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カウンセラーの病歴開示がもたらすリスクと困難さ

近年、カウンセリングを探す際には、インターネット上の情報を手がかりに支援者を選ぶことが一般的になってきました。その中で、カウンセラー自身の病歴や個人的体験が自己紹介として前面に出されている場面を目にすることもあります。本稿では、そうした病歴開示がもつ意味を手がかりに、支援者選びで重視すべき視点について考えていきます。

病歴開示というマーケティングとその魅力

最近、カウンセラーのホームページにおいて、自身の病歴を自己紹介欄に記載しているケースを目にすることがあります。あわせて、その経験を根拠に、同じ病気や同様の困難を抱えるクライエントの気持ちにより深く寄り添える、という趣旨の説明が添えられていることも少なくありません。

こうした書き方は、専門性の提示というよりも、共感性や親近感を前面に出した一種のマーケティング戦略として位置づけることができるでしょう。実際、そのような記述を読むことで、不安がやわらいだり、距離の近さを感じたりして、この人なら自分のことを分かってくれるに違いないと期待を抱くクライエントも一定数いると考えられます。

とくに、初めてカウンセリングを利用する人にとっては、専門用語や資格よりも、身近な体験の共有が安心感につながる場合もあり、こうした自己開示が選択の決め手になることもあるでしょう。

しかし同時に、その期待の持たれ方自体が、カウンセリング関係の出発点にどのような影響を与えるのかについては、慎重に考える必要もあるように思われます

同じ病名でも共有されない個別の物語

たとえ同じ病名で診断されていたとしても、発症に至るまでの経緯や置かれてきた家庭環境、これまでの人生背景、さらにはその人固有のパーソナリティや対人関係の持ち方などには大きな個人差があります。そのため、二人の人がまったく同じ体験を共有していると言い切ることは、現実にはほとんど不可能に近いと言えるでしょう。

表面的には、症状の名称や困りごとの種類が共通しているように見えるため、どこか似通った経験であるかのように受け取られがちです。しかし、もう一歩踏み込んで細部に目を向けてみると、それぞれの経過や意味づけ、そこで生まれた感情や対処の仕方には固有の物語があり、簡単に重ね合わせることはできません。

つまり、病歴を共有しているという事実だけから得られる理解は、どうしても大まかで輪郭の粗いものになりやすく、個々の体験の複雑さや微妙な違いを十分に捉えきれないままにとどまってしまうのです。

理想化と期待がもたらす関係の難しさ

さらに問題となるのは、クライエントがカウンセラーの病歴を知ることで、必要以上に大きな理想や期待を抱きやすくなってしまう点です。たとえば、この人は自分と同じ経験をしてきたのだから、きっと自分の気持ちを完全に分かってくれるはずだ、という思い込みが生じることがあります。

しかし、そのような幻想は、カウンセリングや心理療法の場面において、しばしば現実的な理解や対話を妨げる要因となり、結果として関係のバランスを崩しかねません。過大な理想化が生じると、クライエント側の失望や怒りも強くなりやすく、それを丁寧に扱うことは治療過程の中で非常に難しい課題となります。その結果、カウンセリングや心理療法の過程には、本来は必要のない緊張や葛藤といった複雑な力動が持ち込まれることになります。

このように考えると、カウンセラーが自らの病歴を開示することは、善意や配慮から行われた場合であっても、意図せずしてカウンセリングや心理療法の進行そのものの難易度を高めてしまう行為になり得ると言えるでしょう。

専門性を基準に支援者を選ぶという視点

カウンセラーは、長期間にわたる専門的な訓練や教育を受け、その過程で理論的知識と実践的技術の双方を積み重ねてきた専門職です。大学院での体系的な学習や実習、さらに資格取得後の継続的な研修や臨床経験を通して、クライエントの語りを理解し、適切に関わるための力量を磨いてきています。

そのように培われてきた専門性こそが、カウンセラーにとっての最大の強みであり、信頼の基盤となるものです。本来、対外的に示されるべきなのは、個人的な体験の披露ではなく、こうした知識と技術、そしてそれをどのように臨床に生かしているかという点であるべきでしょう。

したがって、カウンセラーが自己紹介の中で病歴を開示している場合には、その情報だけに引き寄せられるのではなく、クライエント側も一歩立ち止まって注意深く見極める姿勢が求められます。そのカウンセラーがどのような訓練を受け、どのような理論や方法に基づいて支援を行っているのか、またどのような経験を積んできたのかといった点に目を向けることが大切です。信頼できる専門性とは何かを自分なりに見定める視点を持つことが、結果として、より適切で納得のいく支援者との出会いにつながっていくのではないでしょうか。

まとめ

本稿では、カウンセラーが自身の病歴を開示することの魅力と、その背後にあるリスクについて検討してきました。病歴の共有は一見すると安心感や親近感をもたらしますが、体験は本質的に個別であり、過度な理想化や期待は治療関係を複雑にする可能性があります。支援を受ける側にとって重要なのは、体験の近さよりも、どのような訓練と専門性に基づいて臨床が行われているかという点に目を向けることです。専門性を基準に支援者を見極める視点こそが、よりよい援助関係につながると言えるでしょう。

もし、カウンセラー選びやカウンセリングそのものに不安や迷いを感じておられる場合には、どうぞ一人で抱え込まずにご相談ください。当オフィスでは、個々の体験や背景を丁寧にうかがいながら、専門的な訓練と臨床経験に基づいた支援を大切にしています。特定の体験の近さではなく、クライエントお一人おひとりの語りに即して関わることを重視しています。初めての方でも安心して利用していただけるよう、予約や相談の流れについても分かりやすくご案内していますので、関心を持たれた方はお気軽にお問い合わせください。