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細澤仁(著)「実践入門 思春期の心理療法」を読んで

細澤仁(著)「実践入門 思春期の心理療法-こころの発達を促すために」 岩崎学術出版社 2013年を読んだ感想を書きました。思春期特有の心性を明らかにし、その上での技法論を展開しています。また思春期心性を理解する上でサブカルチャーなどにも触れています。

1.本書は教科書ではない

前著「実践入門 解離の心理療法」の姉妹編に当たります。前著同様に、初心のカウンセラーに向けて書かれています。しかし、カウンセリングにおいて何らかの正しい理論や技法を紹介し、それを忠実に学んでもらうように書かれていません。

著者自身の臨床経験から導き出された著者なりの考えや工夫が述べられていますが、それらをヒントにして、自分なりの自分らしい臨床スタイルを実践していくようにと著者は語っています。著者自身も既存の精神分析理論を鵜呑みにはしておらず、著者自身で確信したものしか信用していないと書いています。

2.思春期の心性

著者は思春期について様々な観点から語っていますが、思春期心性についてスキゾイドと行動化傾向、アンビバレントという3つの特性を主に重視しています。そして、そういった心性は基本的には病理的なものではない、としています。発達の一つのプロセスの中に多かれ少なかれ誰にでもあらわれてくるものだからです。しかし、それゆえに思春期の心理療法をしていく上で、独特の難しさも同時に立ち現れてくるのでしょう。

また、成人のカウンセリングの場合には、問題の解消や自己理解などが目標となりますが、思春期が発達の1つのプロセスであることを考えると、何らかの理由で停滞してしまった発達が再び前進できるようにすることが目標となります。カウンセリングで様々な介入を行いますが、それらは全て発達を促進させるためのカウンセリング的な介入となります。

さらにカウンセラーの姿勢として、クライエントを「ちゃん」付けで読んだりなど、クライエントを子ども扱いしたりはしていません。かといって、完全に堅苦しくするのではなく、通常通りのカウンセラーとしての礼儀と興味関心を向けることを推奨しています。

3.カウンセリングのプロセス

第2部ではカウンセリングのプロセスに合わせ、初回カウンセリング、アセスメント、初期、中期、後期、終結、フォローアップという時間順に述べられています。

(1)初回カウンセリングから初期

初回カウンセリングに関しては、前著でも述べられていることと同様ですが、生育歴、家族歴、病歴といった情報を引き出すことよりも、最初の出会いを大事にし、そこで喚起される転移状況や逆転移を味わうことを第一にしています。さらには、無意識的なカウンセリングへの動機づけのアセスメントを行うことが必要であると述べています。無意識的なものをどうアセスメントしていくのかについては、基本的に逆転移の活用していくことになるようです。

そして、思春期の言語でのやり取りが十分にできないことも関係しているのかもしれませんが、アセスメントや初期には、マネージメントによる抱えを著者は重視しています。従来の精神分析では転移解釈が特権的な位置づけになっており、それ以外の介入はパラメータと呼ばれ、一段低く見られる傾向があります。しかし、著者はマネージメントを行為による解釈としてとらえ直し、そこに心理療法的な、カウンセリング的な価値を見出しています。もちろん、そうした行為に及ぶ背景にある逆転移は吟味してのものではあります。

(2)後期から終結

後期・終結について、成人とはまた違ったやり方を著者は述べています。精神分析においての目的は精神分析的体験をすることそのものなので、終結といった概念はなくなります。何らかの目的があり、介入を行って、それによって解消されて終結に至るというものはフィクションであると著者は過激にも語っています。

カウンセリングや心理療法の主体はカウンセラーでもクライエントでもなく、心理療法やカウンセリングそのものであるとし、終結や終わることなどはコントロールすることはできず、自然な流れの中で迎えるものなのでしょう。そして、これらを結婚に例えて言っています。

こうした終結観の上で、思春期については著者はどのように見ているのでしょうか。思春期の場合には、発達の促進が主眼になることから、カウンセリングや心理療法への抵抗や転移状況の一つの表れとして見たとしても、それを解釈によって扱うことよりも、やや性急には感じつつ、受け入れることもあるとしています。

そのあり方を解釈によって扱う方が発達促進的なのか、それとも終結を受け入れることの方が発達促進的なのかは非常に判断ができないところもありますが、最終的にはカウンセラーの直感と責任によって判断していくしかないようです。

(3)フォローアップ

終結後のフォローアップについても述べられています。精神分析は喪の作業と深い関係にあることも関連し、フォローアップなどはしない人の方が多いようです。しかし、著者は前著でも述べられているが、フォローアップをすることが多いようです。そういう著者であっても、思春期のカウンセリングや心理療法の場合にはフォローアップはしないことが多いと書いています。

それは、成人のようにカウンセリングや心理療法の終結を死としてとらえるのではなく、卒業ととらえるからです。学校は通学している時には濃密な体験があるが、卒業するとかなりの程度で忘れ去られてしまうものです。カウンセリングや心理療法もそういったものなのでしょう。

4.思春期とサブカルチャー

10章では、カウンセラーの適性やサブカルチャーについて述べられています。前者の適性について端的に示すと、思春期心性は持ちつつ、大人として機能できる人がカウンセラーに向いているとしています。そういう点からすると、年齢を経るごとに思春期心性は忘れ去られたり、もしくは抑圧していったりすることが多いことを考えると、年齢的に若い人の方がやや向いているのではないかと言っています。

サブカルチャーについて、「アーバンギャルド」「神聖かまってちゃん」「ミドリカワ書房」といったバンドを取り上げ、そこに表れる思春期心性について考察しています。こうしたサブカルチャーに接近することで、思春期心性の理解が深まるのかもしれません。

5.健康さと病理性

本書では、思春期の多数のクライエントが登場し、著者がこれまでどのようにケースの中で考え、試行錯誤し、向かい合ったのかについてリアルにうかがい知ることができます。本当のところでクライエントと出会い、本当のふれあいをしようとした著者の臨床スタンスは大変尊敬できるように思います。

それと、あと一つ、本書では思春期のカウンセリングや心理療法ということで、思春期ならではの心性や困難さを描き出していますが、どのケースもかなり重篤で、病理の重たいものが多いように思いました。そういう意味で、それは思春期という括りでの困難さではなく、病理的な重さの方が前面に出ているのではないか、とも取れなくはありません。

とはいっても、何が思春期心性で何が病理的心性なのかを明確に区分けすることなんてできないのですから、この疑問はあまり意味のあるものではないのかもしれないが。