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自死遺族の葛藤と再生への道:臨床心理士が支援する方法

大切な人との死別は遺された人に様々な影響を及ぼします。それは死別以前に抱いていた当たり前な前提や世界に対するものの見方が、大切な人の死によって大きく揺らぎ、あるいは崩れてしまうからです。その変わってしまった世界を生きていくことを余儀なくされてしまう辛さもまた、遺された人々にあります。

1.自死遺族とは

自死遺族とは、以前は主として親族(血族・婚族)とされてきましたが、近年では親族だけではなく、故人と生前に関係があり自死の影響を受ける人々を指します。例えば、自死を選び残された遺族、ご親族や親戚関係はもちろんのこと、友人やご近所づきあいや同僚など自死者と密接な関係にあった人々を指します。

令和4年の日本における自殺者数は21,881名であり、平成21年から少しずつ減少傾向にありますが、近年ではまた増加傾向にあります。これは残された遺族が増加しているとも言え、また近年ではSNSによるつながりの増加と合わせて見えにくい自死遺族の存在があります。

2.自死遺族の心の理解

これまでの研究から、1人の自死は5人~10人に影響を受けるとされていますが、実際にはもっと多くの人々に影響を与えることが考えられます。さらに自死は家族や友人だけではなく、地域社会、学校や職場などの社会にも大きく影響を与えます。

(1)家族の自死によって生じる感情や情緒

自死に限らず、死別にともなう心身の反応としては、ショック、悲しみ、後悔と自責の念、羞恥、怒り、不安、混乱、とまどいといったこころの反応に加え、食欲の変化、体力の低下、睡眠の変化、胃腸の不調などが起こることが知られています。

しかし、これらは死別にともなう正常な反応です。近年の研究では、「信じられないという気持ち」「悲しみ」「故人への思慕」「怒り」「うつ」「死を受け入れる」といった心理的反応が出てくること多く、たいていの場合6ヶ月以内にそのピークが過ぎていくことが科学的に示されています

(2)家族の自死によって生じる精神疾患:PTSDなど

自死遺族は、家族の自死によって深刻な精神的ダメージを受けた結果、うつ病やPTSDといった精神疾患を罹患し、同じように「消えてなくなりたい」、「死んでしまいたい」といった希死念慮を抱くケースも少なくありません。

実は、日本の研究では死別の理由における明確な精神的健康(全般的な精神的健康度、抑うつ、PTSDなど)に明らかな差は見出されていません。しかし、自死遺族らの「助けられなかった」という精神的ダメージは計り知れないものがあります。

(3)人間関係や職業生活への影響

自死遺族として、大切な人が亡くなることを経験すると、心身に多大な影響が出ることがあります。すると本来であれば当たり前に送ることが出来た生活が出来なくなることがあります。それは感情や情緒が強く表現されてしまい、日常生活が止まってしまったり、故人を思い出すトリガー(きっかけ)が遺族に悲しみをフラッシュバック(再度呼び起こすこと)をさせてしまうからです。結果的に学校や職場で以前のように生活することが難しくなり、引きこもったり休みがちになることがあります。

また、自死遺族が以前の生活を取り戻そうと、表面的にでも以前のように振る舞っていても、周囲の人間の方が大きく変化することもあります。興味本位で亡くなった事情を聞き出そうとする人や、遺族のいないところで噂話をする人、故人のために何か出来たのではないかと責める人もいます。

また好意とはいえ、自死遺族に寄り添う形ではなく、過度に心配したり配りょしたりする人たちもいます。自死遺族にとって周囲の人間関係の変化は非常にストレスになることが大きいという事実があります。

3.自死遺族に対する支援

自死遺族支援において重要なことは、非常に辛い体験であったとしても、それを十分な悲嘆過程の中において自分の体験と向き合うことが必要となります。

そこで自死遺族は、「再び人生の主体者として復帰し、自分らしく生きて行けるようになる」というおおよその前提の姿勢が求められます。自身にとっての大切な人物の自死は、決して元通りの自分には戻れないほどの大きな痛手ですが、遺族一人一人には、「人生や主体性を自ら取り戻す力」=「回復力」があり、周囲からの適切な援助や支援、仲間との出会いなどを通じて、辛い体験をもやがて自分の過去として受け容れられるようになっていきます。

したがって、その遺族の「回復力」を尊重しながら支援していくという姿勢を持つことが求められます。

(1)友人や家族などの周りの人ができること

多くの人にとって、自死・自殺に対する「心が弱いから」「孤独にさせたからだ」といった偏見が未だあります。そのため、自死遺族は自死の事実を他人に知られることを極端に恐れる傾向があります。それは自死の事実を外部の人に知られたくないという心理が働くことで、遺族が孤独を求めたり、必要な支援を断ったり、遺族のメンタルヘルスの問題に関しても、援助を求めにくいことも研究で示されています。

よって自死遺族を孤独にすることなく支えていく必要があります。その時に安易な慰めや、決めつけるような発言、興味本位に死への情報を聞き出そうとせず、自死遺族に落ち着いて気持ちが表出できるような寄り添う態度を示していくことが必要です。

遺族は言葉にすることが出来ないときもあるかもしれませんし、一方で死者を悪く言うような強い発言をすることがあるかもしれません。ただただ、遺族の残されてしまった想いに耳を傾け、遺族本人が立ち上がれるように傾聴していくことが必要です。

(2)自分自身でできるセルフケア

大切な方の自死とは、ほとんどの方がこれまでにない体験です。それに伴う遺族の感情や心身の変化は中々普段想像できるものではないため、この抱く感情が正しいのか、この体調が続くことが異常であるのか、等なかなか自分自身で判断することができません。先ずは自死遺族として起こりうる考えや感情、心身の反応などを調べていくことが必要になってきます。

自分自身の辛く悲しい体験を自分だけで何とかしようとすることは限界がきます。一人で納得しようとしたり、感情を処理しようとすればするほど、結局は無理に自分を抑え込んだり、納得させたりする結果になることがあります。それは後々により複雑な悲嘆として感情が爆発してしまう可能性があるため、人に寄り添ってもらいながら自身の気持ちを受け止めていく過程が必要となります。

その寄り添う場として「遺族同士の分かち合いの場」や「自助グループ」といった、同じ辛い気持ちを抱える者同士が集まり、自分の体験や内に秘める思いを語り合うことで、互いに援助し、回復を目指す集団およびその活動があります。これは住んでいる地域の中に存在するだけでなく、近年ではSNSでのやり取りの場もあります。当事者同士がお互いに語り合う事や、気持ちの変化に気付きながら、励まされ、支えられる安心感の中で再び遺族の人生の再出発に至りやすくなるでしょう。

(3)専門家ができる支援:カウンセリングなど

あらゆるトラウマ的体験について他の人に話すことは、その体験から立ち直るための重要な方法とされています。しかし、自死遺族は自死という特殊性から、世間の偏見を感じることが多く、自死について身内以外に語ることが中々できず、心の痛みと孤独で苦しんでいる状況にあることが多いようです。臨床心理士や公認心理師による心理カウンセリングは守秘義務という守られた場であるからこそ、自死遺族の尊厳も守りつつ安心して語ることの出来る場となります。

リンデマン(Lindemann,E)によると、大切な人を失ったときに生じる「悲嘆」には心理的・身体的な症状があるとしています。それは6カ月以上続くと複雑な「悲嘆」として分類されますが、多くが支援者によって心の変化の過程を寄り添うことで、安定した感情表現ができるようになり、故人のいない新しい関係を形成することを目標としています。

特にグリーフセラピーではウォーデン(J.W.Worden)の課題モデルが近年では有名であり、支援者が受け身になって自死遺族の表現を待つだけではなく、積極的に悲嘆プロセスに向き合っていく姿勢があります。悲嘆の研究の中では、積極的に生きがいの探求を提案することで悲嘆を和らげる効果があった報告もあります。役割があることで悲しみを忘れるのではなく、過度に悲嘆が強くなりすぎず和らげることが出来たのかもしれません。

このように自死遺族が抱く悲嘆を取り扱うカウンセリングでは、心のよりどころを一緒に探したり、気持ちの変化を共に歩んでいくことで、人間が本来もっている回復力を呼び起こし、故人のいなくなった世界を再出発するお手伝いをしてくれます。

4.まとめ

実は日本における自死遺族に関する支援の研究はそれほど多くありません。平成20年に、厚生労働省から指針が出されたことで、少しずつ自死遺族の支援の研究が増えています。これから遺された人々が少しでも生活しやすくなる方法が増えていくかもしれませんが、先ずは身近な人々の存在が遺族にとっての支えになります。自分の気持ちに蓋をすることなく、自分のペースで良いので少しずつ気持ちを吐露していくことが、自死と向き合うことに必要です。

当オフィスでも相談やカウンセリングを行っております。ご希望の方は下記のページからお申し込みください。