カウンセリングの1つである精神分析では、夢をカウンセリングの手掛かりにすることがあります。この技法を「夢分析」と言います。夢分析では、夢の内容は心の無意識の部分が変形して表れていると捉え、理解し受け入れることが問題の解決に繋がると考えられています。今回は、夢分析の考え方や方法について解説します。
目次
夢分析とは
カウンセリングの1つに精神分析的心理療法(以下、精神分析)があります。精神分析では、心の構成要素の1つである「無意識」に追いやられた感情や記憶を「意識」化し、受け入れることで症状の軽減や気付きを目指します。つまり、自分の知らない自分に気付いていくことが重要視されています。
- 意識:自覚している感情や記憶
- 前意識:意識をすれば思い出せる感情や記憶
- 無意識:気づいていない、気付くことができない感情や気持ち
この「無意識」に追いやられた感情や記憶を見つけるための手掛かりとして夢を用います。ただし、夢が直接的に無意識を表していることは少なく、夢のもつ意味合いの分析が必要です。この分析のことを「夢分析」と言います。
夢分析では、「○○を見た人はこんな願望がある!」などと安直に決めることはありません。夢を見た人が、何を見て、どう考えるかということを重視し、より柔軟で個別化された解釈を行います。そのためにも知識があり訓練された者からの分析を受ける必要があるのです。
長年の研究によって夢の機能は大きく分類できることが分かってきました。河合(1994)は、夢の機能を次のように分類しています。
機能 | 説明 |
---|---|
単純な補償 | 意識の態度を補償したり、足りないところを補ったりする機能 |
展望的な夢 | 未来の展望を提示してくれるような機能 |
逆補償 | 高くなりすぎている意識を下げようとする機能 |
無意識の心的過程の描写 | 無意識過程そのものが夢に現れる機能(病気や疲労の時に多く見られる) |
予知夢 | 未来に起きる事を予知するような夢 |
反復夢 | 現実にあった出来事がそのまま出てくる夢 |
このように、夢は自分が気づいていない自分を伝える役割があるとされます。
精神分析の内容は非常に複雑で、専門用語が多く使われます。よりに詳しい考え方については下の「精神分析的心理療法」のページで解説しています。気になる方はご覧ください。
夢の機制
無意識の内容が直接的な夢になることは少ないと述べてきました。これは、心の中で「夢の機制」という作業が行われるためと考えられています。
夢分析では、無意識の内容を「潜在内容」、実際に見る夢を「顕在内容」と言います。「夢の機制」では、無意識の「潜在内容」が、意識にとって受け入れられる形に変形され「顕在内容」になるのです。機制の種類は多岐にわたりますが、今回はその一部を紹介します。
(1)圧縮
豊富な潜在内容をいくつかの共通点をもと顕在内容に圧縮します。
例えば、複数の人が混ざって1人の人物になっている夢が挙げられます。Aの顔立ちだが、Bの服を着ているし、Cを思い出させるような作業をしていることによって、3人の人物の共通点が際立ちます。関係ないもの同士が混ざった圧縮もありますが、多くの場合、裏(潜在内容)で繋がりをもつものが夢として現れます。
(2)置き換え
潜在内容で感情を向ける対象を別の対象に置き換えて表現します。また、感情そのものを別の感情に置き換えることもあります。
例えば、母に対する怒りが、別人への怒りとして表れます。
(3)象徴化
潜在内容を無害で象徴的なものにして顕在内容で表現します。基本的に、視覚化されたイメージによって表現されることが多く、例えば、男性器は刀や槍など細長いもので表現するなどが挙げられます。
ここで利用される象徴は、個人あるいは夢独自のものではなく、神話や昔話にも見られるような一般(普遍)的な象徴も利用されます。このような象徴を、集合的無意識と言います。
(4)劇化
潜在内容では、言葉で把握されている内容を、無害な感覚像や視覚像に置き換えます。
(5)強調点の移動
潜在内容では重要な内容を、顕在内容では他の重要でない要素に移して表現します。結果的に、夢の上では他の部分の方が大切に見えてしまうこともあります。また、強調点にさりげなく触れ「ほのめかし」のような形で表現されることもあります。
夢分析の方法
続いて、夢分析の受け方、方法について紹介します。
(1)受け方
夢分析を本格的に行うためには、専門家の援助が必須です。主に精神分析を専門としているカウンセラーが行いますので、彼らがいるカウンセリング施設や病院に申し込みましょう。ただし、カウンセラー全員ができるわけではないので、夢分析を強く希望する場合にはカウンセリングを受ける前に問い合わせておくと安心です。
頻度としては週1以上、1回につき45~50分が望ましいです。料金の相場は5,000~10,000円と言われています。
(2)方法
a.記録
夢分析では、夢の報告をして、その内容についてカウンセラーとの対話を重ねることで理解を深めていきます。夢を忘れず報告することが基本となりますので、夢分析を受ける前は寝起きすぐに夢の内容をメモしておきましょう。なるべく細かく書けるといいですが、無理のない範囲にして長く続けていくことが大切です。
b.連想
メモしておいた夢をカウンセラーに報告をした後は、夢から連想した内容を自由に語っていきます。関係ないと思うこと、言いにくいと思うこともあるかもしれませんが可能な限り言葉にします。このような中に夢分析のヒントや無意識の片鱗が含まれているのです。
連想とは、精神分析において非常に重要な手法です。例えば、「心」という言葉について自由に連想してもらいます。すると、Aさんからは「信頼」、Bさんからは「裏切り」と出たとりします。このように、自由に連想を広げることは、その人の心の内を知る大切な手続きになります。また、自由に連想を広げる中で、無意識下の葛藤やコンプレックスに関するエピソードが出てくると考えられています。
c.対話
自由な連想が終わればカウンセラーと夢の分析を話し合います。
精神分析は基本的に、夢全体で解釈するのではなく、部分に切り取って行います。また、夢で出てくる物については、無意識の内容からは置き換わっている、もしくは色々なものが混じった混合体として捉えて解釈することが一般的です。
精神分析と言っても、カウンセラーから一方的に解釈を聞くわけではありません。一緒に話し、分析の答えを見つける作業を行います。カウンセラーからの解釈を伝えられることもありますが、当たっている・当たっていないという2軸ではなく、意見に対してどう感じたかを話すことが重要とされています。
(3)カウンセラーの役割
以下は、主にカウンセラーが行う内容になります。
解釈の上で、カウンセラーは度々イメージシンボル辞典を参考にしています。精神分析において、古今東西、人には普遍的なイメージがあると考えられています。
例えば、賢者と言えば白髪の生えたおじいさん、母なるものと言えば丸みを帯びた存在という感じです。これを集合的無意識と呼びます。夢に出てくる対象の共通イメージを調べて解釈の手掛かりにすることがあります。
フロイトとユングの夢の理論の違い
精神分析には、いくつかの理論や手法があります。今回は代表的な、フロイトとユングの考え方を紹介します。
ジークムント・フロイトはオーストリアの精神科医で、精神分析学の創始者として有名です。フロイトは、無意識とは「自我にとって都合の悪いもの(コンプレックス、欲望など)を抑圧している」と考えました。そして、夢は自我が弱まった時に表れるものをとし、「抑圧された願望を満たそうとするもの」であると捉えています。さらに、夢は無意識から歪曲して表れると考えています。
ユングは、元々フロイトの弟子でしたが、理論の差から後に独自の理論を確立しました。夢については「無意識が反映される」と考える点はフロイトと同じですが、ユングは歪曲されず「あるがままの姿」で心の状態を映し出すものと捉えました。また、夢には機能や目的があると考えた点や、集合的無意識を重視した点でフロイトとは異なります。
この他にも、解釈の視点や機能の考え方にも違いが見られています。さらに詳しい違いを以下に記載しますので気になる人は読んでみてください。
フロイト | ユング | |
---|---|---|
方法 |
無意味の探求法として、自由連装法・夢解釈・失錯行為の分析がある | 無意識の探求法として、言語連想法・夢分析・能動的想像がある |
歪曲 |
夢は、ある(抑圧され・排斥された)願望の(偽装した)充足であり、(幼児型の夢以外は)検閲によって歪曲されている | 夢はそのあるがままの姿が本来の姿であり、歪曲なく、願望従属以外に補償的機能を有する(夢主が標準から逸脱している場合には、展望的機能が働く) |
記録 |
患者が自分の見た夢を記録することは余計なことである | 予め患者に夢を記録してもらい、面接の場に持参してもらう |
解釈の前段階 |
解釈の前段階として、夢の各構成要素についての自由連想法を行う | 解釈の前段階として、文献学者が道の文献を判読する時のやりかた、つまり拡充を行う |
観点 |
因果的観点からの解釈(過去志向的)を行う | 目的的観点からの解釈(未来志向的)を行う |
主観・客観 |
もっぱら客観的段階でなされる分析的・還元的解釈を行う | もっぱら主観的段階でなされる総合的・構成的解釈を行う(ただし、客観的段階での解釈も重要) |
夢の象徴 |
象徴夢は、もっぱら性的特徴を有する | 象徴夢は、神話的・宗教的・歴史的特徴を有する |
テレパシー |
夢による予知夢は考えられないし、テレパシーは夢とは無関係である(睡眠状態におけるテレパシーはありうる) | 予知夢やテレパシーは存在する |
引用:名取(1992)「ユングとフロイトにおける夢解釈の比較検討」
精神分析についてのトピック
夢分析についてのよくある質問
夢分析は、心理学者が提唱した心理療法の一つで、夢を無意識の心の状態を理解する手段として利用します。特に、フロイトやユングの理論を元に、夢の内容から無意識の思考や感情を明らかにし、個人の精神的な問題を解決することを目的としています。夢に現れる象徴やパターンを分析することにより、心の中にある抑圧された欲望や恐れ、不安、そして過去の体験が浮かび上がることがあります。夢分析では、その解釈を通じて自己理解を深め、潜在的な問題に気づくことができます。
夢分析の主な目的は、無意識に隠れた感情や思考にアクセスし、それを意識化することです。夢に現れる象徴や出来事が、私たちの無意識の中で抑え込まれた感情や記憶、未解決の問題を反映していることが多いため、その内容を解釈することで、心の深層にある問題に対する理解を深め、解決に向けた手がかりを得ることができます。夢分析を通じて、自分の内面に対する認識が深まり、日常生活での行動や思考にポジティブな変化をもたらすことが期待されます。
夢分析は通常、専門家との対話を通じて行われます。セッションの中で、まずクライアントは自身の夢を詳細に記録し、その内容を振り返りながら専門家と共有します。次に、夢の中の象徴やテーマを深掘りし、現実生活の出来事や感情と照らし合わせて解釈していきます。専門家は、夢のパターンや反復的なテーマに注目し、クライアントの無意識に存在する葛藤や抑圧された感情、過去の経験に関連する情報を引き出す手助けをします。分析が進むにつれて、夢を通じて無意識の思考や感情が意識化され、自己理解が深まります。
夢分析は、心理的な問題に直面している人、自己理解を深めたいと考えている人、または無意識に潜む感情や思考を明らかにしたい人に適しています。例えば、過去のトラウマや抑圧された感情が影響を与えていると感じる場合、夢分析を通じてその問題に向き合うことができます。また、人生の転機やストレスが多い時期に、自分の内面に起こっている変化を理解したいと考える人にも有効です。夢分析は、無意識的な心の働きを深く探るため、自己探索の手段としても非常に有益です。
夢分析の効果は、個人によって異なりますが、数回のセッションを通じて、自己理解や心の変化を実感することができる場合が多いです。最初は夢の記録とその解釈を通じて、自分の無意識の状態に気づくことが始まり、徐々に心のパターンやテーマが明確になり、自己の内面に対する認識が深まります。セッションを継続的に受けることで、無意識の感情や思考に対する洞察が深まり、心理的な問題や葛藤に対する解決策を見つけやすくなります。効果の現れ方には個人差があり、長期的な変化が求められることもあります。
夢分析は、無意識の世界を探ることに重点を置いており、夢を通じて心の奥底に隠れた感情や欲望、未解決の問題を理解する手段です。これに対して、他の心理療法では、行動の変化や思考パターンに焦点を当てることが多いです。例えば、認知行動療法では、思考の歪みを認識し、行動を変えることを目指します。一方、夢分析は無意識的な側面にアプローチし、夢の象徴やイメージを解釈することで、心理的な解放を目指します。どちらも心理的な健康を促進しますが、そのアプローチと焦点の当て方が異なります。
夢分析を受ける際は、信頼できる専門家を選ぶことが非常に重要です。専門家は、クライアントが安心して自分の夢を話せる環境を提供する必要があります。また、夢分析は無意識的な感情や思考にアクセスするため、過去のトラウマや強い感情に触れることがあるため、セッション後に感情的な反応が起こることがあります。そのため、セッション後にサポートが必要な場合もあることを理解しておくことが重要です。クライアントが自分のペースで進めることができるよう、適切なサポートが提供されることを確認してください。
夢分析は、19世紀末から20世紀初頭にかけて、ジークムント・フロイトによって体系化されました。フロイトは、夢を無意識の欲望や抑圧された感情が表れる場として捉え、その解釈を通じて心の問題を解決しようとしました。ユングはフロイトの理論を発展させ、夢の中の象徴や普遍的なテーマに注目しました。ユングによれば、夢は個人の無意識だけでなく、人類全体の共通の経験を反映しているとされます。こうした理論に基づき、夢分析は心理療法の一環として広まりました。
夢分析のセッションの頻度は、個人のニーズや状況によって異なりますが、一般的には週に1回程度の頻度で行われます。初めの段階では、頻繁にセッションを行い、夢の詳細を分析することで無意識のパターンを明らかにすることが目指されます。進行に応じて、セッションの間隔を調整することがありますが、継続的に分析を行うことが望ましいです。定期的にセッションを受けることで、夢を通じて無意識の働きに対する理解が深まり、精神的な変化や解決策を見つけやすくなります。
夢分析を受ける前に、夢を覚えておくための準備が有益です。特に、夢を記録する習慣をつけることが重要です。寝室にメモ帳や録音機器を置き、目覚めた直後に夢を記録することで、細部まで思い出すことができます。また、夢を振り返り、自分がどのように感じたか、何が印象的だったかを考えることも有益です。この準備により、分析がスムーズに進み、より深い洞察を得ることができます。
精神分析的心理療法/夢分析を受けたい
「夢分析」とは、精神分析において無意識を知るための重要な方法です。夢を通して、心の中にある無意識の内容を知り、受け入れることが問題の解決につながると考えられています。
一見、簡単そうに見えるかもしれませんが、理論に添って進めるためには専門家のサポートが必須です。当オフィスには精神分析、夢分析を担当できるカウンセラーが在籍していますので、受けてみたいと思う方がいればお申し込みください。
参考文献
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