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カウンセリングとSST

西園昌久(編著)「SSTの技法と理論-さらなる展開を求めて」 金剛出版 2009年を読んだ感想を書きました。

1.SSTとは

SSTとは「Social Skills Training」の略で、日本語では生活技能訓練・社会技能訓練と訳されています。行動療法のモデリングや行動リハーサルといった技法を使い、対人関係やコミュニケーションの練習をしていく技法です。これは集団ですることが多いのですが、一部では個別に施行することもできます。

本書はSSTのマニュアル本などではなく、これまでの歴史を概観し、現在のSSTの治療的な位置づけについて包括的に論じています。

2.SSTと精神分析の関係

ちなみに、本書の編著者である西園昌久先生はIPA(国際精神分析学会)に認定されている精神分析家ですので、一見SSTとは関係がないようにも思えます。なぜ西園先生がSST普及協会の会長をし、本書の編著をしているのかについては、第1~2章でその内実が書かれています。簡単に述べると、アメリカ精神分析アカデミーでSSTの創始者であるリバーマンが受賞されるということがあり、それをきっかけに西園先生はSSTについて知ったようです。

その後、IPAの大会に出席する折にリバーマンに会い、大学の研究室でSSTを導入することになったようです。西園先生は精神分析家ではありますが、精神医療の現場で長年働いており、包括的に精神障害者の治療に当たっている経緯からSSTにも興味を示されたのかもしれません。

3.やりがい搾取

本書では、SSTの歴史から技法の解説、基礎理論、各分野での応用、さらにはエビデンスについてまで網羅されています。すべてに触れることはできませんが、いくつか印象に残ったところを挙げると、第8章では更生保護分野でのSSTの導入について前田氏が詳細に説明しています。その中でSSTを導入する際に、手弁当で、ボランティアで、休日返上で、無給で行ったとしており、それを奉仕精神によるものとして美化しているようでした。そのような熱意には感心しますし、金銭を支払えない財源的な事情もあったのかもしれません。

しかし、援助専門職ということであれば、奉仕精神で技術を安売りするのではなく、誇りをもって専門技術の提供の見返りとしての正当な報酬をもらうことが大事なのではないかとも思います。特にサービスや福祉は奉仕精神の名の下で援助者の善意を搾取し、疲弊させるリスクが非常に高くなります。ボランティア精神・奉仕精神に頼った援助ではなく、対価をしっかりと頂いた上で、効果のある援助を行うことが必要だと思います。今でも福祉現場では低賃金でこき使われることが多いと聞きます。もちろん、そうではない現場もあるでしょうし、専門意識が高い援助者もいるでしょうが。

4.SSTのエビデンス

また、第13章ではSSTのエビデンスについても述べられています。これまでのさまざまな研究を通して、SSTの効果はそれなりに認められてきています。

ただ、唯一、般化と維持については一貫して否定的な結果が見出されています。つまり、SSTをしている時には良いが、それが現実生活に応用されず、SSTが終われば効果が低下するということです。このあたりの知見は以前から見出されているため、色々な工夫が凝らされているようですが、未だにそれを克服することができていないのが現状のようです。

SSTは精神医療や教育領域において、精力的に取り入れられ、実施されている有効な方法ではありますが、弱点もありますので、それを意識して取り組んでいく必要はあるでしょう。