出生外傷からみるランクの空想と現代精神分析への貢献

人生で出会う最初の痛み

オットー・ランクは1924年に「出生外傷」という本を出版しました。この出生外傷というアイデアは、実は現代精神分析に通じる非常に有用な概念であると同時に、ランクの幼少期の体験やそこから生まれた願望も含まれています。ここではそうしたことについて書いています。

1.ランクの外傷

オットー・ランクも相当変わった人だったようです。というのも、彼は幼少期からの虐待や性的外傷を受けており、それが深刻に影響を及ぼしているようです。ランクにとって生きることが外傷だったのでしょう。そのため、彼にとって出生は苦しい人生の起点と見えたのかもしれません。ちなみにランクが誰に教育分析や個人分析スーパービジョンを受けたのかは明確には分かっていません。

2.子宮内の胎児の体験

母体回帰空想もそうした外傷的な人生から退避して、安全で心落ち着ける胎内に戻りたいというランクの願望の表れだったと理解できそうです。その胎内から産み落とされるのは、陣痛が始まって、一両日中には終わります。そうした急激な分離が外傷となってしまいます。

つまり、ランクは子宮内と分析設定を同等視しています。これは分析設定は子宮内のように安心で安全である、という前提条件を彼は無意識に考えているとも言えます。もしくは、分析設定=子宮内=安全というのはランクの願望であるとも言えます。

3.ランクの技法

ランクはこうした理解の元、中断療法を提唱しました。この技法はあらかじめ期限設定をし、急激ではなく、徐々に分離に向けてカウンセリングを進展させていきます。そして、出生という外傷をより安全に再体験することを目指しています。これは、いうなれば修正情動体験の一種ともいえるかもしれません。その中で、おそらく分離への不安をhear and nowの転移解釈をして、扱っています。

ランクはフロイトが軽視した母子関係に焦点を当て、そこに出生外傷を想定しました。そして、そのワークスルーに焦点を当てることで精神分析の短期化を目指しました。また、必然的にそこにはhear and nowの視点が持ち込まれ、現代精神分析の布石でもあると理解できます。

4.分析設定の体験の仕方

しかし、全てのクライエントがこれらのプロセスにおいて分析設定を安心安全と見るかには疑問が残ります。分析設定をどのように見るのかはクライエントによって様々ではないかと思います。例えば、迫害的に見る人もいれば、支配-被支配の関係と見るクライエントもいるでしょう。そして、それはプロセスによっても変化します。転移が変化するように、です。

また、子宮内の胎児がいわば一次ナルシズムの状態にあるのかは疑問です。つまり、子宮内の胎児は以前に考えられていた以上に五感は発達しており、頻繁に外界に刺激され、反応を返しています。お腹押すと胎児が同じところを押し返してくるという経験や、声をかけると反応する経験は出産経験のあるお母さんには馴染みがあるでしょう。そうすると、ランクが考えているように胎児は子宮内において万能的で単なる快に浸っているだけではなく、活発なコミニュケーションを行なっていると考えらます。

対象関係がいつの時点で成立するのかについては様々な仮説があります。クライン・ビオンのラインではかなり最早期から対象関係は成立していると見ています。ウィニコットなどは一次ナルシズムを想定しているので、対象関係の成立はもう少し遅くになると考えているようです。

5.排斥されるランク

ちなみに、出生外傷の視点は実はフロイトも持っており、ランクが出生外傷を言い出した時にはフロイトも好意的に考えていました。ただ、精神分析サークル内の歪な関係性の中で、結果的にランクは排斥されました。フロイトの寵愛を過分に受けていたことに対する周りの羨望や嫉妬もあったのでしょう。

ランクの出生外傷という視点は、現在精神分析に通じる重要な論点ではありますが、そうした排斥に伴い、精神分析の主流にはなることはなかったのは非常に哀しいことのように思えます。

ランクは排斥に伴い、パリに渡り、その後は米国に渡りました。そして、フロイトが死去した年と同じ1939年、フロイト死去の約1ヶ月後にランクも亡くなりました。55歳という若さだったようです。

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