アサーショントレーニングは、双方気持ちの良い人間関係の構築、維持が期待できる自己表現の訓練法です。
本記事ではアサーションの3タイプやトレーニングの効果、やり方を解説します。話す力と聴く力を育てて気分の良いコミュニケーションをとりたい人は是非最後までご覧ください。
目次
アサーショントレーニングとは
「アサーション」とは自分も相手も大切にする自己表現のことであり、自己表現のための訓練法をアサーショントレーニングと言います。アサーションは自分の考えや欲求を素直かつ場に適した方法で表現するだけではなく、相手の主張をきちんと受け取る姿勢も重要です。
もともとアサーショントレーニングは、自己表現が苦手な人を支援する訓練法として1950年代にアメリカの精神科医J.ウォルピが開発をしました。その後医療のほか黒人や女性差別撤廃運動にも考えが広がっています。国内では1990年代に平木典子先生が紹介をし、教育、産業など多分野で注目されている訓練法です。
アサーション(assertion)は「主張する・断言する」と強めの意味をもちますが、一方的に自己主張するのではなく、相手の意見も尊重しながら自己表現する考え方をします。相手を思いやらずに主張しても、思いやった結果主張できないとしても、どちらも自他を傷つけ不安定なコミュニケーションになってしまいます。
アサーショントレーニングは、円滑なコミュニケーションをとって人間関係を良好に保ち、自らの心の健康を維持するためにも役立ちます。
ちなみにアサーショントレーニングは認知行動療法の技法の一つです。認知行動療法については以下のページをご覧ください。
よくある相談の例(モデルケース)
30歳代 女性
Aさんは30代の会社員で、職場では常に周囲に気を配り、頼まれごとを断れず、自分の業務時間を削ってまで他人の仕事を手伝ってしまう性格でした。その結果、慢性的な疲労感とストレスを抱え、休日も気が休まらず、心療内科を受診した際に「過剰適応傾向が強い」と指摘を受け、当オフィスにカウンセリングを申し込みました。
初期面接では、「嫌われたくない」「人に迷惑をかけたくない」という思いが強く、自分の意見を表明することに罪悪感を感じていることが分かりました。カウンセリングでは、まず認知行動療法の枠組みを用いて、Aさんの「自分より他人を優先する」考え方を整理しました。そのうえで、自己表現のスキルとしてアサーショントレーニングを導入しました。
最初の段階では、アサーティブな自己表現の基本である「I(アイ)メッセージ」を用いる練習を行いました。例えば、「あなたは間違っている」ではなく、「私はこう感じた」と伝える方法です。ロールプレイを通じて、批判ではなく自分の感情を主体的に伝える練習を重ね、少しずつ“自分の気持ちを言葉にする”ことに慣れていきました。
中期には、実際の職場で小さなアサーションを実践しました。たとえば、同僚に「今日は自分の仕事が立て込んでいるので手伝えません」と伝えるなど、無理のない範囲から始めました。Aさんは当初、「嫌われるのでは」と強い不安を感じていましたが、相手の反応が想像よりも穏やかだったことで、「断っても関係は壊れない」という新しい体験的学習を得ました。
終盤では、自己主張だけでなく、他者の立場や感情を尊重したコミュニケーションをバランスよく取ることを目標にしました。Aさんは「自分を押し殺すことなく、相手も尊重する」関係づくりを少しずつ実践できるようになり、次第に職場や家庭でも安心して意見を言えるようになりました。
現在では、ストレスによる不調も軽減し、「自分の人生を自分で選んでいる実感が持てるようになった」と語っています。アサーショントレーニングは、Aさんにとって“他者のための人生”から“自分を含めた人生”へと転換するきっかけとなりました。
アサーションの3タイプ

(1)アグレッシブ(攻撃型)
アグレッシブ(攻撃型)のアサーションタイプは、相手よりも優位に立とうと自己主張する傾向があります。
そのため、自分の言いたいことは言えるものの相手への配慮に欠け、一方的な主張になりやすい特徴があります。自己主張の仕方は怒鳴る、命令口調になる、否定的になる、相手をコントロールしようとする振る舞いが見られやすいため、対人関係では次第に避けられる可能性が高いです。権力のある人や支配的な人、自分の弱みを隠したがる強がりな人に多いと考えられています。
Aさんは、自分の意見を強く主張するタイプではありませんでしたが、心の奥には「我慢ばかりしているのに報われない」という怒りがたまっており、時に職場で感情的に反応してしまうことがありました。その結果、相手との関係がぎくしゃくし、自己嫌悪を感じることが多くなっていました。
(2)ノンアサーティブ(非主張型)
ノンアサーティブ(非主張型)のアサーションタイプは、相手を優先しすぎてしまって自己主張が抑制されてしまう傾向があります。
思いやりが強すぎて相手の言いなりになっては疲弊したり、自分が嫌われないかなどの保身から他者に依存的になったりする特徴があります。自己主張の仕方はあいまいな表現や沈黙が見られやすいため、相手に自分の気持ちが伝わりづらく、自分も内心では相手の意見に不満をもつことからぎこちない人間関係を形成しやすいでしょう。控えめな人や卑屈な人、自分の考えに自信を持てない人に多いと考えられます。
Aさんの場合、典型的なノンアサーティブ型でした。人の頼みを断れず、自分の意見を抑え込んでしまう傾向が強く、常に「相手を優先しなければならない」と思い込んでいました。そのため、心身の負担が増し、ストレスから体調を崩すこともありました。
(3)アサーティブ(バランス型)
アサーティブ(Assertive)とは、自分の意見や感情、要求を率直に、かつ相手の立場や感情を尊重しながら伝えるコミュニケーションのスタイルを指します。アグレッシブ(攻撃的)でもなく、ノンアサーティブ(非主張的)でもない、中間でバランスの取れた表現方法です。
アサーティブな人は、自分の考えを明確に持ちながらも、相手に押しつけることなく、冷静で建設的に意見を伝えることができます。例えば、「私はこの意見に賛成です。ただ、こうした点が気になります」といったように、自分の立場を伝えつつ、相手との対話を重視します。
このスタイルの特徴は、自己尊重と他者尊重の両立にあります。つまり、「自分も大切にし、相手も大切にする」という姿勢です。そのため、アサーティブな対応を身につけることで、無理な我慢や過剰な自己主張が減り、ストレスの軽減や人間関係の改善につながります。また、相互理解が深まり、信頼関係を築きやすくなるという効果もあります。
アサーティブなコミュニケーションは、職場や家庭、友人関係などあらゆる場面で有効であり、健全な自己表現の基礎となるスキルです。
アサーショントレーニングを続けた結果、Aさんは「自分の意見を大切にしながら、相手の立場も尊重する」バランス型のコミュニケーションが少しずつ身につきました。特に職場では、冷静に自分の考えを伝え、相手と協力しながら問題を解決できるようになりました。
アサーショントレーニングの効果とメリット

言いたいことを言えずに気持ちを抑制してきた場合は、素直に自己表現できることでストレスの緩和が期待できます。また、相手の顔色を窺って意見できなかったり、一方的に考えを押しつけて相手の意見を聞けなかったり不平等な人間関係であった場合は、対等な関係へと修正することも可能です。相手を思いやって自己主張ができれば、いじめやハラスメントの予防にもつながるでしょう。
さらに、アサーショントレーニングの過程で、自分と相手の考えが違うことを再確認できます。これまでに「断ったら相手に迷惑かもしれない」「自分の言っていることが合っているに違いない」など自信のなさや偏った考えを持っていた場合、自他の価値観を大切にすることで考えを緩め、修正していけることもメリットと言えます。
また、自分の気持ちの伝え方を振り返ることで不適切な主張方法に気づき、より適した伝え方を身に着ける練習も可能です。アサーショントレーニングでは円滑なコミュニケーションに近づくだけでなく、ストレスの緩和など自分の心の状態を安定させる効果を感じられるでしょう。
Aさんは、トレーニングを通して「自分の気持ちを言葉にしてもいい」という許可を自分に出せるようになりました。その結果、ストレスの軽減や人間関係の改善だけでなく、自尊感情の回復にもつながりました。
アサーショントレーニングの実践方法

アサーションの3タイプを理解したら、アサーティブな対応をモデリングし、その後に自分でロールプレイをするとスムーズに実践しやすいと思われます。また、自己主張の練習をするだけでなく、相手の主張をアサーティブに聴く練習も行ってみてください。
アサーショントレーニングには、DESC法(デスク法)という言語的な方法や非言語的な方法があります。DESC法は、自分が表現したいことを以下の4つに分けて段階的に伝えていく方法です。
- Describe:「描写する」事実を客観的に伝える
- Express, explain, empathize:「表現、説明、共感する」自分の意見や感情を伝える
- Specify:「提案する」相手の主張に対する案やお願いを伝える
- Choose:「選択する」提案に対する相手の返事を伺い、自分の返事も伝える
例えば、友人と出かける際にいつも意見を聞いてもらえず行き先を決められて困る場合は、以下のような主張ができます。
- D:行き先はいつもあなたが決めているよね
- E:私にも行きたいところがあるんだ
- S:今度は私の行きたいところに行って、次またあなたの行きたいところに行くのはどう?
- C:(相手がOKの場合)ありがとう /(相手がNOの場合)じゃあ、いつならいいかな?
DESC法で落ち着いて主張することで、相手との衝突を避けトラブル化を防ぐ話し方ができるでしょう。
また、非言語的な方法には、相手の顔を見て話す、聞き取りやすい音量や口調で落ち着いて話す、「ありがとう」で少し微笑むなど言葉と表情を一致させるなどがあります。睨む、声を荒げる、机を叩いて話すなど威圧的な態度ではアサーティブとは言い難いです。
アサーティブな印象を与えるには、自分の話し方や表情を見直して穏やかなコミュニケーションを意識することも効果的でしょう。
Aさんは、セッション内でロールプレイを用いて具体的な場面を練習しました。特に「I(アイ)メッセージ」を活用し、「あなたが悪い」ではなく「私はこう感じる」と表現する方法を繰り返し練習しました。実生活でも実践を重ねることで、自然にアサーティブな対応ができるようになりました。
認知行動療法についてのトピック
アサーショントレーニングについてのよくある質問
アサーショントレーニングとは、自分の意見や感情を適切に表現し、他者と円滑なコミュニケーションを図るための訓練です。自己主張が強すぎると攻撃的になり、逆に弱すぎると受動的になってしまいます。アサーショントレーニングでは、このバランスを取り、自分の権利を尊重しつつ、相手の権利も尊重するコミュニケーションスキルを身につけます。これにより、人間関係の改善やストレスの軽減が期待できます。
アサーショントレーニングの効果として、以下が挙げられます:
- 自己表現力の向上:自分の意見や感情を適切に伝える能力が高まります。
- 人間関係の改善:相手の意見も尊重しながら自己主張することで、良好な関係を築けます。
- ストレスの軽減:言いたいことを溜め込まずに表現できるため、精神的な負担が減ります。
- 自己肯定感の向上:自分の意見を大切にすることで、自信がつきます。
これらの効果により、日常生活や職場でのコミュニケーションが円滑になり、全体的な生活の質の向上が期待できます。
アサーショントレーニングは、以下のステップで行います:
- 自己評価:自分のコミュニケーションスタイルを振り返り、改善点を見つけます。
- 基本的な権利の理解:自分と他者の権利を認識し、尊重する姿勢を持ちます。
- Iメッセージの練習:自分の感情や意見を「私は~と感じる」と表現する練習をします。
- ロールプレイ:実際の場面を想定し、適切な自己主張の方法を練習します。
- フィードバックの受け入れ:他者からの意見を受け入れ、改善に活かします。
これらのステップを繰り返し練習することで、効果的な自己主張のスキルを身につけることができます。
アサーショントレーニングは、以下のような方々に効果的です:
- 自己主張が苦手な方:自分の意見や感情をうまく伝えられない方。
- 対人関係でストレスを感じる方:人間関係の中で緊張や不安を感じやすい方。
- 職場でのコミュニケーションに課題を感じている方:上司や同僚とのやり取りに悩みを持つ方。
- 自己肯定感を高めたい方:自分に自信を持ちたいと考えている方。
これらの方々がアサーショントレーニングを受けることで、コミュニケーション能力の向上や人間関係の改善が期待できます。
アサーショントレーニングで用いられる具体的な技法には、以下があります:
- Iメッセージの使用:自分の感情や意見を「私は~と感じる」と主語を自分にして伝える方法です。これにより、相手を非難せずに自己表現ができます。
- DESC法:状況(Describe)、感情(Express)、要望(Specify)、結果(Consequences)の順に伝える方法で、効果的な自己主張をサポートします。
- ロールプレイ:実際の場面を想定し、適切な自己主張の練習を行います。これにより、実践的なスキルを身につけられます。
- 積極的傾聴:相手の話をしっかりと聞き、理解を示すことで、円滑なコミュニケーションを促進します。
これらの技法を組み合わせて練習することで、効果的な自己主張のスキルを養うことができます。
アサーショントレーニングを受けられる場所には以下のような選択肢があります:
- 心理カウンセリングセンター:専門家による対面セッション。
- セミナーやワークショップ:地域の公共機関や民間企業が開催するトレーニング。
- オンラインコース:インターネットを利用したプログラム。
自分の目的やスケジュールに合った方法を選び、信頼できる提供元で受けることをおすすめします。
アサーショントレーニングの費用は形式によります。
- 個人セッション:1回あたり5,000~10,000円程度。
- セミナーやワークショップ:数千円~20,000円程度。
- オンラインコース:無料のものから数万円するプログラムまで。
提供元やトレーニング内容を比較し、予算や目的に合った選択をすることが重要です。
はい、アサーショントレーニングは子供にも効果的です。
- いじめの予防:自己主張のスキルを身につけることで、他者との健全な関係を築けます。
- 自己肯定感の向上:自分の感情や意見を適切に伝えることで、自信が育まれます。
親や教師がサポートし、子供に合った方法で進めると、より効果的です。
アサーショントレーニングとカウンセリングには以下の違いがあります:
- 目的:アサーショントレーニングはスキル向上が目的、カウンセリングは心理的支援が目的です。
- 形式:トレーニングは練習や学習が中心、カウンセリングは相談や傾聴が中心です。
どちらも必要に応じて利用すると効果的です。
自己流でもアサーショントレーニングを行うことは可能ですが、専門家から学ぶことでより効果的にスキルを身につけられます。本やオンラインリソースを活用しながら、必要に応じて専門のトレーナーに相談すると良いでしょう。
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