機能不全家族とは
機能不全家族とは、家族の中の関係性に偏りがあり、本来果たさねばならない役割が放棄され、家族としての機能が破綻していることをいいます。そして、機能不全家族とアダルトチルドレンには密接な関連があります。
ここではその機能不全家族について解説します。
目次
1.機能不全家族とは
家族の形態は多様で、一つとして同じものはありません。しかし、家族が健全に機能している時にいくつかの特徴がみられます。例えば、家族の中には一定のルールがありますが、一方では柔軟にそれを運用しています。家族の成員にはそれぞれの役割があり、その役割に満足しています。家族はそれぞれに対して敬意と尊敬をもち、尊重しています。家族は一体感がありつつ、しかし、変化をも受け入れます。
こうしたことがある場合にはいわゆる健康で、機能している家族といえるでしょう。
しかし、その反対に不健康で、機能していない家族もあります。ファーマーは機能不全家族の特徴を以下のように8つ挙げています。
- 拒絶的である
- 矛盾している
- 家族の成員に対する共感が欠如している
- 家族間の境界線の欠如している
- 親子の役割が逆転している
- 社会から孤立している
- 曖昧なメッセージを伝える
- 極端な論争や対立が繰り返されている
出典:Farmer, S. “Adult Children of Abusive Parents”, pp19-34. Ballantine Books, 1989,
またウォイティッツはアダルトチルドレンを作る機能不全家族の特徴を以下のように挙げています。
- 非合理的なルールが存在している
- 親が親役割が放棄し、子どもが親役割をする
- 家庭に他の人が入ることに強く抵抗する
- 雰囲気がとても暗い
- 家族間でプライバシーが侵害されている
- 家族から離れることができない
- 家族のなかで起こった苦痛や大変さは無視される
- 変化することに著しく抵抗する
- 家族同士が分断されている
出典:ジャネット・G・ウォイティッツ(著)「アダルト・チルドレン―アルコール問題家族で育った子供たち」金剛出版 1997年
この二つの理論には共通点が多いことが分かります。つまり、家族それぞれが歪な形で結びついており、役割が混乱し、配慮に欠け、共感性が損なわれている、ということです。
2.機能不全家族の影響
機能不全家族のなかで育つと大人になってから様々な問題が生じます。
(1)人の顔色が気になる
家族の誰かの機嫌を損ねないように気を使って生活をしていました。少しでも機嫌が悪くならないように、事前に察知し、先回りして対応してきました。そのサインは人の顔色です。顔色を見ることで、その後に何が起こるのかを予測します。
こうしたことが癖づいてしまうと、家族以外の人に対しても同様のことをしてしまいます。つまり、両親とは全く違うのに、同じように顔色を気にしてしまい、その人が機嫌が悪くなりそうなら素早く察知して、先回りして対応してしまいます。
もしかしたら、そうしたことで悪い関係になることを防いでいるのかもしれませんが、その代償として、不安と緊張が常に高く、一時たりとも心安らぐことができなくなります。さらには、人との関係で安心や安全を感じることができなくなってしまいます。
(2)感情がコントロールできない
機能不全家族のなかでは感情を押し殺して生活してきました。感情が出てくると、それは家族のだれかから攻撃されることになるからです。
感情は適度に発散したり、放出したりすることで、全体的にコントロールできます。例えば、時には愚痴を言ったり、不満を伝えたり、涙を流したりすることで、バランスを取るのです。
感情を押し殺し続けると、本当に感じていた感情が鬱積していきます。そして、ある瞬間にその抑えがきかなくなった時に爆発します。その爆発は抑え込んできた期間が長ければ長いほど大きなものになります。そして、大きければ大きいほど周りへの影響も大きくなります。
影響が大きいため、もう二度と同じようにならないために、さらに強く押し殺そうとします。しばらくはそれでうまく行くかもしれませんが、鬱積が再び溜まっていきます。そのさらに強く押し殺していたため、鬱積は以前よりもさらに強いものとなっています。それがある時にまた爆発してしまいます。
このように、押し殺す→鬱積→爆発→さらに押し殺す、という悪循環が作られます。この悪循環が続くことでだんだんと感情がコントロールできなくなっていくのです。
(3)自己否定してしまう
機能不全家族のなかで、常に悪者にされたり、弱者にされたり、やっかいもの扱いを受けたりしていると、健全な自尊心や自信が育つことはないでしょう。そして、何か問題が起こるとその原因にされてしまうと、自己否定的にもなってしまいます。
悪いことは全て自分である、という考え方の癖が形成してしまうと、なかなかそれから脱却することはできません。
自己否定しまうことが続くと、気分は低下し、気持ちは暗くなります。また楽しめることも楽しむことができず、遊んでいる時も没頭できません。
この癖は相当強いもので、人から「否定しなくてもよい」「良いところもある」といわれても、それを信じることができません。むしろ、励まされなくてはいけない自分はどうしようもなく悪い自分である、と自己否定してしまうのです。
また、良い出来事や良い自分は過小評価され、悪い出来事や悪い自分は過大評価されます。そして、悪い出来事や悪い自分の方は後々まで記憶され、維持されます。こうした性質が故に、悪い出来事や悪い自分がますます強くなっていきます。負のスパイラルといって良いでしょう。
(4)人に依存してしまう
依存というのはある程度あることが健康です。依存がない人はいません。不健康なのはこの依存が過度に強くなってしまうことです。
自分には自信がないので、自分で決断したり、判断したりすることができません。また自己否定があるため、自分の判断を信じることができません。そこで、誰か身近な人に依存し、その人の言うとおりに判断したり、決断したり、そして行動したりします。それによって、間違いを犯さないようにしているのでしょう。
この依存はある意味では家族関係・親子関係の反復であると理解できます。親のいうとおりに生きて、親に尽くして、自分を失うような生き方をしてきました。これが大人になって、再び親以外の人との間で同じように繰り返されているのです。
こうした依存は不健康そのものといえるでしょう。
(5)孤独を感じる
機能不全家族のなかで育つと、自分は自分であるというアイデンティティが形成されません。アイデンティティが形成されないと、一人でいることも、一人で行動することもできません。つまり、誰かがいないと孤独を感じるのです。
誰かがいないと心細く感じ、人を求めます。そして、人といても、常に捨てられないか、嫌がられないかということを気にしてしまい、やはり孤独を感じます。
一人でいるから人を求めるけど、人といてもやはり孤独を感じてしまう、というのは苦悩の深さを表しているように思えます。
3.アダルトチルドレンと機能不全家族
機能不全家族の影響として、「人の顔色が気になる」「感情がコントロールできない」「自己否定してしまう」「人に依存してしまう」「孤独を感じる」の5つを挙げました。
この5つの特徴はアダルトチルドレンに非常に重なります。アダルトチルドレンの原因として機能不全家族があるから当然といえば当然なのでしょう。
アダルトチルドレンは幼少期の家族、特に親との関係が非常に強く影響しています。言葉のとおり、子どもの時から大人役割を担わされ、子どもらしい自由奔放さを経験することができず、大人になってしまったのです。そのことにより、こうした5つの特徴を身に付けてしまったのです。
その他のアダルトチルドレンについての詳細については以下のページをご参照ください。
機能不全家族のなかで育ったから必ずアダルトチルドレンになるかどうかは分かりません。アダルトチルドレンにならずに健全に大人の生活を楽しんでいる人もいるでしょう。もしくは、機能不全家族のなかで育ち、アダルトチルドレンだったが、その後、さまざまな出会いや経験、自助努力によって克服した人もいるでしょう。
つまり、機能不全家族やアダルトチルドレンという問題は解決できる可能性があるということです。
4.機能不全家族の改善方法や支援
機能不全家族を改善するための一般的な方法には、以下のものがあります。これらの方法を取り入れることで、機能不全家族を改善することができます。改善には時間がかかる場合もありますが、家族全員で協力し、問題解決に向けて取り組むことが大切です。
(1)コミュニケーションの改善
家族内での意見や感情の共有は、機能不全家族の改善に不可欠な要素です。家族会議の開催や積極的なコミュニケーションの促進を行うことで、家族のメンバー同士がお互いを理解し合うことができます。お互いに興味を持ったことや、日々の出来事を共有するなど、コミュニケーションを通じてお互いを理解することが重要です。
同様に、家族外の人との交流を通じて、家族内での問題や課題を客観的に見ることができます。また、家族外の人との交流を通じて、家族内でのストレスや不安を解消することができます。
(2)役割の明確化
家族内での役割分担が明確でないと、トラブルが発生しやすくなります。役割を明確にすることで、家族内の問題解決がスムーズになります。また、家族内でのルールや規則を設定することで、家族全員がルールを守ることができます。ルールを守ることで、家族内のトラブルを予防することができます。
(3)プロフェッショナルの支援
機能不全家族の改善には、専門家の支援を受けることが有効です。家族療法や個人カウンセリングなど、適切な専門家の支援を受けることで、家族のメンバー同士の関係を改善することができます。
(4)グループセラピー
機能不全家族に対しては、家族全員で参加するグループセラピーが有効な場合があります。グループセラピーでは、他の家族との交流が通じて、家族のメンバー同士の関係を改善することができます。
5.機能不全家族に対するカウンセリング
機能不全家族に対するカウンセリングは、家族全員が参加するグループカウンセリングまたは家族カウンセリングの形式で行われることが一般的です。機能不全家族は、問題が表面化している場合や、問題の解決に向けたアプローチが必要な場合には、専門の臨床心理士や公認心理師、カウンセラーによる支援が必要となる場合があります。
カウンセリングの目的は、家族内のコミュニケーションや関係性の改善、問題解決の支援、家族のメンバーが健康的な関係を築くためのスキルや戦略を提供することです。カウンセラーは、家族のメンバーそれぞれの立場や感情を理解し、家族内の問題の原因を分析し、解決策を提供することが役割となります。
カウンセリングでは、家族全員が参加することが望ましいですが、参加できない家族のメンバーがいる場合には、他の家族のメンバーがその人の立場を代弁することができます。また、カウンセリングは、家族が問題を認識し、問題解決のために行動するための支援を提供するだけでなく、家族全員が互いに理解し合うことで、家族内のつながりを改善することにも役立ちます。
機能不全家族に対するカウンセリングは、家族内の問題解決や関係性の改善に向けた重要なステップとなります。カウンセリングには、家族が協力し、オープンマインドで参加することが必要です。
6.アダルトチルドレンや機能不全家族の問題を相談する
アダルトチルドレンや機能不全家族のことについて自助努力ではどうしようもできなかった、という方もおられるでしょう。
そこで、もし臨床心理士や公認心理師などの専門家に相談し、アダルトチルドレンや機能不全家族を克服したい、という方は以下のフォームからカウンセリングをお申し込みください。
文献
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