる精神分析的な努力
単年度契約のカウンセラーだろうと常勤職のカウンセラーだろうと、限られた条件、許された期間の中で最善を尽くすことだし、その中で生きれなさ、進めなさいという悲哀・苦痛を生きれたらと思います。
故に、もし仮に対立するという行動化や不安があるとするなら、雇用関係の影響や患者・クライエントから投げかけられたものが無いとは言いませんが、かなりの部分にカウンセラーの逆転移が展開していると理解する方が精神分析的であるように思います。
その精神分析についての詳しいことは下記をご覧ください。