ブリーフセラピー(Brief Therapy: 短期療法)は、短期間で効率の良い方法によって変化・効果を目指すケアの手法です。従来行われていた「原因探し」による心理療法とは異なり、具体的な「問題解決」を行うことに重点を置いた考え方で、トラウマ、抑うつ状態の改善、学校教育や組織マネジメントなど幅広い領域で用いられています。
この記事では、ブリーフセラピーの考え方、代表的なアプローチ法や具体的な技法について解説していきます。
目次
ブリーフセラピーとは
ブリーフセラピーは、ミルトン・エリクソンやグレゴリー・ベイトソンなどの心理学者・文化人類学者が提唱した考え方を土台に、1980年代以降、社会的に治療の短期化が求められる中、アメリカを中心に世界的に広まったケアの手法です。
文字通りにただ「時間が短い」というだけではなく、クライアントのニーズに対して十分な治療効果が得られること、時間や費用労力などの効率が見合っていることが特徴です。
問題の原因を精神的な病理やパーソナリティなどの個人の内側に求めるのではなく、個人と個人のコミュニケーション(相互作用)の仕方から問題の理解を図ります。「原因探し」よりも「解決」に重点を置き、比較的短期間での変化を目指すという考え方に基づいています。
ブリーフセラピーのエッセンスや考え方
ブリーフセラピーにはいくつものアプローチ法がありますが、ここでは代表的な解決志向型アプローチとMRIアプローチについて説明します。
(1)解決志向型アプローチ(Solutin Focused Approach:SFA)
ブリーフセラピーでは、問題の原因を追求することよりも、解決に着目することから、解決に役に立つ「リソース=資源(能力、強さ、可能性など)」に焦点を当て、それを有効に活用することが特徴です。
また、現時点において「問題が起きていないとき」や「比較的落ち着いているとき」である「例外」に目を向けて、そこから解決の糸口を見つけていきます。このように解決構築を中心に置くことで未来志向の考えとなり、クライアントの肯定的な側面に焦点を当てることとなるため、クライエントの自己効力感が高まりやすいといったメリットもあります。
「何がいけないのだろう?」と考えるのではなく、「自分が望む未来を手に入れるためにに、何が必要なのだろう? 何ができるのだろう?」と考え、解決方法を作り上げていきます。
うまく行っていることを続ける(「Do More」)、うまく行かなければこれまでとはなにか違うことをする(「Do Domething Different」)、といった考え方に基づいてクライアントに対するケアを展開していきます。
(2)MRIアプローチ
この手法はアメリカ西海岸パロ・アルトにあるMental Research Institute (MRI) で提唱され、解決志向型アプローチが「良循環を拡張する」アプローチであるならば、MRIアプローチは「悪循環を切る」アプローチです。
クライアントが直面している「問題」が維持される背景には、その人とその人を取りまく環境との間の相互作用と、その根底にある信念から生まれた解決努力(何とか解決を試みるが問題は解決されない対処法)があり、悪循環に陥っているために問題が解消されずにいると考えます。問題を維持している行動あるいは解決努力の仕方が変化すれば、この悪循環を断ち切るることができます。
解決志向型アプローチとMRIアプローチは、自転車の両輪のような関係で、双方を理解していくことでより効果的なケアを行うことができます。
ブリーフセラピーの効果やメリット
ブリーフセラピーが志向する、問題の解決を目的とした前向きな考え方は、過去にとらわれてなかなか前を向けないクライアントに対して大きな効果が期待できます。具体的には、PTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)のような災害やトラウマ、不登校、抑うつ状態などの改善に有効です。
また、適用範囲が広く、対象をとくに選ばず、健常者に対しても組織に対しても適用可能なため、精神医療、保健福祉、学校教育、ビジネス、組織マネジメントなど幅広い領域で用いられて効果を上げています。
ブリーフセラピーの技法
最後にブリーフセラピーでよく用いられる、代表的な技法を具体的にいくつか紹介します。
(1)例外探し
先ほど紹介した解決志向型アプローチで説明した「例外」に注目する技法です。現時点において「問題が起きていないとき」や「比較的落ち着いているとき」である「例外」の状態は、すでに起こっている解決の一部と考えられます。その「例外」を生んでいる行動やコミュニケーションの仕方を特定し、「例外」が増えるような働きかけを行っていきます。
例えば、早起きが苦手な子供の相談を受けた場合、早起きができない原因を考えるのではなく、早起きができた日のことに注目して、どうして早起きできたのかを考えるように関わります。
(2)ミラクル・クエスチョン
奇跡が起こってクライアントが抱えている問題がすべて解決したと仮定して、話を進めます。将来における望ましい状況のイメージを描いてもらうことで、目標を定めたり、目的を達成するために必要なことを考えたりすることができます。
例えば、「今晩眠っている間に奇跡が起こり、抱えている問題がすべて解決したとします。次の日の朝、どのような違いがあることで、奇跡が起こって問題が解決したことがわかるでしょうか?」という質問を行い、問題解決前と後の違いを具体的にイメージすることで、解決可能な目標を設定して取り組むことができます。
同様の技法に「タイムマシーン・クエスチョン」があり、「もしもタイムマシンに乗って5年後の自分に会いに行ったらどんな友人と過ごしていますか?」といった質問を行い、未来のポジティブなイメージを作っていきます。
(3)スケーリング・クエスチョン
最悪の状態を0、解決の状態を10とした尺度の上で、クライアントの現在の状態を表現するような質問を行います。具体的な数値に表すことで、漠然とした解決の状態を確認したり、1点の違いがどういう違いなのか具体的な差に注目し小さなゴールを設定してたりして、解決志向に向かわせることができます。
具体的なやりとりは以下のようになります。
- セラピスト「一番いい時を10点、悪い時を0点としたとき、今は何点ですか?」
- クライアント「3点です」
- セラピスト「3点を4点にするためにはどんなことをすればいいでしょうか?」
ブリーフセラピーについてのよくある質問
ブリーフセラピーは、クライアントが抱える問題に対し、短期間で効果的に変化をもたらすことを目的とした心理療法の一つです。従来の心理療法が過去の原因や問題を探るのに対し、ブリーフセラピーはクライアントが目指す未来の目標に焦点を当て、そこに到達するための解決策を導き出します。セラピーは、クライアントの強みやリソースを引き出し、自己効力感を高めながら前向きな変化を促します。このアプローチは、効率的で実践的であるため、特に限られた時間内で結果を出すことが求められる場合に非常に有効です。
ブリーフセラピーの特徴は、まずそのアプローチが非常に実践的である点です。セラピーは、問題を深く掘り下げるのではなく、クライアントが望む未来の状態を明確にし、それに到達するための具体的な行動を見つけることに焦点を当てます。クライアントの過去の問題よりも、未来に向けた解決策を導くことが重視され、解決策志向の質問技法がよく用いられます。また、セラピーの期間が比較的短いことが特徴で、数回のセッションで効果を期待できることが多いです。このため、時間的な制約がある方や、長期的な治療を避けたい方にも適しています。
ブリーフセラピーは、ストレス管理や対人関係の問題、職場でのパフォーマンス向上、自己肯定感の改善など、具体的で目標志向の問題に特に効果的です。例えば、仕事や家庭内での人間関係に悩んでいる場合や、自信を失っている場合、短期間で前向きな変化をもたらしたいと考えている場合に適しています。また、精神的な負担が大きく、早急に解決策を見つけたいというニーズを持つ方にも非常に向いています。問題の原因を深く掘り下げることよりも、現在の状況を改善し、目標に向かって一歩一歩進んでいくアプローチが特徴です。
ブリーフセラピーのセッションは、通常1回あたり50分から1時間程度で、全体のセッション数はクライアントの目標や状況によって異なりますが、一般的には5回から10回程度で完了することが多いです。セラピーの期間は短期間であり、早急に目標を達成することを目指しているため、クライアントの進捗に応じてセッションの回数が調整されます。また、セッションの間隔もクライアントのニーズに合わせて柔軟に決められます。
ブリーフセラピーは、他の心理療法と比べて短期間で解決策を見つけることに重点を置いています。例えば、従来の心理療法は、クライアントの過去や原因を深く掘り下げることが多く、その過程が長期にわたることがあります。しかし、ブリーフセラピーはクライアントの現在の状況と未来の目標に焦点を当て、実践的な解決策を短期間で導き出すことを重視します。また、過去の出来事に囚われることなく、前向きな変化に繋がる具体的な行動をサポートするため、実用性が高く、解決策に特化したアプローチが特徴です。
ブリーフセラピーの効果は、クライアントが最初に設定した目標に対する達成度を基に測定されます。セッションの中で、クライアント自身が進捗を確認し、自己評価を行うことが一般的です。また、セラピストはクライアントが設定した目標に対してどれだけ具体的な変化があったかを観察し、フィードバックを提供します。セッション終了時には、クライアントと一緒に達成度を確認し、目標がどの程度達成されたかを評価します。効果測定は、クライアントの内面的な変化や行動の変化、周囲の反応なども考慮されます。
ブリーフセラピーでは、解決志向の質問技法がよく使用されます。例えば、例外探しやスケーリング質問など、クライアントが既に持っているリソースや強みに焦点を当て、そこから解決策を導き出します。例外探しでは、問題がない瞬間を振り返り、その時にどんな行動や考え方が効果的だったのかを見つけ出します。スケーリング質問では、クライアントが自分の状況を数値で評価し、どのように改善するかを具体的に考える手助けをします。これらの技法により、クライアントは自己効力感を高め、前向きな変化に繋がる具体的な行動を見つけることができます。
ブリーフセラピーは、短期間で具体的な成果を求める人に向いています。自己改善や問題解決に積極的に取り組みたいと考えている方、または過去の出来事よりも未来の目標に焦点を当てたいと考えている方に最適です。特に、ストレスや対人関係の問題を抱えている人、職場でのパフォーマンス向上を望む人、自己肯定感を高めたい人など、具体的な問題に対して実践的な解決策を得たいと考える方に適しています。
ブリーフセラピーは、様々な問題に適用できます。具体的には、ストレスの管理、対人関係のトラブル、職場でのパフォーマンス向上、自己肯定感の向上、生活習慣の改善などが挙げられます。特に、短期間で解決策を見つけ、前向きな変化を促進したい場合に非常に効果的です。クライアントが抱える問題が明確であり、その解決に向けて迅速に行動を起こしたいと考えている場合、ブリーフセラピーは有効なアプローチです。
ブリーフセラピーのセッションは、クライアントが明確な目標を設定することから始まります。最初のセッションでは、現在の状況を確認し、どのような変化を望むのかを明確にします。セッションごとにクライアントと一緒に進捗を評価し、具体的な解決策や行動計画を作成していきます。クライアントは毎回、どのように状況が変化したかを振り返り、新たな行動を取るための方法を見つけます。セラピーの進行は非常に柔軟で、クライアントのニーズに合わせて調整されます。
ブリーフセラピーを受けたい
ブリーフセラピーは従来の心理療法で行われていた個人の内側にある「原因探し」と異なり、クライアントを取り巻く環境との相互作用を重視して「問題の解決」に焦点を置いたケアの手法で、トラウマ、抑うつ状態の改善、学校教育や組織マネジメントなど幅広い領域で用いられています。
代表的なアプローチ法として、良い循環を拡張していく解決志向型アプローチと、悪い循環を断ち切るMRIアプローチがあり、「例外探し」や「ミラクル・クエスチョン」といった技法により、具体的な目標を設定して、前向きに問題解決に取り組んでいきます。
文献
この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。