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臨床症状のない重篤なクライエントのカウンセリング

臨床症状はないものの、人生上の強い苦痛を感じている人は多くいます。そうした人のカウンセリングについて述べています。

臨床症状のない重篤なクライエントとは

臨床症状のない重篤なクライエントとは、抑うつや不安といった明確な精神疾患の診断は持たないものの、人生レベルで深い苦痛を抱え、生きづらさを抱えている人を指します。表面的には明るく振る舞い、障害や病気と見なされにくいため、周囲から問題を見過ごされがちですが、本人は強い孤独感や虚無感、不安を抱え続けています。

こうした人は、自身のアイデンティティが否定的に構築されていることが多く、「自分は価値がない」「本当の自分がない」と感じることがあります。また、人生を棚卸しするような深い自己探求と過去の整理を通じて、苦しみを丁寧に扱うカウンセリングが不可欠になるとされています。

このようなクライエントには、ただ良い面を褒めるアプローチでは不十分であり、むしろネガティブな経験を丁寧に扱い直すことが、成長や回復への鍵とされています。

よくある相談の例(モデルケース)

20歳代 女性

Aさんは20歳代の女性で、学生時代から大きな精神症状はなかったものの、ずっと生きづらさを感じていました。両親は表面的には仲が良い家庭でしたが、感情をあまり表に出さず、Aさんも「良い子」として過ごすことで家の調和を保ってきました。友人関係や学業では問題はなく、周囲からは明るくしっかりしていると見られていましたが、心の中では孤独感や虚しさが常にありました。社会人になってからも表面上は順調に働いていましたが、心の中では漠然とした不安や「このままでいいのか」という感覚が強まり、休日になるとベッドから起き上がれない日が増えました。身体症状や強い抑うつは見られず、心療内科でははっきりとした診断はつかず、薬も処方されませんでした。しかし、Aさんは「何かがおかしい」と感じ、カウンセリングを受けることを決めました。

カウンセリングでは、まず自分の感情や考えをゆっくり話すことから始めました。幼少期に自分の気持ちを後回しにしてきたことや、常に期待に応えようとしてきたことが少しずつ言葉になっていきました。セッションでは安心できる関係の中で沈黙を許し、自分のペースで気持ちを探ることが重視されました。数年かけて、Aさんは怒りや悲しみといった感情を表現する練習を重ね、次第に人との関係で無理に合わせすぎることが減りました。職場でも自分の意見を言えるようになり、休日を罪悪感なく過ごせるようになっていきました。

現在、Aさんは症状と呼べるほどの問題はなくとも、内面の充実感が増し、生きることへの安心感が広がっています。周囲から見えない苦しみを抱える人も、カウンセリングによって自己理解を深め、自分らしい生き方を見つけることができると実感しています。

臨床症状と生きにくさの相違

精神科などの医療機関で臨床心理士として働いていた時には、統合失調症やパーソナリティ障害、発達障害、気分障害など、臨床症状としては非常に重たい人が多かったように思います。それに比べると、開業臨床で出会うクライエントさんは臨床症状は比較的少なく、中には全く症状は無い人も多いようです。

しかし、臨床症状は少なかったとしても、病理の重篤度は全く違い、非常に困難な人生を歩んできている人は多くいます。幼少期から抱えている生きる上での苦痛は強く、人生や生活を楽しむことができません。まさに心が死に絶えていると言えるでしょう。死んだように生きている、生きているけど死んでいるとでも言えるかもしれません

そうした人は苦痛を周りの人には見せないようにして、明るく振舞ったりして誤魔化すことで生きています。仮面を被っているとも言えるかもしれません。そのため、周りの人はその人が悩んでいることすら分からないし、気付かないことも稀ではありません。しかし、当人は多大な苦痛を抱え、そしてどこかに救いを求めています。

こうした方々は臨床症状はそれほどないので、精神科などを受診しません。もし仮に受診したとしても軽く見られて、投薬なしだったり、軽いものしか処方されなかったりします。せいぜい、カウンセリングなどを紹介されることがあるぐらいでしょうか。

なので、精神科で抱えられることはなく、反対に分かってもらえなかった、放り出されてしまったという思いを抱いてしまいます。そして、我々のような開業臨床の場に来られることになります。開業臨床が、こうした方の受け皿になっていく必要はあるだろうし、ニーズは求められているのだろうとは思います。

Aさんは、強い不安や抑うつといった明確な症状はありませんでしたが、常に漠然とした虚しさや孤独感を抱えており、「生きていても満たされない」という感覚に悩んでいました。

否定的アイデンティティ

こうした生き方レベルで苦痛を抱えている人は自分自身を良いものとみることができません。ほどほどのアイデンティティを作り上げることができないことが多いようです。なので、自分が無いという感覚になります。もしくはカメレオンのように他者に迎合して生きざるをえなくなります。

そうした際に、アダルトチルドレンや発達障害、トラウマ、機能不全家族といった自己診断をし、仮初めのアイデンティティを作ろうとしてしまいます。そうすることによって、不安定ながら自分とはこういう人間だ、というアイデンティティを持つことができるからです。

ただし、それは否定的なアイデンティティであるので、ますます自分自身を良いものとしてみなすことができなくなります。固定的な枠組みの中に自身を押し込めてしまい、そこから良い意味での変化を起こすことがさらに困難になってしまう、という代償を支払わねばなりません。

Aさんの場合、「良い子でいなければならない」という思い込みが強く、自分の本音や欲求を抑え込むことでしか人間関係を維持できないと感じていました。そのため、自己肯定感が低く、本来の自分を生きていない感覚が続いていました。

人生の棚卸しとしてのカウンセリング

こうした局面にいる方に、良い面を見つけてあげようとか、自尊心を持てる所を作ろうとか、いわゆるポジティブシンキング的な関わりはほとんどが徒労に終わってしまいます。なぜなら良い面とコントラストのように悪い面を強調してしまうからです

ですから、反対に、とことん自身の負の生い立ちや苦痛を向き合い、過去の整理をし、苦痛に埋もれた人生を見つめなおすことが必要になってくるでしょう。そこをやり直すことによって、停滞していた成長や発達を一歩進めることができるようになるでしょう。時には数年はかかる作業なるかもしれませんが、それだけの労力を注ぐ価値はあると思います。

Aさんは、カウンセリングで過去の体験や感情を一つひとつ丁寧に見直し、自分の価値観や選択を確かめる作業を重ねました。その結果、他人の期待ではなく自分の望む生き方を少しずつ選べるようになりました。

カウンセリングを受けたい

臨床症状が目立たなくても、生きづらさや虚しさを抱えている方は少なくありません。当オフィスのカウンセリングでは、そうした深い苦しみに寄り添い、感情や過去を整理しながら自分らしい生き方を探すお手伝いをします。心の奥にある思いや生きづらさを見つめ直したい方は、ぜひお申し込みください。

スーパービジョンを受けたい

臨床症状がないものの重い苦悩を抱えるクライエントへの支援では、関係のゆらぎやセッションの停滞に迷いを感じることがあります。スーパービジョンでは、こうした複雑なケースを整理し、臨床的視点を深めることで介入の方向性を見出すお手伝いをします。難しいケースに向き合う中で一人で抱え込まず、理解と支援の枠組みを広げたい方は、ぜひお申し込みください。