スーパービジョンへの抵抗
スーパービジョン(スーパーヴィジョン)はカウンセラーとしての訓練としては大変重要な役割を担っています。しかし、一方でスーパービジョンを避けようとする力動も働きます。防衛や抵抗といえます。ここではスーパービジョンを避ける力動が発生するいくつかの理由について書きます。
スーパービジョンを受けねばならないのに、躊躇する気持ちが動いた時には、こうした理由があるかもしれないと自分自身を振り返ってみると良いかもしれません。そして、それを乗り越えて、カウンセラーとしての訓練として必須のスーパービジョンを頑張って受けてみると良いでしょう。
1.ナルシシズムの傷つき
スーパービジョンではケースのことを話し合いますが、その中にはスーパーバイジーの生身の部分が露呈することもあります。また、カウンセリング技術の拙さや未熟さも対話の土台に乗ることもあるでしょう。そうすると、スーパーバイジーも批判、非難されているように感じ、傷ついてしまうこともあります。もちろん、スーパーバイザーが意図的に、悪意を持って傷つけることはありません。しかし、適切な指摘や指導を被害的に受け取ってしまうこともあります。
こうしたことによってスーパーバイジーのナルシシズムが傷つくことがあります。傷つきがあるから成長できるという単純な話ではありませんが、ある程度は傷つきを乗り越えて、スーパーバイザーから得られるものを内在化していくことがカウンセラーとしての成長にはつながっていくでしょう。
ナルシシズムの傷つきを恐れ、スーパービジョンを回避するのであれば、クライエントとのカウンセリングにおいても、肝心なところで互いが傷つかないようにという綺麗事を用いて、本質的な部分に触れられなくなってしまうでしょう。それはカウンセリングの重要な部分を放棄してしまうことになってしまいかねません。
2.エディプス葛藤
エディプス葛藤とは子どもが異性の親に愛情を向け、同性の親に憎しみを向ける幼児期の葛藤のことです。スーパーバイジーにとってスーパーバイザーは良くも悪くも親イメージと重なります。そのため、スーパーバイジーの未解決の葛藤がスーパーバイザーとの間で再演、再現されてしまいます。転移といっても良いでしょう。
こうしたエディプス葛藤が賦活されているとスーパービジョンの中で冷静にケースのことを検討することができなくなります。ケースの検討よりもスーパーバイザーに気に入られようとしたり、怒りや憎しみを向けてしまったり、恐ろしい親から叱責されるような不安に晒されたり、といった情緒が優先されてしまいます。
このような情緒は基本的には苦しいものなので、その苦しみから逃れようとし、スーパービジョンを回避したり、そもそも受けようとしなかったりしてしまいます。
3.万能感の放棄
上記のナルシシズムの傷つきと似ていますが、万能感の放棄ということで少し視点を変えて、さらに説明します。万能感とは誰しもが多かれ少なかれ持っているものです。自信の元とでもいえるものです。スーパーバイジーには不安と緊張がありますが、一方では万能感も幾分かは持っています。
しかし、スーパービジョンを受けると、良かった点も取り上げられますが、同時に悪かった点も平等に取り上げられます。その時、できていた!という万能感があるとするなら、その万能感を放棄せねばならなくなります。万能感の放棄は心の危機的な状況を招きます。万能感の放棄があるからこそ、そこから地道に努力し、地に足のついた力量を身に着けていくことができるので、大切なことでもあります。
ただし、万能感の阻害や放棄という苦痛を抱えていかねばなりません。それは時には相当困難であります。特にナルシシズムの強いカウンセラー・スーパーバイジーであれば、万能感の放棄は非常に困難となります。スーパービジョンでは万能感を放棄し、実際的な力量を身に着け、現実的な自信となっていく必要がありますが、その困難さから逃げてしまうカウンセラーも中にはいます。
4.スーパービジョンを受けないことの合理化
スーパービジョンに対する抵抗や防衛は上記以外にもあるかもしれません。それはカウンセラーの未熟さというよりも、人間としてほとんど全ての人が持ち合わせている情緒のありようかと思います。それに向き合うか、目を逸らすかの違いにすぎないでしょう。
苦痛がゆえにスーパービジョンを受けないというのは理由にしづらいものなので、他の誰もが納得できるような理由をもってきて、だからスーパービジョンは受けない、と正当化します。合理化ともいえます。
合理化によく使われる事柄として、料金を払う経済力がない、遠いので通えない、忙しくてスーパービジョンの時間をつくれない、などがあるかと思います。もしくは、スーパービジョンを受けたとしても、低頻度でのスーパービジョンにしたり、単発のスーパービジョンにしたりすることもあるでしょう。合理化に使われるだけあって、確かにこうした理由があるとスーパービジョンを受けれないだろうと、納得してしまいがちです。
その他にも、スーパービジョンは受けていたとしても、遅刻やキャンセルをしばしばしたり、恐ろしく長い記録を持ってきて読むだけでスーパービジョンの時間を終わらせようとしたり、反対に記録を持ってこずに実態をスーパーバイザーに見せないようにしたり、時にはケース記録の肝心な部分を修正したり、書かなかったり、などなどもあります。こうしたこともスーパービジョンに対する抵抗といえるかもしれません。
スーパービジョンはカウンセラー・スーパーバイジーが自身の心の機微に触れる作業でもありますし、それを経ることでカウンセラーとしての成長もあります。自身の苦痛に触れることがあるからこそ、クライエントの苦痛にも触れることができます。抵抗やそれに対する合理化が働くことが悪いことではなく、そうした心の動きがあることを見つめ、それでもスーパービジョンを受けるという方向にもっていく努力ができると良いかもしれません。
5.スーパービジョンをそれでも受けるために
スーパービジョンに対する抵抗について書きました。スーパービジョンを受けることはそれなりに負担や苦痛があります。それでもカウンセラーとして成長していきたいのであれば、スーパービジョンは受けていかねばなりません。その過程で苦痛を乗り越えることができるとカウンセラーとして一皮むけるでしょう。
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