発達障害は生得的な脳機能のアンバランスさからあらわれる障害です。発達障害の人は、心と身体の成長や発達がうまく作動しなかったりします。その発達障害の原因、特徴、症状、種類、カウンセリングなどについて解説します。
目次
1.発達障害の概要
発達障害とは、脳の発達に関する問題が原因で、社会や学校での人間関係、コミュニケーション、行動、感覚処理などの困難を引き起こす症状群です。自閉症スペクトラム障害、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、学習障害、発話・言葉に関する障害などが含まれます。発達障害は治療法が限られているため、早期発見と適切な支援が必要です。
(1)発達障害とは
発達障害の人は生まれつき思考や行動、感情、知能などに偏りがあります。発達障害の症状には、落ち着きがなく動き回ったり、人とのコミュニケーションがスムーズにいかなかったり、特定のことに強いこだわりを示したり、衝動的に行動してしまったりすることなどがあります。
発達障害の特徴として、非常に高度なことを理解し、難しいことをなんなくこなす面がある一方で、簡単な事柄も理解できなかったり、行うことができなかったりします。こうした得意なことと苦手なことの差が非常に大きいことも発達障害の特徴の一つです。
また、幼少期や子どもの時期には発達障害の症状や特徴は目立たないが、大人になってから発達障害の症状や特徴が強くなり、問題となってしまう、いわゆる「大人の発達障害」というのもあります。
発達障害の原因は脳機能の生得的なアンバランスさである、といわれています。以前には養育環境や養育の仕方が悪いと発達障害になるといわれていた時代もありましたが、今では否定されています。また、ある種の環境化学物質やアレルギー物質、特定の栄養素の欠乏などが発達障害の原因であると一部のマスコミや宗教団体が主張することもあります。しかし、現在のところではそうしたことが発達障害の原因であると科学的には確かめられていません。
発達障害には大まかに以下の4つの種類があります。
表1 発達障害の4つの種類とその特徴
種類 | 特徴 |
---|---|
自閉スペクトラム症(ASD) | 社会性やコミュニケーションが不得意 |
注意欠陥多動性障害(ADHD) | 注意集中ができず、衝動的に行動してしまう |
学習障害(LD) | 読み、書き、計算などの特定の勉強・学習が不得意 |
知的障害 | 知能が全般的に低い |
この4つの種類の発達障害の関係性を図示すると以下のようになります。
図1 発達障害の4種類の関係図
この図を見ると、自閉スペクトラム症タイプ、注意欠陥多動性障害タイプ、学習障害タイプはそれぞれ重複して現れることがあります。しかし、学習障害タイプと知的障害タイプは重複はしません。
(2)よくある相談の例(モデルケース)
10代の男性
乳児の時からあまり泣くことはなく、非常に大人しかった。痛みに鈍感なところがあり、怪我をしても平然としている一方で、急な音にびっくりして大声で泣き叫ぶこともあった。また、よく迷子になり、両親はひやひやすることが多かった。乳幼児健診では言葉の遅れもなく、問題なしと言われていた。
小学校に入学したが、友達と一緒に遊ぶことは少く、一人でもくもくと何か好きなことをしていることが多かった。勉強はそれなりにできていたが、忘れ物や落とし物、宿題忘れ、授業中の立ち歩きなどが多く、教師がいくら注意しても改善はなかった。心配した両親がスクールカウンセラーに相談したところ、発達の問題があるかもしれないと示唆され、教育センターで知能検査(WISC-5)を受検することになった。また、その結果から、能力のバラツキが大きく、コミュニケーションの不得手さや、不注意が顕著であった。そのため、児童精神科を紹介され、医師から自閉スペクトラム症と注意欠陥多動性障害の疑いと診断された。
その後は両親は定期的にスクールカウンセラーに相談し、本人は放課後等デイサービスを利用し、療育的な支援を継続的に受けることになった。そうした支援の中で徐々に問題が少なくなっていった。中学や高校に進学し、そこでは本人と趣味の合う同級生が出来、それなりに人間関係を構築、維持できるようになっていた。現在は大学を卒業し、システムエンジニアの仕事についている。人間関係は狭いが、得意なパソコンスキルを活かし、黙々と作業することで、社内でそれなりの役割を果たしている。
(3)発達障害の見立てと診断
発達障害かどうかを見立てたり、診断したりするためには、いくつかの方法を組み合わせて行わなければなりません。生育歴の詳細な聴取、心理検査・知能検査、医師の診察などです。
モデルケースでも、知能検査のWISC-5を実施しましたし、その後は医師の診察をしています。その中で自閉スペクトラム症と注意欠陥多動性障害の疑いと診断されました。
発達障害の見立てと診断、そしてその注意点については以下のページをご覧ください。
2.発達障害のいくつかのタイプ
6種類の発達障害のそれぞれの特徴と症状について解説します。
(1)自閉スペクトラム症(ASD)
発達障害の中の1つの自閉スペクトラム症には以下の特徴・症状があります。
- コミュニケーションの障害(人と言葉のやりとりをすることが困難)
- 社会性の障害(社会的な常識を理解し、その場の状況は把握することが困難)
- 想像力の障害(柔軟性がなく、強いこだわりを示す)
発達障害のなかでも代表といえます。モデルケースではコミュニケーションの障害や社会性の障害がみられていたことから自閉スペクトラム症の疑いと医師から診断されています。
この自閉スペクトラム症についての詳細は以下のページをご覧ください。
(2)注意欠陥多動性障害(ADHD)
注意欠陥多動性障害とは注意や衝動の問題をもつ発達障害の中の1つです。注意欠陥多動性障害の特徴・症状には以下の3つがあります。
- 不注意
- 衝動性
- 多動性
モデルケースでは衝動性や不注意の症状がみられたことから注意欠陥多動性障害の疑いと診断されています。
注意欠陥多動性障害についての詳細は以下のページをご覧ください。
(3)学習障害
学習障害(Learning Disabilities)とは、基本的な知的能力は問題がないにも関わらず、特定の科目や課題に著しい困難を示す発達障害の内の1つです。
文部科学省の定義では「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算」「推論」の6つの能力の内のいずれかが知的能力に比べて過度に低い場合を学習障害としています。
また、読字障害、書字表出障害、算数障害といった能力に分けて分類することもあります。
学習障害の詳しいことは下記のページをご覧ください。
(4)知的障害
知的障害とは、知的な能力が低く、学習や社会適応に困難が出てしまう発達障害の1つの種類です。知的障害には、言語や判断力などの概念領域、コミュニケーションや対人スキルなどの社会領域、職業生活や生活技能などの実用領域の3つの領域において困難さが見られます。
知的障害の重症度は、知的能力の水準によって以下の分け方をすることが多いです。
- 境界域 IQ85〜70
- 軽度 IQ70〜50
- 中度 IQ50〜35
- 重度 IQ35〜20
- 最重度 IQ20以下
このような知的障害についての詳しいことは下記のページをご覧ください。
(5)吃音
吃音とは、話す際に音を切ったり、繰り返したり、つっかえたりする障害であり、神経や筋肉の問題、心理的要因などが原因とされています。発症年齢は幼児期から青年期にかけてが多く、社会的にも困難を伴うため、適切な支援が必要です。
吃音の詳細は以下をご覧ください。
(6)発達性協調運動障害
発達性協調運動障害とは、運動やスポーツなどの協調運動が苦手で、体の動きがぎこちなく、遅れてしまう状態を指します。手を使ったり、足を使ったりする運動や、バランス感覚の調整などが難しく、日常生活に支障が出ることもあります。多くの場合、小児期から現れ、成長するにつれて改善することがありますが、中には持続するケースもあります。
発達性協調運動障害の詳細は以下をご覧ください。
3.発達障害へのカウンセリング
発達障害に対してカウンセリングは非常に有効です。ここでは発達障害の克服・治療法としてのカウンセリングについて、本人に対してと、発達障害をもつ家族に対してと分けて解説します。
(1)本人に対して
カウンセリングの基本となる傾聴を行い、発達障害の方の気持ちや考えをカウンセラーが理解しようと努めることは第一として大事です。しかし、それだけでは改善はないので、それ以上の専門的なケアが必要となります。
まず、発達障害といってもさまざまな種類があるので、その見立てを立てる必要があります。小さい頃の生育歴を聞いたり、家族関係などを聞いたりし、どのような人生を送ってきたのかをお聞きします。さらに必要であれば知能検査なども実施します。こうした見立てをすることで、適切な支援の方法が見えてきます。
発達障害の方は多くは対人関係や家族関係、職場、学校の事柄などで問題を抱えてしまいます。そうした困難を解決するために、アサーショントレーニング(自己主張訓練)やアンガーマネジメント(怒りのコントロール)、SST(社会技能訓練)、認知行動療法などが役立てることが多いでしょう。
こうした治療法・カウンセリングによって発達障害を克服していきます。
モデルケースでは放課後等デイサービスの中で療育的な支援を受けました。療育的な支援ではSSTやコミュニケーションの訓練などがあります。
(2)家族に対して
子どもやパートナーが発達障害であり、そのことに困っている家族の方が相談・カウンセリングに来られることも多いです。発達障害の方ご自身が来談できないことも相当多いようです。
その場合でも、家族の方の困難さや苦しみを理解した上で、どのように対応すれば良いのかの相談にのります。
この場合も同様に、発達障害のどの種類・タイプになるのかの見立てを立てます。その上で、その種類・タイプに応じた対応方針を定めていきます。カウンセリングでは発達障害の基本的な知識や知恵をお伝えすることもあります。また、発達障害の特性に応じた対応の仕方や声掛けの仕方などもあるので、そうしたことをカウンセラーと話し合いながら、実践していきます。
発達障害は生得的な障害ではありますが、周囲や家族の支援や対応によって、相当変化します。ご家族の発達障害を克服するためにご家族がカウンセリングを受けることは非常に大切なことです。
モデルケースでも両親が継続的にスクールカウンセラーに相談し、困り事や問題について逐一助言や指導をうけていました。そうしたことを通して、発達障害の本人へ余裕をもった関わりができるようになったことは安定のためには非常に重要でした。
家族への支援については以下のページに詳しく書いています。
4.カウンセリングや知能検査のお申し込み
発達障害とその4つのタイプについて解説しました。発達障害そのものが全くなくなり、完治するということは残念ながらありません。しかし、支援や対応法を学び、知ることで発達障害にまつわる困り事の多くは少なくなります。そのために臨床心理士などの専門家のカウンセリングを受けることは非常に役に立つことだろうと思います。
また、当オフィスでも発達障害の見立てをするための知能検査を受けることができます。自分自身の特性を知り、今後の生活や仕事に活かすことができます。知能検査をご希望の方は以下のフォームからお申し込みください。
そして、発達障害に関するカウンセリングを受けることができます。発達障害の当事者の方でも、子どもやパートナーが発達障害で、それによってお困りの方でも、どちらでも可能です。カウンセリングの希望者は以下のフォームからお問い合せください。
5.発達障害についてのトピック
文献
この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。