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家から出たくない…そんな時の心理状態と対処法は?

今回は「家から出たくない」という気持ちのメカニズムや対処法をわかりやすく解説したいと思います。これを知っておくことで、自分自身のメンタルヘルスにつながり、また周りの人の不調に対応する際の参考にもなるでしょう。

「家から出たくない」ことについて

「家から出たくない」という感覚は、多くの人が一時的に経験するものですが、長期間続く場合には心身の不調や生活上の困難と関係していることがあります。背景には、過度のストレスや人間関係のトラブル、職場や学校でのプレッシャー、失敗体験による自信の低下などが影響していることが少なくありません。外に出ることは人との接触や環境の変化を伴うため、心理的に負担を感じやすく、それが回避行動として「家から出たくない」という形で現れるのです。

また、うつ病や不安障害、パニック障害、引きこもりの初期段階など、精神疾患の前兆として現れる場合もあります。気分の落ち込みや焦燥感、強い不安が重なると、外出そのものが困難になり、さらに自己否定感が強まって悪循環に陥ることもあります。そのため、単なる怠けや甘えと片づけず、心のSOSとして理解することが重要です。

対応の第一歩は「無理に外へ出よう」と自分を追い込まないことです。小さな行動、例えばカーテンを開ける、近所に短時間出るなど、できたことを評価して積み重ねていくことが回復のきっかけになります。家族がいる場合には「頑張って出なさい」と急かすのではなく、安心感を与え支える姿勢が大切です。さらに、認知行動療法など専門的支援を通じて、不安の正体を理解し、段階的に行動範囲を広げていくことも有効です。

「家から出たくない」という状態は、自分を守ろうとする心の働きの一つでもあります。その気持ちを否定せず受け止めながら、少しずつ外とのつながりを取り戻していくことが、長期的な改善につながっていきます。

よくある相談の例(モデルケース)

20歳代 男性

Aさん(20代・男性)は、子どもの頃から人前で緊張しやすく、友達付き合いがあまり得意ではありませんでした。高校時代までは周囲のサポートもあり何とか通学を続けていましたが、大学に入学してから一人暮らしを始めたことをきっかけに生活リズムが乱れ、徐々に朝起きられなくなりました。講義に出席できない日が続くと、同級生や教授に会うこと自体が気まずくなり、次第に外に出ることそのものに強い抵抗感を抱くようになりました。アルバイトも欠勤が増え、最終的には退職に至り、Aさんは自宅にこもる時間が長くなっていきました。

最初は「少し休めば回復するだろう」と考えていましたが、数か月が経っても改善せず、気分の落ち込みや焦燥感が強まっていきました。家族が心配して精神科を受診したところ、うつ状態との診断を受け、抗うつ薬の処方を受けました。薬で一時的に気持ちは軽くなったものの、外出に対する強い不安は解消されず、日常生活の改善には至りませんでした。そこで医師の勧めもあり、心理カウンセリングを受けることになりました。

カウンセリングの初期には、自分の思いや不安を言葉にすることすら難しく、沈黙が続くこともありました。カウンセラーは無理に話を促さず、安心できる場を整えることを重視しました。徐々にAさんは、外に出られない背景には失敗を恐れる気持ちや、人との関わりで傷つく不安が強くあることに気づいていきました。家にこもることは単なる怠けではなく、自分を守るための必死の手段だったと理解されると、Aさんの自己否定感は少しずつ和らぎました。

その後のプロセスでは、生活リズムを整えるためにカウンセラーと一緒に小さな行動目標を立て、達成感を積み重ねていきました。たとえば「朝起きてカーテンを開ける」「近所のコンビニに出かける」といった段階的な試みです。最初は不安が大きく、外出に失敗して落ち込むこともありましたが、カウンセリングの中でその気持ちを共有し、失敗してもまた挑戦できることを確認することで、少しずつ前に進むことができました。

さらに、家族との関係についても取り組みました。両親はAさんを心配するあまり「頑張って外に出なさい」と繰り返しており、それがかえってAさんを追い詰めていたことが明らかになりました。カウンセリングを通して家族が支援の仕方を学び、プレッシャーを与えるのではなく「できたこと」を一緒に喜ぶように変わったことで、Aさんの安心感は一層増していきました。

こうしたプロセスを1年以上続ける中で、Aさんは再び短時間のアルバイトを始め、徐々に人との交流を回復していきました。完全に不安がなくなったわけではありませんが、「外に出られない自分」を受け入れつつ、生活の幅を広げていけるようになったことが大きな変化でした。現在もカウンセリングを継続しながら、自分に合ったペースで社会とのつながりを保つことを目指しています。

家から出たくないという心理

嘆く女性

(1)どうして外に出たくないのか

「外に出たくない」というのは、本当にそれ自体が悩みなのでしょうか。他にも似たような言葉に「ずっと寝ていたい」「布団から出たくない」「朝がこなければいいのに」「部屋の中にいたい」など、日常的な会話でもよく耳にするものがありますが、このようなことを口にする方々は、本当にこの言葉通りのことを思っているのでしょうか。

きっと、その悩みを深くみていけば、「学校に行きたくない」「会社にいきたくない」「家族と顔を合わせたくない」「嫌な予定がある」などと様々な問題が浮き上がってくることになるでしょう。もし、ただ会社が嫌なだけだったのに、外の世界全てが嫌になったかのようなきもちになってしまうのは、とても苦しいことです。

心理学において「般化」という概念があります。例えば、注射が嫌いな子どもが、注射だけでなく医者にも恐怖を覚え、更には病院というところまで嫌いになり、病院に連れていこうとする母親にも嫌悪感を示すというようなケースです。つまり、本来嫌いだったものだけでなく、それに付随するあらゆることに恐怖や不安を示すようになるということです。

社会生活においても同じことがいえます。嫌なことがひとつあるだけでも、外の世界が全て敵にみえるようになるのは何ら不思議なことではありません。「外に出たくない」という言葉の裏側ではこのようなことが生じているのではないかと考えられます。

これらは引きこもりと言えますが、そのの詳細は以下をご覧ください。

Aさんの場合、大学に入学して一人暮らしを始めてから生活リズムが乱れ、講義に出られなくなることが増えました。そのうち人に会うことへの気まずさや不安が強まり、外出自体に抵抗感を抱くようになりました。

(2)「外に出たくない」というのは精神疾患の前兆か

考えなければならないのは、「ただ外に出たくないだけ」なのか、それとも「精神疾患の病状のひとつとしてひきこもりが生じているのか」という点です。後者の場合はより早く介入しなければかなり深刻なことにもなります。

「外に出たくない」というきもちを生じさせるような精神疾患を少しまとめておきます。

Aさんは気分の落ち込みや焦燥感が続き、医療機関を受診したところ、うつ状態と診断されました。外に出たくない気持ちは一時的なものではなく、精神的な不調のサインとして現れていたといえます。

a.うつ病

まず考えられるのはうつ病です。これを見分けるひとつの指標が1日の変動です。もし、「外に出たくない」「もうなにもしたくない」「外にでる気力がない」と感じる気持ちが朝方に一番強く、夕方になればましになるならば、うつ病の可能性があります。

ひきこもりのケースでは、昼夜逆転が頻繁にみられますが、これもただの昼夜逆転なのか、うつ病としての睡眠障害かみわける必要があります。

b.適応障害

次に考えられる精神疾患として適応障害があげられます。こちらも、うつ病と同様に気分の沈みがみられますが、うつ病よりもストレスの原因が明確な場合に適応障害と診断されます。

「会社に行けば嫌な上司がいるから外に出たくない」「今日は嫌な予定があるから外に出たくない」といった日が続くと、適応障害の前兆として考えられるでしょう。

適応障害の詳細については以下のページに詳しく書いています。

c.統合失調症

最後に統合失調症です。ただしこの統合失調症に関しては、本人に病識がない場合がほとんどです。「外に出たくない」というよりは「外に出ると自分は殺される」「自分は誰かに監視されている」などと感じられているかもしれません。

特に思春期に発症しやすいものですので、単なる不登校やひきこもりと思っていたら取り返しのつかないような状況になっていたなんてことにもなりかねません。本人が自分自身で自分の状況が把握できない病でもありますので周りの人の気づきが大切になります。

統合失調症の人への接し方や関わり方については以下のページをご覧ください。

家から出たくないときどうすればいい?心理学的な対応

慰める

(1)まずは無理をしないで

カウンセラーの立場からコメントするとなると「出たくなければ無理をして外に出る必要はない」と、まずはそうお伝えすることになるでしょう。しかしながら、この言葉は「出たくなければ出なければいいだけでは?」とも受け取ることができます。必ずしもその人に寄り添った言葉ではありません。

本当に外に出る必要がなければ、その人は「外に出る」ということに悩まないわけですから。外に出なければならないと思っているからこそ、その人は悩んでいるわけです。そういった人に「外が嫌なら家の中にいればいい」というのは残酷で、何の解決にもなりません。

Aさんは外出に強い不安を抱えていたため、カウンセラーと共に「無理に外に出ることを目標にしない」ことを大切にしました。自宅で安心できる環境を整えることから始めました。

(2)出なければならないと思っていることを自分でほめる

「外に出たくない」「外に出られない」という状況にある自分を責めるのではなく、「外に出たくないけど、出なくちゃいけないと思っている」という点に着目してみてください。その点から見ると、出なければならないと思っていることは、出ることの一歩であると捉えなおすことができます。それは非常に大事な思いです。

これは、自分自身が引きこもりがちになったときにもそうですし、周りの人(パートナーや子ども)が引きこもりがちになったときにも大切な視点です。

Aさんの場合、外出できなかったとしても「今日はカーテンを開けられた」などの小さな行動を振り返り、自分を評価することを学びました。これが自己否定感を和らげるきっかけになりました。

(3)家から出たくないと家族がそうなってしまった場合

引きこもりの対応には心理学においても様々な立場があるのですが、一昔前は「急かさない」という対応が大前提となっていました。例えば「学校に行きたくない」という不登校の子どもに対しては、学校や登校を意識させるような言葉を一切投げかけずに、本人のペースに任せただ待つ、という対応がとられていました。ひきこもりに関しても同様で、外に出そうと働きかけるより、ひきこもりの本人が外に出ようと思うまでそっとしておくというケースが多くありました。

しかし、最近になって少し変わってきています。「待っているだけじゃだめ」という考えに基づいた対応がカウンセラーの中でも共有されるようになってきています。ただし、これは無理に外に引っ張り出すということを指すのではありません。待つだけではよくないですが、かといって口うるさく「出てきなさい」というのもよくありません。それではどうすればいいのでしょうか。

Aさんの家族は最初「頑張って外に出なさい」と繰り返していましたが、カウンセリングを通して支援の方法を学び、無理強いせずに寄り添う姿勢へと変わりました。その結果、Aさんの安心感が高まりました。

(4)認知行動療法的介入

「待つ」だけじゃない対応が普及し始めたのは認知行動療法の影響があります。認知行動療法的な介入では、スモールステップが重視されます。

外に出るまでには様々な段階があります。前日から考えるとこのようになるでしょう。

  1. 早めに眠る
  2. 目を覚ます
  3. 布団から出る
  4. 顔を洗う
  5. 歯磨きをする
  6. 着替える
  7. 荷物の準備をする
  8. 外に出る

この時、いきなり8番を目指すとしんどくなります。「外に出る」ことを目標とすると、外に出られなかった場合、全てが失敗体験として残ってしまいます。しかし、このように細分化し目標を立てておくと、「布団からはでられたから3番まではクリアしたんだ」と成功体験にもなります。「大きなところではなく小さなところの変化から」という認知行動療法の考えをもっておくことは自分自身のメンタルヘルスにも大切なことです。

認知行動療法についての詳細は以下のページが参考になります。

Aさんは段階的に「近所のコンビニまで行く」といった小さな行動目標を立て、実際に挑戦することで外出への抵抗を少しずつ減らしました。この積み重ねが自信につながりました。

カウンセリングの利用について

たたずむ女性

(1)カウンセリングに行くことすらしんどい

外に出たくない、という人にとって、カウンセリングを自分で予約しカウンセリングの当日に相談室に足を運ぶというのは、それ自体がとてもおっくうに思われるかもしれません。もし、深刻なひきこもりのケースならば、カウンセリングに足が運べるようになれば、もうそれだけで十分なのではないかとすら思われます。

Aさんは当初、カウンセリングを受けること自体が負担でした。予約日が近づくと気が重くなり、行けない日もありました。

(2)カウンセリングを受けるということ

カウンセリングというと、相談室でカウンセラーに対して悩みを話し、それで心が軽くなり悩みが解消されるというようなイメージをもっておられる方が多いと思いますが、実際のところは、カウンセリングの中身よりも、毎週同じ時間に同じ相談室に行き同じカウンセラーに会うという行為そのものが治療的な意味をもつとされています。

特にひきこもりのケースではこの点が重要視されます。「外に出たくない」という気持ちが悪化する前に、カウンセリングルームという場所に碇をおろしておくというのは、長い目でみるととても有効な対処法であると思います。

また、先にも述べたように、「外に出たくない」という感情が精神疾患と関係している可能性もありますので、カウンセラーと繋がっておくことで、もしものときすぐに病院につながることもできます。

Aさんの場合、カウンセリングを通して「外に出られないのは怠けではなく、心のSOSである」と理解できました。その気づきが自己受容を促し、少しずつ外に出る力を取り戻すきっかけとなりました。

「家から出たくない」と思った時にカウンセリングを受ける

傘を持つ女性

今回は「外に出たくない」というきもちについてまとめました。この気持ちは内面からのSOSかもしれません。「こんなことで相談してもいいのか」と思われないで、大きな不調につながる前にお話を聴かせてください。

当オフィスでのカウンセリングではこうした問題についても対応しています。相談やカウンセリングをご希望の方は以下の問い合せフォームからご連絡を頂ければと思います。